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HACCP基準の温度管理とは?食品及び飲食業界での基準を解説

作成者: カミナシ編集部|2024.01.16

食品業界において、HACCPは衛生管理の基本として浸透しつつあります。

 

食品工場や飲食店など、食品製造にたずさわる食品事業者にとって、衛生管理を徹底し、食中毒や化学物質といった食品に対するリスクを低減することは非常に重要です。

 

2021年6月からHACCPが制度化され、衛生管理が注目されている中、食中毒のリスク低減に重要な工程の「温度管理」があります。今回は、HACCPにおける温度管理の重要性を食品事業者向けに解説します。

HACCPとは?導入の7原則・12手順を解説

HACCP基準の温度管理に言及する前に、HACCPについて解説します。

 

HACCPは、1993年に開発されたシステムで「Hazard Analysis Critical Control Point」の頭文字をとってHACCPとよばれています。直訳では危害要因分析・重要管理点となり、食品衛生に関わる危害を分析し、重点的に管理する工程を定めたものです。現在は大きな規模の食品工場だけでなく、飲食店なども「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められています。

 

HACCP導入は、手順5までの準備と、手順6-12の実行で構成されます。7原則をしっかり理解し、自社に合わせて構築しなければHACCPに対応できているとは言えません。特に重要な、実行部分の7原則について詳しく解説します。「温度管理」工程は7原則・12手順の中でも、原則2のCCPに採用されます。

 

  • 手順6(原則1)危害要因(HA)の分析
    作業工程において危害は3つに分類され、虫や微生物といった生物的危害要因、薬剤・農薬の残留や洗剤の洗い残しなどが製品に付着する化学的危害要因、ガラスや金属などが製品に混入する物理的危害要因があります。存在するか、混入や増殖、残存するかなど分析します。また、その危害要因の重篤性や頻度から健康へのリスクを明確にすることができます。
  • 手順7(原則2)重要管理点(CCP)の決定
    重要管理点(CCP)とは、その言葉のとおり全行程の中で重要な管理ポイントを決定します。主に判断樹を用いてHACCPチームで決定されます。判断樹とはその工程がCCPかどうかをYesまたはNoで判断できるツールになります。工程で危害が許容限界までコントロールできるかを意識して活用しましょう。

    原則1である危害要因の分析で抽出されたリスクを許容範囲まで低減することがポイントとなります。また、ひとつのHACCPプランでCCPが複数個あるケースもあり、業界や製品特性などで大きく異なり、金属探知工程や温度管理(加熱・冷却)工程を採用しているケースがあります。
  • 手順8(原則3)管理基準(許容限界)の設定
    次にCCPの管理基準(許容限界)を決定します。食品安全において、リスクの許容レベルまで低減する必要があり、原則2で決定したCCPに対して管理基準を決定します。たとえば、加熱工程であれば食中毒菌の死滅条件を基準として加熱温度を決定するなどケースに合わせて設定します。
  • 手順9(原則4)モニタリング方法の設定
    次は誰が、どのタイミング・頻度で管理基準をモニタリングするか設定します。ここで設定したモニタリング方法は必ず記録を残す必要があり、記録の書式はモニタリング方法で設定した頻度で実施していなければなりません。製品ロットごとに記録をとらないと、異常が確認された場合ロット廃棄が膨大になるケースなどもありますので、工程によって頻度は慎重に決定してください。基本は管理基準を逸脱した場合の影響を想定することが重要です。
  • 手順10(原則5)改善措置方法の設定
    モニタリングの結果、管理基準を逸脱してしまった場合の対処方法を事前に確立する必要があります。また、すぐに対応することも求められるため「誰がいつどのように」対応するかまで決めておく必要があります。改善措置記録はしっかり管理しましょう。
  • 手順11(原則6)検証方法の実施
    管理状況がHACCPブランに定めたとおりに行われているか、また、修正が必要かどうかを判断するための方法、検査、分析方法を設定します。微生物検査や異物検査、理化学試験で見直すケースが多いですが、危害分析で検証するケースもあります。製品へ影響を与える項目を把握し化学的根拠をもつことを意識しましょう。多くの企業では微生物検査などが指標となりますが、官能検査といって数人で食べて判断する手法もあります。日々の日報での記録もれや記入ミスがないかを管理上位者が見直すことも検証となります。検証記録の重要性は周知しましょう。
  • 手順12(原則7)記録と保管方法
    HACCPプランのモニタリング記録、改善措置記録、検証記録が適切に記録され、保存されることが重要になります。また、いつでもトレースできるよう整理しておくとよいでしょう。記録は第三者に提示することができるため日々適正に作業した証拠になります。これは「記憶」では証明できません。

 

HACCP基準の温度管理とは?管理表のテンプレートも紹介

温度管理はHACCPの中でも、重要な管理基準になります。では、どのような場面・場所で温度管理をすべきなのでしょうか。主なポイントは次の4つです。

 

  • 受け入れ時
  • 調理時(加熱・冷却)
  • 保存時
  • 出荷時

 

これらの工程は温度変化が伴う移動が発生する工程のため、しっかりとモニタリングするようにしましょう。それぞれ解説していきます。

受け入れ時に適切な衛生管理がなされていたかをチェック

原料の受け入れ時にしっかりと目視で品質に問題がないか確認します。その際、表面温度など測定して運送時などの異変がなかったか確認することが重要です。

 

トラックなどで輸送するため多少の温度変化は発生しますが、輸送時に大きな温度変化があった場合には原料自体の品質が下がってしまうため、注意が必要です。温度管理が不十分であると、変色や異臭などのクレームが発生するリスクが高くなります。また、温度の目安については製品の表示温度を意識しましょう。

 

温度管理ポイント

表面温度、トラック庫内温度

温度の目安

製品の表示温度ごと(冷凍・冷蔵・常温)

 

調理時は中心温度をチェック

調理で加熱工程や冷却工程がある場合は中心温度をしっかりとモニタリングしなければなりません。厚生労働省が発行している大量調理マニュアルでは、「加熱調理食品は、別添2に従い、中心部温度計を用いるなどにより、中心部が 75℃で1分間以上(二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85℃で1分間以上)又はこれと同等以上まで加熱されていることを確認するとともに、温度と時間の記録を行う」とされています。

 

調理時の温度管理をおこたってしまうと、食中毒のリスクが高くなります。また、問題が発生した際に記録がない場合には正しく温度管理できていた証明ができないため会社の信用問題に繋がるため、記録を残して保管しておくことも重要です。 

 

温度管理ポイント

中心温度、フライヤー設定温度、湯煎温度

温度の目安

75℃で1分間以上またはこれと同等

 

保存時は冷却温度をチェック

次は保存時の温度管理です。完成した製品も保存時の温度管理をおこたってしまうとすぐに品質が劣化します。主な原因は食中毒菌の増殖です。

食中毒の主な原因となるサルモネラ、腸管出血性大腸菌、ノロウイルス、黄色ブドウ球菌などの食中毒菌は30℃前後で増殖するものは多く、10℃以下で増殖スピードが遅くなり、冷凍-15℃以下で増殖は停止します。仕入れた食材などはすぐに冷蔵庫に入れるなど、製品の品温が上がらないように心掛けて行動することが重要です。

 

温度管理ポイント

中心温度、冷蔵庫冷凍庫内温度

温度の目安

製品の表示温度ごと(冷凍-18℃以下・冷蔵5℃以下)

 

出荷時は運搬車の温度管理をチェック

もちろん、出荷時の運搬車の温度チェックも忘れてはいけません。出荷後のトラックの温度管理が不十分では品質劣化の原因となります。

 

保存時と同じく、食中毒菌の増加を抑えるために、冷凍では-18℃以下・冷蔵では5℃以下が目安となります。

 

温度管理ポイント

表面温度、トラック庫内温度

温度の目安

製品の表示温度ごと(冷凍・冷蔵・常温)

 

HACCP基準の温度管理でよくある課題

HACCPは高い品質を保ち、より安心・安全な製品を顧客に提供するためには有効な手法ですが、一方で課題もあります。それは、管理に膨大な手間がかかってしまい、他の業務を圧迫してしまうことです。

 

品質管理レベルの向上も重要ですが、生産ラインの効率化や人材の教育など、現場では日々さまざまな改善活動をしなければなりません。そのような中で、HACCPをはじめとする品質管理の効率化をしたいと考えている方も多いのではないでしょうか。

 

管理の手間がかかる要因の一つとして、紙での記録・管理による生産性の低さがあげられます。ここでは、紙での記録によって起こる弊害についてご説明します。

異常時の対応に時間がかかる

毎日記録をするものであるため、保管しなければならない記録の量も膨大です。そのため、異常が発生した際に対象の記録を発見するまでに時間がかかってしまい、迅速に問題の発見や対応ができないという問題があります。また異常発生時に責任者が工場から離れている場合、紙の記録では状況を伝えづらく、正確な情報を伝達できないため、対応方法の判断にも時間がかかってしまいます。迅速に問題に対応できない場合、取引先やお客様への信頼低下につながりかねません。

記録のミスや抜け漏れが発生してしまう

紙での記録の場合、ミスや抜け漏れに気づきづらいという問題もあります。抜け漏れがあっては、記録時の状況が正確に把握できず、異常発生時に正しい対応ができなくなってしまいます。また、人によっては文字が読みづらく、正しい情報が読み取れないなどの状況も発生してくるでしょう。

帳票の紙自体が品質・衛生管理のリスクになってしまう

食品製造工場などでは水や油を使うため、紙が濡れてしまったり、汚れてしまったりすることも多いのではないでしょうか。汚れた帳票を手に持ち、その手で製造作業に入ってしまった場合、製造中の商品の品質に悪影響を与えかねません。

また、破れた紙や記録用のボールペンのキャップなどが製造機械に混入するリスクもあります。製造現場で紙に記録する行為自体が、リスクを増大させてしまう可能性もあるのです。

効率的なHACCP・温度管理を実現するためにできること

紙での記録は課題が多いため、効率的な温度管理を目指して企業が様々な方法を導入しています。その一つの動きとして「デジタル化」や「DX」が挙げられます。ここでは、デジタル技術を利用したHACCPや温度管理の効率化方法をご紹介します。

通信機能を持った温度計を導入する

温度管理の効率化の方法として、通信機能を持ったIoT温度計を導入するケースが増えています。導入するメリットは人が記録する必要がなくなるだけでなく、基準逸脱時にアラート機能で、リアルタイムに知らせてくれることです。これにより、異常時に迅速に対応することができます。対処のスピードを上げることができるため、異常時の損失を最小限に止めることができるでしょう。

タブレットを用いて温度のチェックを行う

記録をスマートフォンやタブレットに対応したシステムにすることで、ペーパーレス化や効率化を目指すことができます。基準逸脱時にはアラートを表示をすることや、破れた紙や記録用のボールペンのキャップの異物混入リスクを減らすことが可能です。タブレットで入力したデータは事務所などでリアルタイムに確認することもでき、現場の負担を低減することができるでしょう。 

まとめ

 今回はHACCPの観点から温度管理について、管理のポイントを解説しました。今後継続的に高い品質管理レベルを保つためには、しっかりと温度管理の目的やポイント、重要性について従業員全員が理解し、適切に業務を推進することが求められます。

 

また人材不足などの影響もあり、業務の効率化も視野に入れなければなりません。自社の業務にあった方法を導入し、徹底した管理によって、安心・安全な製品を届けられる体制構築をしていくことが重要です。