品質保証体系図は、企業の品質管理の要となる重要なものです。ISOの認証取得を目指す企業や、社内の品質管理体制を見直したい方にとって、品質保証体系図の作成と活用は避けて通れません。
品質保証体系図とは、組織内のどの部門がどのような役割を担い、どのようなプロセスで業務を遂行しているかを体系的に示したものを指します。ISO9001とも相互に補完し合う関係にあり、組織の品質管理システムを効果的に構築・運用するために役立ちます。その活用方法は多岐にわたり、組織全体の品質管理体制の把握や業務理解の促進、ISO9001認証取得・維持の支援などに大きく貢献します。
本記事では、品質保証体系図の作成方法やポイント、効果的な活用法について、実務的な観点から解説します。単に品質保証体系図が何かを説明するだけでなく、どうやって作り、活用するかに重点を置いて紹介します。品質保証体系図の作成に不安を感じている方、より効果的な品質管理体制の構築を目指している方にとって、本記事が実践的なガイドとなれば幸いです。
品質保証体系図とは、製品やサービスの品質を保証するために、組織内の部門ごとの役割を、業務ごとに分けて図で表したものです。企業の品質管理活動全体を一目で把握できるように、縦軸に業務プロセス、横軸に部門名を配置し、その中に具体的な作業内容や責任範囲を記載し、それぞれの関係性を矢印で繋ぎ、全体の流れを視覚的に表現します。
以下は、食品製造業と機械製造業、宿泊・ホテル業の品質保証体系図の例です。
品質保証体系図の主な目的は以下の通りです。
品質保証体系図は、組織全体の品質管理プロセスを明確化し効率的な運用を支援するとともに、各部門の役割と相互関係を示すことで従業員の業務理解を深めます。さらに、品質管理システムの全体像を可視化することで、監査プロセスをスムーズに進行させ、現状の体制における改善点の特定と実施を容易にします。
品質保証体系図を作成する際は、、各業界特有のプロセスと品質管理ポイントを反映します。実際に作成する際は、自社の特性や規模に合わせてカスタマイズしましょう。
ISO9001と品質保証体系図は、組織の品質管理システムを効果的に構築・運用するために密接に関連し、相互に補完し合う関係にあります。
ISO9001が、品質マネジメントシステムの国際規格として全体的な要求事項を定義するのに対し、品質保証体系図は、その要求事項を組織固有のプロセスとして具体化し、可視化します。
ISO9001は、組織が顧客満足を向上させ、継続的な改善を実現するための包括的なフレームワークを示しています。一方、品質保証体系図は、ISO9001のフレームワークを組織の実際の業務プロセスに落とし込み、各部門の役割や責任、プロセス間の相互関係を明確に示すので、ISO9001の要求事項を実践的に実装するための手段として機能します。
つまり、ISO9001が「何を」達成すべきかを規定し、品質保証体系図が「どのように」それを実現するかを示します。
以下の表は、ISO9001の主要要求事項と品質保証体系図の関連性を示しています。
ISO 9001 要求事項 |
品質保証体系図での表現 |
4. 組織の状況 |
組織全体の構造と各部門の位置づけを図示 |
5. リーダーシップ |
トップマネジメントの役割と責任を明確化 |
6. 計画 |
品質目標達成のためのプロセスフローを表示 |
7. 支援 |
必要なリソースと支援プロセスを図示 |
8. 運用 |
製品・サービス提供の主要プロセスを詳細に図示 |
9. パフォーマンス評価 |
監視、測定、分析、評価のプロセスを含める |
10. 改善 |
継続的改善のフィードバックループを表現 |
表からもわかる通り、品質保証体系図はISO9001の各要求事項を組織の実際の業務フローとして可視化し、具体化しています。これにより、組織メンバーは品質マネジメントシステムの全体像を理解し、自身の役割と責任を明確に把握できます。
また、品質保証体系図を作成・更新するプロセス自体が、ISO9001が要求する「プロセスアプローチ」の実践となります。組織は体系図を通じてプロセス間の相互関係を明確にし、継続的な改善につなげられます。このように、ISO9001と品質保証体系図は、組織の品質マネジメントシステムを構築・運用する上で相互に補完し合う重要なものです。
品質保証体系図とQC工程表は、品質管理において重要な役割を果たすものですが、その性質と用途は異なります。
品質保証体系図は、組織全体の品質管理システムを視覚的に表現し、各部門の役割と責任、相互関係を示すものです。一般的には抽象的な視点から品質管理体制を書き出し、ISO9001などの品質マネジメントシステム規格との適合性を示すのに適しています。
一方、QC工程表は特定の製品や工程に焦点を当てた、より詳細な品質管理計画のことです。製造工程の各段階における具体的な品質管理活動を時系列で示し、品質特性、管理項目、検査方法、判定基準などを具体的に記載します。現場レベルでの品質管理活動の指針として機能し、製造ラインや個別のプロジェクトでの具体的な品質管理を実践するのに役立ちます。
このような違いから、両者は目的に応じて使い分けられます。品質保証体系図は組織全体の品質管理体制の把握や経営層・管理職向けの説明に適しており、組織変更時に更新されることが多いです。一方で、QC工程表は個別の製品や工程の品質管理に用いられ、現場の作業者向けのガイドラインとして製品や工程の変更時に更新されます。
新しい品質管理システムの構築時には、まず品質保証体系図で全体像を把握し、その後個別の製品ラインごとにQC工程表を作成して具体的な品質管理活動を計画するといった使い分けが効果的です。
また品質保証体系図で示された各プロセスの詳細をQC工程表で具体化するなど、両者を連携させることで、より包括的で効果的な品質管理システムを構築できます。
このように品質保証体系図とQC工程表は組織の品質管理活動を異なる視点からサポートする重要なツールとして、目的や状況に応じて適切に活用していきましょう。
品質保証体系図の作成は、組織の品質管理プロセスを可視化するために非常に重要です。機械製造業の例を基に品質保証体系図の作成方法を説明します。
まず、組織の主要な業務と部門を特定します。機械製造業の場合、縦軸に「企画」、「開発」、「製造」、「検査」、「販売」といった業務を、横軸に「営業部」、「開発部」、「製造部」、「品質保証部」などの部門を配置します。
次に、各業務段階における主要なプロセスを特定します。市場調査や企画立案から始まり、仕様検討や試作、量産、出荷前検査などが挙げられます。
プロセスをピックアップしたら関連する部門に割り当てます。割り振る部門が複数にまたがっても構いません。
最後に、細かいプロセス同士を製品・サービスが出来上がる流れに沿って矢印で表現します。製品・サービスが完成するまでの一連の流れを示すことが重要です。
市場調査 → 企画立案 → 仕様検討 → 生産検討 → 試作 → 部品調達 → 量産 → 出荷前検査 → 販売 → クレーム対応
この作成プロセスを通じて、組織の品質管理システムの全体像が明確になり、各部門の役割や責任、プロセス間の関連性が可視化されます。結果として、効果的な品質管理体制の構築と、ISO9001などの品質マネジメントシステム規格への適合が容易になります。
品質保証体系図の活用方法は多岐にわたり、組織の品質管理の効率化と改善に大きく貢献します。ここでは、主要な目的に沿った具体的な活用方法をまとめました。
上記の活用方法を組み合わせることで、品質保証体系図は単なる図表以上の価値を持つ戦略的ツールとなります。
品質保証体系図を用いることで、組織全体の品質管理プロセスを俯瞰的に見られるようになります。結果として、プロセス間の関連性や潜在的な問題点を特定し、改善の可能性が見つかります。
また定期的なレビューを通じて、不要なプロセスの削除や効率化の余地がある部分を抽出し、継続的な改善につなげられます。
新入社員のオリエンテーションや、部門間の業務理解促進に活用できます。品質保証体系図を用いることで自部門の役割だけでなく、他部門との関連性や全体の中での位置づけを視覚的に理解させることが可能です。
部門間の関連性がわかりやすく表現されているので従業員の業務への理解が深まり、責任感と協働意識が高まります。
ISO9001の要求事項と組織の実際の業務プロセスとの対応関係を明確に示せます。審査の際には、品質マネジメントシステムの全体像を効果的に説明するツールとしても活用できます。また規格要求事項との整合性をチェックする際にも役立ちます。
▶ ISO9001とは?認証取得までの流れを簡単にわかりやすく解説
品質保証体系図の分析により、品質リスクが高い箇所やプロセス間の弱点を特定できます。これにより、重点的に監視すべき領域や改善が必要な部分が明確になります。結果として、予防的な措置を効果的に講じ、品質問題の発生を未然に防ぐことが可能です。
品質保証体系図を基に、各プロセスの標準作業手順書(SOP)を整備できます。作業手順書を作成することで業務の一貫性が確保でき、作業効率が向上するとともに品質のばらつきの低減につながります。標準化された業務プロセスは品質管理の基盤となり、継続的な改善活動を支援してくれます。
この記事では、品質保証体系図の重要性、作成方法、および効果的な活用方法について詳しく解説しました。品質保証体系図は、組織の品質管理システム全体を可視化し、各部門の役割と責任、プロセス間の関連性を明確に示す強力なツールです。ISO9001の要求事項との整合性を図りつつ、組織固有の品質管理プロセスを具体化することで、効果的な品質保証体制の構築に役立ちます。
品質保証体系図はあくまで組織の品質管理活動を可視化し、改善の機会を特定するためのツールに過ぎません。真の価値は、この図を基に実際の業務プロセスを継続的に見直し、改善していく実践にあります。体系図に示されたプロセスと現場の実態を常に照らし合わせ、ギャップがあれば積極的に修正を加え、より効果的な品質管理体制を追求していくことが重要です。
またISOやその他の品質関連認証の取得・維持においても、適切に整備された品質保証体系図は大きな役割を果たします。認証審査の際に組織の品質管理システムを明確に示すことができるだけでなく、規格要求事項との整合性を効率的にチェックし、必要な改善を行うための基盤となります。
品質保証体系図の作成と継続的な更新は単なる形式的な作業ではなく、組織の競争力向上と持続的な成長を支える重要な取り組みと言えるでしょう。品質保証体系図を効果的に活用し、常に改善を重ねていくことで、顧客満足度の向上、業務効率の改善、そして組織全体の品質文化の醸成につなげていきましょう。