製造業において、生産している製品ごとに作成が必要な検査書は、従業員の作成時間も掛かるのはもちろん、現場を管理する方にとっても、確認や差し戻しの負担がかかる作業です。
日々作成する検査書は、膨大な量の紙の管理スペースが必要になること、もしもの場合に、スグに取り出せない不安などもあるのではないでしょうか。
この記事では、検査記録の電子化(デジタル化)を検討している方に向けて、検査書作成に掛かる時間を年間400時間削減した中央技建工業株式会社さまの事例を踏まえながら、電子化の進め方を解説します。自社での取り組みの参考にしていただければ幸いです。
食品製造や機械製造などの製造業においては、生産する製品が多くなればなるほど、膨大な量の検査記録を行う必要があります。その量のあまり、管理者は、現場のミスや記入漏れに気付けなかったり、何か発見したとしても、記入者への確認に時間を要したりするなど工数が掛かってしまいます。
その結果、検査書の確認で時間を取られてしまい、他に必要な業務に時間を割くことができなくなってしまうこともあるかと思います。具体的には、以下のような問題があるのではないでしょうか。
検査記録を紙の帳票ベースで行なうと、次第に保管する検査記録書が膨大になってきます。もし現場の記入ミスや記入漏れなどを発見した際、該当する検査記録書を探し出すためにその都度、担記入した従業員に確認を取るだけでも時間が掛かります。
このような状態に陥ってしまうと確認作業だけに時間を取られるようになり、本来おこないたいはずの業務改善や効率化に向けた取り組みや、採用活動などの時間が取れなくなってしまいます。
検査記録は、保管場所に膨大なスペースを要します。製造物責任法(PL法)では、製品の損害賠償の請求権が10年となっていることから、製品の検査書を最低10年間保管しておくことが望ましいです。そのため、10年間分の書類を保管することになり、年々保管しなければいけない書類は増えていってしまいます。
参考:製造物責任法|e-GOV 法令検索
検査記録を10年間、保管するとなると、紙ベースの帳票では保管スペースを取られてしまいます。製品ごとに作成した検査記録を、長い期間保管するとなると、保管場所を確保するだけでも相当なスペースが必要になります。
出荷前の検査や品質管理のための内部監査、取引先からの提出・閲覧依頼がきた際など、検査書を出すシーンはさまざまです。
検査記録がもし紙の帳票だとすると、保管している場所は、オフィスや倉庫にある段ボールやファイルの中になるでしょう。その中から指定の日付や期間の検査書を探すには相当な時間が掛かるため苦労すると思います。
検査書は、管理者目線で確認の時間や保管に悩むのみならず、現場視点でも、部門・製品・期間ごとに都度作成するため、相当な負担になっていると思います。そうした現場の従業員から検査書の存在意義や効率化を求められている管理者の方もいるのではないでしょうか。
現場の従業員は、毎回検査書を作成するので、時間短縮のために、いつもと同じ記載で提出してしまうこともあるかもしれません。それが原因で甚大な事故に繋がることもありえます。
検査箇所や内容の指示はあるものの、それがわかりにくいと、人によって判断基準が異なり、的確な検査がおこなわれているか曖昧になります。
個人の判断で検査記録書に記入した場合、製品の品質を均一化することができなくなります。
検査記録における課題や悩みは、製造業に従事している方であれば共通していると思います。ここからは検査記録の電子化で業務効率化した企業の事例を紹介します。自社における課題や悩みと共通しているものがあれば、参考にしてみてください。
京都府亀岡市を拠点に、産業用乾燥機「コータードライヤー」などを設計・製造している中央技建工業株式会社。企業競争力を高めるための手段の1つとして、比較的DXが進みにくいとされる製造業界において積極的にDXに取り組み、業務効率を向上させています。
同社では、製品の検査や設備点検などにおける紙の帳票が業務効率化を妨げていました。さらには、検査基準のバラつきにより品質面における課題も生んでいました。
検査書の作成には、1種類あたり60分掛かり、月に100枚作成することになるので、大体6,000分(約100時間)掛かっていました。しかし、検査書を電子化することにより、1枚あたり20分の削減に繋がり、月33時間、年換算で400時間の工数削減を成し遂げました。
群馬県前橋市に本社を有する食肉卸・加工・販売をする群馬ミート株式会社は、食品製造業で必ずおこなわれるような、細菌検査や抜き取り検査、落下菌検査などで検査書の作成、確認、転記などを紙で行っていました。
また加工工程で発生するラベル貼りやそのラベルを確認して、チェックシートに記入する業務も紙を使っていて、細かい作業によって工数が取られていました、
このような食品工場でよくおこりうる課題を検査記録の電子化によって解決。以前はチェックシートで行っていた健康チェックや検品記録、細菌検査、拭取り検査、落下菌検査などの作業記録を全て電子化し、1時間掛かっていた作業時間を15分ヘ短縮することに成功しました。
また、チェックシートからの転記作業も不要になり、作業時間が4分の1まで削減されました。時間だけでなく、入力ミスも防げることになったので、記録の信憑性も増す結果になりました。
食品製造や機械製造などにおける製造業では必ず、製品の検査記録を行う必要があります。その検査記録を紙ベースのアナログ作業のままでいると、量が膨大で記録ミスや記入漏れが発生することや、検査記録の保管に場所が取られる、過去の検査記録を探すのに時間がかかる、製品ごとの検査書を作成するのに時間がかかる、検査書を記入する際に個人の感覚での判断になる可能性があるなどリスクが生じます。
そこで検査記録を電子化することで、このようなメリットが生まれます。
紙の帳票を電子化することで生まれるメリットは検査記録だけでなく、記録作業を紙ベースから電子化することで紙書類が必要なくなり保管のためのコストがかからなくなるほか、製品のトレーサビリティを確保できるようになります。また業務標準化が進み、検査業務などの属人化が解消されるでしょう。