皆さんは、ハザードの意味をご存じですか?最近では災害でもよく耳にしますが、具体的な意味を考える機会はなかなかないかもしれません。ただし、食品を取り扱う上ではハザードの意味を正しく理解しておくことが重要です。そこで、この記事ではハザードの意味やリスクとの違いについて紹介します。
厚生労働省が発表した書類によれば、ハザードの定義は、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、または作業行動その他業務に起因する「危険性または有害性」のことです。例えば、自然災害から身を守る「ハザードマップ」という言葉に使用されています。この定義を、食品について掘り下げて解説しましょう。
食品のハザードとは、人体に影響を及ぼすレベルの危害要因のことを指します。具体的には、食品の中に含まれていて、体に悪影響をもたらす原因となる物質や食品の状態です。この危害要因には3つの要因がありますので、紹介します。
生物学的要因とは、食中毒、腐敗微生物、寄生虫などのことをいいます。具体的には、食中毒はノロウイルスやサルモネラなど、腐敗微生物はカビ、酵母など、寄生虫はアニサキス、回虫などのことです。
この生物学的要因の対策としては、一般衛生管理や温度管理が有効です。具体的には個人衛生管理の徹底や、衛生管理の「7S」を徹底、施設、設備、環境を維持管理することで防ぐことができます。
化学的要因とは、自然物、農薬、重金属、食品添加物などのことをいいます。自然物はキノコ毒、ヒスタミンなど、農薬は病害虫・雑草などに使用されるものがあります。
重金属については、必須元素である亜鉛や銅などや、毒性が強いヒ素やカドミウムなどがあり、必須元素である重金属についても過剰摂取をすると食中毒の原因となるため、注意が必要です。食品添加物についても、規定量以上の摂取や使用禁止の種類は化学的要因となります。
化学的要因の対策としては、原材料の管理やトレーサビリティ(追跡可能性)が有効です。具体的には、原料の履歴チェックや副資材の使用基準チェック、サプライヤーとの取引の確認、受け入れ時の検収などがあります。
物理的要因とは、異物のことをいいます。具体的には、異物に硬質と軟質があります。硬質は金属や石、ガラス、プラスチックなどで、軟質は小動物や昆虫などです。軟質に含まれそうな毛髪やビニール片については、一般衛生管理の要因となるので区別しましょう。
対策としては、異物混入対策や防虫対策が有効です。具体的には、作業場に不要物を持ち込まない、始業終業時の点検、虫を発生させない対策を行うほか、入出荷時の点検実施などがあります。
ハザードとリスクの意味は違います。2つの言葉の違いを知って、正しく使えるようにしておきましょう。
厚生労働省が発表した文書によると、リスクとは、危険性・有害性(ハザード)によって生じるおそれのある、けがや疾病の重篤度と発生する可能性の度合いと定義されています。
つまり、リスクとは「不確実性」です。今後、危険性・有害性(ハザード)が生じるおそれのある可能性と度合いなので、必ずしもそれが生じるわけではないと考えるとよいでしょう。
ハザードが生じるおそれのある可能性をリスクといいます。そのため、ハザードとリスクは違う意味です。
例えば、ライオンは危険性を持っているハザードですが、近くに人がいなければ人が襲われる心配はありません。しかし、ライオンの近くに人がいることで、人がライオンに襲われる災害が起きてしまう可能性があり、そのことをリスクと呼びます。
ハザードがリスクになる関係性でもあるので、明確に区別して理解しておくことが重要です。
ハザードは日本語で「危険性」、リスクは「不確実性」と定義されることが多いです。
しかし、英語ではハザードという言葉に「偶然」「運」という意味を含んでいます。そのため、英語でハザードが使用される場合には「偶然悪い結果になる、その可能性がある」というような意味合いも。日本のリスクの意味に近い部分があるかもしれません。
そのため、日本がハザードに定義する「危険性」「有害性」という意味と英語での定義は違うと考える必要があるので、英語での取引の場合には注意する必要があるでしょう。
ハザードは、2020年6月から義務化された「HACCP(ハサップ)」を理解する上でも重要です。ハザードとHACCPの関係性についても紹介しましょう。
「HACCP」は「HA(危害分析)」と「CPP(重要管理点)」に分けられ、ハザードはこの「HA(危害分析)」に用いられます。この危害分析というのは、食品の原材料や製造加工の工程から危害要因を洗いだす作業のことです。具体的には、製品の説明書や製造工程図を作成し、原材料や工程に危害要因が含まれていないかを確認します。この危害分析を正しく行わなければ、HACCP全体の方向性が間違ってしまうため、非常に重要な部分といえるでしょう。そのため、ハザードを知ることはHACCPにとっても重要だといえます。
これらの危害要因を食品から遠ざけるようにすれば、「食品安全を保証できる」と考えることができるので、単純に、製造工程の中に「微生物」「硬質異物」「化学物質」のどれも入らないように管理することがHACCP(ハサップ)計画であるともいえます。
ハザードは「危険性または有害性」として、リスクと区別して明確に理解しておく必要があります。「HACCP」においても、ハザードを理解しておくことは重要です。ハザードという言葉を使いこなして、HACCPの義務化に対応しましょう。