QCDSとは、製造業をはじめとして幅広い業界で使用されている製品を評価する際の指標です。QCDSの改善に取り組むことで、顧客満足度の向上やコストの削減、生産性工場などにつなげられます。
この記事では、現場の改善を求められている方や新しく製造業に入ってきてQCDSを初めて耳にした方などに向けて、QCDSの概要と改善する際の優先度や具体的な方法を解説します。
QCDSとは、「Quality(品質)」と「Cost(品質)」、「Delivery(納期)」、「Service(サービス)/Safety(安全性)」の頭文字をとった、製品を評価するための指標です。QCDSの4つの要素の詳細は以下の通りです。
QCDSの各要素 |
詳細 |
Quality(クオリティ) |
・顧客が求める製品の品質 ・商品のクオリティが担保されているかを判断するための指標 |
Cost(コスト) |
・製品の製造にかかるコストや販売価格 ・コストや価格が適正であるかを判断するための指標 |
Delivery(デリバリー) |
・製品の納期 ・納期を守れているか判断するための指標 |
Service(サービス) |
・顧客に対するサービスやサポート ・サービス体制の充実度を判断するための指標 |
Safety(安全性) |
・従業員が働く現場の安全確保 ・製造業で従業員が安全に働けているかを判断するための指標 |
QCDSの詳細
QCDSは、製造業の現場で使われていた「QCD」の派生形で、近年、サービス/安全性の重要性がどの業界でも高まった結果「QCDS」になりました。
QCDSの4つの観点から普段の業務を振り返ることで、漏れなく改善点を見つけられます。この点は、業務に取り組む上で非常に重要なポイントです。
例えば、Qualityの場合、商品品質が低下すると顧客からの評価も下がってしまうため、継続的な購入や契約の更新をしてもらうために品質の維持ができているかや、向上させるためには何ができるかを考えなければいけません。取引を長く続けるためにも、振り返ることは重要です。
また、Costは、競合他社との価格競争に影響を与えます。ただし安すぎると品質面で不安に感じる顧客もいるのも事実です。Costは、自社製品の適正価格を保ちつつ、売り上げの維持・向上ができる範囲で考えます。そのために、競合他社の価格の調査・把握、原材料の調達先の見直しなどによるコスト削減などに取り組む必要があります。
Delivery(納期)を守ることは、取引先や関連企業からの信頼を維持・向上につながります。納期に遅れてしまうと、取引先からの信頼を失うほか、業務に関連するその他の企業にも悪影響を及ぼしてしまうでしょう。場合によっては取引中止など、自社にとってネガティブな結果を招くこともあります。これらの点から、納期の遵守に向けて、適切な生産計画を立案することに取り組む必要があります。
Service(顧客に対するサポート)が充実して入れば、商品価値+αの魅力ができ、競合他社との差別化につながります。そういった意味でServiceは、顧客獲得や顧客満足度の向上を目的としていると言えます。そのため、Serviceの目的を達成するためには、顧客へのアンケートや来客数の分析などを通して、顧客が自社に何を求めているのか、どういった点が評価されているのか、何が足りていないのかなど、現状を分析し、改善に取り組むことが大切です。
なお、QCDSのSに関しては、業界によって「サービス(Service)」を使用するケースもあれば、「安全性(Safety)」の意味で使用するケースもあるため、使い分ける必要があります。
例えば、製造業では、製造工程で挟まれや巻き込まれが発生する危険性があります。それが起こると従業員の怪我や製造工程の一時中断による作業の遅れが発生し、納期にも影響する可能性があることからSafetyが重要視されます。
一方の飲食業は、顧客が満足するようなサービスを提供することで、リピーターや自店のファンになってもらえる可能性が高まります。そうなれば、売り上げアップも期待できることから、Serviceが欠かせません。
製造業におけるSafetyとサービス業におけるServiceの具体例は以下の通りです。
業界ごとの「S」 |
具体的にできること |
製造業におけるS(Safety) |
・自動車に安全装置を設置する ・食品の添加物に関する情報を開示する ・化学物質を取り扱う際に安全対策を講じる ・医薬品を正しく投与する ・作業員がヘルメットを着用する |
サービス業におけるS(Service) |
・製品の不具合に速やかに対応する ・使用方法に関する問い合わせに対応する ・時間通りに出発・到着する ・清潔さを保つ ・スタッフは丁寧に対応する ・料理を提供するまでの時間を短くする |
業界ごとの「S(Safety/Service)」の詳細
QCDSごとに自社の業務を振り返ることで、価値の高い製品やサービスを提供できるようになります。
QCDSはQCDの派生語ですが、それ以外にも、QCDFやQCDR、QCDSM、QCDSEなどQCDから派生した用語が各業界で存在しています。各派生語の要素と概要は以下の通りです。
用語 |
追加された要素 |
業界 |
詳細 |
QCDF |
Flexibility (柔軟性) |
サービス業 |
・顧客からのニーズや仕様変更などの要望に対して柔軟に対応すること ・ただし、全てに対応することは難しいため、ときには断ることも必要 |
QCDR |
Risk (リスク) |
製造業 |
・トラブルが起こるとQCDに影響が出るため、発生させないようにリスクを減らす・なくすこと ・また、トラブルが発生した際に備えた対策を検討すること |
QCDSM |
Morale (士気) |
業界問わず |
・士気(モチベーション)が高まると、積極的に仕事に取り組み、生産性工場につながる |
QCDSE |
Environment (環境) |
建設業 |
・安全に仕事に取り組むために、危険のない環境を整備すること ・5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)に取り組むことなど |
QCDSの派生用語
どの派生語もQualityとCost、Deliveryがベースとなっており、そこにそれぞれの業界で重視されている要素が加えられています。
QCDSは、基本的にQ(クオリティ)、C(コスト)、D(デリバリー)、S(セーフティー/サービス)の順で改善します。
QCDSは、「クオリティの高い商品(Q)」を「できるだけコストを抑えて(C)」「短納期で製造し(D)」「購入後のサポートを丁寧に行う/安全性の確保にも務める(S)」という顧客のニーズに応じた並びとなっているため、順番通りに取り組めば問題ありません。
クオリティの高い商品であれば、コストが多少高くても顧客は満足してくれるでしょう。同じように、クオリティを確保するために納期までに時間がかかるということであれば、顧客はそれを受け入れてくれると考えられます。
逆に、いくら安くても、いくら短納期でも商品の品質が悪ければ、顧客は購入してくれないと思います。
ただし、顧客のニーズに合わせて柔軟な対応をすべきケースもあるため注意してください。例えば、コストが高くなったとしても、短納期を希望する顧客などが考えられます。Q→C→D→Sの順番を基本としながらも、ニーズを確認し柔軟に対応することが大切です。
ここからは、QCDSの各要素を改善する具体的な方法を紹介します。取り上げる改善方法のポイントは以下にまとめました。詳細もそれぞれ記載したので、参考にしてみてください。です。
各要素 |
具体的な改善方法 |
Quality |
・4M(「Man(人)」、「Machine(機械)」、「Material(材料)」、「Method(方法)」)を確認し、不備がある場合は改善を図る ・作業担当者のスキルは十分か、設備が故障していないかといった、品質に関わる項目を把握することで、改善するべきポイントを把握する |
Cost |
・生産プロセスの見直しによる無駄の削減や原材料、部品コストの見直しなどに取り組み、過度な発注や生産を避けることで余計なコストを削減する |
Delivery |
・生産工程を全て洗い出した上で、無駄な作業が発生していないか確認し、必要に応じて作業工程を変更する ・在庫数を把握することで、在庫不足のリスクを回避し、必要なタイミングで必要な量を納品できるようにする |
Service |
・FAQの充実やサポート体制の強化を図る ・サービス品質向上を目的とした、従業員研修を実施することや顧客からのフィードバックの共有なども効果的 |
QCDSの具体的な改善方法
Quality(品質)を改善する目的は、顧客満足度の向上や製品・サービスの価値の向上にあります。改善に取り組むことで、満足向上によるリピートや口コミの増加、競争力の高まり、不良品の減少に伴う生産性の向上などが期待できるでしょう。
具体的な改善方法としては、4Mを使った課題の洗い出し、PDCAサイクルの継続によるプロセスの変更、従業員教育、顧客アンケートやフィードバックを受けての見直しと改善、品質保証体制の強化などが挙げられます。
4Mとは「Man(人)とMachine(機械)、Material(材料)、Method(方法)4つのMから成り立ち、製品の品質を決める大事な要素です。製造業の場合、これら4つのMの見える化で、生産工程の適切な管理が可能となり、結果的に商品の品質向上にもつながります。
例えば、商品の製造を担当する人の条件を明確にする、製造する機械の固定化、材料の見直しと指定、手順の確立などが挙げられるでしょう。
次に4Mをベースに、PDCAサイクルによる継続的な改善に取り組みましょう。PDCAとは、「Plan(計画)」と「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Action(改善)」の4つのプロセスを繰り返し行うことで、業務の改善を図るフレームワークです。
例えば、生産工程の見直しをした場合でも、それの評価を行い、さらなる改善に取り組むことで、品質をより高められます。また、生産工程を見直したことで新しい課題が発生している可能性もあります。
改善のための計画を立てる際や評価をする際には、顧客からのフィードバックや従業員が実際に取り組んでみてどのように感じたのかといった情報も取り入れることが大切です。
Cost(価格)を改善する目的は、価格での競争力を強めることや収益性を高めることです。改善に取り組むことで、削減したコストを付加価値向上につなげられます。また、持続的な成長のための投資に当てることもできるでしょう。
具体的な改善方法としては、生産プロセスの見直しによるムダの削減や原材料や部品コストの見直しがあげられます。さらに、在庫管理を通して過度な発注を避けることやメンテナンスで故障や停止時間を減らすこと、固定費の削減なども効果的です。
特にどの製造現場でも取り組むべきなのが、生産プロセスの見直しです。「長年この方法でやってきたから」という理由でその製造方法に取り組んでいる場合、ムダが発生している可能性があります。一度全ての工程を洗い出し、ムダが無いかチェックしてみてください。
また、原材料費や部品コストが高いと製品価格も高くなってしまうため注意が必要です。昨今では社会情勢の影響もあり、原材料費や部品コストが高くなっています。必要に応じて調達先の変更を検討するなどしましょう。
そのほかにも、過剰在庫による管理コストの増大を回避することや製造設備を定期的にメンテナンスすることで故障を回避するといったこともポイントとなります。
Delivery(納期)を改善する目的は、迅速に顧客へ届けることによる満足度の向上や・信頼関係の構築、生産計画の効率化などが挙げられます。また、改善に取り組むことで、満足向上によるリピートや口コミの増加、競争力の高まり、不良品の減少による生産性の向上などが期待できるでしょう。
具体的な改善方法としては、生産プロセスの管理や在庫管理、サプライチェーンとの連携、技術革新の活用などが挙げられます。
製品の製造から出荷に至るプロセスを見直すことで作業を短縮できる箇所が見つかるかもしれません。また、納期に送れないようにするためには、トラブルの発生も想定した上で生産計画を立てることが大切です。
納期を短く設定するあまり、作業が追いつかず、納期に遅れてしまうと顧客からの印象が悪くなります。納期までの期間が多少長くなっても確実に納期までに納品する方が顧客からの信頼獲得につながるでしょう。過去のトラブル履歴などを踏まえたうえで余裕のある生産計画を立ててください。
また、在庫を多めに確保しておくことで、スムーズな納品ができるでしょう。ただし、過剰在庫にならないよう過去の受注数などを確認してください。
その他にも、サプライチェーンの連携強化もDeliveryの改善につながります。例えば、サプライチェーン間で共通の情報システムを導入し、部品や製品の流れを共有することで、全体の最適化が可能となり納期短縮につながるかもしれません。
サービス(Service)を改善する目的としては、顧客満足度・顧客ロイヤリティの向上や新規顧客獲得のハードルを下げることなどが挙げられます。改善に取り組むことで、顧客のリピートや口コミの増加、企業イメージの向上が期待できるでしょう。
具体的な改善方法としては、FAQの充実やサポート体制の強化、サービス品質向上のための研修の実施、顧客からのフィードバックから改善、付加価値の提供などがあげられます。
過去の事例から、顧客が何を求めているのか、何を知りたがっているのかといった情報をまとめ、FAQの充実を図りましょう。オンライン上でFAQを確認するだけで顧客の課題を解決できれば、顧客にとってもサービス事業者にとっても手間がかかりません。
FAQだけでは課題を解決できない可能性もあるため、サポート体制も合わせて強化しておきましょう。電話やメールなど、複数の問い合わせ先があると、顧客のニーズに応じた選択が可能となります。
スタッフの振る舞いや態度がサービスの質を大きく左右することから、スタッフ育成に注力することも大切です。一定以上の質を確保するために、マニュアルを用意しておいてもいいでしょう。
ただし、サービスの改善にコストをかけたために、商品の品質が低下する、納期に遅れてしまうといった事態にならないように注意してください。あくまでも最優先するべきなのは品質です。
安全性(Safety)を改善する目的は、従業員の安全確保や顧客への安心感の付与、法令遵守による社会的信用・信頼の確保などです。改善に取り組むことで、業務効率化や信用信頼獲得による継続的な購入・利用が期待できるでしょう。
具体的な改善方法としては、5Sを用いた作業環境の整備や従業員向けの研修、生産プロセスの記録・データ化、ISO45001などの安全管理システムの導入、IoT活用における業務管理などがあげられます。
特にどの製造現場でも取り入れられ、おすすめなのが5Sの活用です。5Sとは、整理と整頓、清掃、清潔、しつけという5つの活動を指します。
例えば、整理では、製造現場のものを仕分けして不要なものを処分します。これにより、製造工程がよりスムーズになるかもしれません。
また、整頓では道具を使いやすいように配置することを意味します。清掃は、製造現場のゴミを取り除いたり、機械の汚れを落としたりすることです。清潔は、整理・整頓・清掃が行き届いた状態をキープすることで、しつけは、整理・整頓・清掃・清潔を習慣にすることを意味します。基本的な部分ですが、5Sを徹底することで、安全確保・業務効率化にもつながるでしょう。
その他にも、昨今ではIoTを活用した業務管理が少なくありません。例えば、工場の製造ラインにセンサーやカメラを設置することで製造データの収集が可能となり、そこから改善点を見出すことができるでしょう。
QCDSは、製品を評価する際の指標として使われるもので、「品質」と「コスト」、「納期」、「サービス/安全性」を意味しています。QCDSのフレームワークを活用することによって、漏れなく現場の改善点を見つけられるでしょう。
QCDSの改善に取り組む際は、まず品質が最優先です。低コストや短納期を実現しても製品の品質が悪ければ、顧客からの評価が下がる恐れがあるため、品質改善から優先して取り組んでください。
QCDSの各要素の改善する方法は、品質は、4MやPDCAなどのフレームワークの活用によるプロセスの見直し、価格なら原材料コストの見直しや機械の定期的メンテナンスが挙げられます。方法は1つではないため、自社に合ったものを選んで取り組んでみてください。