スイスのジュネーブに本部をおく非政府機関「ISO」。特定のマークや製品サイズの国際規格を定めています。ISO認定を得ることは、企業にとって消費者に対する安心の証を得ることにもなるでしょう。ISOには目的別に複数の種類がありますが、今回は「ISO14001」について説明します。
環境マネジメントに関する規格「ISO14001」。まずは前提であるISOについて、詳しく説明したうえで、ISO14001が一体どのようなもので、何を目的とした規格なのか説明します。目的を理解したうえで、認定を目指してください。
冒頭で説明したとおり、ISOとはさまざまな製品や仕組みの国際規格を定める機関です。審査を受け、通過した企業だけがISO認定を得られます。
ISO全体の目的は世界中どこにでも、同じ品質やレベルのものを提供できること。そのなかで、さまざまな目的、ジャンルごとに複数の種類に分かれています。
ISOが関わっている身近なものに、「非常口マーク」があり、これは全世界共通です。マークを共通にしているため、どんな人種の人がどんな国へ行っても、あの緑のマークが非常口だと理解できます。
ISOのなかのひとつが、今回説明する「ISO14001」。世界共通の基準で環境保全を目指す活動を行うことを目的とした規格です。この認定を得るためには、企業の経営方針の中に環境方針を取り入れ、運用すること(=環境マネジメント)を要求されます。
企業は、環境マネジメントを実施するための仕組みや責任、実務、段取りといったプロセスを実行できると、審査機関に認められなければなりません。そのための事前準備や審査、必要に応じた業務改善、内部調査を行う必要があるでしょう。
▶︎ISO14001とは?初心者にも簡単にわかりやすく徹底解説
環境マネジメントを目指したISO14001の認定取得までの手順についてです。手順は大きく分けると「審査準備」「本審査」「認定後」の3つ。各段階で行うことを事前に把握しておきましょう。そして事前準備のなかには内部審査が含まれますが、内部審査については後ほど詳しく説明します。
ISO14001の認定を目指す場合、審査準備が必要です。大まかな手順は以下のとおり。
まず推進責任者を選定し、社内の体制を整えます。そして企業全体の環境方針を設定。それをもとに具体的な手順や作業のマニュアルを作ります。マニュアルに沿って運用を始め、効果を見ましょう。内部監査を行い、改善ができているかマニュアルが最適かを確認します。確認結果をレビューして審査前の事前準備は完了です。
事前準備を行ったら、次は審査機関による本審査。一定の期間内に機関からの文書審査(書類審査)と現地調査が行われます。はじめの文書審査では、対象企業の環境方針がISOが定める規格と合致しているか、ズレが生じていないか等を確認。問題がなければ、現地調査へと進めます。
現地調査では、環境方針をもとにした運用が正しく行われているかをチェック。指摘を受けた場合は、速やかな改善を要求されます。2つの審査に無事通過できれば、晴れてISO14001の認定を得られるというわけです。
ISO14001に限らず、全てのISO認定は認定されて終わりではありません。初回登録審査で確立された運用方法が、その後も継続して正しく行われているかを定期的にチェックされます。またISO認定には、3年間の有効期限があるため3年毎の更新が必要です。
チェック方法は2種類。3年に1回行う「更新審査」と年に1〜2回行う「維持審査」です。特に更新審査は登録審査と同じ項目をチェックされます。日頃からしっかりとマニュアルに沿った業務を行うことが重要です。
事前準備の手順5に「運用結果の確認や問題点の洗い出し」とあります。この確認作業を内部監査といい、内部監査を行った結果のレビューは、認定を受ける際の必須事項です。ここでは、内部監査についての詳細やその目的、内部審査員に任命された者が見るべきポイントなどを紹介します。
内部監査とは、企業全体の環境方針に沿った運用を開始したのち、その方法に問題点がないか、しっかりと効果があるのかをチェックする審査です。問題点が見つかった場合は直ちに改善方法を考え、改善を行います。また運用が正しく効果的に行われていることの確認のみならず、もっと効率的な方法がないかなども模索していくことが重要です。
現状に満足せず、常によりよい方法を探すことが重要。内部監査を終えたら、必ず結果のレビューを行いましょう。問題点や課題を誰から見ても分かるよう、明確化してください。
内部監査を行う際、最大の目的は問題点の洗い出しです。問題点や課題が明確になることで、より万全なマニュアルが作成できるでしょう。また内部監査を担当する方が目指すべき目的は、社員の意識を変えることでもあります。ISO14001の目的である環境マネジメントの観点から、環境保全に社員一人ひとりの意識が向くよう働きかけてください。
社員の意識が改善し、できる限り問題点のないマニュアルを作成することが、内部監査を行うことの目的と言えるでしょう。
内部監査をする際に、担当者が見るべきポイントは以下の3つです。
近年では2つ目の「順守義務」について、本審査の際に重きを置くことが多くなっています。順守義務とは法令や条例はもちろん、企業内のルール、コンプライアンスを守ることも必要です。企業内のルールについては、事前に文書化し明確にしておくことをおすすめします。また非常時に対応ができる仕組みになっているかも注意しましょう。
ここからは実際に内部監査を行うにあたって、その手順を説明します。必要な手順は大きく分けると3ステップ。「監査員の確保」「内部監査実施計画書の作成」「内部監査の実施」に分かれます。それぞれのステップで行う作業内容や注意点は、以下を参考にしてください。
はじめのステップとしては、内部監査責任者の選定と監査員の確保が挙げられます。客観的な視点で目標を達成できるかどうか、改善策は適切かなどのジャッジを行う必要があるため、それを踏まえたうえでの人選を行ってください。
また社員の意識変革も内部監査員には必要です。多方面の部署と連携が取れる人材を選ぶのが得策でしょう。内部監査責任者は、実施計画書の作成などにも当たるので、ものごとを計画し、素早く実行できる人材を選ぶのがおすすめです。ある程度内部監査員を確保できたら、次のステップである実施計画書の作成に進みましょう。
内部監査責任者には「内部監査実施計画書」の作成という大仕事が待っています。監査実施予定日を設定するとともに、計画書の作成を開始。環境方針や環境に関するさまざまな側面(通常業務、力量の確認、外部との連携)、順守義務の内容などを確かめたうえで、計画書を作成してください。
また明確な基準を定めたチェック項目を作成することで、内部監査を実施するとき、目標が達成されているかどうかの判断がしやすいでしょう。不明瞭な項目が多いと本審査のタイミングで指摘されやすいので注意してください。
監査員を集め、計画書を作成、実行したら内部監査を実施します。計画書の内容どおりに運用が進んでいるか確認してください。チェック項目を作るコツは、項目の内容がすべて「適合」か「不適合」かで判断できること。
また事前に明確なチェック項目を作成し、いつ誰がチェックをしても監査員によるズレが生じないように気をつけてください。チェックする担当者が変わるたびに、判断も変わるというばらつきがあると、内部監査の効果は半減します。また内部監査後にレビューを行うタイミングで、問題点を明確化することが難しくなるでしょう。
ここまで、ISO14001認定の取得方法や内部監査のポイント、流れなどについて説明しました。ではISO14001を取得することには、どのような目的があるのでしょうか?またどのようなメリットがあるのでしょうか?以下で解説していきます。
ISO認定を得る目的は、企業ごとにさまざま。前述したとおり、ISO14001の目的は環境保護であり、そのための規格に沿った行動を行うことにあります。環境への悪影響を及ぼすリスクを軽減するための組織運営がされることがISO14001の目的です。
もちろん認定を得ていなくても、環境問題への取り組みを行っている企業は数多くあるでしょう。しかし認定を得ることで、明確な規格に沿って環境保全に努めていることを外部へアピールできます。ISO14001認定を得ることは、環境リスクの軽減に努めている企業である「世界共通の証」を得るということです。
企業がISO14001の認定を得ることには、多くのメリットがあります。前述したような外部へのアピールができることもそのひとつ。
しかしそれ以上にISO認定を得られる企業というのは、経営者が的確なリーダーシップをとれる証明にもなります。そのうえ、組織全体で「計画をたて(Plan)行動し(Do)確認し(Check)改善できる(Action)」ということの証がISO認定と言えるでしょう。外部に対しては環境保全に積極的であることのみならず、企業として理想的な経営がされている企業とアピールできます。
ISO14001についてや、事前準備における内部監査について説明しました。計画、行動、確認、改善のサイクル(PDCA)が健全に機能している企業であれば、ISO認定のハードルは決して高くはないでしょう。認定を得るだけでなく、環境保全のためにしっかりと行動ができる企業を目指してください。