国内市場での競争力強化や海外展開を視野に入れる中で、JFS-C規格の取得を検討されている方も多いと思います。
JFS-C規格は、日本発の食品安全マネジメントシステム規格として、国際的にも認められた高い水準の食品安全管理を実現するものです。HACCPとFSMS、GMPの3要素を包含した規格となっており、国際市場での認知度向上や海外取引先からの信頼獲得などのメリットがあります。
しかし、その要求事項や具体的な取り組み方について、疑問や不安を抱えている方も居ると思います。本記事では、JFS-C規格の概要から取得のメリット、具体的な準備のステップ、JFS−B規格との違いまで、詳しく解説します。
JFS-C規格は、一般財団法人食品安全マネジメント協会(Japan Food Safety Management Association:JFSM)が開発・運営する、国際的な取引でも認められている食品安全認証規格です。JFS-C規格は、「HACCPに基づく衛生管理」と「食品安全マネジメントシステム(FSMS)」、「適正製造規範(GMP)」の3要素を包含したものとなっています。
JFS規格は全5種類(JFS-A規格、JFS-B規格、JFS-C規格、JFS規格(フードサービス)、JFS規格(フードサービス・マルチサイト))あり、食品製造業向けにはJFS-A、B、C規格が用意されています。その中でもJFS-C規格は最も要求水準が高く、国際的な認知度も高いのが特徴です。
2020年10月2日にJFS-C規格文書Version 3.0とJFS-C認証プログラム文書Version 3.0が公表され、その後も更新が重ねられています。
JFS-C規格文書Version 3.0では、食品安全文化トレーサビリティの検証、製品開発での食品安全などの要求事項が新たに追加され、より実践的な基準が設定されました。またJFS-C認証プログラム文書Version 3.0では、認証プロセスの透明性と一貫性を高めるための改訂が行われ、審査員の力量要件や認証機関の責任がより詳細に規定されました。
JFS-C規格はGFSI(Global Food Safety Initiative:国際食品安全イニシアチブ)に認められた国際規格であり、以下のようなメリットがあります。
JFS-C規格の取得は、グローバル展開を視野に入れた食品企業にとって重要な戦略的選択肢となっています。
JFS-B規格とJFS-C規格は、ともに食品安全マネジメントシステムを構築するための規格ですが、要求水準に大きな違いがあります。各分野において、JFS-C規格はJFS-B規格よりも高い要求水準を設定していますが、最も顕著な違いは内部監査員の必要性です。
JFS-C規格では、組織内に適切な力量を持つ内部監査員を置き、定期的な内部監査を実施することが義務付けられています。そのため、JFS-C規格の取得難易度は、JFS-B規格に比べて高くなります。JFS-B規格を取得後にJFS-C規格を検討している場合は、差分を良く理解し、自社の現状と照らし合わせながら、準備を進めましょう。
ここではJFS-B規格とJFS-C規格の違いを、HACCPとGMP、FSMSの3つの観点から解説します。
JFS-B規格とJFS-C規格のHACCP分野における主な違いは以下の通りです。
HACCP分野に関するJFS-B規格とJFS-C規格の差分は、新たな要素の追加ではなく用語や文言をGPFH2020に整合させたものになっています。そのため対応範囲が大きく変わるわけではなく、JFS-B規格に則った対応をしておくことでJFS-C規格にも適合できます。
JFS-B規格とJFS-C規格のGMP分野における主な違いは以下の通りです。
JFS−C規格の内容を確認するとわかりますが、GMP1の「立地環境」は事業場の立地条件に関する規格項目であり、JFS-B規格には無い項目です。製品の受け入れや保管、製造、配送といった活動が安全に実施できる立地条件であることを要求しているもので、事業場周辺の汚染リスクと食品事業者による汚染リスクを相対的に評価することが重要となっています。
またGMP9にある「手直し」では、食品安全リスクを最小限に抑えてトレース可能な状態で管理することが規定されています。手直し作業を記録、維持することはトレーサビリティ確保のために大切であり、HACCPプランのフローダイアグラムに記載して管理の証拠を残す必要があります。
JFS-B規格とJFS-C規格のFSMS分野における主な違いは以下の通りです。
例えば、FSM3の「マネジメントレビュー」についてはJFS-B規格では項目が無く、JFS-C規格のみのものです。「マネジメントレビュー」の内容は、食品安全マネジメントシステム全体の要素を見直すために、定期的なマネジメントレビューの実施と適切な形での記録を残すことを規定しています。
このほかにも食品偽装防止対策や製品の開発、内部監査に関する規定もJFS-C規格にしかない項目があり、差分として認識しておく必要があります。特に内部監査については、監査を実施する手順やスケジュール、不適合だった場合の是正処置など対応するべき項目がJFS-B規格と比べて大幅に拡大するので、他社事例やコンサルタントを活用して計画的に導入していきましょう。
参考:JFS-BからJFS-Cへのステップアップ 規格差分解説|JFSM
JFS-C規格は、食品安全マネジメントの国際標準として、多くの日本企業に採用されています。JFS-C規格を取得している企業の例は以下の通りです。企業名・対象工場(対象製品群)と記載しています。
参考:認証された組織(セクターE/L:JFS-C) > P1,2
JFS-C規格は大手食品メーカーを中心に取得しています。これらの企業はすでに多くの取引先を持ちつつ、さらにの多くは海外展開を積極的に進めています。JFS-C規格の取得は、国内外の取引先からの信頼獲得やグローバル市場での競争力強化に直結しています。
実際にJFS-C規格を取得している企業のリストは、JFSMの公式サイトで確認できます。JFS-C規格の取得企業リストを見ると、小麦粉や乳製品、冷凍食品など製品の幅が広く、その多様性と有効性が証明されています。
JFS-C規格の取得は、食品安全マネジメントシステムの構築と認証取得のプロセスを通じて行われます。以下に、JFS-C規格を取得するための一般的な流れを説明します。
まず準備段階として経営者のコミットメントを確保し、専門チームを編成します。同時に、JFS-C規格の要求事項を十分に理解し、現状分析を通じてギャップを特定します。
次にシステム構築段階ですが、ここでは食品安全方針の策定、HACCP計画を含む食品安全マネジメントシステムの構築、必要な文書や記録の体系整備を行いましょう。システムが構築されたら、実際の運用段階に移ります。運用段階では構築したシステムを実践し、内部監査の実施や是正処置の実施、マネジメントレビューによるシステムの有効性評価を行います。
システムの運用が軌道に乗ったら、JFSMに登録された認証機関を選定し、認証審査の契約を締結しましょう。認証審査では、書類審査と現地審査を受け、不適合がある場合は是正処置を実施します。審査の結果、認証機関による認証の可否の決定を受け、認証された場合は認証書が発行されます。
認証取得後も認証を維持するために、年1回のサーベイランス審査と3年ごとの更新審査を受験が必要です。認証取得のプロセスは組織の規模や複雑さ、既存のシステムの成熟度によって異なる場合があり、必要に応じてコンサルタントの支援を受けることも有効です。
食品安全マネジメントの世界では、JFS-B規格からJFS-C規格へのステップアップが一つのトレンドとなっています。多くの企業がこの移行を成功させており、その理由はさまざまです。
ある企業では、JFS-B規格の監査員から「次はJFS-C規格を目指してはどうか」というアドバイスを受けたことがきっかけでした。監査員は、その企業の管理体制がすでにJFS-C規格に近いレベルに達していることを認識し、さらなる向上の機会を示唆していました。
また、海外展開を視野に入れている企業にとって、JFS-C規格の取得は戦略的に重要な選択肢となっています。JFS-C規格はGFSI承認規格であり、国際的な取引において高い信頼性を持つため、グローバル市場への参入や拡大を目指す企業にとって大きなアドバンテージとなります。
JFS-C規格の取得のために重要なのは、PDCAサイクルを確実に回しながら、一歩ずつ着実に前進することです。まずは自社の現状とJFS-C規格の要求事項との差分を正確に把握することから始めるのがおすすめです。その上で、必要な改善事項を整理し、優先順位をつけて取り組んでいきましょう。