製造現場では、短い時間で大量の製品を生産することが利益につながってきます。
そこのために、製造工程で発生する「ムダ」は無くしていき、製造を効率化していく必要があります。しかし実際には、現場で作業しているときには、作業に潜むムダにはなかなか気が付きません。
そこで本記事では、全国10,000箇所を超える現場DXを支援してきた「カミナシ」が製造現場に潜む「7つのムダ」について分かりやすく解説します。
「7つのムダ」の概要だけでなく、「7つのムダ」が発生する理由や見つけ方、「7つのムダ」の改善で生産性向上を目指せることについても紹介していきます。
「製造現場のムダにはどのようなものがあるのか……」
「製造現場に潜むムダをなくしたい……」
「ムダをなくして製造現場の生産性を向上させたい……」
このように悩まれている方はぜひ最後までご覧ください。
7つのムダの基本思想はもともと、トヨタ自動車がクルマを工場で作る際に生み出した生み出した「トヨタ生産方式(Toyota Production System、略称TPS)」から生まれています。
トヨタ生産方式が広く知られるまではアメリカの大手自動車メーカーであるフォードが第二次世界大戦前に取っていた生産方式が知られていました。このフォード生産方式は、同一の製品を大量に生産することが可能であり、コストを抑えながら大量に質が高い製品を製造できる方法でした。
しかし、フォード生産方式には大量の在庫を抱えるというリスクがありました。トヨタ自動車でもトヨタ生産方式を導入する以前には、常に在庫を抱えており、その在庫が経営を圧迫することもありました。そこで豊田喜一郎氏(トヨタ自動車の創業者)は、自動車を生産しすぎず在庫をかかえない独自の生産方式であるトヨタ生産方式を製造現場に導入したのです。
トヨタ生産方式の目玉の1つは、製造現場からムダをなくすことです。具体的には以下のような「7つのムダ」の削減が掲げられています。
- (か)加工のムダ
- (ざ)在庫のムダ
- (ふ)不良・手直しのムダ
- (て)手待ちのムダ
- (つ)作りすぎのムダ
- (ど)動作のムダ
- (う)運搬のムダ
ただ、この「7つのムダ」を常に覚えておき、仕事中でも思い出すことは難しいものがあります。そこで「7つのムダ」の頭文字をとって「かざふてつどう」という分かりやすい覚え方があります。7つのムダをすぐに思い出せるように、暗記しておくようにしましょう。
トヨタ生産方式の目標は、フォード生産方式のリスクとなっていたムダな在庫や作業などを徹底的に削減し生産性を向上させ企業利益を上げることです。
なおトヨタ生産方式の柱として、必要なものを必要なときに必要なだけ作る「JIT(ジャスト・イン・タイム)方式」と、人の動きを機械だけに頼ることなく人の知恵をプラスして置き換えていく「自動化」という2本の柱を考え方に取り入れています。
このトヨタ生産方式を成功させるために、現場の作業効率を上げる「カイゼン」、現状を見える化して従業員の皆で情報を共有する「問題の見える化」、問題発生の原因に対し5回の質問を繰り返して根本原因を探っていく「なぜなぜ分析」と合わせて製造現場のムダを取り除き生産性を向上させる「7つのムダ取り」という4つの手法を提唱しています。
つまり、「7つのムダ取り」はトヨタ生産方式を実現させる手法の1つなのです。その他の手法である「なぜなぜ分析」についてはこちらからご覧ください
▶︎なぜなぜ分析とは?失敗しないための効率的なやり方を使用事例を使って解説
削減したい製造現場に潜む7つのムダとはどのようなものでしょうか?
自動車の製造工場現場でよく起こりうる事例を挙げて、それぞれのムダを削減するための改善策を説明していきます。自社の製造現場に当てはめて考えてみてください。
部品製造においては、機械加工、仕上げ作業、検査作業など、加工を行うことがあります。その際、本来しなくてもよく必要がない加工を余計に行うことは付加価値が上がらない「加工のムダ」を招きます。このような加工は人件費や加工時間、加工材料のロスを招き、生産性の低下につながります。
「加工のムダ」の具体的事例
- 良品率の高い部品なのに、する必要がない全数検査を行っていた。
- 過剰検査により必要以上に検査時間がかかっていた。
- 本来良品で良いものを不良品として排除していた。
- 部品の梱包を行う際、作業手順書ではテープを貼るのは2か所で良いのに4か所に貼っていた。
- 手順書の変更が現場に伝わらずに、最新の手順書では必要がなくなった加工を行っていた。
「加工のムダ」を改善するには
「加工のムダ」を改善するには、まず作業工程の洗い出しと見直しを定期的に行うことです。慣習にとらわれずに改善の余地を探すことが大切です。また、現状における最新・最善の製造方法を定める標準の「作業手順書」を現場で遵守しているかのチェック体制も整えるようにしましょう。
現場がこれから製造する目的や販売する目的で、一時的に保管している原材料や部品、仕掛品、完成品のことを在庫と呼んでいます。この在庫を必要以上に抱えている状態のことは「在庫のムダ」と呼ばれます。機会損失を防ぐために一定の在庫を抱えることは製造現場にとって必要ですが、必要以上の在庫を抱えていると上記のような不都合が発生する可能性があります。
「在庫のムダ」の具体的事例
- 在庫が過多になることで、管理コストが余計にかかるようになる。
- 在庫を保管する場所によって作業場所を圧迫している。
- 部品の在庫がありすぎることで、現場には「失敗しても作り直せばよい」という雰囲気がある。
「在庫のムダ」を改善するには
「在庫のムダ」を改善するには、生産計画を綿密に立てた上で在庫管理を徹底することが必要です。その上で小ロットの発注に対しては、1つずつ後工程に回す「一個流し生産方式」を採用します。また完成品に過剰在庫がある場合には仕様変更があったとしても柔軟な変更対応ができず、行き場のない在庫を抱えてしまうことになります。そうならないためにも、綿密な生産計画が重要です。
定められた基準を満たしていない状態で生産された製品は不良品、不良品を良品となるように手を加えることは手直しと呼んでいます。製造工程において、ある程度の不良品や手直しは発生してしまうことはありますが、これが過剰に発生することは「不良・手直しのムダ」と呼ばれるようになります。「不良・手直しのムダ」が発生する結果、原材料やコスト、時間などのロスも発生することになります。
「不良・手直しのムダ」の具体的事例
- 不良品が発生。その不良品の選別や回収の作業だけでなく手直しや発生原因の究明に時間や人件費のコストがかかってしまった。
- 製造機器の条件設定にミスがあり、製造した分の製品を廃棄することになった。
「不良・手直しのムダ」を改善するには
不良品が発生する理由の多くはヒューマンエラーによる人的ミスです。そこで、そのヒューマンエラーが起きない仕組みの構築と、不良品が発生したときの不具合の早期発見が大切です。「トヨタ生産方式」では「不良や手直しのムダ」を排除するため、製造工程に「自働化」を実装することで、不良品や手直しの発生を改善しています。
製造現場の作業者が取りかかる仕事がない状態で発生するムダを「手待ちのムダ」と呼んでいます。製造工程中に手待ちが発生してしまうと作業者の時間や人件費がムダになり生産性の低下につながります。
「手待ちのムダ」の具体的事例
- 前工程で機械が故障したおかげで、後工程の作業者が作業できなくなっている。
- 前工程への原材料の入荷が遅延しており、作業に取りかかることができない。
- 前工程の作業者の作業スピードが遅く、後工程の作業者の作業が止まってしまう。
- 生産計画にばらつきがあり日によって目標納品数に違いがある。そのため納品数が多い日は残業をすることもあるのに対し、納品数が少ない日は仕事がなくなってしまう。
- 前工程で不良が発生したために、後工程の作業が進められない。
「手待ちのムダ」を改善するには
「手待ちのムダ」は人員配置がうまくいっていないほか、作業の偏りによって生まれます。また、工程間に作業量の差がありすぎると作業者の間で問題を生みだすことになります。モチベーションの下がり、現場の生産効率低下の原因にもつながります。
製造現場の生産ラインが常に問題なく流れるよう、データに基づきながら生産計画を立てるようにしましょう
製品を作りすぎることで発生するムダを「作りすぎのムダ」と呼んでいます。作りすぎのムダはその他の3つのムダ(在庫のムダ、不良・手直しのムダ、加工のムダ)につながるほか、手待ちのムダを隠してしまう、動作のムダや運搬のムダが発生するなど、連鎖的に他のムダを生んでしまうことから最優先で取り除くべきムダだといえます。
「作りすぎのムダ」の具体的事例
- ある製品の完成品を指示よりも多く作って保管していたが、売れ行きが悪く生産終了が決まってしまった。
- 作業者が手待ちの状態だったために、注文を受けてはいないものの製品を製造しておいた。
- 製造機械の故障や、納期の短い発注に備え、予定より多く製造しておいた。
「作りすぎのムダ」を改善するには
「いつか使うから多めに製造をしておこう」という考えを捨てて、あくまで「トヨタ生産方式」における「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ」造るというJIT(ジャスト・イン・タイム)姿勢を徹底することが大切です。また、生産管理システムを導入し活用することも「作りすぎのムダ」の改善には有効です。
「歩く」「持ち上げる」「身体をねじる」「手を交差させる」「手を伸ばす」「しゃがむ」「振り向く」「持ち替える、」「探す」「調べる」など、付加価値を生まないすべての動作は「動作のムダ」と呼ばれます。その動作をしても製品の製造に関係がない動作のことです。1つ1つの「動作のムダ」はたいしたことではありませんが、そのムダが重なっていくと大きなムダになってしまいます。
「動作のムダ」の具体的事例
- 工具の保管場所は左側のため、右利きの作業者が使用するときは、左手で受け取り右手へと持ち替える必要がある。
- 工具が見当たらないため、毎回、周辺を探してしまう。
- 連続する作業の作業台の場所が離れている。
- 高い位置に原材料がおいてあるので、背伸びをして取る必要がある。
「動作のムダ」を改善するには
「動作のムダ」を改善するには、製造工程作業が止まることなくスムーズに流れるような環境を整えることが必要です。そのためには、作業スペースのレイアウトや標準作業を見直す、作業場の整理整頓を徹底し工具の利用しやすい定位置を決めておくなどの対策が考えられます。
製品の仮置きや積み替えなどの必要がない運搬は「運搬のムダ」と呼んでいます。「運搬のムダ」が発生していると、製品を運ぶための、本来は必要がない労力や時間が必要となりロスが生じるようになります。
「運搬のムダ」の具体的事例
- 部品の在庫を置く場所が1階にないため2階に保管している。そこで部品を使用するときには、2階へ取りに行かなければならない。
- 工程ごとに作業場所が離れており、製品を組み立てるために仕掛品を運搬する必要がある。
- 完成品の在庫数が多く、製造するたびに別の倉庫へと運搬し保管している。
「運搬のムダ」を改善するには
「運搬のムダ」を改善するためには、原材料の入荷から完成品の出荷まで、スムーズな作業の流れを作ることが必要です。そのためには、配置場所を工夫するほか、「在庫のムダ」や「作りすぎのムダ」を減らすことも「運搬のムダ」の改善につながってきます。
トヨタが「トヨタ生産方式」で目指しているのは「良い製品をタイムリーにお客様に届ける」という思想のもとに自動車を製造することです。
この思想を実現させるには、ここでお伝えした「7つのムダ」の排除なしにはあり得ません。製造工程における「7つのムダ」を排除することで部品の停滞をなくして作業の流れを円滑にし、生産の効率化を実現するのです。
現代の日本においては、テクノロジーの進化と共に人材不足が加速しています。トヨタに限らず、どの製造現場においても「トヨタ生産方式」は必要とされているといえるでしょう。