製造業に携わっている方の多くは、「ハインリッヒの法則」という言葉を耳にする機会があるのではないでしょうか。
ハインリッヒの法則とは、労働安全やリスク管理における重要な概念です。この法則によれば、事故は数多くの軽微な違反や不注意な行動の積み重ねから起こり、その中のごく一部が重大な事故につながるとされます。
この記事では、全国10,000箇所を超える現場DXを支援してきた「カミナシ」がハインリッヒの法則について分かりやすく解説します。ハインリッヒの法則とは何か、概念が生まれた背景など、具体例とともに紹介していきます。
・「ハインリッヒの法則とは何かよく知らない......」
・「ハインリッヒの法則に基づく具体的な対策方法などを知り、事故を事前に防ぎたい......」
上記のような悩みがある場合はぜひ最後までご覧ください。
ハインリッヒの法則は、労働安全やリスク管理における重要な概念の1つです。この法則は、1931年にドイツの技術者であるハーバート・ハインリッヒによって提唱されました。
ハインリッヒの法則は、事故が起きる際には実際の事故の数よりも、その数倍ほかの事故が幸運にも回避された可能性があるという考えに基づいています。
具体的には、彼は「1:29:300」の比率を提案しました。つまり、実際に起きた事故(1件)に至るまでには、ほかに29件の小さな事故やインシデントがあったと推測され、さらにそれらの小さな事故を回避した場合、300件の無害な作業が行われた可能性があるというものです。
この法則の背後にある考え方は、事故は単発の出来事ではなく、事前に予測可能である小さな問題や注意すべきサイン(ヒヤリハット)が積み重なっているというものです。
そのため、小さなインシデントや違反が積み重なることで、最終的に大きな事故につながる可能性があるとされています。これは、事故予防の観点から非常に重要であり、企業や組織が事故の予防策を講じる上で重要な概念となります。
ハインリッヒの法則が生まれた背景には、工業化が進展し、労働者の安全や健康に関する懸念が高まっていた時代の状況があります。特に20世紀初頭の産業革命後、工業化が急速に進展し、労働者が機械化された環境で働くことが一般的になっていました。
この時期には、労働環境が厳しいものであり、事故や負傷が頻繁に発生していました。しかし、当時の安全管理は未発達であり、事故の原因や予防策に関する十分な理解が欠けていたのです。このような状況下から、労働者の安全を向上させるための科学的アプローチが求められ、ハインリッヒの法則が誕生しました。
この法則により、ハインリッヒは労働安全衛生の分野において革新的な考え方を提唱したのです。彼は、単に事故の発生を防ぐだけでなく、その背後にある根本的な原因に焦点を当てることで、労働環境をより安全にする方法を模索しました。
その結果、彼は1931年に「Industrial Accident Prevention: A Scientific Approach」を発表し、ハインリッヒの法則を提示したのです。
ハインリッヒの法則は、当時の産業界や労働者の安全を考える者たちにとって画期的なものであり、労働安全衛生の分野における重要な原則の一つとして広く受け入れられました。その後も、ハインリッヒの法則は進化し、労働安全衛生の理論や実践に大きな影響を与え続けています。
ハインリッヒの法則と類似する法則として知られるものがいくつかあります。その中でも有名なものの一つが「バードの法則」です。
バードの法則は、組織内で発生した事故の中で、かろうじて怪我を負ったり、装置の損傷が生じたりする軽微な事故の数が、深刻な負傷や死亡事故の数よりもはるかに多いことを指摘しています。これは、ハインリッヒの法則と同様に、事故の発生率が重大度の低いものから高いものへと増加するという傾向を示しています。
さらに、もう一つの類似法則として挙げられるのが「タイ・ピアソンの法則」です。この法則は、一連のランダムなイベントの中で、稀な事象がより頻繁に起こる傾向があるというものです。タイ・ピアソンの法則は、ハインリッヒの法則と同様に、事故の発生率についての一般的な傾向を捉えるものとして理解されています。
これらの法則も、安全性やリスク管理における重要な概念です。ハインリッヒの法則と合わせて理解しておくと良いでしょう。
ハインリッヒの法則には、誤解が生じやすい点が2つあります。
・会社全体で300回の事故と考えてしまう
・ランダムな事故と考えてしまう
従業員がハインリッヒの法則を理解し、それを実践する上で、個別の行動や状況がどれほど重要かを認識することが肝要です。そして、安全講習などを通じて、従業員がこの法則を正しく理解し、実践する環境を整えることも必要です。
以下でそれぞれの誤解を解消し、どのような考え方が正しいのかご紹介します。
従業員が300件の事故を引き起こした場合、そのうちの1件が重大事故となるというのは、個別の従業員の行動が重要であり、その行動が事故の重大度に影響を与えることを示しています。
一方で、会社全体で300件の事故が起こったからといって、必ずしも1件が重大事故となるわけではありません。なぜなら、個々の事故がそれぞれ異なる要因や背景を持っているため、全体の事故数だけで重大事故の確率を決定することはできないからです。
ハインリッヒの法則は、単純に同様の事故が300件発生した場合、その1件が重大事故に繋がるというものではありません。むしろ、個々の事故の状況や背景を考慮する必要があります。
例えば、類似の事故が多発する状況下であっても、その全てが必ずしも重大事故につながるわけではないのです。事故の重大度は、その発生した状況や周囲の環境、そして従業員の行動など複数の要因によって決まるため、単純な統計データだけで判断することはできません。
ハインリッヒの法則にあるように、重大な事故を防ぐにはヒヤリハットを減らしていくことが重要になります。そんなヒヤリハットの対策にはチェックリストのデジタル化が効果的です。
デジタル化により、従来の紙ベースのチェックリストよりも迅速で正確な情報管理が可能になります。さらに、スケジュールによる予防保全を組み込むことで、定期的な点検やメンテナンスを継続的に行うことができます。
また、画像付きマニュアルとアラート機能を活用することで、作業者に必要な情報を視覚的に提供し、危険な状況が発生した際には即座に警告を発することができます。
これにより、ヒヤリハットの発生を事前に防ぎ、安全性を向上させることが可能です。
ヒヤリハットは、企業や組織における安全管理上の重要な要素であり、その起こる理由は多岐にわたります。
まず、設備等の不具合が挙げられるでしょう。製造ラインや施設内の機械が十分なメンテナンスや点検を受けていない場合、突然の故障や不良な動作が発生し、これが事故や危険な状況を引き起こす可能性があります。
さらに、ヒューマンエラーもヒヤリハットの原因となるでしょう。作業者の注意不足や訓練不足、または適切な手順や安全規定の無視が、事故や危険な状況を招くことがあります。
例えば、急いでいるあまり手順を省略したり、正確な手順を知らなかったりすることで、予期せぬ危険が生じることがあるでしょう。
さらに、疲労やストレスといった要因も、ヒューマンエラーを促進する可能性があります。組織はこれらのリスクを理解し、徹底した訓練や適切な設備管理、作業環境の改善を通じて、ヒヤリハットの発生を最小限に抑える努力を行う必要があるでしょう。
チェックリストのデジタル化によって、業務改善に至った事例がありますので、そちらをご紹介します。他の記事でも紹介しておりますが、カミナシを実際に導入した「株式会社キンレイ」の事例です。
株式会社キンレイは、撚り線機を製造・販売する会社で、その撚り線機は世界中でNo.1のシェアを誇ります。しかし、紙の点検表の承認作業に毎日約75分を費やすなど、古い業務スタイルが問題視されていました。
そこで、「カミナシ」を導入することで、業務効率化を図り、デジタル化への取り組みを進めたのです。
導入前の課題は、紙の点検表による承認待ちの行列や、印刷や配布に要する手間でありました。特に、点検者と承認者の両方にとって負担が大きくなっている点です。
しかし、カミナシの導入により、承認待ちの行列が解消され、業務効率が向上しました。さらに、カミナシの利用は従業員にとっても受け入れられ、現在も定着が進んでいます。
導入の成果として、業務効率化だけでなく、写真での記録が残せることで正確な情報管理が可能となり、逸脱の把握やトレーサビリティの向上にもつながりました。また、カミナシの導入は社内のデジタル化を推進し、チャットツールなど他のデジタルツールの定着にも貢献しています。
安全管理は製造業において極めて重要です。この記事では、ハインリッヒの法則について詳しく解説しましたが、ハインリッヒの法則やヒヤリハットの理解は、事故予防と作業環境の改善に必要不可欠です。
また、デジタル化によるチェックリストの効果的な活用は、情報管理の迅速化と正確性をもたらし、安全性を向上させる効果があるため、ヒヤリハット対策を考えている企業は導入の検討をしてみてもいいでしょう。
組織は、設備のメンテナンスや従業員の訓練に十分なリソースを割くことで、安全性を確保する必要があります。疲労やストレスによるヒューマンエラーを防ぐためにも、適切な作業環境やストレス管理の取り組みが必要です。
安全は全従業員の責任であり、組織全体での協力と意識の向上が重要となります。事故を未然に防ぐためには、常に安全第一の考え方を徹底し、リスクを最小限に抑える努力を継続して行っていきましょう。