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食品・機械製造業におけるトレーサビリティとは?メリットと活用例を紹介

作成者: カミナシ編集部|2024.08.22

 

 

製品の安全性と品質に対する消費者の意識が高まる中、トレーサビリティの重要性が増しています。特に食品製造業や機械製造業において、トレーサビリティはビジネスの成功を左右する重要な要素となっています。

 

トレーサビリティとは、原材料の調達から生産・消費までのすべての過程を追跡し、特定できることやそのための仕組みを指します。トレーサビリティは、品質管理の強化と競争力の向上に欠かせない取り組みとして、多くの企業で注目を集めています。

 

しかし、自社で導入する前にメリットや他社での具体的な活用事例を知りたいという方も多いと思います。本記事では、トレーサビリティの概要と必要性、その種類、具体的な事例を紹介します。また、導入にあたって気をつけておきたいポイントも解説します。

トレーサビリティとは

トレーサビリティとは、製品が作られた場所、時間、関わった人なども含め、生産から消費までの全過程を追跡できることやその仕組みを指します。英語の「trace(追跡)」と「ability(能力)」を組み合わせた造語で「追跡可能性(traceability)」と訳されます。

 

トレーサビリティは、製造データの蓄積ができるため品質改善に活かすことができたり、そのデータから問題の発生を未然に防げたりするなどの利点があります。また万が一問題が発生してしまった際も、早期対応が可能になるので、被害を最小限に抑えられます。これらを可能にするためのツールやソフトウェアをトレーサビリティシステムと呼びます。

 

トレーサビリティシステムを活用することで、製品の情報を正確に把握できます。

トレーサビリティのメリット

トレーサビリティが可能になることで得られるメリットは主に以下の3つです。

 

  • 製造データを蓄積し、品質管理業務に活かせる
  • 問題が発生しそうな製品を事前に発見、対処できる
  • 徹底した管理体制で消費者や取引先からの信用を失うリスクを回避できる

 

ここから、それぞれのメリットについて詳しく解説します。

製造データを蓄積し、品質管理業務に活かせる

トレーサビリティの導入により、原材料の受け入れから製品の出荷に至るまでの全工程で、誰がいつどのように製造に携わったかがわかるようになります。

 

製造に関するデータの蓄積は、品質管理業務に多大な恩恵をもたらします。例えば、製造ロットごとの品質変動や、特定の工程における不具合の発生頻度などを長期的な視点で分析することが可能になります。このような分析により、製造プロセスにおける潜在的な課題や改善点の洗い出しや、製品の品質向上に向けた具体的な施策立案が行えます。

 

さらに、トレーサビリティシステムを使って過去のデータと現在の製造状況をリアルタイムに比較することで、品質の変化に対して迅速な対応ができます。このように、トレーサビリティシステムを通じて蓄積されたデータは、継続的で効率的な品質改善に大きく貢献します。

問題が発生しそうな製品を事前に発見、対処できる

トレーサビリティのメリットには、製品の問題を事前に発見して対処できる点も挙げられます。商品の製造工程を正確かつ詳細に把握することで、製品の不具合を製造工程で見つけ、出荷前に不適合品の排除が可能になります。

 

例えば、あるロットで問題があった場合、トレーサビリティシステムを導入していれば、問題の原因となった工程や使用された原材料の特定ができます。その結果、同様の問題が他の製品で発生する前に、製造プロセスの修正や原材料の変更などの対策を講じることができます。

 

またトレーサビリティシステムを使って、品質管理の基準値からの逸脱をリアルタイムで検知することができれば、不良品の早期発見ができます。

徹底した管理体制で消費者や取引先からの信用を失うリスクを回避できる

食品業界において、安全性の確保は最優先事項です。しかし、どんなに注意を払っても、仕入先や配送過程などの要因により、食品事故が発生する可能性は常に存在します。実際に、消費者庁のリコール情報サイトを見ると、食品のリコールが多数あることがわかります。

 

食品事故は人体に与える影響が高いので、特に食品製造業では、問題が発生した場合、迅速な対応が求められます。事故の影響を最小限に抑えて消費者や取引先からの信頼を維持するためには、問題の原因を素早く特定することと適切な対策を講じることが重要です。

トレーサビリティの種類

トレーサビリティは、大きくチェーントレーサビリティと内部トレーサビリティの2種類に分類されます。

 

チェーントレーサビリティは、原材料の調達から製品の生産、流通、販売に至るまでの全過程を追跡することです。商品がどのような工程を経て、どう移動したか、今どこにあるかを把握することが目的で、複数の工程やメーカー間での記録確認が必要となります。そのため、製品の全ライフサイクルを通じた品質管理や問題発生時の迅速な対応が可能となります。

 

一方、内部トレーサビリティは、一つの企業や工場内での製造から生産に至るまでの過程を追跡することです。工場内において仕入から組立・検品・納品までの記録や確認を行うので、生産プロセスの最適化や品質管理の向上が図れます。

 

ここからはそれぞれのトレーサビリティについて詳しく解説します。

チェーントレーサビリティ

チェーントレーサビリティとは、会社・メーカー間での複数の工程を全体的に把握し、特定できる状態にすることです。チェーントレーサビリティの最大の特徴は、単一の企業内に留まらず、会社の枠を超えて製品の履歴を把握できる点です。

 

一般的にトレーサビリティという言葉を耳にする際、多くの場合はこのチェーントレーサビリティを指しています。原材料の調達から製造、流通、販売に至るまでの全工程を追跡することで、製品の安全性や品質を保証し、問題発生時には迅速な対応を可能にします。

 

チェーントレーサビリティの実現には複数の会社間での緊密な連携と情報共有が不可欠となるため、各社のシステムの互換性や情報セキュリティの確保など、技術だけでなく運用面での調整が必要になります。

内部トレーサビリティ

内部トレーサビリティとは、特定の範囲内での部品や製品の移動や製造を詳細に記録し、把握・管理できる状態にすることを指します。通常、この特定の範囲は一つの工場や企業など、単一の組織や拠点を指しており、原材料の受け入れから製品の出荷までの、自社内での全プロセスを追跡可能にするものです。

 

内部トレーサビリティの最大の利点は、自社内のみで完結できる点にあります。外部との連携や複雑な情報共有の仕組みを必要としないため、比較的導入がしやすいのが特徴です。自社のニーズや既存のシステムに合わせてカスタマイズしやすく、段階的な導入も可能です。

 

内部トレーサビリティを導入することで、製造プロセスの可視化や品質管理の強化、生産効率の向上などが期待できます。また問題発生時の原因特定や対策立案も迅速に行えるようになります。

トレーサビリティの活用事例

トレーサビリティは様々な業界で活用されており、特に食品業と機械製造業での導入が進んでいます。

 

食品業では、原材料の調達から製造、流通、販売までの各段階で詳細な情報を記録・管理しています。例えば、農産物の生産地や収穫日、加工食品の原材料や製造日などを追跡可能にすることで、食品安全性の向上や問題発生時の迅速な対応を実現しています。

 

機械製造業では、部品の調達から製品の組立、出荷までの工程の情報を記録し、追跡可能にします。例えば、各部品にシリアル番号や2次元コードを付与し、製造履歴を管理することで、品質管理の強化や製造プロセスの最適化を図っています。また、製品の保守や修理の際にも、この情報が活用されています。それぞれの活用について具体例を用いて詳しく解説します。

食品業におけるトレーサビリティの活用

食品業界では、消費者の安全意識の高まりを背景にトレーサビリティの導入が進んでいます。これにより、原材料の栽培地や入荷先、加工過程などの詳細な情報を追跡することが可能となっています。

 

具体的な事例として、牛肉のトレーサビリティシステムがあります。商品ラベルに記載された個体識別番号を、独立行政法人家畜改良センターのサイトで入力すると、その牛の出生から屠畜までの履歴情報を閲覧できます。これにより、消費者は購入する牛肉の詳細な履歴の確認が可能になります。

 

また、食品メーカーの社内でも、原材料と加工された製品との紐づけが重要視されています。内部トレーサビリティを確保することで、製造過程の可視化と効率的な品質管理が可能となります。

 

しかし、食品トレーサビリティと呼ばれるこの取り組みは、その重要性が認識されているにもかかわらず、現状では特に中小零細企業での普及率が低いのが課題となっています。農林水産省のトレーサビリティに関するページでも、記録の整理・保存に手間がかかることや、具体的な取組内容がわかりにくいなどの理由が、普及を妨げる要因として挙げられています。

 

食品トレーサビリティは、記録の整理・保存に手間がかかることや、取組の必要性や具体的な取組内容がわからないなどの理由から、特に中小零細企業での取組率が低いのが現状です。

引用元:トレーサビリティの関係|農林水産省

 

今後は、より簡便で効果的なトレーサビリティシステムの開発や、導入支援の強化が求められるでしょう。

 

「原料の調達から出荷までの情報を一元的に管理するのが最終的な目標」としてトレーサビリティの確保を日本ハム北海道ファクトリー株式会社は目指しています。同社が進める帳票のデジタル化については、以下の資料に詳細にまとめております。

機械製造業におけるトレーサビリティの活用

機械製造業では、製品の品質と安全性を確保するため、製造工程の管理にトレーサビリティを活用しています。バーコードや二次元コードを用いた識別システムが多く活用されています。

 

具体的には、まず製品や部品に固有の識別番号を付与します。識別番号が付与された状態で、各製造工程でバーコードや二次元コードをスキャンすると、作業内容、担当者、使用機器、検査結果などの詳細な情報が自動的に記録されるようになります。その結果、製造の全工程で製品の情報を記録し、追跡することが可能となります。

 

バーコードや二次元コードを用いた識別システムは、原材料の調達から部品の加工、製品の組立、流通、販売に至るまでの各段階で適用されます。こうした綿密な記録により、不良品の発生リスクを大幅に低減し、製品全体の品質向上につなげています。

 

また、収集されたデータは製造プロセスの最適化にも活用されます。各工程の所要時間や不良品の発生率、歩留まりなどを分析することで、効率化や品質改善のための施策を立案・実施できます。カミナシを使って、製造記録などを正確に保管・管理する体制を確立した(トレーサビリティを実現した)中央技建工業株式会社の事例は以下からご覧いただけます。

 

トレーサビリティシステム導入する際の注意点

トレーサビリティシステムの導入は多くのメリットをもたらしますが、導入にあたっては注意すべき点がいくつかあります。

 

  • 初期投資コストがかかる
  • 各部門や取引先のデータ統合が難しい
  • セキュリティ対策が必要

 

まず、初期投資コストの問題があります。システムの構築や必要機器の導入には相当な費用がかかる可能性があり、特に中小企業にとっては大きな負担となる場合があります。また各部門や取引先とのデータ統合の難しさも注意点として挙げられます。異なるシステムや形式のデータを統合し、一貫したトレーサビリティを確保することは技術的に困難な場合があります。さらに、セキュリティ対策の重要性も忘れてはいけません。トレーサビリティシステムは重要な企業情報や個人情報を扱うため、適切なセキュリティ措置が不可欠です。それぞれの注意点について詳しく解説します。

初期投資・運用コストがかかる

トレーサビリティシステムの導入において、初期投資コストが障壁の一つとしてあります。自社の業務プロセスに最適化されたシステムを開発する場合や高機能な専用ソフトウェアを導入する場合、その費用は高額になる可能性があります。

 

さらに、初期投資だけでなくシステムの運用にも継続的なコストがかかります。データの維持管理や保存、必要なインフラの構築と維持などの運用コストは長期にわたって影響を与え続けます。

 

このような経済的な理由から、特に中小企業においてはトレーサビリティシステムの導入に踏み切れないケースも少なくありません。しかし問題発生時の対応コストや、問題発生可能性に対する精神的な負担なども考慮して、段階的な導入や補助金の活用なども考えて検討すると良いでしょう。

各部門や取引先のデータ統合が難しい

トレーサビリティシステムの導入において、各部門や関連企業、取引先のデータを統合し一元管理することは不可欠です。特に問題となるのは、企業ごとや部門ごとで異なるシステムを運用している場合です。データ形式の違いやシステム間の互換性の問題により、データの整合性を確保することが困難になります。

 

さらに、製造拠点や販売チャネルが多岐にわたる企業では、データ管理の複雑さが飛躍的に増大します。各拠点や部門でのデータ収集方法や管理基準の統一が求められますが、これには多大な労力と時間を要します。各部門や企業間での認識のずれや価値観の違いも、データ統合を妨げる要因となり、特にチェーントレーサビリティの実現においては、この問題が顕著に現れるので注意が必要です。

セキュリティ対策が必要

トレーサビリティシステムは、製品の製造過程や流通経路など多くの機密情報を扱うため、強固なセキュリティ対策が不可欠です。外部への情報漏洩を防ぐシステム構築は、トレーサビリティ導入の重要な要素となります。万が一、これらの機密情報が外部に漏洩した場合、企業は深刻な損失を被る可能性があり、競争力の低下や信頼の喪失など、その影響は計り知れません。

 

さらに不正アクセスにより、情報漏洩やデータ改ざんが発生するリスクもあります。そのため、セキュリティ対策は社外からの脅威だけでなく、社内のセキュリティも視野に入れて対応する必要があります。アクセス権限の厳密な管理、定期的なセキュリティ監査、従業員教育など、多角的なアプローチで対処しましょう。

トレーサビリティ導入の際に意識したい3つのポイント

トレーサビリティの導入を検討する際には、以下の3つのポイントを押さえておく必要があります。それぞれのポイントを意識することで、より効果的かつ円滑な導入が可能となります。

 

  • 自社の課題を明確にする
  • 社内の意思統一
  • 適切なパートナー選び

 

ポイント

やること

詳細

自社の課題を明確化する

導入計画の策定

・自社の課題を明確にする

・導入により期待できる効果を特定

・目的に沿った具体的な計画を策定

社内の意思統一

全社的な推進体制の構築

・部門を越えた協力体制の確立

・プロジェクトチームの編成

・トレーサビリティの意義、目的、効果を社内で共有

適切なパートナー選び

専門知識を持つ企業との連携

・自社だけでの対応が難しい場合の外部支援

・専門知識が豊富なパートナー企業の選定

・自社の課題や強みを協議し、適切な協力関係を構築

 

上記のポイントを踏まえ、自社の状況に合わせた最適なトレーサビリティシステムの導入を目指すことが重要です。各ポイントを丁寧に検討して計画的に進めることで、効果的なトレーサビリティの実現が可能となります。

トレーサビリティを可能にして競争力を向上させよう

トレーサビリティの重要性は、今後ますます高まることが予想されます。製品の安全性確保、品質管理の強化、消費者からの信頼獲得においてトレーサビリティは欠かせません。

 

グローバル化によるサプライチェーンの複雑化に伴い、製品履歴の正確な追跡・管理能力は、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。トレーサビリティを可能にすることは、単なるコンプライアンス対応ではなく、業務効率の向上や品質管理の強化、顧客満足度の向上につながる戦略的投資と言えます。

 

導入には課題もありますが、適切に対処することで大きな競争優位性を得られます。本記事で紹介した導入のポイントを参考に、自社の状況に合わせた効果的な導入を検討し、企業の競争力強化につなげていきましょう。

 

トレーサビリティを可能にするための製造記録の管理やデータの保管をカミナシでおこないませんか?紙の帳票のデジタル化で製造工程の記録を確実に取り、安全安心の生産管理を実現しましょう。