手順書はすべての従業員が作業内容を把握し、同じ品質の製品やサービスを生み出すための重要な文書です。誰でも理解できるわかりやすい手順書を用意することで業務標準化が進み、作業のムダも削減され、生産性向上や売上アップが期待できます。
しかし手順書の内容がわかりにくく、誰が・何のために利用するのかが曖昧であると、説明不足や解釈の不一致などが生じ、従業員の作業レベルを一定の水準に保てません。その結果、品質のバラツキによって顧客や取引先からクレームが発生し、カスタマーサポートや補填などのリスクが生じる可能性もあります。
本記事では、手順書を作る目的やにている言葉「マニュアル」との違い、手順書の作成方法、作成時に用いるツール、現場の従業員に受け入れてもらいやすくするためのコツを解説します。
手順書とは、業務工程を最小単位まで細分化し、それぞれの作業内容について説明した文書を指します。手順書を作成する目的は、従業員のスキルや経験の差に関わらず、説明文を読むだけで誰もがミスなく同じ品質で作業できる状態にすることです。
手順書を作成すると、作業内容はもちろん必要な道具や品質を維持・向上させるポイント、注意事項を見える化できるため、どの従業員も同じ方法で迷わず業務に取り組めます。その結果、安定した品質の製品・サービス提供が可能になり、顧客満足度の向上にも繋がります。
手順書を作ることでムダな作業を削減した結果、業務効率化にも寄与します。作業中に疑問点が生じても、手順書があることで迷ったり質問したりする時間がなくなるためです。
また手順書があると管理者側は、従業員に作業内容を一つずつ教える手間を省けるため、研修期間の短縮や教育コストの削減にもなります。このように、手順書は業務標準化や品質の安定化だけでなく、効率化やコスト削減を進める上でも効果があります。
手順書と良く似た言葉に「マニュアル」があります。手順書とマニュアルは、目的と役割、記載する内容の3つの点で違いがあります。手順書とマニュアルの違いを以下の表にまとめました。
手順書 |
マニュアル |
|
目的 |
どの従業員でもミスなく同じ品質で作業できる状態にすること |
従業員に業務の全体像を理解してもらい、対象作業や前後の作業を円滑に進められるようにすること |
役割 |
各工程の具体的な作業手順や品質チェックの基準を示す |
企業全体の情報や蓄積されたノウハウを示す |
記載内容 |
・作業名、目的 ・作業に必要な道具 ・作業手順 ・作業の合否基準 など |
・企業理念 ・事業内容 ・業務フロー ・作業内容 など |
手順書とマニュアルの違い
手順書とマニュアルは、どちらも社内の業務内容をまとめた文書です。ただし手順書は従業員の作業レベルを統一すること、マニュアルは業務の全体像を理解させ、対象作業や前後の作業を円滑に進められるようにすることを目的としている点が異なります。
また手順書は特定の作業に焦点を当てて目的や流れを説明しますが、マニュアルでは企業理念や事業を行う背景などの前提情報も幅広く盛り込みます。手順書は、内容が限定される分、マニュアルよりも詳細な情報を記載できます。
手順書を作成して業務標準化や生産性向上を実現するには、作業に関する情報を漏れなく記載し、誰でも理解できる形で説明しなければなりません。
以下の6ステップに沿って手順書を作成すると、作業の目的や流れ、注意事項などをわかりやすく伝えられます。
重要度の高い作業から手順書を作成し、従業員のスキルアップや業務標準化を進めましょう。
手順書を作る際、まず初めに、誰が・何のために手順書を利用するのかを明確にしましょう。
誰に向けて手順書を作成するのかを事前に決めると、掲載する情報を取捨選択するときの判断基準が明確になり、従業員も内容を理解しやすくなります。
たとえば新人向けに手順書を作成する場合は、専門用語の使用を避けることや、作業内容をより詳細に記載するなどの配慮が必要です。
ベテラン向けであれば、作業の目的やミスが生じた場合のリスクを記載するなど、現場に慣れた従業員が不用意に工程を飛ばさないための工夫が求められます。
また、何のために手順書を用意するのかを明確にすることも、正しい作業内容を従業員に浸透させるためには必要です。手順書によって何が改善されるのか、どのような効果が期待されるのかを整理して伝えると、従業員が納得感を持って作業に取り組めます。
利用者と目的が明確になったら、作業内容や注意事項など手順書に記載する情報を洗い出しましょう。
情報を整理する中で、特定の工程に時間をかけすぎている、品質チェックにバラツキがあるなどの問題が浮かび上がり、業務の見直しや改善を行うきっかけにもなります。
現場の動きを目で見て確認したり、従業員へのヒアリングを行ったりすると、抽象的な作業や言語化されていなかった細かいタスクも手順書に落とし込めます。
「いつ・誰が・どこで・何を・なぜ・どのように」を表した5W1Hを意識すれば、必要な情報が漏れなく記載されて従業員が迷わずに正確な作業を行えるようになります。
手順書には7つの必須項目があります。手順書を作成するときは、現場の視察やヒアリングなどを通して、以下の情報を集めましょう。
作業名や目的を明記すると、従業員が必要な情報を見つけやすくなり、作業の必要性も理解できます。作業の中断によるムダな時間の発生を防ぐためには、必要な道具を最初に提示して用意を促すことも大切です。
また作業手順だけでなく「機械のホコリを取り除くときは奥から手前へ掃く」や「お客様の目を見て笑顔で挨拶する」など、細かな動作ポイントも記載すると品質の維持・向上に繋がります。加えて、作業を正しく終えられたか確認するための合否基準もあれば、製品・サービスの品質を統一しやすくなります。
注意事項を手順書に盛り込む際は、文字色を変える、イラストで示すなどの方法で従業員が見落とさないように工夫することが作業ミスを防ぐためには必要です。
情報の洗い出しが完了したら、何を・どの順番で手順書に記載するのか構成を決めましょう。最初に骨組みとなる構成を決めれば、手順書の内容が明確になる上、全体を俯瞰することで情報の抜け漏れや矛盾を防げます。
作業の簡略化や入れ替えできる部分を検討し、情報を整理した上で構成を考えると業務効率化に繋がる手順書を作成できます。
従業員が必要な情報をすぐ見つけ出せるようにするには、目次を設定し、何が・どこに記載されているのか示すことも利便性を高めるためのポイントです。
内容がひと目でわかる見出しをつける、情報量が多ければ小見出しを用意するなど、読みやすさを重視した構成と目次設定を意識しましょう。
次は構成に沿って、テキストや図などを用いて作業内容をわかりやすく記載します。テキストの説明では、誰でも理解できる言葉を使用し、注意事項を記載する際は、太字や文字色変更などで強調すると、作業手順やミスにつながりやすいポイントを把握しやすくなります。
また図や写真などを活用することで、さらにわかりやすい手順書になります。たとえばフロー図を用いることで、テキストのみの説明よりも作業の流れを具体的にイメージできます。
OK例やNG例を写真やイラストで示せば、作業の合否を正しく判断できるため品質レベルの統一を図れます。動きを伴う作業など、図やイラストだけでは伝わりにくいものに関しては、動画での伝達を検討しても良いでしょう。
必須項目の他にもトラブルの具体例や対処法を記載すると、問題の早期発見や解決、従業員の作業レベル向上に繋げられます。
手順書が完成したら、現場で仮運用しましょう。仮運用では手順書通りに問題なく作業できるか、より効率的な方法はないかを確かめます。
担当者が検証するだけでなく、第三者にチェックしてもらうことで、作成時に見落としていた記載漏れや修正点に気づけます。このとき、人によって解釈に差が出ないか、作成者の意図とズレが生じていないかも確認しましょう。
また経験豊富な従業員が作成した手順書は専門用語が多く、詳細な説明を飛ばしている可能性があります。そこで業務に詳しくない人(新人など)にも内容をチェックしてもらい、指示が曖昧だったり、説明がわかりにくかったりする部分の指摘を受けると、より具体的で読みやすい手順書を作れます。
追加事項や修正点があればすぐ手順書に反映し、本運用に向けて内容をブラッシュアップさせましょう。
本運用開始後は定期的に現場からフィードバックをもらい、改善要望や業務内容の変更に合わせて手順書を更新します。
具体的には、手順書の中身を簡単に理解できるか、手順書通りに作業を進められるかなどについてヒアリングを行い、従業員がストレスなく使い続けられるように見直しや改善を行いましょう。
手順書の使い勝手が悪いと、作って終わりになってしまい、現場の従業員が使わなくなってしまいます。その結果、従業員が個々の判断で作業を進め、業務標準化が図れなくなります。
そのため、現場の実態に合わせて常に最新の状態を保つのが大切なポイントです。1年や3年など期間を決めて更新するのはもちろん、新しい機械の導入や法改正、従業員から改善の提案があったときも柔軟に手順書を見直しましょう。
手順書の作成ツールには豊富な種類があるものの、初期設定のハードルが高い、予算が限られているなどの理由で導入するのが難しい企業も多いと思われます。そこでまずは、WordやExcel、PowerPointなどのツールを使って、手順書の作成をしてみてはいかがでしょうか。
WordやExcel、PowerPointは多くの企業でパソコンに標準装備されているため、一から操作方法を覚えたり、追加費用をかけたりしなくても手順書を作成できます。ただし作業内容に合った手順書を作るには、それぞれの機能を理解した上で適切なツールを選ばなければなりません。
ここからはWordとExcel、PowerPointの機能や作成に向いている手順書、活用する際のポイントを解説します。
Wordは文書作成に特化しているツールで、文章の装飾や誤字脱字のチェック、見出しや目次の設定を簡単に行えるのが特徴です。テキストの説明が多い手順書や、紙に印刷して使用する手順書の作成に向いています。
ページ数が多くても、Wordの自動採番機能を使えば手順書の整理が楽になり、印刷後も正しい順序で作業内容を確認できるためミスを事前に防げます。図形や画像の挿入も可能ですが、業務フロー図やグラフなどの作成・編集にはやや不向きです。
Wordを活用して手順書を作成する際は、文字や段落の書式を設定できるスタイル機能を活用して全体の見た目を整えつつ、図解やグラフに関しては他のツールで作成したものを挿入しましょう。
テキストと図、写真などをバランスよく取り入れると視覚的な見やすさが向上し、従業員の作業効率アップに繋がります。
Excelは入力された数値データをもとに、表やグラフを作成するツールです。一つのファイル内にシートを複数作成したり、図やグラフの作成・挿入を簡単にできたりするため、パソコン上で作業内容を確認する手順書や、テキストよりも図表を多く用いて説明する手順書の作成に向いています。
たとえば手順や注意事項が多い作業を説明する場合、工程ごとにシートを分ければ従業員が必要な情報を見つけやすくなり、迷わず業務に取り組めます。セルを活用してシート内にチェックリストも作ると、作業を確実に終えられたかの判断も可能です。
ただしExcelはWordと異なりページ制限がないため、手順書を紙ベースで残す場合はズレが生じないよう印刷範囲の設定を行いましょう。Wordよりも手間はかかりますが、目次や見出しの設定、ページ番号の付与をすることでExcelでも紙ベースの手順書を作れます。
PowerPointは、デザイン性の高いプレゼンテーション資料を作成するツールです。文章や画像、グラフなどの挿入や編集、デザイン変更などレイアウトの自由度が高いため、視覚的な見やすさを重視する手順書の作成に向いています。
動画の挿入機能を活用すれば、手の動きや機械操作が複雑な作業の手順や注意事項をわかりやすく伝えることで業務効率化を図れます。ただし、容量が大きい画像や動画をそのまま挿入すると動作不良の原因になるため、圧縮する、枚数を限定するなどの方法で対応しましょう。
ページの順番も自由に入れ替えできるため、手順書のアップデートに伴う構成の変更や項目削除・追加などの操作を簡単に行える点もメリットです。
PowerPointを活用して手順書を作成する際は、デザインを統一させることを意識しましょう。具体的にはフォントを一種類に揃える、使用する色は三色程度に抑えるなどです。
全体に統一感を持たせることで、強調したいポイントや注意事項が伝わりやすくなり、従業員の作業ミスを防げます。結果的に製品・サービスの品質が安定し、顧客満足度の向上に繋がります。
現場ですぐに使えるわかりやすい手順書を作るためには、以下3つのコツを押さえる必要があります。
手順書の内容だけでなく、書き方や見せ方を工夫することで誰でも作業内容を理解できるようになり、効率的に業務標準化を進められます。
作業内容を熟知している人が手順書を作成する場合は特に、専門用語や略称が多くなり読み手が理解できず、品質にバラツキが生じる可能性があります。そのため手順書を作成する際は、誰が読んでも理解できる言葉で作業内容を説明しましょう。
具体的には、専門用語を最小限にして理解しやすい言葉を使うことや、略称は避けるか正式名称を用いるなどが挙げられます。
専門用語の使用を抑えて初心者でも理解できる言葉に変えれば、作業内容をイメージしやすく迷ったり質問したりする時間を削減できます。どうしても専門用語を使わなければならない場合は、注釈をつけて説明を加えましょう。
略称についても使用を避けることや、もしくは正式名称を用いることで正確な情報を伝えられます。一つの文章に一つの情報を書く、抽象的な表現を避けて具体的に記載するなども、誰が読んでも理解できる手順書を作成するためのポイントです。
テキストだけでの説明が難しい場合は、積極的に図や写真を使って視覚的に見やすくする工夫も必要です。
たとえば部品の取り付け作業を説明するとき、取り付け部分を写真で示せば、どこに・どのように取り付けるのかを瞬時に理解できます。パソコンの操作方法についても、スクリーンショットを添付することで手順書を見ながら効率的に作業を進められます。
手順が多い作業については、箇条書きやフローチャートを活用すると全体の流れを把握しやすく、文章が長いために従業員が説明を読み飛ばすリスクも軽減できます。このように手順書の視認性を高めることで、どの従業員も勘違いやストレスなく作業内容を理解し、正しい手順で的確な業務に取り組めます。
結果的に業務標準化が進み、安定した品質の製品・サービス提供が可能になります。
わかりやすい手順書を作っても、必要な情報にすぐたどり着けなければ利便性が悪く、誰にも使ってもらえなくなる可能性があります。そのため手順書の作成後は、検索性を高める工夫をして従業員がすぐに使えるような環境を整えましょう。
具体的には、読み手が調べる時に入力するキーワードを見出しに含めることや、目次と内容を一致させること、スマートフォンやタブレットでも手順書を確認できるツールを活用するなどの方法があります。
パソコン上に手順書を保存している場合、作業名や重要なキーワードを見出しに含めることで検索機能を使えば欲しい情報をすぐに見つけられます。
目次と内容を一致させれば、目次を見るだけで何が・どこに書かれているかを瞬時に把握できるため、従業員は短時間で内容を確認して作業に移れます。
スマートフォン・タブレットで手順書を見られるようにすると、目次を見たりパソコンを起動したりする手間が不要になり、作業効率の向上が見込めます。スマートフォンやタブレットであれば小さなスペースに収納できるため、従業員が取りやすい場所に置くことでトラブルが起きたときもすぐに手順書を参照し、迅速な解決に繋げられます。
手順書は従業員が誰でも同じ方法で作業を進め、安定した品質の製品やサービスを顧客に提供するための重要な文書です。マニュアルと違って特定の作業に焦点を当てた内容が記載されるため、新人や現場経験が少ない従業員でも迷わず業務に取り組めます。
誰でも理解できるわかりやすい手順書を作成するには、利用者や目的を明確にした上で必要な情報を洗い出し、テキストや図を用いて記載しましょう。手順書の本運用後は定期的に見直しや改善を行い、常に最新の状態に保つことで従業員の使用頻度も上がり、継続的に業務標準化を進められます。
誰でも理解できる言葉で説明することや視覚的な見やすさに配慮すること、検索性を高めることも現場で使いやすい手順書を作成するためのポイントです。
本記事を参考に、誰でも作業を理解できる手順書を作成し、業務標準化を進めて生産性向上や売上アップに貢献しましょう。