製造業において、安全性を確保しながら長期間にわたって使用できる丈夫な製品を作ったり維持したりすることは品質管理において必要不可欠です。
その鍵を握る工程が検査でしょう。検査技術のひとつに非破壊検査があります。あまり耳慣れない言葉かもしれません。そこで、この記事では非破壊検査とは何かを解説しましょう。
非破壊検査とは、その名の通り物を壊さずに内部や表面の傷を確かめたり劣化の具合を調べたりする検査のことです。
非破壊検査は加工工程および完成時の製品の検査や設備の建設時の検査などに適用されます。材質検査に応用されることもあり、製品や設備の信頼性を高めるのに一役買っているというわけです。
非破壊検査にはさまざまな種類があります。主な非破壊検査を紹介しましょう。
目視検査 (VT:Visual Testing)が最もイメージしやすいのではないでしょうか。目視検査では良品と不良品の境界線をあらかじめ明確に決めておいたうえで検査をします。たとえば標準見本・不良見本・限度見本を提示すると分かりやすいでしょう。
ただし、目視検査は人間に依存するところが多く、ヒューマンエラーや検査員によるばらつきが発生しやすいというデメリットがあります。
浸透探傷検査 (PT:Penetrant Testing)は、傷を見つける検査方法のこと。インクである浸透探傷剤を塗ってから拭き取っても残ることを利用して傷を発見します。ひび割れ箇所が目に見えるようになるので、修理や交換をするタイミングが分かるというメリットがあります。小さなひびが重大な事故につながる飛行機の機体チェックに利用されることが多いです。
超音波探傷検査 (UT:Ultrasonic Testing)は、中の様子を調べる方法です。例えば、年月が経ったビルの骨組みの丈夫さを確かめるのに利用します。切って中の様子を確かめるわけにはいかないので、機械を使って詳しく調べるというものです。
磁粉探傷試験 (MT:Magnetic Particle Testing)は、鉄に磁石をくっつけると起こる磁気の流れを利用しています。ひび割れがなければスムーズに磁気が流れるのですが、何か欠陥があると磁気の流れが乱れ、そこに光る鉄粉の入った液をかけると乱れた磁気の流れの部分にだけ引き付けられるのです。傷の箇所だけ光るので簡単に異変に気づけます。
渦流探傷検査 (ET:Eddy Current Testing)は、電気信号処理のみで判定が可能な検査です。金属材料の表面に交流磁気を発生するコイルを置いた場合に発生する過電流は材料の電磁気的な性質や表面の状態によって変化します。その変化を測定して材質や傷の有無をチェックするのです。具体的には、鋼管や銅管、アルミ管などのオンライン検査に広く用いられています。
医学における非破壊検査としては、脳の断面を細かく撮影するX線CTや胃の中を確認する内視鏡検査、体内部の見えないところを撮影するX線撮影、妊婦の腹部に置いて胎児の様子を見る超音波診断などが挙げられます。医学の進歩は目覚ましいですが、それを支える一つが非破壊検査なのです。
ここで、非破壊検査を行う非破壊検査員の仕事について紹介しましょう。非破壊検査員は具体的にトンネルや橋、マンションといった建造物や金属類の製品など、壊して検査できないものの安全性を調べます。
日本全国に非破壊検査業務を専門に行っている会社はおよそ400社あるとされており、非破壊検査員は3万3,000人ほどです。
技術の進歩によりさまざまな検査機械が出回るようになりましたが、非破壊検査員の仕事の本質は変わっていません。単調な繰り返しの作業の中でも微妙な変化を察知しなければいけないため、忍耐力や繊細さなどが求められます。
時には、原子力発電所のような危険な場所で検査を行うこともあるでしょう。建造物にせよ製品にせよ、今後も検査場所が減る可能性は低いので、非破壊検査員は需要があり続けると予想されます。
非破壊検査員になるために必要な学歴は特に定められていません。とはいえ、大学の理工学部や工業高専、工業高校の電気科・機械科などを卒業した人が多いです。
非破壊検査員として働くためには非破壊検査技術者技量認定試験に合格しなければいけません。非破壊検査技術者技量認定試験とは、放射線や超音波などを利用して製品を傷つけることなく検査し、安全性や品質を検査する技術者を認定する試験のことです。
国家資格ではなく、一般社団法人日本非破壊検査協会が運営する民間資格で、非破壊検査技量認定規程(NDIS 0601)に従って実施されています。レベルは3段階に分かれており、レベル3が最難関です。詳しい試験日時や試験開催場所などについては日本非破壊検査協会の公式サイトを確認しましょう。新型コロナウイルス感染症の影響で一部変更になっている点があるためです。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2019年)によると金属検査工の平均年収は362.9万円でした。男性の平均年収は385.9万円で、女性の平均年収は298万円ですので、少し差があります。初任給は高卒で16~18万円、大卒で18~22万円ほどでしょう。検査対象や企業の規模によって違いがあるため、一つの目安としてください。
非破壊検査の装置を扱うメーカーを紹介します。多くの会社があるのですが、その中から3社を選び、特徴をお伝えしましょう。
日本サポートシステム株式会社は、年間200台以上の装置やロボットなどを導入している関東最大級の会社です。検査装置のメーカー選定から検査装置の導入、メンテナンスまで一貫したサービスを行っています。実績やノウハウがあるため、最適な非破壊検査の装置を提案してくれるでしょう。
原電子測器株式会社は、創業63年で確かな技術と経験を持ち合わせた会社です。ニーズの確認・事前サンプル試験・システムや概略見積もりの提案・仕様の確定・詳細見積もりの提示を経て、契約となります。きめ細やかな対応をしてくれるのではないでしょうか。もちろん、保守・点検やトラブル対応などもしてくれます。
マークテック株式会社は、さまざまな非破壊検査製品を扱っている会社です。例えば、浸透探傷検査に必要な染色浸透探傷剤や蛍光浸透探傷剤、磁粉探傷検査に必要な磁粉探傷剤や磁粉探傷機器、磁粉探傷装置などがあります。その他、ブラックライトや硬さ試験機などもあるので、製品の品ぞろえは豊富だといえるでしょう。
検査する対象物を傷つけたり壊したりすることなく傷や欠陥、性質などをチェックできる非破壊検査とは何かをお伝えしました。
非破壊検査とは何かを伝えるときによくいわれるのが、スイカを叩いた音を聞いて中の状態を知るというものです。確かにスイカを切ることなく中の状態をチェックできます。非常にイメージしやすいのではないでしょうか。
現代においてはセキュリティチェックや盗難防止センサーなどに使われることもあります。もはや私たちの生活には欠かせないものです。
もし興味があったら、非破壊検査員を目指してみてもよいでしょう。私達の生活の基盤を支える仕事のため、やりがいがあるのではないでしょうか。