2021年6月からのHACCPの義務化により、品質・衛生管理に関する規定が厳格化されました。
食品を製造する工場では、汚染物質や人毛、皮膚片などが食品に混入しないよう、従来から厳しい衛生管理の中でユニフォームの着用をしていますが、HACCP義務化以降、対応しなければいけない事項はあるのでしょうか。
本記事では、HACCPの要求事項を満たしたユニフォームのポイントと、正しい着用方法を紹介いたします。
HACCPはHazard Analysis Critical Control Pointの略称で「危害要因分析重要管理点」と訳されます。食品の製造に関して絶対の安全性を追究、保証することを目的とした基準です。
HACCPでは、さまざまな観点から安全を担保するための方策を要求しています。では、HACCPの要求事項に合致したユニフォームとはどのようなものなのでしょうか。
実はHACCP自体にはユニフォームに関する記述はありません。ただしHACCPとともに食品事業者対応すべき「管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」でユニフォームについて以下のように記述されています。
食品取扱者は、衛生的な作業着、帽子、マスクを着用し、作業場内では専用
の履物を用いるとともに、汚染区域(便所を含む。)にはそのまま入らないこ
と。また、指輪等の装飾品、腕時計、ヘアピン、安全ピン等を食品取扱施設内に
持ち込まないこと。
つまり、ユニフォームについて明確な衛生管理の基準までは設けられていないことになります。それぞれの食品製造者が、自分たちに必要な衛生管理基準でユニフォームを用意する必要があります。
では、ユニフォームを調達する際に、チェックすべき点はどこにあるのでしょうか。本章ではユニフォームの各々のパーツについての選定のポイントを解説します。
(出展:一般財団法人 食品産業センター)
くしゃみ、咳などの生理現象や会話などによる唾や鼻水の製品への混入を防ぐために、マスクの着用は必須です。また、マスクの着用には唾や鼻水の飛散を防ぐ他、無意識に口や鼻に触れてしまった手で製造品に触れてしまうというミスを防ぐ効果もあります。
1/3の人間の鼻の中には、食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌が存在します。鼻までしっかりと覆うことのできるマスクを用意する必要があります。
白衣は、食品製造現場の清潔さと衛生を維持するために必要です。白衣が汚れるということは、製造場の環境が汚染されているか、あるいは製造工程に問題があると考えられるからです。汚れた白衣はすぐに新しいものに取り替えるとともに、白衣が汚れる原因をしっかりと追究した上で、製造場の環境の改善につなげましょう。
汚れてしまった白衣については、適切な洗剤を適切な温度で用い、十分に洗濯した上で再利用しましょう。また、体表からの皮膚片や体毛などが落下しないよう、袖口が絞れるタイプのものを使用するのが望ましいです。
加えて、ボタンが付いている作業服や、ウエストより上にポケットの付いた作業服は避ける事が好ましいです。ボタンが外れて製品に混入する危険性もありますし、製造の機器に巻き込まれるなどの危険性があるからです。ウエストより上のポケットには、知らないうちに異物が入り込む可能性と、その異物が製造物に混入する危険性があります。
頭部からは毛髪、フケ、ホコリなど危険要因となりうる異物が数多く落下する危険性をはらんでいます。そのため頭部全体を覆う帽子の着用が必須です。できればインナーキャップとアウターキャップを、両方とも着用できるものを選びましょう。
キャップに使用される布地は静電気を帯電し、毛髪、フケ、ホコリを吸着する性能を持つものが好ましく、キャップと頭部との間に隙間が生じないよう、ぴったりとしたサイズのものを着用するようにしましょう。
作業靴は、食品の汚染を防ぐために特別に設計されたものを選ぶことが好ましいです。
1.防滑性
食品工場は生産物の特性上、床面が濡れていることが多く滑りやすいので、転倒事故防止のために滑りにくい靴底が装着されています。
2.防塵性
足裏に付着した微粒子やゴミが食品に移るのを防ぐため、靴の上部がしっかりと密閉され、微粒子が侵入しないように設計されています。
3.防水性
前述のとおり、床面が濡れていることの多い食品工場では、足裏についた水分によってゴミが靴に付着しがちです。防水性の高い素材で作られた作業靴は、水分によるゴミの付着を防ぎます。
4.耐久性
食品製造現場は厳しい環境下にあることが多いため、作業靴は耐久性が必要です。頻繁な洗浄や消毒に耐えられる材料で作られています。
5.洗浄の容易さ
作業靴は簡単に洗浄できるように設計され、衛生維持が容易にできるようになっています。
これらの特性を備えた作業靴が、食品工場に適した作業靴であると言えます。
ユニフォームの用意の後は、それらをきちんと管理していく必要があります。管理方法と言っても、特別な方法があるわけではありません。食品製造の場を清潔に保ち、異物混入の防止策を考え、毎日の業務中で必ずその防止策を実施することで十分に防止できます。
本章では、異物混入を防ぐためのユニフォームの管理方法について解説します。
保管時に汚染物質が付着することを防ぐために、汚れた場所、汚染源、製造現場から離れた場所で保管することが原則です。
その上で、専用の収納袋やラックなどに入れて、使用直前までなるべく密閉状態にしておくことが望ましいでしょう。また、各従業員のユニフォームはできれば個別に収納し、名前や役職などのラベルを付けることで、識別可能な状態にしておきます。
混入の危険性が一番高い異物は毛髪です。帽子を着用する前に必ずブラッシングする、私服を脱ぐスペースとユニフォームを着用するスペースを分けるなどの対策を講じましょう。
その上で、ユニフォーム着用後には必ず粘着テープのローラーで全身をくまなくローラーがけして、毛髪やホコリを完全に除去するよう心がけてください。また、帽子は頭部との間に無駄な隙間がないぴったりサイズのものを装着しましょう。
作業時には、鼻までしっかり覆うようにマスクを装着しましょう。くしゃみや咳などの生理現象で飛び散った唾液の飛沫は、汚染の大きな原因となります。
また、前述の通り人間の1/3は鼻に黄色ブドウ球菌という食中毒の原因となる細菌を持っていますので、鼻に触れた手で作業を行えばそれだけ汚染の危険性が高まります。袖口は絞れるようになっているものが望ましいです。袖口からの体毛や皮膚片の落下の防止になります。
手袋の着用も必須です。手は作業上さまざまな物や場所に触れることが多いので、定期的に交換することが望ましいです。
作業時に汚れてしまったり、破損してしまったりしたユニフォームは速やかに交換しましょう。汚れは汚染の原因になりますし、破損部分からは糸くずなどの異物混入の原因になりえます。
ユニフォームや関連アイテムを毎日点検し、損傷や汚れがある場合は交換または洗浄することが重要です。食品接触がある場合は、高温で洗浄することが一般的で、適切な洗濯機や洗剤を使用し、十分に乾燥させることが重要です。
また、作業靴に関しては靴底についたゴミや異物を確認するために、靴底が見えるように収納することをおすすめします。壁面を上手く利用できるので、省スペースにも繋がります。
2021年6月からHACCPの導入・運用が義務化され、HACCPの要求事項にそぐわない管理方法を採っている場合は、罰則が科せられるようになりました。ただし、運用そのものは決して難しい話ではありません。
いままで、食品製造に携わってきた業界の方ならば「常識」として実行してきたことが明文化され、実施状況を記録しておくことが義務化されたに過ぎません。手順書をしっかりと読み込んで対応すれば、大抵の食品工場では、今までのマニュアルを少し改良するだけで事足りると考えられます。
ただし大事なのは「凡事徹底」。決められたことを毎日やり続けることです。食の安全を担う責任の重さを鑑みて、日々の業務の安全・安心にご留意ください。