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MSAとは?5つの検証方法とIATFで求められる基準を解説

作成者: カミナシ編集部|2024.03.18

企業が作っている製品や商品の重さや長さなどは決まっています。決められた重さや長さなどを満たせていないと不良品となってしまうため、重さや長さなどを計測する測定機器を導入する必要があります。

しかし、その測定機器事態が不正確であっては測定の意味がありません。そこで、その正確性を図るためにMSAというものが存在しています。

MSAは品質マネジメントシステムの国際規格であるIATF16949のコアツールでもあります。今回は、MSAの概要を簡単に紹介し、測定の仕方やMSAの重要性などを解説します。

MSAとは

MSAとは、Measurement Systems Analysisの頭文字をとった用語であり、日本語では「測定システム解析」と呼ばれています。測定機器の精度や測定者によるバラツキや偏りを統計的に分析・評価して、適切な測定システムを選択するための解析手法です。

1人の測定者がある測定機器で製品や商品を同じように測定した場合でも、何度か同じように測定をすると重さや長さなどの測定結果にバラツキが生じる可能性があります。

そこで測定データの変動がどのくらい存在するのかを調べておく必要があります。それがMSAというわけです。

 

MSAは、IATF16949のコアツールでもあります。IATFは国際自動車産業特別委員会(International Automotive Task Force)の略であり、IATF16949規格は自動車産業の国際的な品質マネジメントシステムの要求事項の規定です。MSAはIATF16949の取得にも必要とされる重要な解析手法なのです。

 

MSAの5つの検証方法

測定器で計測した測定値が正しいと証明するための方法として、

 

  • 平均測定値と基準値からのずれを意味する「偏り」
  • 同じ測定者、同条件による平均測定値の時間的なばらつきを意味する「安定性」
  • 測定器の測定範囲内でのかたよりの推移を意味する「直線性」
  • 同じ測定者同条件による測定値のばらつきを意味する「繰り返し性」
  • 異なる測定者による平均測定値のばらつきを意味する「再現性 」

 

という5つの検証方法があります。

 

それぞれの検証方法について詳しくご紹介していきます。

偏り

基準値と真の測定値の結果とのズレを表すことを「偏り」と呼んでいます。

 

位置変動を表す「偏り」は、測定データと本当の値を意味する基準値(真の値)との差を指しています。たとえば、10グラムの基準分銅を10回分測定したとき、基準値の10グラムからどれだけの分量の変動が生じるかを意味します。

 

基準分銅などがあり基準値が分かっている場合はそれを使用します。もし基準分銅などを用意できないときにはマスターサンプルを用意します。精密測定室内で熟練検査員によりマスターサンプルを使用して10回以上測定した平均値を基準値とします。

 

偏りの評価は、最初にX(平均値)マイナスR(許容基準値)の管理図を作成します。そのデータから偏りの標準偏差や95%信頼区間を求め、算出した「偏り」が信頼区間内に入っていることでその偏りは許容できると判定します。

 

測定回数

測定結果

基準値からの変動

1回目

10.00g

0.00g

2回目

10.10g

+0.10g

3回目

9.95g

-0.05g

4回目

10.03g

+0.30g

5回目

9.80g

-0.20g

 

 

安定性

偏りの時間経過を見ていくことを安定性と呼んでいます。

 

単一の測定者が、同じ製品の同じ特性を持つ同じ測定器を用いて、時間の間隔をおきながら測定したときの測定値の差のことを指します。

 

たとえば、1人の測定者が同じ製品や商品を一定の日数にわたって測定したときに、測定データにどのくらいの変動が生じるかを記録します。その測定の際に、慣れによって測定作業が雑になることや、測定機器が経年劣化したことによって正しい値を測れなくなってしまうことはないかどうか、安定して正しい値を測定できているのかを確認し、その上で合格・不合格を判断します。

 

回数

測定結果

1回目との差

1日目

10.00㎜

±0.00㎜

2日目

10.01㎜

+0.01㎜

3日目

9.96㎜

-0.04㎜

4日目

10.15㎜

+0.15㎜

5日目

9.99㎜

-0.01㎜

直線性

測定範囲内で測定値の偏りを見ていくことを直線性と呼んでいます。

 

測定機器の測定範囲全体にわたる偏りの変化を表すものです。たとえば、通常は10cmを測定しているノギスで、10cm、20cm、30cmなどの異なった数値を測定してみます。

 

測定結果をグラフ化したとき、直線的になっているのかを見ていることから、「直線性」と呼ばれています。

 

回数

10cmの測定結果

20cmの測定結果

30cmの測定結果

1回目

10.00cm

20.00cm

30.00cm

2回目

10.03cm

20.06cm

30.10cm

3回目

9.95cm

19.80cm

28.00cm

4回目

10.05cm

20.10cm

30.20cm

5回目

9.80cm

19.95cm

29.70cm

繰り返し性

実際の製品や商品と測定結果のズレを表すことを「繰り返し性」と呼んでいます。

同一の測定者が、同じ製品の同じ特性を同じ測定機器を使用して、数回以上、測定したときの変動幅をさします。たとえば、100.00gの製品や商品を10回測定したときに、どれだけ変動の幅が生じるかを測定します。

変動要因が測定機器にあることが多いために「装置変動」とも呼ばれています。意味としては「偏り」の検証方法と同じ考え方ではありますが、「偏り」とは異なり実際の製品を用いて測定を行うところが異なります。

再現性

測定者のバラツキを見ていくことを「再現性」と呼んでいます。

 

異なった複数の測定者が、同じ製品の同じ特性を同じ測定機器を用いて数回以上測定したときの各測定者の平均値の変動を表します。たとえば、5人の測定者が10cm、20cm、30cmを測定し、測定者ごとの変動幅を見ていきます。

 

回数

10cmの測定結果

20cmの測定結果

30cmの測定結果

Aさん1回目

10.00cm

20.10cm

30.20cm

Aさん2回目

10.10cm

20.15cm

30.18cm

Aさん3回目

9.98cm

19.75cm

29.70cm

Aさん4回目

10.01cm

20.03cm

30.10cm

Aさん5回目

10.00cm

20.05cm

29.98cm

Bさん1回目

9.95cm

19.80cm

29.75cm

Bさん2回目

10.02cm

20.25cm

30.30cm

Bさん3回目

10.00cm

20.02cm

30.26cm

Bさん4回目

9.97cm

19.88cm

29.82cm



変動要因が測定者にあることが多いため「測定者変動」とも呼ばれます。

MSAでよく聞く「校正」と「ゲージR&R(GRR)」とは

MSAでは、「校正」と「ゲージR&R(GRR)」という言葉をよく聞きます。「偏り」「安定性」「直線性」は校正と呼ばれており、「繰返し性」と「再現性」はGageR&Rと呼ばれています。

「校正」と「ゲージR&R(GRR)」とは

「校正」とは、測定器の出力と、測定の対象となる値との関係を比較する作業のことです。本来は「較正」という表記になりますが、較(コウ)は常用漢字の音訓表にない読みとなりますので、便宜的に「校正」と表記されます。

Repeatability(繰り返し性)とResponsibility(再現性)を意味する「ゲージR&R(GRR)」は、「繰返し性」と「再現性」の組み合わせを示しており、測定システム全体としての評価が必要になります。「繰返し性」は、測定者1人が同一製品や商品の同一特性を同じ測定器を用いて、数回以上測定したときの測定値のばらつき幅を求めるものです。また「再現性」は、異なる測定者が同一製品や商品の同一特性を同じ測定器を使って、数回以上測定したときの測定者ごとの平均値のばらつき幅を求めるものになります。

この2つを組み合わせて幅の変動を測定する「ゲージR&R(GRR)」はMSAの考え方そのものです。MSAには「ゲージR&R」の分析方法として、Range Method(範囲による方法)とANOVA method(分散分析による方法)が記載されています。

また、「ゲージR&R(GRR)」は全体のばらつきを分母にしています。そのため、サンプルの違いによるばらつきが小さいと悪い評価につながりやすくなります。サンプルの選び方が重要になりますが、目安としては測定したい範囲の上限と下限の間に入るようにサンプルを選ぶとよいでしょう。

IATFで求められる変動率(%GRR)

IATF16949で求められる変動率は、ゲージR&Rの変動率を測定した上で合否判定が導き出されます。変動率(%GRR)が10%以下であれば、合格と判定され、許容の範囲内となります。また、変動率(%GRR)が10~30%の範囲内でであれば、条件付き合格と判定され、適用検討の対応です。さらに変動率(%GRR)が30%以上であれば、不合格と判定され、是正対応をする必要があります。

 

変動率(%GRR)

判定

対応

10%以下

合格

許容

10~30%

条件付き合格

適用検討

30%以上

不合格

是正対応

 

まとめ

IATF16949では、不具合の予防をするために、MSAにコアツールの導入が求めています。コアツールを使用することで、製品品質を向上させる顧客と共通の意志疎通にもつながります。MSAを導入することで、製品や商品における内容量の正確性を担保することができ、顧客からの信頼を得ることができます。

MSAは難しい概念ですが、5つの検証方法自体は難しいものではありません。内容量が正確ではない製品や商品は企業の公正性が疑われ、企業に対して大きな不利益を及ぼすことになります。

MSAによる測定システムの解析をぜひ実践してみましょう。