突然ですが、自動車業界を中心に取り入れられている「APQP」というものをご存じでしょうか? APQPとは、製品の品質を確保するために用いられる手法のことであり、取り入れることで以下のような効果が期待できます。
- 設計のリードタイム短縮
- 設計ミスの削減
- 品質不具合の低減
- 顧客満足度の上昇
APQPを推進するためには開発部門だけが活動するのではなく、営業、購買、品証、製造などの各部門で連携していく必要があります。そのためには部門をまたいだプロジェクトチームを立ち上げ、開発フェーズごとに進捗を確かめながら計画を進めることが重要です。
この記事では、全国10,000箇所を超える現場DXを支援してきた「カミナシ」がAPQPについて分かりやすく解説します。APQPの概要や各フェーズでの取り組み内容だけでなく、自動車産業に特化した品質に関する国際規格「IATF」との関係性についても紹介していきます。
そんな方はぜひ最後までご覧ください!
APQPは「Advanced Product Quality Planning」の略称で、日本語では「先行製品品質計画」と呼ばれています。これは、製品の企画、開発から量産に至るまでの各工程を、品質を確保する視点から体系的に管理するための手法です。
APQPは、以下の5つのステップから構成されています。
プログラムの計画・定義 (構想段階) |
顧客の要求を明確にし、製品仕様や品質目標を定める。 |
製品の設計・開発 (設計段階) |
具体的な製品の設計や検証を行う。 |
プロセスの設計・開発 (製造段階) |
量産するための生産プロセスの設計や検証を行う。 |
製品・プロセスの妥当性確認 (生産ライン段階) |
量産前に製品と工程の品質を検証する。 |
量産・改善 (量産段階) |
量産開始後も品質データを収集し、継続的に改善を行う。 |
これらのステップを順序立てて実行することで、顧客満足度の高い製品を効率的に開発・生産することが可能になります。
APQPを取り入れる目的を簡単にいうと、新製品を計画したときに「お客さんの求めているものが品質を担保した状態でお客さんのもとに届くようにするため」です。どんな製品を作るのか、ターゲットは誰なのか、いつごろ発売しようかなど、新製品の計画にはいろいろな要素を考える必要があります。これらの要素を品質の観点から製品計画に落とし込んでいく取り組みがAPQPなのです。
具体的にAPQPを取り入れる目的は、以下の3つです。
- 顧客の要求を満たす製品の開発
- リスクの最小限化
- 生産効率の向上
APQPを正しく進めないと製品が売れないだけでなく、不具合が発生する要因にもなりえます。そうならないためにも、しっかりとAPQPの目的を理解しておきましょう。
顧客の要求を満たす製品を開発するために、APQPは重要な役割を持っています。もし最新の製品を作ったとしても、その製品をほしいと思ってくれる顧客がいないと製品は売れません。例えば、ドアやガラスをなくして極限まで軽量化した自動車を作ったとしても、ほしいという人は恐らくいないでしょう。
顧客が求める製品を開発するためには、市場のニーズを調査したうえで需要があるものを見極めることが重要です。市場のニーズを把握する方法としては、直接顧客の声を聞いたり、アンケートを取ったりする方法があります。そのニーズを開発計画に反映させることで、顧客の求める製品を作れるのです。需要がないものをいくら開発しても売上げにはつながらないので、開発を失敗させないための計画を立てるのもAPQPの役割といえます。
APQPには、製品を開発するうえでのリスクを最小限にする効果もあります。ここでいうリスクとは「製品をつくるときに発生する製造不良や品質課題」のことを指します。
APQPを取り入れる場合、不良や課題を出さないために設計段階から製品をつくったときに想定される問題点を洗い出しておきます。自動車の車体部品を例にすると、以下のような問題点が考えられます。
想定される問題点 |
対策 |
成型時にバリが発生する |
バリ処理工程を検討する |
溶接がしっかり付かない |
溶接可能な条件を明確にしておく |
部品が溶接の熱で変形してしまう |
変形に強い材料を使う |
想定される問題を明確にしておけばあらかじめ対策を打てるので、製造時のリスクを最小限にすることが可能です。また、市場に不具合を出してしまうリスクも抑えられるため、顧客からの信頼の維持にも役立ちます。
品質の確保に目が行きがちなAPQPですが、生産効率の向上にもつながります。APQPは、製品を開発する初期段階から品質を安定させるために、各部門が品質を重視した計画を実行していきます。そのため、品質改善のために設定されていたムダな工程をなくし、課題発生時に費やしていた時間や労力を削減できるのです。
自動車部品の例で考えてみましょう。ドアの設計段階で雨水が内部に貯まらない構造をしっかり検証しておらず、製造部門で雨水を想定した試験でNGが出てしまったとします。本来であれば図面を修正して根本的な対策を打つ必要がありますが、開発計画が進んでいると図面を修正できない場合があります。そうなると、製造現場で雨水対策用のシールを貼る工程が余分に必要になってきてしまうのです。最終的な量産に向けてムダをなくすためにも、APQPを通して品質の確保をはかっていきましょう。
APQPの概要や目的が分かったところで、具体的にどうやってAPQPを進めればよいかを解説します。APQPを推進する手順は、5つのフェーズから構成されています。
- 【フェーズ1】 プログラムの計画・定義
- 【フェーズ2】 製品の設計・開発
- 【フェーズ3】 プロセスの設計・開発
- 【フェーズ4】 製品・プロセスの妥当性確認
- 【フェーズ5】 量産・改善
それぞれのフェーズで必要な情報収集(インプット)と目標設定(アウトプット)が設けられており、アウトプットが次のフェーズのインプットになっています。
また、計画の中で継続して改善をおこなうために、PDCAサイクルに当てはめて各フェーズを進めていきます。1つの製品を作って終わりではなく、開発の過程で出てきた課題や改善点を次の製品に活かしていくのがAPQPの特徴です。
プロジェクトを成功に導くためには、顧客が求めるものを開発するための計画と定義が必要です。フェーズ1では、顧客のニーズや製品に求められる性能を把握し、製品の開発計画に落とし込んでいきます。市場調査や他社製品のベンチマークなどの情報収集をもとに、目標となる性能や品質を計画書としてまとめます。
インプット |
アウトプット |
顧客のアンケート調査 |
デザイン案や設計目標 |
自社の事業戦略 |
製品の性能目標 |
他社製品のベンチマーク |
新技術を採用するための計画 |
製造プロセスの前提条件 |
製造フローの暫定計画 |
製品に求められる品質調査 |
品質の信頼性目標 |
開発に必要な項目を明確にすることで、プロジェクト全体の方向性を定めて効率的に開発を進められます。また、各部門の関係者に対して目標を共有し、量産までの道筋を確認して次のフェーズに進んでいきます。
フェーズ2では、製品に求められる要求を満たしているかを、試作品を作って検証していきます。試作品を作るためには、求める性能を図面や仕様書に落とし込む必要があります。そのうえで、できあがった試作品で検証した結果を設計にフィードバックし、量産に値する性能や品質の図面に仕上げていくのです。
インプット |
アウトプット |
デザイン案や設計目標 |
デザインレビューや設計FMEA |
製品の性能目標 |
試作品の検証結果 |
新技術を採用するための計画 |
技術仕様書や材料仕様書の図面への反映 |
製造フローの暫定計画 |
新規で導入する装置や設備の要求項目 |
品質の信頼性目標 |
故障モードの影響確認 |
フェーズ2の重要なポイントは、設計FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)を最初の段階でおこない、製品を設計するうえでのリスクを把握することです。FMEAは日本語で「故障モード影響解析」と呼ばれており、隠れている故障モードを事前に洗い出して対策を講じる解析手法になります。この後のフェーズで品質課題を出さないためにも、FMEAでリスクを分析し回避できるように設計していきましょう。
フェーズ3では、製品の製造プロセスに注目してリスク分析をおこなっていきます。このとき、製品の設計・開発をおこなうフェーズ2と並行して、製造プロセスの設計・開発をおこなうフェーズ3も進めていく場合が多いでしょう。フェーズ2において試作品を作るときに設備や工具の選定も必要なので、製品の方向性に沿って製造プロセスの計画を進め、試作品の作り直しに対応しながら最終的な仕様を決めていくイメージです。
インプット |
アウトプット |
デザインレビューや設計FMEA |
製造工程FMEA |
試作品の検証結果 |
量産試作のコントロールプラン |
技術仕様書や材料仕様書の作成 |
梱包規格や仕様書の作成 |
新規で導入する装置や設備の要求項目 |
製造プロセスのフロー図 |
故障モードの影響確認 |
測定システム解析の計画書 |
製造プロセスについても想定されるリスクを洗い出し、効率的な生産工程の設計や品質目標の達成を目指しましょう。
フェーズ4では、量産に向けて製品の性能や製造プロセスの妥当性を確認します。フェーズ3までに設定した要求項目や仕様書をもとに、実際の製造ラインで製品を作ってみて量産に値するものになっているかをテストしていくフェーズです。また、外部サプライヤーから購入する部品や材料を承認する手続き(PPAP)などもフェーズ4でおこないます。
インプット |
アウトプット |
製造工程FMEA |
製造ラインの信頼性評価 |
量産試作のコントロールプラン |
量産試作品の妥当性確認試験 |
梱包規格や仕様書の作成 |
生産部品承認プロセス(PPAP) |
製造プロセスのフロー図 |
製造ラインでの試運転実施 |
測定システム解析の計画書 |
測定システム解析の実施 |
量産前のフェーズはここまでとなっており、性能や品質、製造プロセスに問題ないことが確認できたら量産に移行していきます。
フェーズ5は、製品を量産し改善していくフェーズです。フェーズ4で量産可能な製品であることが確認できているので、フェーズ5では量産のなかで出てくるばらつきや工程課題の改善に注力していきます。また、市場に出た製品の性能や品質について、顧客からのフィードバックをもとに向上させていくフェーズでもあります。
インプット |
アウトプット |
製造ラインの信頼性評価 |
工程のばらつき低減 |
量産試作品の妥当性確認試験 |
製品に対する顧客評価の反映 |
生産部品承認プロセス(PPAP) |
顧客満足度の向上 |
製造ラインでの試運転実施 |
製造ラインの改善 |
測定システム解析の実施 |
次の製品開発への教訓 |
フェーズ5で見つかった課題や改善点を新たな製品の開発に活かしていくことも、APQPを推進するうえで重要です。このようなサイクルを繰り返していくことが、性能や品質の高い製品開発につながります。
ここまで概要や進め方を解説してきたAPQPですが、元々は「IATF16949」と呼ばれる品質マネジメントの規格で重要視されているコアツールのひとつです。IATF(International Automotive Task Force)は「国際自動車産業特別委員会」の略であり、自動車産業における品質マネジメントシステムの国際規格としてIATF16949を策定・管理しています。APQPとIATFは密接に関連しており、顧客満足度と品質向上を同時に実現するための強力なツールとして機能します。
IATF規格の要求を満たすためには、いくつかのコアツールの活用が不可欠です。コアツールは、製品の開発、製造、品質管理などの各工程を体系的にチェックして品質を保証するのに役立ちます。主なコアツールは以下の5つです。
APQP:先行製品品質計画 |
顧客の求めている製品を開発するための指針 |
FMEA:故障モード影響解析 |
製品や製造工程において、潜在的に隠れている問題をあらかじめ対策しておくために用いられる手法 |
MSA:測定システム解析 |
測定における計測器の精度や作業者によるばらつきを把握し、製品の測定に適しているか評価する手法 |
SPC:統計的工程管理 |
製造工程におけるさまざまなデータを集め、統計学的に処理して不良品を出さないようにする手法 |
PPAP:生産部品承認プロセス |
外部サプライヤーから購入する部品や材料を承認する手続き |
コアツールは単独で使用するだけでなく、相互に連携させることでより効果的な品質管理システムを構築することが可能です。
APQPは、IATF16949の要求を満たすために必須のコアツールの1つです。製品開発の初期から顧客満足度や品質向上を意識した計画を立て、量産までの一連の工程を体系的に管理します。APQPを効果的に活用することで、IATF16949の要求を効率的に満たし、顧客満足度と品質向上を実現できます。
APQPとIATFは、自動車の両輪のような関係です。APQPが製品開発における品質管理を支える一方、IATFは組織全体の品質マネジメントシステムを構築するための指針となっています。両者を連携させることで、顧客満足度と品質向上を同時に達成することが可能です。APQPやIATFの理解を深めて効果的に活用し、より質の高い製品を市場に投入していきましょう。
営業、購買、品証、製造などの各部門から選任したメンバーを中心に、品質を軸にして開発計画を立てていくことがAPQPのキモといえます。
新しく製品を開発する際にAPQPを取り入れることで、品質を確保しながら顧客の求めるものを作ることが可能です。また、開発に先行して高い品質を目指すことは、製造時のリスクの最小限化や生産効率の向上にも役立つでしょう。