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タグチメソッドとは何か?実務に活かせる入門編を解説

作成者: カミナシ編集部|2020.10.01

田口玄一博士が半世紀をかけて独自で開発した工学手法である「タグチメソッド」をご存じでしょうか。タグチメソッドとは何かを調べると、小難しい記事が多く見受けられ、理解するのが大変なはずです。

 

そこでこの記事では、大枠を捉えて実務に活かせる内容を解説します。他の記事ではタグチメソッドのことがさっぱり分からなかったという人におすすめです。

 

タグチメソッドとは工学手法の一つ

タグチメソッドとは、品質工学と呼ばれ、田口玄一博士が独自に開発した工学手法です。品質管理の手法や実験計画の手法の1つだと考える人も少なからずいるかもしれませんが、それはあくまでもタグチメソッドの側面を見ただけに過ぎません。

 

そこで、タグチメソッドの特徴や活用している企業について詳しく解説しましょう。

開発や設計時点でばらつきを減らす

製造業においてタグチメソッドは、開発や設計時点でばらつきのないものをつくるために適用されます。まずは製品ごとのばらつきをなくして、次に目標値に合わせ込むといった2段階設計法を採用しているのが特徴です。

 

後ほど詳しく説明しますが、製造工程でばらつきのない製品を作るという考え方の品質管理とは違いがあります。タグチメソッドと品質管理はよく混同されるので気を付けましょう。

ばらつきの尺度はSN比

タグチメソッドの特徴は、ばらつきの尺度をSN比で示すところです。SN比とは、通信理論や情報理論、電子工学などで扱われる信号(Signal)と雑音(Noise)の比のことをいいます。ばらつきを示す分散が分母にあるため、ばらつきが小さいとSN比が大きくなるのです。

ばらつきを探すのは直交表

ばらつきを探すのは直交表の役割となっています。直交表とは、英語では「Orthogonal Table」や「Orthogonal Array」と呼ばれ、与えられた複数因子の全水準を組み合わせなくても、各因子の効果が独立して評価できる組み合わせを表にまとめたものです。

 

複雑化する製品を短い期間で開発・設計するためにはできるだけ多くの因子を少ないサンプル数で表さなければいけません。そのために、直交表が有効です。直交表は、日本で発展したもので日本の優秀なものづくりを支えた1つだといえるでしょう。

品質を損害金額で表現する

タグチメソッドでは、品質を理想状態から外れることで生じた損害金額で表現します。品質管理の考え方に経済性を持ち込んだわけです。

 

品質不良をコストで考え、コストが出荷後に社会に及ぼす損失金額で考えます。そうすることにより、品質とコストのバランスがとれたものづくりができるのです。品質とコストの最適解を求める姿勢は必要不可欠でしょう。

多くの企業が活用している

タグチメソッドは多くの企業が活用しています。具体的には、トヨタ自動車・日産自動車・富士ゼロックス・リコー・キャノン・コニカミノルタ・セイコーエプソンなどです。

 

さらに、品質工学を研究する品質工学会は、会員数が2,400人以上もいます。多くの企業や人に注目されているということがお分かりいただけるでしょう。

品質管理との違い

タグチメソッドは、しばしば品質管理と混同されることがあります。しかし、タグチメソッドと品質管理には違いがあるので、比較をしてみましょう。今回は、ツールや対象、目的、品質の対象に注目してみました。キーワードになるのが、技術の管理と品質の管理です。

ツールや対象など

タグチメソッドのツールは、SN比や損失関数、パラメータ設計なのに対し、品質管理はなぜなぜ分析やQC7つの道具などを用います。なぜなぜ分析とは、ある問題とその問題に対する対策について要因を繰り返し提示していくもの。

 

QC7つの道具とは数値によって品質管理を定量的に分析するために用いられる方法のことをいいます。

 

また、タグチメソッドの対象が主に開発・設計工程であるのに対し、品質管理の対象としては製造工程に目を向けられることが多いです。

 

さらに、タグチメソッドは技術の管理を目的として市場品質にこだわり、品質管理はその名の通り品質の管理を目的として製造品質を大事にしています。

技術の管理と品質の管理

技術の管理と品質の管理という言葉が出てきました。この違いは大きいのでぜひ注目したいところです。タグチメソッドは、主に出荷後の市場品質を考えるので、生産技術や製品技術の開発・設計を対象とします。

 

製造工程の品質ではなく、技術そのものの品質を評価するわけです。そのため、技術管理(MOT:Management of Technology)の視点で取り組んでいるといってよいでしょう。

 

タグチメソッドは、生産者ではなく、消費者の視点で技術の向上を目指します。市場で価値あるものとして認められる製品を作るのです。

タグチメソッドの目的

「タグチメソッドのことは大まかに理解できたけれど、何を目的としているのか、何を達成したいのか、見えてこない」という人もいるかもしれません。そこで、タグチメソッドの3つの目的を解説します。

 

一言で言うと、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の3つの点で優れていて、資本主義社会で生き残っていくために必要な視点です。

クレームを減らす

まず、使用状況といった外的要因による変化を製品が阻止するロバスト性を高めて、クレームを未然に防ぎ、リピート購入を促す目的があります。

 

タグチメソッドでは、既に起こった不具合からまだ分かっていない課題を見つけるのではなく、理想状態を追求し続けるという考え方です。こうあってほしいという製品を作り上げます。市場クレームをなくすことでブランドを確立し、企業イメージを向上させられるでしょう。

コストを削減する

使用環境や劣化条件による変化と製品間のばらつきを最小限に留めて、品質を高めることで、不良品を減らし、結果的にコストを削減することにつながります。ものづくりの点で、無駄なコストカットは重要課題です。不良品を可能な限り減らすことで無駄を省きましょう。

 

また、不良品が消費者の手に届くことで返品の手間とコストがかかるだけではなく、企業の信頼が揺らぎます。優良なブランドイメージを確立するために品質を高めるのは重要です。

開発期間を短縮する

タグチメソッド独自の工学的実験計画法を用いることにより、最小のサンプルで最適解を見つけ出すことが可能です。そのため、新製品を開発する際にも開発期間を大幅に短縮できます。

 

現代では、次々に新製品が開発されており、その波に乗れない企業は市場を去っていくことになるでしょう。トライアンドエラーを繰り返しつつも、着実に開発期間を短縮できる企業は強いです。

まとめ

タグチメソッドの詳細部分を理解するのは難しいかもしれませんが、この記事を読むことにより実務に必要な大まかな知識が得られたのならば嬉しいです。

 

タグチメソッドは、単なる実験計画手法ではなく、開発・設計の最適化や技術進歩の加速を実現するために必要な考え方だといわれています。QCDの三方よしという特徴があるので、とりわけ開発・設計に携わる人はぜひ参考にしてみてください。

 

タグチメソッドはやや難解であるゆえ、品質管理と混同されたり勘違いして理解されたりすることが多いですが、ものづくりのうえで重要な考え方ですので、正確に把握しておきたいところです。