自動車部品のサプライヤーにとってPPAPを取得することは、自動車メーカーに部品を納入できるかどうかを左右する重要なポイントです。
自動車メーカーから要求される18の書類や5つの提出レベルについても具体例とともに紹介していきます。
このような悩みを抱えている方は、この記事を読んでPPAPに関する知識を身に付けましょう。PPAPに対して正確な知識を持っていれば自動車メーカーからの要求にスムーズに対応でき、信頼できる取引先として認識されることにつながります。
PPAPとはProduction Part Approval Processの略称で、日本語で「生産部品承認プロセス」と呼ばれています。
PPAPは、自動車産業の品質マネジメントに関する認証制度IATF16949のコアツールの一つであり、自動車メーカーへの部品納入に際しての承認を得るために必要な書類やデータを規定しているものです。
PPAPのやり取りを簡単にいうと、部品メーカー(サプライヤー)が自動車メーカーに対して部品の説明資料や契約書を提出し、その内容に問題がなければ契約書にサインして部品の納入が決まる流れのことを指します。PPAPの内容が不足していると自動車メーカーから部品の納入を認めてもらえないので、求められている書類やデータが揃っているかしっかりとチェックすることが重要です。
自動車メーカーへの部品納入に際してPPAPが採用されている理由は、おもに2つあります。
- 組織全体が自動車メーカーからの要求事項を理解しているか
- 製造ラインが要求事項を満たせる製品を製造する能力があるか
製品を量産するためには、設計や製造の各部門で準備が整っているかのチェックが必要です。設計部門であれば「図面は最新か」「不具合を予測し図面に落とし込めているか」、製造部門であれば「部品の計測方法は適切か」「寸法通りの製品ができているか」などの項目に対して抜け漏れをなくさなくてはなりません。このように組織全体で量産できる状態にあるかを理解するためにPPAPは役立ちます。
また、PPAPには製造ラインに関するフロー図や工程の調査結果なども記載する必要があります。具体的には「製造ライン全体で工程能力は問題ないか」「測定機器や管理方法は正確か」などの項目を確認します。PPAPに沿って要求事項を満たしていくことで、製造ラインの実力が量産に適しているかを判断することができるのです。
PPAPは、IATF16949で定められている5つのコアツールのなかでも最も重要な位置づけとなっています。PPAP以外の4つのコアツールは「参照事項」ですが、PPAPは唯一「要求事項」であり自動車メーカーからの要求に対して必ず対応する必要があります。このようなことからも、PPAPは自動車メーカーとサプライヤーの間で重要な取り交わしとなっているのです。
一般的にPPAPが必要なタイミングは「量産前の製品を製造する段階」です。
部品の設計や試作、実験が完了し、製造ラインでの生産能力も問題ないことが分かったタイミングでPPAPに必要な書類やデータをまとめます。その内容を顧客である自動車メーカーに確認してもらい、承認をもらって量産に移行します。一連の流れの最後にPPAPの提出や承認がくるのが通常の流れです。
ただし、製品の量産が始まったあとにもPPAPと同様の対応を求められることがあります。具体的には「製品の製造に関わる材料や工程、検査方法などの変更が発生した場合」です。量産に移ったあとも世界情勢(外的要因)やコスト削減(内的要因)など、さまざまな要因で変更が生じる可能性があります。量産後の変更例として、以下のようなものが考えられます。
要因 |
承認項目 |
部品に不具合が発生し部品形状の変更が必要になった |
図面の変更、使用している金型や治具の変更 |
材料の仕入れ先が倒産した |
使用材料の変更、外注先の変更 |
受注数を増やすために現状の製造ラインでは対応できなくなった |
製造ラインの変更、使用している設備の変更 |
自動車の製造には2万から3万点にもおよぶ部品が関わってきます。そのため1つの部品の小さな変更であっても承認ステップを踏んでおかないと、自動車として最終的に組み上げたときの品質ばらつきにつながりかねません。
このように製品全体の品質を確保するために、部品の製造に関わる変更が発生した場合には自動車メーカーにPPAPと同様の対応が求められるのです。
PPAPで求められる書類は全部で18種類あります。具体的には以下のとおりです。
No. |
書類 |
① |
設計文書 |
② |
承認された設計変更文書 |
③ |
顧客の設計承認 |
④ |
設計FMEA |
⑤ |
工程フロー図 |
⑥ |
工程FMEA |
⑦ |
コントロールプラン(CP) |
⑧ |
測定システム解析(MSA) |
⑨ |
寸法測定結果 |
⑩ |
材料記録および性能試験結果 |
⑪ |
初期工程調査 |
⑫ |
試験所の有資格文書 |
⑬ |
外観承認報告書 |
⑭ |
顧客評価用サンプル |
⑮ |
マスターサンプル |
⑯ |
検査工具 |
⑰ |
顧客固有要求事項(CSR) |
⑱ |
部品提出保証書(PSW) |
種類だけでなく求められる内容も多いので、PPAPまでに計画的に準備を進める必要があります。これらの書類を揃えていないと部品の納入を認めてもらえないので、一つひとつ自動車メーカーの要求を満たしているかチェックしておきましょう。
ここでは先ほど紹介した18の書類を順番に解説していきます。具体例として、自動車の開発時を例にそれぞれの書類が果たす役割を紹介します。
①設計文書:製品の設計要件が記載された仕様書や図面を指します。自動車の部品であれば、どのような形をしているか、各要件を満たすようにできているかなどを検証した記録が記載されています。
②承認された設計変更文書:既存の設計に対する変更点とその理由や影響を示した記録が該当します。例えば、耐久性を上げるために形を変更したり、寸法を大きくしたりする場合に設計変更の履歴を残しておくのです。
③顧客の設計承認:顧客が設計内容を確認し、承認したことを示す文書です。自動車部品を例にすると、製造した部品を自動車メーカーにレビューして、求められている要求を満たしていることが確認できたときにサインをもらうイメージです。
④設計FMEA:設計段階での潜在的な不具合とその影響、発生の可能性などを分析したFMEAを指します。サプライヤーが製造する部品に対して、量産に移行した際に不具合が起きないように事前に検証しているかをここで確認します。
⑤工程フロー図:製品の製造工程を視覚的に表した図です。板金、塗装、仕上げなどの各工程の概要が記載されており、製造ラインでの品質管理をしやすくするために用いられます。
⑥工程FMEA:製造工程における潜在的な不具合とその影響、発生の可能性などを分析したFMEAを指します。製造ラインでおこなわれる作業を抽出し、それぞれの作業で起こりうるミスや故障にもとづいて故障モードを洗い出して対策を講じます。
⑦コントロールプラン(CP):製品の材料購入から製造工程、検査、出荷までのすべての段階における品質管理を記した計画書です。具体的には、自動車部品の検査項目や試験方法、サンプリング基準などが記載されており、この計画書を見れば自動車メーカーの要求を満たせる部品が作れるかどうかが分かります。
⑧測定システム解析(MSA):測定器の精度や再現性を評価した書類です。校正だけでは分からないそれぞれの計測機器のばらつきを把握するためにおこない、製品が狙い通りの品質を確保できるか分析した結果がまとめられています。
⑨寸法測定結果:製品の寸法を測定した結果を指します。自動車部品であれば、設計図面に記載されている寸法とできあがった部品の寸法が一致しているかを確認した結果です。測定結果以外にも測定機器の記録や寸法検査の合否判定も記載されています。
⑩材料記録および性能試験結果:使用する原材料の特性評価や製品の性能試験結果が記録された書類です。材料記録は、危険な物質が使われていないか確認した結果を材料メーカーから証明してもらいます。また性能試験結果は、耐久性などに関する試験をおこない指定された性能基準を満たしているかを記録したものを指します。
⑪初期工程調査:量産化に向けた工程や設備の検討結果が記載されたものです。具体的には、部品を製造する工程の能力(初期工程能力Cpk、または初期工程性能Ppk)が自動車メーカー指定の数値を満たしているか調査が必要です。Cpk(Ppk)が1.67に満たない場合は工程のばらつきが大きいと判断され、PPAPを提出する前までにどのような改善処置をおこなうか自動車メーカーに計画書を提出する必要があります。
工程能力 |
合否 |
処置 |
Cpk(Ppk) > 1.67 |
合格 |
量産可能 |
1.33 ≦ Cpk(Ppk) ≦ 1.67 |
条件付き合格 |
改善検討(受け入れ可能) |
Cpk(Ppk) < 1.33 |
不合格 |
量産不可能 |
⑫試験所の有資格文書:製品の試験を実施する試験所の資格や能力を示す書類です。自動車部品であれば、耐久試験や落下試験をおこなう試験所の名称や住所、試験実績などが記されています。試験所から書類を入手した際は、認定機関のマーク「ilac-MRA」が載っているか確認しましょう。
⑬外観承認報告書:製品の外観に関する要求事項を満たしているか確認し、承認してもらう報告書です。自動車部品であれば、色や質感、光沢などの視覚的情報をまとめたもので、写真や具体的な説明を含んでいる場合が多いといわれています。また、自動車メーカーが実際に外観を確認できるようにサンプルとともに提出するのが一般的です。
⑭顧客評価用サンプル:顧客が製品の評価や承認を行うために、サプライヤーが提出するサンプルを指します。実際に製造ラインで生産した製品と同等の品質であることが求められ、顧客である自動車メーカーがサンプルを検証して承認するか判断します。また、サンプルを承認するかどうかを記した「承認レポート」を取り交わす場合が多いです。
⑮マスターサンプル:量産時の製品と同一の製造ラインで作られた基準となるサンプルです。このマスターサンプルは初期段階で作られた製品で、ほかの製品との比較用に使われたり、目視での評価に使用されたりします。通常は、顧客である自動車メーカーには提出せずにサプライヤーで保管しておきます。
⑯検査工具:製造ラインでの検査に使用する治具や測定器具などの工具一式のチェックリストです。具体的には、ゲージやノギス、顕微鏡など製品の寸法や形状を測定するために用いられるものが含まれます。また、製品が設計通りに出来上がっているか確認するために、工具に関する校正記録も重要とされています。
⑰顧客固有要求事項(CSR):顧客から指定された独自の要求事項をまとめた文書です。一般的にはCSR(Customer Specific Requirements)と呼ばれ、自動車メーカーと部品メーカーとの間で取り交わされる内容になります。具体的には、製品の仕様や試験方法、検査手順など多岐にわたり、自動車メーカーが目指す方向性によっても要求事項の内容は変わります。
⑱部品提出保証書(PSW):提出する部品が要求された仕様を満たしていることを保証する書類です。一般的にはPSW(Part Submission Warrant)と呼ばれ、PPAPで提出する書類一式の表紙を指します。PSWに記載されている項目はおもに以下のとおりです。
- 図面番号、改訂番号
- 部品番号、部品名称
- 顧客名、住所
- 自社の名称、住所
- 材料や部品の試験結果、検査結果
- PPAPの提出レベル
- 顧客からの承認記録
ここまで解説したようにPPAPには対象となる書類が大量にあり、新しい製品を開発するたびにすべての書類を準備するのは大変です。そのため、PPAPには提出する書類を簡素化する制度(提出レベル)が設定されています。提出レベルには5段階の区分けがあり、レベルによって提出する必要のある書類が変わります。
要求事項に対する提出レベルに関しては、基本的に顧客側が決めます。例えば、部品メーカー(サプライヤー)が作る部品の提出レベルは自動車メーカー(顧客)が決めるイメージです。また、顧客側から指定のない場合は一番厳しい「レベル3の提出レベルを標準」として適用します。
PPAPの提出レベルの具体的な内容は以下の表のとおりです。
レベル |
提出内容 |
レベル1 |
⑱部品提出保証書(PSW)のみ提出(該当する場合は⑬外観承認報告書も) |
レベル2 |
⑱+⑭製品サンプル+一部の書類を提出 |
レベル3 |
①~⑱のすべての書類を提出 |
レベル4 |
⑱+顧客から指定された書類を提出 |
レベル5 |
①~⑱のすべての書類を自社で保管+工程監査で確認 |
レベル1は要求される書類が最も少なく、PPAPの表紙にあたる部品提出保証書(PSW)のみで問題ありません。製品によってはデザインに必要な外観仕様が満たされているか確認した外観承認保証書の提出が必要な場合もあります。
レベル2になると部品提出保証書(PSW)以外に製品のサンプルの提出が基本となります。また、ほかにも顧客から要求された一部の書類についても提出します。部品の仕様を少し変更するぐらいの改修であれば、レベル2の内容で問題ない場合が多いです。
レベル3はPPAPで必要な18種類すべての書類の提出を求められるので、提出レベルとしては最も厳しいものになります。新規で製品を開発して量産する前の段階では、レベル3の書類提出を求められる場合がほとんどです。
レベル4は部品提出保証書(PSW)以外の提出書類を顧客と調整して決めます。提出する書類が多いと、サプライヤーだけでなく顧客の確認作業に時間がかかってしまいます。そのため、お互いの確認工数を削減するためにも、確認に必要な書類をピックアップして提出してもらうイメージです。
レベル5は他のレベルと少し異なり、18の書類すべてをサプライヤーで保管しておき監査で確認されてもよい状態にしておく必要があります。書類の提出が必要ないかわりに現地で部品の監査をされる可能性があるので、準備は万全にしておきましょう。
各提出レベルのイメージ図を作成すると、以下のとおりです。
▶ PPAPに必要な書類の詳細と元自動車メーカーの技術開発職が解説した記事は以下からご覧いただけます。
PPAPの5つの提出レベルとは?標準レベルや書類の詳細を解説
PPAPは自動車メーカーとサプライヤーの間で取り交わされる製品に関する契約書のようなものです。
提出するべき書類は18種類とかなりの量がありますが、どれも品質を確保するために重要なものなので計画的に準備しましょう。