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製造業におけるデータ活用とは?メリットと具体的な進め方を紹介

作成者: カミナシ編集部|2024.09.26

 

 

日々、業務中に記録している生産ラインの稼働状況、品質管理の記録、在庫管理のログなどのデータは、業務や品質改善を目指す工場や企業にとって眠れる宝の山といえます。企業の経営者や品質管理担当者から「データ活用がしたい!」という声をよく聞きます。

 

しかしデータ活用をしたいと思っているものの、実際は具体的に何をすればいいか迷われている方も多いかと思います。さらには必要なデータが取れていなかったり、アナログな方式で活用しにくくなっていたりなどの問題や課題がある企業も多いのが現状です。

 

本記事では、製造業におけるデータ活用の可能性と、活用するための方法をステップに分けて詳しく紹介します。

 

生産性の向上や品質の改善、コストの削減、リードタイムの短縮などは、適切なデータ活用によって実現可能です。この記事を通じて、皆さんの会社に眠るデータの力を引き出すヒントを見つけていただければ幸いです。

製造業におけるデータ活用とは

製造業におけるデータ活用とは、日々の作業や機械・設備の状態、従業員のスキルなど、工場内のあらゆる情報を収集・分析し、品質改善や生産性向上につなげる取り組みのことを意味します。

 

データ活用の目的は多岐にわたり、品質改善や生産性向上はもちろん、コスト削減、利益増加、リードタイムの短縮など製造業が抱えるさまざまな課題解決が該当します。

 

しかし、品質改善を目的としてデータ活用を行うとしても、企業や担当者によって達成基準は異なります。例えば品質改善であれば、以下の状態のいずれかが達成できれば、成功と言えそうです。

 

  • 不適合品の数や比率の減少
  • 顧客満足度の上昇
  • 機能の精度が向上

 

そのため達成したい目的と目指す状態によって、収集・分析すべきデータは大きく異なってきます。

 

効果的なデータ活用を進めるためには、まず大きな目的を設定し、それをさらに具体的な目標に細分化することが重要です。その上で、各目標達成に必要なデータが何かを明らかにし、適切なデータ収集と分析の計画を立てることが、「製造業におけるデータ活用」の成功につながります。

製造業でのデータ活用における課題

製造業でのデータ活用には大きく3つの課題があり、多くの製造業企業でデータ活用の障壁となっています。

 

  1. 必要なデータが取れていない、不備がある
  2. アナログな記録方式や管理方法によって、データ活用がしにくい
  3. 日々の業務量が多く、データの分析やアクションプランへの転換ができない

 

課題が何かを知ることで自社に取り入れる際の参考になるので、それぞれ詳しく解説していきます。

1.必要なデータが取れていない、不備がある

データ活用を進める上で最も重要なのは、信頼性の高い正確なデータを確保することです。しかし、多くの製造現場では、必要なデータが適切に取得できていなかったり、取得されたデータに不備があったりするなどの問題があります。

 

データの欠損や不備が発生する理由はさまざまです。多くの工場では依然として紙の帳票を使用しているため、水や油による汚損、経年劣化による判読困難など、物理的な要因でデータが失われることがあります。また、慣れによる記録漏れや忙しさのあまり入力を後回しにしてしまい結局記録を忘れてしまうなど、人的要因も大きな問題です。

 

このような状況下では、いざデータ活用を始めようとしても、思うように進まないことがあります。

 

例えば、品質改善のためにデータ分析を試みても、肝心の不良原因を示す情報が欠落していたり、生産性向上を目指しても作業時間の詳細なログがなかったりすると有効な分析ができません。その結果、データ活用の取り組みが中途半端に終わってしまいます。

 

2.アナログな記録方式や管理方法によって、データ活用がしにくい

多くの製造現場では、いまだにアナログな記録方式や管理方法が主流となっています。典型的なのは紙の帳票を用いた記録であり、作業者が紙に記入し、管理者が確認・承認し、さらにそれを別の帳簿やシステムに転記するという一連のサイクルが一般的です。このような方法が慣習として定着していると、データ活用の観点でさまざまな問題が出てきます。

 

例えば、記録されたデータをExcelに転記したり、紙をファイリングして棚に保存したりする方式では、必要なデータを瞬時に探し出すことが困難です。過去のデータを参照したい場合、膨大な書類の山から目的の情報を探し出すことになるので、非常に時間のかかります。

 

さらに、データが複数の場所に点在していることも問題になります。部署ごとに異なるフォーマットでデータを管理していたり、複数のシステムにデータが散在していたりすると、それらを統合して分析することは容易ではありません。データの連携や統合には高度な技術スキルが必要となりますが、そのような能力を持つ担当者が社内にいないケースも少なくありません。

3.日々の業務量が多く、データの分析やアクションプランへの転換ができない

製造業の現場では常に人手不足の状況に直面しており、日々の生産活動、品質管理、納期対応など、足元の業務に追われ、データ活用に時間を割くことが困難な状況にあります。

 

結果的にせっかく記録したデータも、有効活用されないまま、ファイルや段ボールが積み上がるだけの状況になってしまいます。データを収集する仕組みは整えたものの、その先の分析段階まで踏み出せていない企業が多いのが現状です。

 

日々の業務に忙殺され、データを見返す余裕すらないケースも少なくありません。例えば、生産ラインの稼働データは取得しているものの、それを分析して効率化の糸口を見出す時間がないなどが挙げられます。

 

さらにデータ活用の重要性は理解していても、具体的にどのようなアプローチを取るべきか、どのようなツールや人材が必要なのかを検討する時間や余裕がない企業も一定数存在します。

食品製造業での「ステップ別データ活用方法」を紹介

データ活用の道筋が見えない方に向けて、ここからは弊社がサポートしている食品製造業のお客様との取り組みを基に、効果的なデータ活用の進め方をステップ別に紹介します。

 

  • ステップ1.データ活用の最終目的を決める
  • ステップ2.最終目的が達成できたと言える基準と必要なデータを決める
  • ステップ3.日々のデータ収集を確実に行う
  • ステップ4.収集したデータを分析できる形に整形する
  • ステップ5.分析したデータから改善策を考える
  • ステップ6.改善策の実施
  • ステップ7.最終目的の達成基準に満たしているかの判断

 

データ活用の定義づけから、最終目的の設定、記録方法の決定、そして日々の実践までを具体的な事例を通じて解説します。

ステップ1.データ活用の最終目的を決める

データ活用を成功させる一歩目は、最終目的を明確に定めることです。なぜデータ活用をしたいのかという根本的な問いに答えることから始めましょう。

 

食品製造業の場合、データ活用の目的としては以下のようなものが挙げられます。

 

  • 製品のトレーサビリティの確保
  • 生産活動の可視化と効率化
  • 機械設備の点検状況の正確な把握と予防保全

 

しかし、いきなり大きな目的を掲げるのは難しいかもしれません。そのような場合は、まず身近な問題や日々の業務で困っていることを挙げてみましょう。

 

例えば、「問い合わせ時の対応がロット単位でできていない」や「不良品の発生率が高い」、「設備の故障が頻発する」などの具体的な問題や課題です。

 

次に、これらの問題がなぜ発生しているのかを掘り下げて考えます。例えば、「問い合わせ時の対応がロット単位でできていない」のであれば、ロットごとの記録が取れていないことや、記録は取れいていても管理体制や検索しにくい環境になっていることなどが考えられます。

 

このように、具体的な問題や課題から出発し、その根本原因を探ることで、データ活用の最終目的が自ずと明確になってきます。この目的設定が適切であれば、以降のステップでのデータ収集や分析の方向性が定まり、効果的なデータ活用への道が開けます。

ステップ2.最終目的が達成できたと言える基準と必要なデータを決める

最終目的を設定したら、次はその達成基準と必要なデータを明確にします。例えば、「製品のトレースがしたい」という最終目的の場合、達成基準は「製造ロットや数量、CCP(重要管理点)などの記録・管理が漏れなく行われ、いつでもデータが参照できる状態」となるでしょう。この基準に基づいて、必要なデータを決めます。

 

必要なデータを決める際のポイントは以下の通りです。

 

  • 実際に使用している帳票を見ながら決める
  • これまで取得していないが、あったほうが良いデータがないか確認する
  • 全ての項目をデータ化するのではなく目的に対して「必要なデータ」のみに絞る
  • データを見たい人によって必要なデータが異なることを認識する
  • 誰がそのデータを見たいのかを明確にする
  • 最後に「必要なデータ」として決定したものを関係者で確認する

 

基準を決める際は、計測可能な数値であることや計測や分析に過度な負荷が生じないかなどにも注意しましょう。現実的で持続可能な基準設定が、長期的なデータ活用の成功につながります。

ステップ3.日々のデータ収集を確実に行う

基準と必要なデータが決まったら、次は日々のデータ収集を確実に行う段階に入ります。データ収集を効果的に行うためには、記録の取り方を標準化し、仕組み化することが重要です。

 

人によって記載方法が変わったり、データの抜けが出たりしないよう、チェックリストやテンプレートを用意し、誰が記録しても同じ品質のデータが得られるようにします。

 

最近では、帳票の電子化が進んでおり、アラート機能を使ってデータ入力の抜け漏れを防止したり、計測方法のマニュアルを動画化やPDFなどのデータ化をしていつでもどこでも閲覧可能にしたりしている企業も多くあります。

 

データ収集を始める前に、使用している帳票の見直しを行うことも重要です。必要な項目が全て含まれているか、不要な項目や重複がないか、記入しやすい設計になっているかなどをチェックしましょう。

ステップ4.収集したデータを分析できる形に整形する

データ収集が軌道に乗ったら、次は収集したデータを実際に活用できる形に整形する段階に入ります。まず重要なのは、見たいデータが本当に収集できているかの確認です。

 

ステップ2で決定した必要なデータが、想定通りに取得できているか、メンバーで再確認しましょう。初期の話し合いに参加していなかった関係者が新たに加わることで、データの解釈に食い違いが生じることもあります。そのため、この段階での「必要なデータ」の再確認は非常に重要です。

 

収集したデータは、そのままでは有効な分析が難しいことがほとんどです。そこで、傾向や数値のばらつきを見やすい形に加工する必要があります。

 

一般的には、Excelなどを使ってグラフ化したり、デジタルツールを使って可視化したりする方法があります。データを見える化することで、傾向や異常値を視覚的に把握しやすくなります。

 

ただし、日々の業務に追われる中で、データの集計や加工、可視化に多くの時間を割くのは難しいかもしれません。そのような場合は、データ分析に特化した専門のツールやソフトウェアを導入することも一つの選択肢です。

ステップ5.分析したデータから改善策を考える

データの収集と整形が完了したら、いよいよそのデータを活用して具体的な改善策を考える段階に入ります。

 

ここで重要なのは、改善策の検討を幅広い視点から行うことです。現場で直接作業を担当している従業員はもちろん、全体のプロセスを俯瞰的に見ている管理者も含めて、多様な立場の人々が参加する場を設けましょう。それぞれの視点や経験から生まれるアイデアが、効果的な改善策につながる可能性があります。

 

ただし、改善策を考える際は現実性を忘れてはいけません。理想的に思える改善案でも、実行に過度の業務負荷がかかるものは避け、現場に無理なく導入できる改善策を優先的に検討しましょう。

ステップ6.改善策の実施

改善策を複数考案したら、次は実際に実施する段階に入ります。しかし、全ての案を同時に実行するのは現実的ではありません。そこで、各改善策の実施に必要な工数と、期待される影響度をもとに優先順位をつけていきます。

 

高い効果が見込まれ、かつ比較的少ない工数で実施できる改善策を優先的に選びましょう。一方で、大きな工数を要する割に効果が限定的と予想される改善策は、後回しにするか、見送ることを検討します。

 

選定された改善策は、計画に沿って確実に実施します。この際、重要なのは必ず記録を取ることです。改善策の実施日時、具体的な内容、担当者、そして実施後の観察結果などを詳細に記録し、後から振り返られるようにしておきましょう。

ステップ7.最終目的の達成基準を満たしているかの判断

改善策を実施した後は、いよいよ最終目的の達成度を評価する段階に入ります。ステップ2で設定した達成基準をもとに、収集したデータと改善策実施後の記録を分析し、目標が達成できているかを判断します。

 

もし基準を達成できていれば、データ活用の取り組みが成功したことを意味します。この成功体験を組織全体で共有し、他のプロセスや部門でも同様のアプローチを展開することを検討しましょう。

 

一方、目標達成に至らなかった場合は、なぜ目標を達成できなかったのか、その原因を丁寧に追求しましょう。そして新たな改善策を考案したり、既存の策を修正したりして、再度実施します。

 

この段階で重要なのは、「なぜデータ活用をしているのか」という原点に立ち返り、データ活用することを目的としないことです。目的を見失わないよう、定期的に振り返りの機会を設けましょう。データ活用の意義や目的を常に意識することで、より効果的で持続可能な改善活動が可能になります。

データ活用の1歩目は、目的を決めるところから!

本記事では、食品製造業の事例を基に、効果的なデータ活用の7つのステップを紹介しました。

 

まず、データ活用の最終目的を明確に定めることから始まり、達成基準と必要なデータの特定、日々の確実なデータ収集、データの整形と分析、改善策の立案と実施、そして最終的な目標達成の評価まで、一連のプロセスを踏んでいくことが大事です。

 

この過程で最も重要なのは、「何をもってデータ活用ができたとするのか」という最終目標を明確に定めることです。単にデータを収集するだけでは不十分で、そのデータを用いて具体的に何を達成したいのかを明確にする必要があります。

 

製品のトレーサビリティの向上、生産効率の改善、品質管理の強化など、具体的で測定可能な目標を設定してデータ活用を進めていきましょう。