現場DXは、人手不足の解消や業務効率化を進めるために有効な手段の一つです。各業界の注目度も高く、食品製造業や機械製造業などでDXを推進する動きも見られています。
しかし、現場DXの目的や効果、自分たちの業務にどう活かせるのか、具体的な導入ステップがわからず悩んでいる方も多いと思われます。
そこで本記事では、現場DXの定義や目的、必要とされている背景や成功事例を解説します。DX化に消極的な現場の声も考慮した上で業務効率化を進めたい方は、ぜひ参考にしてください。
現場DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは、食品・機械製造業や建設現場、宿泊・ホテル、運輸・物流業界などの現場で働く仕事・各業務を、データやデジタル技術などを用いて、製品・サービス、ビジネスモデルを変革し、将来の成長と競争上の優位性を確立することです。
現場DXでは、単に人が行っている業務や使っている物をデジタル化するのではなく、業務を改善したり、新しいサービスを生み出したりし、顧客の満足度向上に繋がるような成長や優位性を確立するのがポイントです。結果的に顧客満足度が向上し、業界全体の成長につなげられます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)をいきなり実現するのは、難しく「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」という2つのステップを踏んでから、ようやく成り立つものです。
ステップ |
デジタル化の流れ |
意味 |
例 |
1 |
デジタイゼーション |
特定業務のデジタル化 |
紙で記録していたものをスマホやタブレットで記録し、データとして保管する |
2 |
デジタライゼーション |
業務プロセスのデジタル化 |
記録したデータを複数部門で共有・可視化し、需要予測やリソースの最適化を行う |
3 |
デジタルトランスフォーメーション(DX) |
IT活用による競争上の郵政確立 |
受注データなどから生産予測・納品予定の測定を自動で行い、お客様への納品スピードや質を向上させる |
デジタイゼーションやデジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの意味と具体例
現場DXを検討している企業は、まず特定業務のデジタル化を進め、業務効率化を図ることから考えてみましょう。
現場DXは、各業界ごとに対象となる工程は様々です。各業界で対象となるものと、具体例を紹介します。
業界 |
現場DXの対象 |
現場DX化の方法例 |
食品製造業 |
・紙帳票での温度管理 ・人による計量や盛り付け作業 |
・タブレットやスマホでの記録 ・自動計測 ・ロボットによる計量と盛り付け |
機械製造業 |
・手作業による組み立て ・紙に記録した数値をパソコンへの転記 |
・ロボットによる自動組み立て ・現場で取った記録を自動集計し、レポート化 |
ホテル・宿泊業 |
・人による客室の清掃 ・紙帳票での清掃記録 ・フロントでの接客対応 |
・清掃ロボットの導入 ・チェックリストの電子化 ・タブレットによるセルフチェックインシステム |
運輸・物流業 |
・人による荷下ろし作業 ・出発、帰社時の点検 |
・荷下ろしロボットの導入 ・タブレットやスマホでの記録 |
現場DXの初期段階では、報告書やマニュアルの電子化など、簡単なものから始めるのがおすすめです。
現場DXは、各業界で業務効率化や顧客満足度の向上に貢献しますが、必要となった背景としては以下の3つが挙げられます。
現場の従業員から理解を得たうえでDXを推進するためにも、DXの必要性や効果を理解しておくことは重要です。
DXの導入が必要な理由は、現場の人手不足を解消するために、業務効率化が求められているからです。
統計局が行った「労働力調査」によると、2020〜2022年における15〜64歳の労働力人口は減少傾向にあります。
2020年 |
2021年 |
2022年 |
2023年 |
|
労働力人口 (15〜64歳) |
5,984万人 |
5,981万人 |
5,975万人 |
5,995万人 |
15〜64歳の労働力人口は、一時的に2023年に約20万人増加していますが、今後日本の15〜64歳の人口が年々減っていくことが内閣府の「令和6年版 高齢社会白書」で予測されているので、それに伴い労働力人口の減少も考えられます。結果として、現場の人手不足はますます進んでいくでしょう。
労働人口の減少する中で採用活動は、より困難になります。そのため、既にある労働力(既存の従業員)の業務効率化で、労働力を補うことが必然となってきます。
現場DXを推進することで、既存従業員がメイン業務以外で時間を掛けてしまっている、在庫管理や設備点検などの時間を削減できます。その結果、本来やるべき業務にきちんと向き合う時間が増え、製品・サービスの品質向上につながります。
人手不足・労働力不足を解消するには、新たな人材の採用はもちろんですが、製品・サービスの特徴を理解している既存従業員の労働時間を効率的に活用することが大切です。
業務が属人化されると、作業の手順や進捗を特定の従業員しか把握できなくなり、トラブルの原因にもなります。そういった場合は、マニュアルを電子化や動画化し、いつでも誰でも見れるようにして、作業内容が統一や一定水準における製品・サービスの提供ができるような仕組みを作ることが、一つの解決策になるかもしれません。
たとえば、業務マニュアルをデータで共有すると、誰でもいつでも見られるようになるため、誰かに聞いたり、都度調べたりする必要がなくなるため、業務効率が上がります。データで共有しているので、変更点があった際に掲示物を張り替えたり、紙を印刷して配布し直したりしなくても、手元のデータを更新するだけで周知できる点もメリットになります。
工場長や品質管理、生産管理を担当している方にとって、生産性向上やミスの防止は常に考え、取り組んでいることだと思います。
生産管理やミスの防止にも、ITやデジタル技術は活用できます。今までの感覚や記憶を頼りにしていた業務プロセスが可視化することが、生産性向上やミスの防止にも寄与します。
たとえば、同じ作業を繰り返していると、その過程で無駄なプロセスが発生していることに気づきにくことがあります。無駄を省いて生産性を上げるためには、業務の流れを見える化し、作業工程における課題や改善点を見つけなければなりません。
業務内容を整理し、業務フローを作成する際にデジタル技術を活用すると、業務プロセスを簡単に見える化できるため、無駄な作業や問題点を発見しやすくなります。また、業務全体を俯瞰して見ることで、ミスが起こりやすい工程を予測し現場での事故を防げるでしょう。
ITやデジタル技術の活用によって業務プロセスが可視化されると、作業の無駄が省かれ生産性が向上するのはもちろん、ミスを防止にもつながり、現場の事故も防げるため、従業員の安全も確保できます。
現場DXは、業務に大きな変化をもたらす取り組みであるため、導入に反対する方もいる場合があります。
そのため、現場DXを推進する際は以下のポイントを押さえ、反対派の意見を考慮しながら少しずつ推進することが大切です。
現場DXを推進するときのポイントは、今までの形式は変えずに、まずは使う道具だけをデジタル化することです。
一般的に、人は新しく覚えるものに不安や抵抗感を抱えやすい傾向にあります。そのため、反対派の意見も考慮しながら現場DXを進めるには、使う道具から徐々に慣れることが大切です。
たとえば、在庫管理や設備点検で使用している紙のチェックリストを、同じよう様式のまま紙からタブレット・スマホを使った記録方法に変えてみるのもDX化の第一歩です。記入内容を変えなければ、使う道具が変わるだけなので従業員にとってのハードルも下がります。
いきなりDX化やデジタル化を進めると嫌悪感を抱く方もいるので、丁寧に説明をして、徐々にやり方を変えていくことが大切です。
DX化を進めるためには、実際に運用する従業員の声を反映させることも大切です。
そもそも多くの従業員は、DXの目的が理解できないために反対している可能性があります。DX化を推進するときは、まず従業員に向けて現場DXの目的やメリットを丁寧に伝え、理解を得るように心がけましょう。
また、現場DXを導入した後は、従業員がわからないことが出てきたときや困ったときにすぐ解決できる体制を整えておくことも重要です。
経営層や管理者だけの意思でDX化を決定し、運用の支援をしないのは失敗の典型例です。新しく導入したシステムやツールについて、いつでも質問できる環境作りをし、使いにくいものは現場の声を取り入れ改善していくと、従業員も安心して運用できます。
現場DXで導入するツールや機器は、自分たちだけでも使いこなせるものにしましょう。さらには、特定の従業員のみが使えるのではなく、全ての人が使えるツールや機器を選ぶのがポイントです。
従業員の多くは、新しいツールや機器の導入に不安を感じるものです。それらが使いにくかったり、問題をすぐに解決できなかったりすると、思うようにDX化が進みにくくなります。
また、企業によっては従業員の高齢化が進み、最新機器やツールを現場でうまく使いこなせない可能性もあります。そこで、現場の従業員が簡単に使えるよう、操作性の良いツールや機器を導入しましょう。
たとえば、直感的に操作できることや、少ない工数で業務が完了するかなどは、ツールや機器選定の際に重要なポイントです。ツールを選ぶ際は、下記のようなサポート体制が整っているかもチェックしてみてください。
導入するツールや機器を自分たちだけで使いこなせると、現場での混乱を防ぎスムーズにDX化を推進できます。
ここからは、現場DXを推進することで、費用対効果を高めつつ業務効率化に成功した企業の取り組みを3つ紹介します。
株式会社ジェイテクトエレクトロニクスは、紙帳票のデジタル化で業務効率化や大幅な紙の削減に成功しています。同社では導入以前から、全社でDX化を推進しており、生産部門でも業務効率化を図る施策を検討していました。
そこでまず初めに着手したのが、製造工程の点検や記録に利用していた紙帳票のデジタル化です。従来、工場では紙帳票を使っていましたが、紙の印刷や掲示、回収などに大きな手間がかかる点を問題視していました。
また環境面を考え、紙を削減する必要があり、タブレットによる紙帳票のデジタル化が進めていくことになりました。
紙帳票のデジタル化によって得られた成果は、主に以下2つです。
現場DXを導入した効果は高く、今では当初想定していた10倍もの費用対効果が見込まれています。詳細は以下の資料で解説しています。
株式会社太洋工作所では、タブレットを使った品質管理によって、異常や逸脱をリアルタイムで発見できるようになりました。同社では自動車をはじめ、さまざまな分野の事業に製品(機械部品など)を提供しており、常に高度なレベルの品質管理が求められています。
しかし、製造工程では紙帳票を使っていたため、記録や転記などに多大な時間を費やし、品質管理に専念できない場面が多々ありました。そんな中、QCサークル活動(品質管理の改善に向けた取り組み)で提案されたのが、紙帳票のペーパーレス化です。
紙帳票による品質管理の作業をタブレットに移行することで、下記の成果を得られました。
そのほか、デジタル帳票やマニュアルに画像を組み込んで業務の標準化を実現し、高レベルの品質を維持しています。詳細は以下の資料で解説しています。
産業用乾燥機などを製造する中央技建工業株式会社では、設備点検のペーパーレス化で年間400時間の工数削減に成功しています。
同社ではSDGsの取り組みに注力しており、2030年までの社内完全ペーパーレス化を掲げています。しかし、現場をはじめとする社内には数多くの紙帳票があり、検査基準にばらつきが生じる課題を抱えていました。
そこで、さまざまなデジタルツールを導入して社内のペーパーレス化を図っていきました。その一つが、設備点検業務のペーパーレス化です。
現場DXを推進した結果、以下のような成果を得られました。
導入当初、多くの従業員はDX化に反対していましたが、DXの利便性に気づいてからは一気に定着しました。今後も同社では、現場DXを推進して社内完全ペーパーレス化を実現する予定です。詳細は以下の資料で解説しています。
現場DXは、人手不足の解消や業務効率化を進める有効な手段の一つです。
ただし、業務に大きな変化をもたらすため、従業員からの反対意見もあるでしょう。反対派の意見を考慮しながら現場DXを推進するためには、まず使うものだけをデジタル化するのがポイント。
現場で働く従業員の声を反映させながら、すぐに不安や疑問を解消できる環境を整備することが、DX化を成功させるコツです。現場DXをうまく導入できると、本記事で紹介した成功事例のように、費用対効果を高めつつ業務効率化を図れます。
本記事を参考に、現場の実態に合ったDX化を進めて製品・サービスの質を高めていきましょう。