ヒューマンエラーの対策を考える必要があるのに、対策が思い浮かばなかったり、今やっている対策で合っているのか分からなかったりすることは、現場を管理する方が抱えるお悩みの一つです。
これ以上ヒューマンエラーが起きないように、発生要因をきちんと理解し、具体的な対策が知りたいと感じている方も多いと思います。
ヒューマンエラーは、人間が原因となって引き起こされるミスや事故ですが、「うっかり」した行動で起こるものと「あえて」の行動が起こしているものに大別されます。
ヒューマンエラーを起こさないようにするためには、KY活動(Kiken Yochi 活動)の徹底や業務フローの定期的な見直しなどの基本的な対策だけでなく、フールプルーフ(Fool Proof)や自動化の導入などの仕組みによるものも検討する必要があります。また、注意力が不足している人や慣れや過信がある人のようにヒューマンエラーの多い人の特徴を抑えておくのも重要です。
本記事では、ヒューマンエラーが発生しやすい要因を明らかにし、効果的な対策方法について解説します。また、エラーが起きた際の処置やエラーを起こしやすい人の特徴と予防策も併せて紹介します。ヒューマンエラーの効果的な対策を知りたい方や、自社の状況に合った対処方法が気になる方は、ぜひ参考にしてください。
ヒューマンエラーとは、人間のある行動が原因となって引き起こされるミスや事故のことを指します。作業者の判断ミスや注意不足、コミュニケーション不足などが主な原因です。
例えば、製造業であれば部品の取り付け間違いや組み立て手順の誤りなどがヒューマンエラーに該当します。一方で、機械のトラブルやマニュアルの不備などは、人間の直接的な行動が作用せず、設備や文書の管理に関する問題なので、ヒューマンエラーには含まれません。
ヒューマンエラーは、一見小さなミスであっても重大な問題につながる可能性があります。
例えば、医療現場での投薬ミスは患者の健康を脅かし、製造業での部品の取り付け間違いは製品の安全性を損ないます。
人の手で行う以上、すべてのヒューマンエラーを防ぐことは難しいですが、できる限りヒューマンエラーを起こさない対策を講じることが重要です。ヒューマンエラーを減らせれば、業務の効率化、品質の向上、安全性の確保につながります。ヒューマンエラーの特性を理解し、適切な対策を実施していきましょう。
ヒューマンエラーが発生する要因は、大きく分けて2つあります。過失によるヒューマンエラーと故意によるヒューマンエラーです。
ここではそれぞれのヒューマンエラーが起こる要因について詳しく説明します。
過失によるヒューマンエラーは、作業者の意図とは関係なく、うっかりミスや注意不足によって発生します。大きくわけて主に4つの原因があります。
記憶エラーは、必要な情報や作業方法を思い出せなかったり、忘れてしまったりすることで発生します。例えば、作業手順の一部を忘れてしまう、重要な工程を飛ばしてしまうなどがあげられます。
認知エラーは、情報を正しく解釈できなかったり、誤って判断したり、作業慣れによる思い込みや勘違いしたりすることで発生します。具体例としては、計器の数値を誤って読み取り温度設定を間違えてしまう、図面の記号を誤解して部品の取り付け位置を間違えてしまうなどがあります。
判断エラーは、油断や知識不足により、状況を正しく認識・評価できなかったり、連絡や連携ミスをしたりすることで発生します。例えば、機械の異常音を聞いても大丈夫だと判断して点検を怠ってしまう、作業の難易度を過小評価して必要な準備をしないなどに注意しましょう。
行動エラーは、意図した行動が正しく実行できなかったり、不適切な行動をとってしまったりすることで発生します。具体例としては、ボタンを押し間違えて誤って非常停止をかけてしまう、工具を持ち替える際に手を滑らせ製品を落下させてしまうなどがあります。
「うっかり」した行動で起こる、過失によるヒューマンエラーは、それ一つだけでは大した問題ではないことも多いかも知れませんが、複数のものが連続的に起こる大きなミスや事故につながる可能性があるので注意が必要です。
故意によるヒューマンエラーは、作業者の慣れや横着、手抜きが原因となり起こるミスで、決められた手順を無視して省略したり、自分なりの作業方法で行ったりすることで発生します。
例えば、面倒な作業を省略したり、簡単な方法で済ませたり、作業に対する意欲や責任感が低下したりすることで発生します。具体例としては、以下のようなものがあります。
作業の慣れや横着、手抜きによるミスは、作業者の意識や態度に起因するため、管理者が直接的に介入することが難しい場合があります。
ヒューマンエラーを防ぐためには、作業者個人の注意力や意識だけでなく、作業環境を整備してミスが起こりにくい仕組みを作ることが重要です。ここでは、ヒューマンエラーを起こさないためできる環境面での対策について、7つの具体的な方法を紹介します。
環境対策を適切に組み合わせ、継続的に改善することで、ヒューマンエラーを起こさない職場環境ができます。現場の状況を把握し、作業者の意見を取り入れながら、効果的な対策を実施していきましょう。
KY活動(Kiken Yochi 活動)とは、作業前に潜在的な危険要因を見つけ出し、対策を講じることで事故を未然に防ぐ取り組みです。多くの事故や労働災害は、作業者が危険性を認識していたにもかかわらず、安全確認を怠ったり、手順を省略したりすることで発生しています。
KY活動では、作業者全員で潜在的な危険要因を洗い出して対策を話し合い、指差し確認を徹底することで作業者一人ひとりが確認作業を怠らずに行います。
指差し確認とは、重要な工程や危険箇所を指差しながら、声に出して確認する手法です。指差し確認を用いることで、作業者の意識を高めて、ミスを防げます。
さらにKY活動を定着させるためには、管理者が率先して活動に参加し、その重要性を伝えることが不可欠です。定期的に活動の振り返りを行い、改善点を見出していくことも必要です。KY活動を通じて、作業者一人ひとりの安全意識を高め、ヒューマンエラーを防ぐ職場環境を作りましょう。
フールプルーフ(Fool Proof)は、人間が誤った操作をしようとしたときに、それ以上先に進めないような仕組みです。
フールプルーフを導入することで、ヒューマンエラーが簡単に起こらないようにし、事故やミスを未然に防げます。
フールプルーフの基本的な考え方は、「人間はミスを犯すもの」という前提に立ち、ミスが発生しても重大な事故につながらないよう、システムや製品の設計段階で対策を講じることです。ミスしても重大な事故にならない仕組みにより、作業者の注意力や習熟度に関わらず、一定の安全性を確保できます。
以下に、フールプルーフの具体例をいくつか紹介します。
機能例 |
詳細 |
ロック機能 |
複数の鍵を解錠しないと機械が動作しない |
ガーゴ機能 |
機械に作業者の手や身体の一部が届かない、入らないようにし、工具や機材、製品しか中に入らないようにする |
操作機能 |
両手で操作しないと動作しなく、手を離すと停止する |
フールプルーフの手法を適切に組み合わせることで、ヒューマンエラーが起こりにくい設計を実現できます。自社の製品やシステムの特性を踏まえ、効果的なフールプルーフを検討・導入することが重要です。また、定期的に設計をレビューし、改善を重ねることで、より高い安全性の確保につながります。
ヒューマンエラーの対策としては、ヒヤリハットの報告や共有も重要です。ヒヤリハットとは、実際には事故やトラブルには至らなかったものの、わずかな条件の違いで重大な事態を引き起こしかねなかった出来事を指します。
例えば、作業中に工具を落としそうになった、危険な場所で転びそうになった、などの事例が該当します。
ハインリッヒの法則によると、1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットが存在すると言われています。この法則が示すように、ヒヤリハットは重大な事故やヒューマンエラーにつながる可能性を秘めているため、見逃さずに真摯に対応することが重要です。
アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発表した法則です。「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」というもので、300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています。
ヒヤリハットが発生した際、「今回は事故に至らなかったからよかった」と安堵するだけでは不十分で、改善しないと同様の事例が繰り返され、いずれ大きな事故やトラブルを招くことになりかねません。ヒヤリハットが発生した際には、速やかに上司や安全管理担当者に報告し、情報を共有しましょう。
報告する際は、具体的にどのような状況でヒヤリハットが発生したのか、どのような要因が考えられるのかを明確にすることが重要です。
報告後は組織内で共有し、原因の分析や対策の検討をおこないましょう。原因分析・対策検討の過程を通じて、潜在的な危険要因を特定し、設備の改善や作業手順の見直しなどの対策を講じることができます。また、ヒヤリハットの事例を教育・訓練に活用することで、作業者の安全意識向上にもつながります。
業務フローを定期的に見直すことは、ヒューマンエラーを防ぐ上で重要な取り組みです。業務フローは、業務を進めていく中で徐々に内容が追加され、複雑になりがちです。
当初はシンプルで分かりやすかった手順も、時間の経過とともに様々な要素が加わり、煩雑になっていくことがあります。このような状況では、作業者が業務フローを正確に理解することが難しくなり、ヒューマンエラーが発生するリスクが高まります。
ヒューマンエラーを抑えるためには、業務フローの中に分かりにくい部分や無駄な部分がないかを定期的にチェックし、改善を図ることが重要です。見直しの際は、作業者の意見を積極的に取り入れましょう。実際に業務を行う作業者の視点から、業務フローの問題点や改善案を提示してもらうことで、より実効性の高い見直しが可能となります。
ただし、業務フローを見直すだけでは十分とは言えず、作業者自身が業務フローを正しく理解し、実践できるようにすることも重要です。そのためには、定期的な研修や勉強会を開催することが効果的です。
研修や勉強会では、業務フローの内容をわかりやすく説明し、作業者の理解を深めましょう。また、実際の作業現場を想定したロールプレイングや、グループディスカッションを取り入れることで、作業者の能動的な学習を促すことも効果的です。
マニュアル整備は、作業手順を明確化し、ミスを防ぐために重要な取り組みです。マニュアル整備の主な目的は、古い情報の更新や削除を行い、作業方法の統一を図ることにあります。また、マニュアルの記述は、曖昧な表現や専門用語の多用を避けて、明確で誤解のない表現を心がけましょう。
マニュアルを整備してもミスが発生する場合は、ミスの内容とマニュアルを照らし合わせ、マニュアルに誤解を招く表現がないかを確認することが重要です。
ミスの原因を分析してマニュアルの改善につなげることで、より実効性の高いマニュアルを作成することができます。
また、マニュアルの内容をより分かりやすく伝えるために、文字だけでなく、写真や図を用いてビジュアル化することも効果的です。写真や図を活用することで、作業手順をイメージしやすくなり、誰が見ても同じ作業ができるようになります。
マニュアルを更新・変更した際は、作業者への周知徹底が不可欠です。変更内容を説明し、必要に応じて教育・訓練を行うことで、作業者のマニュアルに対する理解を深められます。また、作業者から改善点や気づきを収集し、マニュアルの更なる改善につなげることも重要です。
ヒューマンエラーを防ぐうえで、作業手順の明確化や標準化だけではなく、作業環境を整えることも重要な要素です。作業スペースが狭い、必要な道具が所定の位置にないなど、作業環境が整っていない状況はヒューマンエラーの温床となります。
例えば、作業スペースが十分に確保されていない場合、作業者は窮屈な姿勢を強いられるため、思ったように動けず、作業方法や分量のミスを起こすかもしれません。また、必要な工具や資材が見つからないために、作業が中断されたり、代替品を使用したりすることで、ミスが発生するリスクが高まります。
作業環境を改善するための有効な手法の一つが、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)です。5Sに則って職場を整理整頓することで、「職場に必要なモノしかなく、いつでも決まった場所に決まったモノがあり、清掃が行き届いている」理想的な作業環境を実現できます。
整理整頓された職場では、必要なモノがすぐに取り出せるため、作業効率が向上します。また、清掃が行き届いた環境では、異常や不具合を早期に発見することができ、トラブルの未然防止につながるでしょう。
ヒューマンエラーを防ぐ手段の一つとして、自動化やロボット化の導入も検討してみましょう。人の手で行う作業では、どれだけ確認を徹底してもすべてのヒューマンエラーを防ぐことは難しいのが現状です。
人間は疲れや体調不良、ストレスなどの影響を受けやすく、常に最高のパフォーマンスを維持することは困難です。また、単純作業の繰り返しや、高度な判断を要する作業では、ミスが発生するリスクがさらに高まります。
その点、自動化やロボット化はヒューマンエラー対策にかなり効果があります。例えば、製造業において、作業ロボットを導入することで、人手による組み立てや検査の工程を自動化することができます。ロボットは一定の品質で作業を行うことができるため、ヒューマンエラーを大幅に減らすことが可能です。
また、自動化やロボット化は、危険な作業から作業者を解放するメリットもあります。例えば、重量物の運搬や高所での作業など、人間が行うと危険を伴う作業をロボットに代行させることで、作業者の安全性を確保できます。
ヒューマンエラーは、作業環境や手順などの環境的要因だけでなく、作業者の個人的な特性によっても発生することがあります。ここでは、ヒューマンエラーを起こしやすい人の特徴と、それぞれの特徴に応じた対策について、3つの観点から説明します。
あなた自身が当てはまっていないか、また職場の同僚で当てはまる人がいないかチェックしてみましょう。
注意力が不足している人は、作業に集中できず、重要な情報を見落としがちです。長時間作業や、疲労やストレスが蓄積している状態であると、注意力が低下しやすくなります。
疲労やストレスによる注意力の低下を防ぐためには、適切な休憩時間を確保することが重要です。作業の合間に十分な休息を取り、リラックスできる時間を設けることで、集中力を回復できます。
管理者は、業務時間を適切にコントロールし、作業者が十分な休憩を取れるようにスケジューリングしていきましょう。
また、作業者が仕事以外の悩みごとを抱えている場合も、注意力が散漫になりやすくなります。プライベートな問題に頭を悩ませていると、作業に集中することが難しくなり、ミスが増加する可能性があります。悩みごとの解消には、作業者が悩みを1人で抱え込まずに、周りの人に相談できる環境を整えることが重要です。
管理者は、作業者との定期的な面談をおこない、悩みごとがないかを確認しましょう。職場内にメンタル面でのサポート体制を整えることで、作業者が安心して相談できる環境を作る必要もあります。
慣れや過信は、ヒューマンエラーを引き起こす大きな要因の一つです。人間は、同じ作業を繰り返しおこなっていると、最初は注意深くやっていた作業でも、徐々に慣れが生じて気を抜いてしまう傾向があります。
特に、熟練した作業者ほど自分の能力を過信し、確認作業を怠ったり、手順を省略したりする可能性があるので注意が必要です。このような慣れや過信による不注意は、重大なミスやトラブルにつながる可能性があります。
慣れや過信によるミスを防ぐためには、定期的に、作業の意味や危険性について再認識させる機会を設けることが重要です。
作業手順の背景にある理由や、手順を守らない場合のリスクを説明することで、作業者の意識を高められます。また、作業者が問題のある行動をした際に、周囲の人が気づき、指摘できる環境を作ることも重要です。
例えば、作業者同士が互いの作業をチェックし合う仕組みを導入したり、管理者が定期的に現場を巡回したりすることで、不安全な行動を早期に発見して改善につなげることができます。
コミュニケーション不足は、ヒューマンエラーを引き起こす大きな要因の一つです。従業員間のコミュニケーションが不足していると、重要な情報が共有されず、作業手順の誤解や連携ミスなどが発生しやすくなります。
特に、新人やパートタイムの従業員は、職場の慣習やルールに不慣れなため、コミュニケーション不足によるミスを起こすリスクが高いといえます。また、ベテラン従業員も、長年の経験から独自の作業方法を持っていることがあり、それが新人には伝わりにくいこともあるでしょう。
コミュニケーション不足によるミスを防ぐためには、新人とベテランのペアリングが有効です。ベテランが新人に作業のコツや注意点を直接指導することで、効果的な知識の伝承が可能になります。また、新人とベテランが一緒に作業することで、コミュニケーションの機会が増え、情報共有がスムーズになるメリットもあります。
他にも、コミュニケーションが取りづらい場合は、掲示板やグループウェアなどの情報共有ツールを活用することも効果的です。作業手順や注意点をわかりやすく記載し、いつでも参照できるようにしておくことで、情報の伝達漏れを防げます。また、ツールを使って質問や相談ができる環境を整えることで、コミュニケーションのハードルを下げることにもつながるでしょう。
本記事では、ヒューマンエラーについて、その定義や発生要因、エラーを起こしやすい人の特徴と対策について詳しく解説しました。ヒューマンエラーは人間が関わる以上、完全に防ぐことは難しいですが、適切な対策を講じることでその発生を最小限に抑えることが可能です。
具体的には、KY活動の徹底や業務フローの定期的な見直しなどの基本的な対策に加えて、フールプルーフや自動化の導入などの仕組みによるものもヒューマンエラー対策として効果的です。
また、ヒューマンエラーを未然に防ぐためには、その要因を正しく理解することが重要です。ヒューマンエラーを起こしやすい人の特徴と対策は、以下のとおりです。
近年では、現場の紙帳票をタブレットで記入することで、マニュアルとチェックリストを一体化し、ヒューマンエラーの未然防止に役立てる取り組みも増えています。タブレットを活用することで、作業手順の確認漏れを防ぎ、リアルタイムでのデータ収集と分析が可能になります。KY活動や業務フローの見直しのようなすぐにできる対策から始めつつ、タブレットなどの自動化ツールも検討していくことでヒューマンエラーを未然に防いでいきましょう。