食品業界において、HACCPは衛生管理の基本として浸透しつつあります。
食品工場や飲食店など、食品製造にたずさわる食品事業者にとって、衛生管理を徹底し、食中毒や化学物質といった食品に対するリスクを低減することは非常に重要です。
2021年6月からHACCPが制度化され、衛生管理が注目されている中、食中毒のリスク低減に重要な工程の「温度管理」があります。今回は、HACCPにおける温度管理の重要性を食品事業者向けに解説します。
HACCP基準の温度管理に言及する前に、HACCPについて解説します。
HACCPは、1993年に開発されたシステムで「Hazard Analysis Critical Control Point」の頭文字をとってHACCPとよばれています。直訳では危害要因分析・重要管理点となり、食品衛生に関わる危害を分析し、重点的に管理する工程を定めたものです。現在は大きな規模の食品工場だけでなく、飲食店なども「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められています。
HACCP導入は、手順5までの準備と、手順6-12の実行で構成されます。7原則をしっかり理解し、自社に合わせて構築しなければHACCPに対応できているとは言えません。特に重要な、実行部分の7原則について詳しく解説します。「温度管理」工程は7原則・12手順の中でも、原則2のCCPに採用されます。
温度管理はHACCPの中でも、重要な管理基準になります。では、どのような場面・場所で温度管理をすべきなのでしょうか。主なポイントは次の4つです。
- 受け入れ時
- 調理時(加熱・冷却)
- 保存時
- 出荷時
これらの工程は温度変化が伴う移動が発生する工程のため、しっかりとモニタリングするようにしましょう。それぞれ解説していきます。
原料の受け入れ時にしっかりと目視で品質に問題がないか確認します。その際、表面温度など測定して運送時などの異変がなかったか確認することが重要です。
トラックなどで輸送するため多少の温度変化は発生しますが、輸送時に大きな温度変化があった場合には原料自体の品質が下がってしまうため、注意が必要です。温度管理が不十分であると、変色や異臭などのクレームが発生するリスクが高くなります。また、温度の目安については製品の表示温度を意識しましょう。
温度管理ポイント |
表面温度、トラック庫内温度 |
温度の目安 |
製品の表示温度ごと(冷凍・冷蔵・常温) |
調理時の温度管理をおこたってしまうと、食中毒のリスクが高くなります。また、問題が発生した際に記録がない場合には正しく温度管理できていた証明ができないため会社の信用問題に繋がるため、記録を残して保管しておくことも重要です。
温度管理ポイント |
中心温度、フライヤー設定温度、湯煎温度 |
温度の目安 |
75℃で1分間以上またはこれと同等 |
次は保存時の温度管理です。完成した製品も保存時の温度管理をおこたってしまうとすぐに品質が劣化します。主な原因は食中毒菌の増殖です。
食中毒の主な原因となるサルモネラ、腸管出血性大腸菌、ノロウイルス、黄色ブドウ球菌などの食中毒菌は30℃前後で増殖するものは多く、10℃以下で増殖スピードが遅くなり、冷凍-15℃以下で増殖は停止します。仕入れた食材などはすぐに冷蔵庫に入れるなど、製品の品温が上がらないように心掛けて行動することが重要です。
温度管理ポイント |
中心温度、冷蔵庫冷凍庫内温度 |
温度の目安 |
製品の表示温度ごと(冷凍-18℃以下・冷蔵5℃以下) |
もちろん、出荷時の運搬車の温度チェックも忘れてはいけません。出荷後のトラックの温度管理が不十分では品質劣化の原因となります。
保存時と同じく、食中毒菌の増加を抑えるために、冷凍では-18℃以下・冷蔵では5℃以下が目安となります。
温度管理ポイント |
表面温度、トラック庫内温度 |
温度の目安 |
製品の表示温度ごと(冷凍・冷蔵・常温) |
HACCPは高い品質を保ち、より安心・安全な製品を顧客に提供するためには有効な手法ですが、一方で課題もあります。それは、管理に膨大な手間がかかってしまい、他の業務を圧迫してしまうことです。
品質管理レベルの向上も重要ですが、生産ラインの効率化や人材の教育など、現場では日々さまざまな改善活動をしなければなりません。そのような中で、HACCPをはじめとする品質管理の効率化をしたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
管理の手間がかかる要因の一つとして、紙での記録・管理による生産性の低さがあげられます。ここでは、紙での記録によって起こる弊害についてご説明します。
毎日記録をするものであるため、保管しなければならない記録の量も膨大です。そのため、異常が発生した際に対象の記録を発見するまでに時間がかかってしまい、迅速に問題の発見や対応ができないという問題があります。また異常発生時に責任者が工場から離れている場合、紙の記録では状況を伝えづらく、正確な情報を伝達できないため、対応方法の判断にも時間がかかってしまいます。迅速に問題に対応できない場合、取引先やお客様への信頼低下につながりかねません。
紙での記録の場合、ミスや抜け漏れに気づきづらいという問題もあります。抜け漏れがあっては、記録時の状況が正確に把握できず、異常発生時に正しい対応ができなくなってしまいます。また、人によっては文字が読みづらく、正しい情報が読み取れないなどの状況も発生してくるでしょう。
食品製造工場などでは水や油を使うため、紙が濡れてしまったり、汚れてしまったりすることも多いのではないでしょうか。汚れた帳票を手に持ち、その手で製造作業に入ってしまった場合、製造中の商品の品質に悪影響を与えかねません。
また、破れた紙や記録用のボールペンのキャップなどが製造機械に混入するリスクもあります。製造現場で紙に記録する行為自体が、リスクを増大させてしまう可能性もあるのです。
紙での記録は課題が多いため、効率的な温度管理を目指して企業が様々な方法を導入しています。その一つの動きとして「デジタル化」や「DX」が挙げられます。ここでは、デジタル技術を利用したHACCPや温度管理の効率化方法をご紹介します。
温度管理の効率化の方法として、通信機能を持ったIoT温度計を導入するケースが増えています。導入するメリットは人が記録する必要がなくなるだけでなく、基準逸脱時にアラート機能で、リアルタイムに知らせてくれることです。これにより、異常時に迅速に対応することができます。対処のスピードを上げることができるため、異常時の損失を最小限に止めることができるでしょう。
記録をスマートフォンやタブレットに対応したシステムにすることで、ペーパーレス化や効率化を目指すことができます。基準逸脱時にはアラートを表示をすることや、破れた紙や記録用のボールペンのキャップの異物混入リスクを減らすことが可能です。タブレットで入力したデータは事務所などでリアルタイムに確認することもでき、現場の負担を低減することができるでしょう。
今回はHACCPの観点から温度管理について、管理のポイントを解説しました。今後継続的に高い品質管理レベルを保つためには、しっかりと温度管理の目的やポイント、重要性について従業員全員が理解し、適切に業務を推進することが求められます。
また人材不足などの影響もあり、業務の効率化も視野に入れなければなりません。自社の業務にあった方法を導入し、徹底した管理によって、安心・安全な製品を届けられる体制構築をしていくことが重要です。