上司から社内業務のペーパーレス化を進めるように言われたけど、製造業にはまだまだ紙文化が残っていて簡単にはいかない、紙作業に慣れたので、ペーパーレス化はハードルが高いと感じ、何から手を付ければよいのか分からない人も多いと思います。
製造業におけるペーパーレス化は、人手不足の解消や記録のデータ化による業務効率化、コスト削減など職場環境を改善する効果があります。
一方で、現状の作業を変えることに抵抗がある現場メンバーや紙の方がやりやすい業務があることも事実です。現場からペーパーレス化に対して懸念する声が出ないようにするには、いきなり紙から電子化に踏み切るのではなく段階的に実施していくことが重要です。
本記事では、製造業においてペーパーレス化する目的やメリット、導入する場合に留意しておきたい点を解説します。また他社の導入事例を参考にしながら、具体的に社内でペーパーレス化を進める方法を紹介していきます。
ペーパーレス化すれば業務改善につながりそうだけど製造業でどう取り入れればよいか分からない方、自分たちの状況に対してペーパーレス化することが解決につながるのか、他社の事例をぜひ参考にしてください。
製造業は労働人口の減少や人材育成の難しさ、働き方改革など、多くの問題を抱えています。このような問題の解消に対して、製造業におけるペーパーレス化の目的は、人手不足を補うためであったり、業務効率化を図るためであったりするなど、大きく分けて4つあります。
それぞれの目的が示すように、ペーパーレス化には業務の効率化や品質向上、コスト削減、そして環境負荷の軽減という多面的な効果が期待できます。ペーパーレス化は単なる紙の削減ではなく、業務全体の改善と最適化を実現するための重要な取り組みです。
製造業における紙関連の業務は、検査書や帳票などをメンバーに記入してもらい、それを管理者に提出し、管理者は確認、転記するなど、さまざまな人・シーンが絡んできます。具体的には以下のようなものが挙げられます。
紙関連業務は本来の業務とは直接関係のない付帯業務ですが、時間を割かなければならないため、主業務にかける時間が削られることもあります。
特に人手不足が叫ばれる昨今、限られた人員で業務を遂行しなければならない状況下では、紙関連業務による負荷を重くなりすぎると、主業務への影響が大きくなるかもしれません。
ペーパーレス化を推進することができれば、これらの付帯業務に費やす時間を大幅に削減し、従業員や管理者が本来の業務に専念できます。
また、ペーパーレス化によって情報の検索や共有がスムーズになれば、コミュニケーションの効率化も図れます。このようにペーパーレス化は人手不足を補うだけでなく業務の質の向上にもつながるので、人的資本の有効活用と業務効率の向上を実現するための重要な取り組みと言えるでしょう。
製造業におけるペーパーレス化の大きな目的の一つは、記録をデータ化することによる業務改善や効率化です。紙の書類では情報の集計や分析に時間がかかり、提出や確認の手間も大きくなってしまいます。
また、特定の人にしか情報が集中しない属人化の問題や伝達ミス、言った言わない問題などのコミュニケーションの齟齬も発生しやすくなります。
管理という観点でみても、物理的な保管スペースが必要でコストがかかったり、情報の共有や検索に時間がかかったりと、業務の効率化を阻害する要因になりかねません。
一方、ペーパーレス化によってデータ化された記録を活用すれば、さまざまな業務改善につながります。
記入ミスの修正や転記が容易になりデータの共有がスムーズになることで、業務の効率化も実現できます。ほかにも検索性の向上により、必要な情報にすぐにアクセスすることも可能です。
ペーパーレス化は紙の弊害を解消でき、データ化された情報を活用することで、業務の質の向上とスピードアップを同時に達成することができます。
紙での管理の場合、多くのリスクが伴います。紙は水に濡れると文字が見えなくなったり、経年劣化によって情報が失われてしまったりする可能性があります。また、紙の書類を持ち出す際には、紛失や盗難のリスクもあります。
ペーパーレス化を実施することで、管理リスクを大幅に軽減することが可能です。電子化された記録はバックアップを取っておけば、物理的な損傷や紛失のリスクから守ることができます。
また、製造業でよくある品質管理監査や安全管理監査、取引先から言われる情報提供の要求に対しても、必要な記録をすぐに検索し提出することが可能になります。
監査の際もペーパーレス化しておけば、好印象を与えることができます。監査員に対して記録がオンタイムでデータ化されることを説明し、日付や業務ベースで検索できることを伝えるだけで済みます。
監査員も、必要な情報にアクセスしやすく、監査業務を効率的に進められることはプラスに捉えるでしょう。
ペーパーレス化は、記録の保管と管理におけるリスクを最小限に抑え、監査や取引先への対応を確実に行うために重要です。電子化された記録を活用することで業務の信頼性と透明性を高め、円滑な対応を実現することが可能になります。
ペーパーレス化して紙の使用量を削減すれば、コスト削減や環境への配慮につながります。具体的には、以下のようなコストを削減できます。
紙によるコストは一見小さく見えるかもしれませんが、長期的に見ると大きな金額になります。
もちろんペーパーレス化を推進する上では、電子化のためのツール導入コストや、旗振り役となる社員の教育・育成にもコストがかかることを認識しておく必要があります。
しかし、中長期的な視点で見ると、ペーパーレス化によるコスト削減の効果は大きくなってきます。紙関連のコストが継続的に発生することを考えると、初期投資を上回るコスト削減効果が期待でき、業務の効率化による生産性の向上も得られます。
加えて、紙の使用量を減らすことで、森林資源の保護や二酸化炭素排出量の削減に貢献できるので、環境配慮にもつながります。近年、企業の環境対策が重要視される中、ペーパーレス化は環境に優しい企業イメージの構築にも役立ちまです。
製造業でペーパーレス化を進める際には、いくつかの留意点があります。
長年、紙での作業に慣れている従業員の中には、新しいシステムへの移行に抵抗を感じる人もいるでしょう。また、紙の方が分かりやすく、見やすく、管理しやすいと感じる業務もあるかもしれません。これらの点に配慮しながら、ペーパーレス化を進めていくことが重要です。
ペーパーレス化は、従業員の理解と協力なくして成功しません。従業員の意見に耳を傾け、懸念に丁寧に対応していきましょう。
製造業におけるペーパーレス化を進める上で最も大きな障壁の一つが、作業を変えることに対する抵抗感です。紙で行ってきた業務をペーパーレス化することに対して、抵抗を感じる人もいるでしょう。慣れ親しんだ作業方法を急に変えることは、不安を招くだけでなく、新しいことを覚えるという面倒さも伴います。
このような抵抗感をなくすためには、根底にある理由を丁寧に紐解いていくことが重要です。単に新しいことへの不安なのか、具体的な操作方法に対する懸念なのか、それとも紙の方が使いやすいと感じる業務特性があるのかを見極めましょう。
その上で一気に紙をなくすのではなく、紙とデジタルの併用期間を設けるなどの工夫をすれば、従業員の不安を和らげることができます。
ペーパーレス化は導入した次の日からすぐに実現できるものではなく、徐々に進めていくことが大切です。
まずはペーパーレス化のメリットを従業員に丁寧に説明し、理解を得ることから始めましょう。そして少しずつ紙の使用量を減らしていきながら、従業員のフィードバックを受け止め、システムの改善を図っていくことが重要です。従業員の理解と協力を得ながら、着実にペーパーレス化を推進していきましょう。
製造業のペーパーレス化を進める中で、紙の方が適している業務があることも忘れてはいけません。例えば、大きな図面やレイアウト図はスマートフォンやタブレットの画面では全体を把握しにくく、細部を確認するのも困難です。
また、複数の資料を並べて比較検討する際には、紙の方が一覧性に優れており理解しやすいでしょう。
ほかにも、現場で頻繁に参照する必要がある作業手順書や緊急時の対応マニュアルなどは、紙の方が扱いやすいと感じる従業員もいます。電子化された情報にアクセスするための端末の起動時間や、バッテリー切れの懸念がない紙の方が、ストレスなく確認できるのが理由です。
さらに、法律や規制で紙の文書の保管が義務付けられている場合もあります。例えば、特定の契約書や品質管理記録などは、紙での保管が求められることがあります。文書をスキャンしてデジタル化することは可能ですが、原本の紙文書も併せて管理する必要があるでしょう。
ペーパーレス化を進める上では、業務の特性や現場の意見を十分に考慮し、紙の利用が最適な場面では柔軟に対応することが重要です。無理にすべてをデジタル化するのではなく、紙とデジタルの長所を活かしたハイブリッドな運用を目指すことが、業務の効率化とコスト削減につながります。
製造業でペーパーレス化を進めるには、明確な方法と手順が必要です。
ペーパーレス化は、単なるツールの導入だけでは成功しません。業務プロセスの見直しや、従業員への教育・サポートも欠かせません。自社の特性を踏まえ、綿密な計画を立てて着実にペーパーレス化を進めていきましょう。
製造業でペーパーレス化を進める第一歩は、対象業務の洗い出しです。業務負荷が高く、時間的な工数やミスの発生数が多い業務を特定することが重要です。ピックアップした業務は、ペーパーレス化による効果が大きく期待できるものであり、優先的に取り組む必要があるでしょう。
洗い出した業務がペーパーレス化に適しているかどうかは、自社内だけで判断するのではなく外部の意見も参考にすると良いでしょう。
相談先 |
相談内容 |
ツール販売者 |
・社内決済や電子契約システムの導入 ・会社や自治体の会議システムをペーパーレス化 |
地方の産業協会 |
・テレワークの支援相談 ・ペーパーレス化や電子化(デジタル化)の方法 |
銀行 |
・法人クレジットカードや経費精算システムの導入 |
外部機関や企業は、様々な業種、業態のペーパーレス化事例を持っており、自社の状況に合ったアドバイスをくれるはずです。
また、業務の洗い出しと並行して、各業務における問題点を明確にすることも大切です。単に紙の使用量が多いだけでなく、情報の共有や検索に時間がかかる、紛失や破損のリスクがあるなど、具体的な課題を特定しましょう。このような問題点を明確にすることで、ペーパーレス化の目的や期待される効果が明確になりまです。
株式会社ジェイテクトエレクトロニクスは、自動車や産業機械向けの部品製造を行う大手メーカーです。同社では、品質管理や設備保全のための点検業務に多くの紙帳票を使用しており、年間約5万枚もの紙が消費されていました。また、紙の帳票ではデータの集計や分析に手間がかかり、点検漏れのリスクもありました。
こうした課題に対してジェイテクトでは、紙の点検表をデジタル化をし、点検業務のペーパーレス化を実現し、紙の帳票で行っていた点検業務をタブレット端末を使ってデジタルで行えるようになりました。
導入前の課題
- CO2排出量削減/環境活動取り組みの文脈で、紙を減らし社会貢献したいと考えていた
- 生産作業以外にまつわる事業活動でツールが導入される中、生産部門でも業務の効率化をしたいと考えていた
導入後の効果
- 1ラインで100枚/月の紙の削減に成功、年間約5万枚、全体の8割の紙を削減予定
- 本格運用から半年で全体ラインの70%まで利用し、企画時の1.5倍の費用対効果を実現
- 導入ラインと業務範囲を点検作業以外にも広げることで10倍の費用対効果を見込む
ペーパーレス化の効果は大きく、点検データをリアルタイムに集計・分析できるようになったことで、点検漏れの防止や設備の故障予兆の早期発見にもつながっています。
カミナシの導入により、ジェイテクトでは年間約5万枚の紙の削減に成功。業務効率の向上と、品質管理の強化を同時に実現しました。詳しくは以下の資料をご覧ください。
中央技建工業株式会社は、産業機械や自動化設備の製造を行う企業です。同社では、製品の品質検査に多くの時間を費やしており、特に検査書の作成に手間がかかっていました。紙の検査書ではデータの集計や管理が煩雑で、作成に多くの工数を要しています。
この課題を解決するため、中央技建工業では、検査書の作成プロセスをデジタル化しました。
導入前の課題
- ペーパーレス化を目標に掲げるも、社内には紙の帳票が多数残存
- 業務の属人化や検査のバラつきが発生
- 従業員のデジタル化に対する反発が根強かった
導入後の効果
- 30種類の紙帳票がデジタル化され、年間50日分の業務時間が削減
- 業務標準化が進み、検査業務などの属人化が解消された
- カミナシ導入をきっかけに従業員のデジタル化への意欲が向上、DXの取り組みが進みやすい環境に
従来は、紙の検査書に手書きで記入し、それをExcelに転記する必要がありましたが、タブレット端末で検査結果を直接入力できるようにして、手書きの手間が大幅に削減しました。
さらに、検査結果を入力すれば、自動的に所定のフォーマットの検査書が作成されるようにシステム化しました。ペーパーレス化の効果は大きく、検査書作成の工数を年間約400時間削減することができました。また、データの集計・分析が容易になったことで、品質管理の強化にもつながっています。詳しくは以下の資料をご覧ください。
ペーパーレス化の対象業務や部門を選定したら、次はそれに適したやり方やツール、機器を選ぶ段階です。自社の業務内容や規模、従業員のITスキルなどを考慮し、最も効果的かつ効率的な方法を検討することが重要です。
ツールや機器の選定に当たっては一気に決めるのではなく、十分な時間をかけて慎重に比較検討しましょう。同業他社がどのようなツールを使っているか、ツールをどのように活用しているかを調査することも有効です。事例を参考にすることで、自社に合ったツールや機器を見つけやすくなります。
また、ツールや機器に求める機能も明確にしておく必要があります。単なる書類のデジタル化だけでなく、データの共有や検索、ワークフローの自動化など、業務効率化に役立つ機能を備えているかどうかを確認しましょう。ユーザーインターフェースの使いやすさや、モバイル端末への対応なども重要な選定基準になります。
加えて、ツールや機器の導入コストや、運用・保守に必要な費用も見積もっておく必要があります。初期投資だけでなくランニングコストも考慮し、中長期的な視点で費用対効果を検討しましょう。気になったサービスがあれば、積極的に話を聞いてみるのも重要です。自分の視点では、見落としていた課題などの発見にも繋がります。
ペーパーレス化を進める際には、一気に紙から電子化に移行するのではなく、段階的に実施することが重要です。特定の部門や作業から始め、最初の1カ月目は紙との併用期間を設けるのが効果的でしょう。併用期間を利用して新しいシステムの使い方に慣れ、問題点や改善点を洗い出します。
テスト運用で明らかになったミスや使いづらさは、随時改善していきましょう。従業員からのフィードバックを積極的に取り入れ、より使いやすいシステムへと進化させていくことが大切です。こうした改善を重ねながら、徐々に紙なしでも運用できる体制を構築していきましょう。
ペーパーレス化の対象となる文書や書類、資料の例としては、以下のようなものが挙げられます。
対象となる文書をデジタル化することで、情報の共有や検索、データの集計・分析が容易になり、業務効率の向上が期待できます。
ペーパーレス化を進める上で重要なのは、新しいシステムの導入が、今までの業務を大きく変更するものではないと捉えてもらうことです。
ペーパーレス化は業務そのものを効率化するための手段であり、業務の本質を変えるものではありません。新しいやり方を別の業務として捉えてしまうと一気にハードルが上がり、従業員の抵抗感が強まってしまうので、注意しながらペーパーレス化を導入していきましょう。
製造業におけるペーパーレス化は、業務効率の向上、コスト削減、品質管理の強化など、多くのメリットをもたらします。紙関連業務による負荷を減らし、人手不足を補うことができるだけでなく、記録のデータ化により、業務改善や効率化も実現できます。また、紛失や破損のリスクを軽減し、監査や取引先への対応も円滑にできるでしょう。
ただし、ペーパーレス化を進める上では、いくつかの留意点があります。従業員の中には、慣れ親しんだ紙での作業から変更することに抵抗を感じる人もいるでしょう。また、紙の方が適している業務もあることを認識しておく必要があります。
ペーパーレス化を成功させるためには、以下のステップで進めていきましょう。
一気に紙をなくすのではなく、テスト運用と改善を繰り返しながら徐々にペーパーレス化の範囲を拡大していくことが求められます。
製造業におけるペーパーレス化は、業務効率化とコスト削減を実現するための重要な取り組みです。紙の削減だけでなく、業務プロセスの改善やデータの有効活用も見据えて、段階的に進めていきましょう。