【図解あり】トヨタのカンバン方式とは?デメリットや運用方法を分かりやすく解説

カンバン方式とは、商品を製造する際の無駄を省くことで、効率的に作業を進める生産管理方式です。しかし、カンバン方式の仕組みや運用方法がわからず、どのように取り入れるべきか悩む方もいるのではないでしょうか。

 

本記事では、カンバン方式の概要や基本ルール・運用方法、メリット・デメリットを解説します。製造工程の改善や効率化に向けた施策を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

カンバン方式とは

カンバン方式とは、トヨタ生産方式の一環として、商品名や品番、保管場所が記された商品管理カード(カンバン)を使用し、必要なタイミングで必要な量だけ生産することで在庫を最小限に抑える生産管理手法です

 

カンバンは、後工程と前工程に関わらず各部品にとりつけられており、後工程で必要になったものを製造するのを基本としています。カンバン方式の流れは以下の通りです。

 

  • 後工程で、使用する部品に引き取りカンバンで情報を記しておく
  • 後工程で、部品を使用する際に引き取りカンバンを外す
  • 後工程で、引き取りカンバンが外された部品(=製造に必要なのに不足している部品)を前工程に取りに行く(部品を取りに行く際は、外された引き取りカンバンを持っていく)
  • 前工程で、部品を取る際には、取り付けられている仕掛けカンバンを外し、ポストに入れ、手に持っている引き取りカンバンを取り付ける
  • 前工程は、外された仕掛けカンバンの分だけ、部品を製造する

 

カンバン方式の図解
カンバン方式の図解
カンバン方式の図解
カンバン方式の図解
カンバン方式の図解

 

この流れを繰り返すことで、できる限り無駄な在庫を生み出さないのがカンバン方式の特徴です。

 

カンバンには「仕掛けカンバン」と「引き取りカンバン」の2種類があります。主な役割や使う工程は以下のとおりです。

 

カンバンの種類

主な役割

使う工程

仕掛けカンバン

生産する製品や数量を指示する

前工程

引き取りカンバン

引き取る製品や数量を指示する

後工程

カンバンの種類と役割、使う工程

 

カンバン方式は、トヨタ自動車の「ジャストインタイム」を実現するために有効な手法として導入されました。ジャストインタイムとは、トヨタ生産方式の2本柱(ジャストインシステムと自動化)の1つで、必要なものを、必要な時に、必要なだけつくったり運んだりすることです。

 

トヨタ自動車ではカンバン方式を導入し、徹底的に無駄をなくすことでコストを抑え、原価低減を実現しています。また、カンバン方式は製造業だけでなく、一般企業におけるプロジェクト管理方法としても幅広く活用されています。

カンバン方式が生まれた背景

カンバン方式は、元トヨタ自動車副社長の大野耐一氏によって開発され、1963年にトヨタ自動車の全工場で採用されました。

 

ジャストインタイムは、1938年にトヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏によって提唱されたものです。しかし、第二次世界大戦の影響ですぐに現場へ導入するのは難しく、トヨタ自動車では在庫過剰の状態が続いていました。

 

そのような状況で大野氏が1956年にアメリカへ視察に行った際に、製造現場ではなくスーパーマーケットからヒントを得て考えられたのが、カンバン方式です。スーパーマーケットでは、買い物客が商品を取り、足りなくなった分を店員が補充します。その仕組みを自動車製造に適用し、在庫の無駄を防ぐ「スーパーマーケット方式」が構築されました。

 

その後、スーパーマーケット方式にカンバンが追加され、カンバン方式へと進化していきます。1965年にかけては、トヨタ自動車の協力会社にもカンバン方式を導入し、さらに効率化を進めていきました。

カンバン方式の3つの役割

カンバン方式には、生産指示・運搬指示と目で見る管理、カイゼンの道具の3つの役割があります。それぞれの機能とできることを以下にまとめました。

 

役割

機能

できること

生産指示/

運搬指示

何を、いつ、どこに、どれだけ、どのような順序で生産・運搬するかをリアルタイムで指示

・後工程は引取のタイミングを計れる

・前工程は生産管理が楽になる

目で見る管理

在庫状況や作業進捗をカンバンによって視覚的に把握

・部品の造りすぎ・運びすぎを防げる

・部品について誰が見ても一目でわかる

カイゼンの道具

在庫管理や問題の顕在化

・在庫が少ないため不良品を生み出さない緊張感が生まれる

・問題点をすぐに改善できる

カンバン方式の3つの役割

 

カンバンを導入したからといって、すぐに生産が効率化され、原価が低減できるわけではありません。カンバン方式を効果的に運用するためには、カンバンの役割や製造工程に与える影響への理解が重要です。

カンバン方式の3つの基本ルールと運用方法

カンバン方式を導入する際に押さえておくべきポイントは、以下の点です。

  • カンバン方式の3つの基本ルール
  • カンバン方式の運用方法

 

カンバン方式は、製造工程のあらゆる無駄をなくすために有効な手法ですが、企業によっては合わない場合もあります。また、正しく運用できないと、かえって生産効率をダウンさせる可能性もあります。

 

カンバン方式の基本ルールや前提条件、運用方法を把握したうえで、導入するかどうか検討してみてください。

カンバン方式の3つの基本ルール

カンバン方式を運用する前に、まず基本ルールを確認しておきましょう。カンバン方式の3つの基本ルールは以下の通りです。

 

基本ルール

注意点

外し忘れをしない

使い始めにカンバンを外し速やかにポストへ入れる

小刻みに回収する

カンバンがポストに溜まらないようにする

等間隔で回収する

生産の先食いをしない

カンバン方式の3つの基本ルールと注意点

 

ここからは、それぞれの基本ルールについて詳しく解説します。

外し忘れをしない

カンバンの外し忘れがあると、前工程が「部品は未使用」と判断し、生産を止めてしまいます。前工程から部品が流れてこなくなるため、後工程では欠品の発生や作業の中断といった問題が起きるでしょう。

 

外し忘れを防止するためには、部品を使い始める時点でカンバンを外すようなルール化が必要です。また、カンバンを入れるポストの場所を工夫して、外し忘れを防ぐ場合もあります。

小刻みに回収する

生産効率を上げるためには、カンバンを小刻みに回収する仕組みも重要です。大量のカンバンをまとめて回収すると、在庫過剰になったり作業終了までに時間がかかったりする場合があります。カンバンがポストに溜まらないよう管理を徹底し、できる限り小刻みに回収しましょう。

等間隔で回収する

後工程・前工程お互いの作業ペースが乱れないように、等間隔でカンバンを回収しましょう。特に、後工程が不規則なペースでカンバンを回収してしまうと、前工程で欠品のリスクが高くなるため注意が必要です。

 

部品の生産が追いつかなくなり、それを回避しようと前工程で余分な在庫を抱える可能性があります。カンバンを回収する時間を決めておき、それを後工程と前工程で共有しておくと、お互いに作業の見通しを持てるでしょう。

 

上記の基本ルールを守りながらカンバン方式を運用すると、現場の作業効率を高められます。ただ「後工程が平準化されていること」が前提条件となる点に注意しましょう。平準化とは、ある区間内における各部品の生産量を、一定のボリュームにした状態で作業する方法です。後工程で必要な部品の数や種類が毎日大きく変動した場合、前工程は「生産が多いときに合わせた人員や在庫を確保する」という対応になってしまいます。

 

この場合、生産が少ないときに人手が余ったり在庫過剰になったりと、結果的にあらゆる無駄が発生します。カンバン方式の効果を最大限発揮するためには、できる限り後工程を平準化させましょう。

カンバン方式の運用方法

カンバンには「引き取りカンバン」と「仕掛けカンバン」の2種類があります。主に後工程で「引き取りカンバン」が、前工程で「仕掛けカンバン」が使われます。どちらの工程も、下記の手順を繰り返すことで効率的に作業を進められます。

 

後工程

  • 引き取りカンバンを外して部品を加工する
  • 引き取りカンバンを持って、新しい部品を取りに行く
  • 新しい部品を引き取るとき、部品についている仕掛けカンバンを外してポストに入れる
  • 新しい部品に引き取りカンバンをとりつける
  • 引き取りカンバンをつけた部品を後工程へ運ぶ

前工程

  • 仕掛けカンバンに記載されている数の部品を生産する
  • 生産した部品(部品箱)に仕掛けカンバンをつけて部品置き場へ運ぶ
  • 後工程が取り外した仕掛けカンバンをポストから回収する

カンバン方式のメリット

カンバン方式のメリットは以下の2つです。

 

  • 過剰在庫を防止し、的確な生産管理に繋がる
  • 必要な時に必要な分だけ作るので、品質管理が容易になる

 

カンバン方式は、作業効率アップや原価低減のために効果的な生産方式です。生産活動における無駄をなくすためにも、それぞれのメリットについて理解を深めておきましょう。

過剰在庫を防止し、的確な生産管理に繋がる

カンバン方式では、後工程で外されたカンバンの数だけ前工程で部品を生産します。そのため、過剰在庫を防止し、的確な生産管理に繋げられるでしょう。

 

製造業にはさまざまな無駄があるといわれており、その中でも「造りすぎの無駄」は特に避けた方が良いとされています。どれだけ製品を造っても、その分売上げを出さなければ企業の利益になりません。むしろ、製品が売れ残ると企業にとって大きなマイナスとなるでしょう。

 

また、過剰在庫があると、それらを保管するための管理費用や、運搬するための手間が増える可能性もあります。「造りすぎの無駄」は企業にさまざまな負担を強いるため、最小限に抑えなければなりません。

 

そこで効果的なのが、カンバン方式です。カンバン方式では、後工程の作業状況を加味して前工程の生産量を決めるため、在庫量を最小化できます。また、カンバン方式を運用する中で余剰人員も明らかになり、最適な人員配置も実現可能です。

 

このように、カンバン方式の運用によって「造りすぎの無駄」を防ぎ、企業の負担を減らすことができます。また「カンバンを移動させるだけ」という、誰にでもわかりやすい仕組みで的確な生産管理が行える点もカンバン方式のメリットです。

必要な時に必要な分だけ作るので、品質管理が容易になる

カンバン方式は必要な時に必要な分だけ製品を造るため、余分な在庫がなく品質管理が容易になります。

 

品質管理とは、消費者が満足するための製品・サービスを生み出すための活動(原材料や部品の検査や製造工程の確認、完成品の事前・事後対策など)です。主に工場における品質管理は、工程管理と品質検証、品質改善の3つから成り立っており、それぞれ下記の役割を持っています。

 

品質管理の構成要素

主な役割

工程管理

生産計画にもとづいて各工程を管理する

品質検証

製品や原材料を検査する

品質改善

作業工程や内容を改善して不良品の再発を防ぐ

品質管理の構成養素と役割

 

製品のクオリティを保ち、顧客からの信頼を得るためにも品質管理は重要な業務といえるでしょう。

 

しかし、製品を造りすぎて在庫が増えると、品質管理の手間が増えるだけではなく、不良品を見落とす可能性があります。不良品を何度も生産すると、コストや人材、時間の無駄が発生するため、企業にとっては痛手です。

 

一方、カンバン方式は必要な時に必要な分だけ造る仕組みであるため、チェックする製品も比較的少ない数で済みます。製造工程で一つひとつの製品、原材料を細かくチェックできることから、不良品の発生を防げる可能性も高いでしょう。

 

カンバン方式によって品質管理が容易になると、自社製品のクオリティを高い水準で維持し、顧客満足度の向上に繋げられます。

カンバン方式のデメリット

カンバン方式のデメリットは次の2つです。

  • 不良が出た際に、欠品のリスクや現場の負担がかかる
  • 大量生産には向いていないので、コストダウンを目指しづらい

カンバン方式にはリスクがあることも考慮し、運用方法を工夫したりトラブル発生時に備えたりしましょう。

不良が出た際に、欠品のリスクや現場の負担がかかる

カンバン方式は、不良品が出ることを前提としていない生産方式です。一定の在庫数は保たれていますが、不良品が発生した場合は欠品のリスクがある点に注意しましょう。

 

不良品の発生によって足りなくなった分を生産するため、一時的に現場の負担を増やす場合もあります。生産が追いつかなくなると、全体の作業を中断する事態に陥る可能性も考慮しなければなりません。

 

上記のデメリットを解消するためには、不良品を出さない仕組みづくりが必要です。具体的には、次の方法を実践しましょう。

 

  • マニュアルの作成や見直しをする
  • 作業・品質管理を徹底する
  • 環境を整備する
  • 従業員の教育を行う

 

マニュアルには製造工程で守るべきルールや手順を明記した上で、職場内での共有が大切です。マニュアルの見直しをする際は、現状に合った内容が記載されているかチェックし、アップデートを重ねましょう。

 

また、不良品の発生を防ぐためには、日頃から作業や品質管理の徹底がポイントです。従業員が集中しにくい環境で作業をしていると、不良品の発生に繋がりやすくなります。作業台の高さや周りの音に配慮し、身体に負担のかからない動線を確保するなどして環境を整備しましょう。

 

製造工程の中には、従業員にとって難しい作業も含まれていることがあります。従業員全体のスキルを高め、不良品の発生を防ぐためにも定期的に教育を行うことが大切です。製造の手順や注意点を教えるのはもちろん、気軽に質問できる雰囲気づくりをしておくと、ミスを事前に防げるでしょう。

大量生産には向いていないので、コストダウンを目指しづらい

カンバン方式は、必要なものを、必要な時に、必要なだけつくったり運んだりする仕組みであり、大量生産には向いていません。そのため、固定費を下げてコストダウンを目指しづらい点がデメリットといえます。

 

カンバン方式を導入する際は、自社製品の種類や受注状況に合っているか慎重に検討した上で取り入れましょう。

 

例えば、衣料品は、カンバン方式よりも大量生産によるコストダウンが売上げに大きく貢献する場合があります。衣料品は季節によって需要の変動が大きく、流行のものはニーズが高まりやすいのが特徴です。また、価格競争も過熱傾向にあります。

 

この場合、カンバン方式よりも大量生産を取り入れるほうが、低価格の商品を多くの顧客に届けられます。流行のものは需要が高いため購入者も増えやすく、売上げに繋がるでしょう。一方、製品の原価が高かったり、在庫過剰で生じるコストが大きかったりする場合は、カンバン方式が向いています。

 

カンバン方式は、大量生産に比べるとコストダウンを目指しづらい点がデメリットです。しかし、作業効率化によって人材・時間コストはある程度抑えられます。余分な在庫を持たないため、品質を高い水準で維持したり、従業員の負担を軽くしたりできるなどのメリットもあります。

 

製造業でコストをいかに抑えられるかは重要なポイントです。ただ、企業として利益を上げるためには、従業員や顧客の満足度など、他の要素も総合的に考える必要があります。コストダウンだけにとらわれず、さまざまな視点から検討したうえで現場に合った生産方式を導入しましょう。

カンバン方式で作りすぎのムダを減らそう

カンバン方式を導入すると、製造工程や在庫の無駄をなくし、効率的に商品を製造できるようになります。ただし、カンバン方式を取り入れる際は基本ルールや前提条件をよく理解して、正しく運用することが大切です。

 

メリット・デメリットについても把握し、さまざまな視点から検討した上でカンバン方式を取り入れるか判断しましょう。

 

カンバン方式は紙や板で作られたカードを「カンバン」として使用していましたが、近年では電子化が進められています。例えば、トヨタ自動車の系列会社で導入されているのは「EDI」という電子カンバンです。また、カンバン方式は一般企業のプロジェクト管理にも活用されており「Trello」や「Jooto」などのツールが有名です。

 

このように、カンバン方式はあらゆるビジネスシーンにおける無駄を減らすために有効な手段として使われています。製造業でも他の業界でも「造りすぎの無駄」をなくすことが、企業の利益を上げるためには大切です。カンバン方式をうまく活用して生産力を向上していきましょう。

 

 

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