ISO9001とは?認証取得までの流れを簡単にわかりやすく解説
食品製造業
2020.11.30
2024.07.30更新
ISO9001とは、企業が提供する製品やサービスの品質を高めて、顧客満足度を向上させることを目的とした国際規格です。業務効率化や取引先の拡大などのメリットもあるため、ISO9001認証をすでに取得している企業、また取得を検討している企業は少なくありません。
認証取得には、ISO9001の要求事項に沿って品質マネジメントシステムを構築・運用することが求められます。従業員の協力が不可欠であるため、組織全体で団結してISO9001認証の取得を目指しましょう。
この記事では、ISO9001とは何かを説明し、ISO9001認証を取得するメリットと取得までの流れを解説します。認証取得を検討している企業の管理者の方は、ぜひ参考にしてください。
ISO9001とは
ISO9001(International Organization for Standardization 9001:国際標準化機構 9001)とは、品質マネジメントシステム(製品・サービスの品質を継続的に向上させるための仕組み)に関する国際規格で、一貫した製品・サービスの提供と顧客満足の向上を目的とし、世界170カ国以上で利用されています。
ISO9001は公開されている要求事項を満たし、それらを認証機関に認めてもらえれば、認証を取得できます。ISO9001認証は業種や業態を問わず、あらゆる組織に与えられるものです。そのため、各業界で固有の要素について要求事項を追加した規格も存在します。具体的には、自動車業界向けのIATF16949、医療機器に関するISO13485などが活用されています。
ISO9001の内容は定期的に見直されており、現時点(2024年時点)での最新版は2015年に改訂された「ISO9001:2015」です。さらに同じISOでも、食品安全マネジメントを取り扱うISO22000や、労働安全衛生マネジメントシステムをテーマとしたISO45001なども規定されています。
ISO9001は、適用範囲/引用規格/用語及び定義/組織の状況/リーダーシップ/計画/支援/運用/パフォーマンス評価/改善で構成されており、組織の状況以降は次のようにPDCAに分けられます。
規格要求事項 |
説明 |
|
P(Plan:計画) |
組織の状況 |
組織の現状や利害関係者のニーズなどを把握し、ISO9001の適用範囲を決定して、品質マネジメントシステムの組織体制を構築 |
リーダーシップ |
各役割の責任や権限を明確にして、組織全員が積極的に活動に取り組める環境を整える |
|
計画 |
どのようなリスクや機会があるか、それらをどのように分析し、評価するかを計画 |
|
支援 |
品質マネジメントシステムの運用に必要な支援体制を整える |
|
D(Do:実行) |
運用 |
計画の手順を整え、実施 |
C(Check:評価) |
パフォーマンス評価 |
顧客の評価、内部監査、マネジメントレビューにより、計画・運用したマネジメントシステムを評価 |
A(Act:改善) |
改善 |
不適合(要求事項を満たしていない状態)の原因を除去し、再発防止の処置を施す |
上記のPDCAサイクルを回すことで、ISO9001の目的である顧客満足の向上を目指します。
なお、ISO9001に関わる組織には認定機関と認証機関が存在しますが、これらは別物です。認定機関とは、認証機関がISOの審査を行うことを許可する、ISO本部に認められた組織を指します。基本的に各国に1機関が置かれていますが、日本にはJAB(日本適合性認定協会)とISMS-AC(情報マネジメントシステム認定センター)の2つがあります。
認証機関とは、JABやISMS-ACから許可を得た、組織や企業がISOに適合しているかを審査する機関のことです。日本には約50社の認証機関があります。組織や企業がISO認証を取得する際は、JABやISMS-ACなどの認定機関により評価された認証機関に依頼しましょう。
ISO9001の認証取得で得られるメリット
ISO9001認証は、国際基準のシステムが構築されている証明になるため、取得すると顧客からの信頼や評価が高まります。
企業の取引条件に認証取得が含まれるケースもあり、ビジネスチャンスが広がるメリットも期待できます。さらに認証取得の過程で作業手順が標準化されるため、業務が合理的に進むようになり、コスト削減や社員教育の円滑化にもつながるでしょう。ここからそれぞれのメリットについて詳しく解説します。
顧客満足度の向上
ISO9001認証は、品質マネジメントシステムの国際基準をクリアしている証明になるため、管理体制を適切に構築している組織として顧客からの信頼を得られます。そのため、ISO9001認証の取得は、顧客満足度の向上に寄与します。
さらにISO9001を導入するためには、品質マネジメントシステムの運用を通して業務プロセスの見直しや改善、標準化に継続的に努めなければなりません。その結果、提供する製品やサービスにバラツキがなくなり品質が向上するため、製品・サービスに対する顧客の評価が高まります。
ビジネスチャンスの拡大
ISO9001を取得すると、ビジネスチャンスが広がる可能性も高まります。なぜならISO9001認証の取得により、対外的に製品・サービスの品質向上に積極的に取り組んでいる組織であることをアピールできるからです。
さらにISO9001は国際規格であるため、国内外の企業との取引条件のひとつとして認証取得が要求されるケースも少なくありません。
たとえば、ISO9001認証の取得は公共事業の入札条件になることがあります。競争入札における審査で認証取得が加点対象になるケースもあるため、新たなビジネスの機会を得たい企業にとって取得する価値がある認証といえます。
内部プロセスの効率化
ISO9001認証は、取得に向けた取り組みを通して、業務プロセスが効率化されるため、生産性も高まります。業務プロセスを改めて見直すと、無駄な工程や人によりやり方が違う作業が浮き彫りになるでしょう。
ISO 9001では、業務プロセスや手順を文書化し、標準化することが求められるため、取得に向けた取り組み自体が、業務標準化や属人的な作業の排除、継続的改善(PDCAサイクル)に繋がります。
業務が効率化されると、コストの削減や従業員の教育や引き継ぎがスムーズになるメリットも得られるでしょう。
ISO9001を取得する流れと具体的に必要なこと
ISO9001認証の取得には、ISO9001の要求事項に沿った品質マネジメントシステムの構築・運用が求められます。プロジェクトチームが主導して組織全体で取り組み、改善を繰り返して認証審査に臨むことになります。ISO9001の認証取得では、PDCAサイクルに沿った継続的な改善が求められるので、具体的に何をすべきかを表にまとめました。
項目 |
|
P(Plan:計画) |
全社へISO9001を取る意義と目的の周知 現状分析とギャップ分析 プロジェクトチームの編成 教育とトレーニング QMS(品質マネジメントシステム)の設計・文書化 |
D(Do:実行) |
QMSの導入と運用 |
C(Check:評価) |
内部監査の実施 マネジメントレビュー |
A(Act:改善) |
是正措置の実施 |
ISO9001認証を取得するまでには早くても半年、長ければ1年以上を要します。品質マネジメントシステムの構築や運用に関するノウハウがなければ、認証取得にはかなりの時間がかかります。そのため期間の短縮を図りたい場合は、信頼できるコンサルティング会社に依頼するのも方法のひとつです。
次から、ISO9001認証を取得するまでの流れを具体的に解説します。
全社へISO9001を取る意義と目的の周知
まず初めに組織としてISO9001認証の取得を目指すことが決定したら、ISO9001を導入する意義と目的を会社全体に周知します。ISO9001認証は取得にとどまらず、継続的な運用に大きな意味があります。品質マネジメントシステムを運用し続けるためには、従業員一人ひとりの理解と協力が欠かせません。
従業員への周知が不十分であれば、品質マネジメントシステムの構築がスムーズに進まず、想定以上の手間とコスト、時間がかかる可能性があります。認証を取得できたとしても従業員の協力が得られなければ、品質マネジメントシステムの継続は難しいでしょう。
組織で一丸となり品質マネジメントシステムの構築に取り組めるように、認証取得により得られるメリットを従業員にも明確に示しましょう。
現状分析とギャップ分析
会社全体にISO9001の取得目的を周知したら、次に現行の品質管理システムを評価し、ISO9001の要求事項とのギャップを特定します。
たとえば、品質管理において責任や権限が曖昧になっている業務があれば、ISO9001の要求事項のひとつ「組織の役割、責任及び権限」とのギャップがある状態といえるでしょう。また、万が一トラブルやクレームがあった場合の対応方法に問題があれば、ISO9001の要求事項である「不適合及び是正処置」に沿って改善する必要があります。
組織の現状とISO9001の要求事項とのギャップを分析できたら、その隔たりを解消するための改善計画を立てましょう。
プロジェクトチームの編成
次のステップは、組織内に、ISO9001の導入と認証取得を推進するプロジェクトチームを結成することです。ISO9001の運用には組織全体で取り組むため、先頭に立ち組織を牽引するチームの存在は重要です。
チームメンバーが決まったら、各人員に役割や責任を振り分けます。役割には、管理責任者のほか、書類作成担当、内部監査担当、認証機関やコンサルティング会社との連絡担当などがあります。ISO9001認証取得をスムーズに進めるために、各メンバーの役割と責任を明確にしておきましょう。
教育とトレーニング
プロジェクトチームが結成できたら、次は「教育とトレーニング」です。ここでの教育とトレーニングには2つの意味があります。
ひとつは、プロジェクトチームに選ばれたメンバーに対して、ISO9001の基本概念や要求事項について学ぶ機会を与えることです。
もうひとつは、品質管理に関係する従業員に対して、品質マネジメントシステムの運用に必要な知識・能力を備えるための教育を行うことです。
この知識・能力とは、製品やサービスの提供に欠かせない製品知識や業務遂行スキルのことです。具体的な教育やトレーニングは、新人教育、OJT、資格取得のための講座受講、オンライン研修などが該当します。
ISO9001の認証取得においては、業務に必要な知識・能力を明確にして教育計画を立て、教育を実施したことを記録に残す必要があります。製品・サービスの品質向上につながる教育内容を適切に選び、従業員のスキルアップを図りましょう。
QMS(品質マネジメントシステム)の設計・文書化
従業員の教育やトレーニングを実施したら、次にISO9001に基づいて、品質マネジメントシステムの構築に必要な業務プロセスと手順を設計し、文書化します。
ここで大切なのは、ISO9001認証取得を目的とした文書化ではなく、実務で活用できる形で文書にすることです。また、従業員の間で業務プロセスや手順に統一した認識を持つためにも、文書化は必要です。具体的には、品質方針、品質目標、手順書、作業指示書などを作成します。
QMSの導入と運用
業務プロセスや手順を整理できたら、いよいよ品質マネジメントシステムを実際の業務に導入し、運用していきます。運用をはじめたら、定期的に品質マネジメントシステムの有効性を評価し、必要に応じて調整を行いましょう。
評価について、ISO9001では要求事項の一般/顧客満足/分析及び評価に基づくことが求められます。それぞれ具体的にどのような基準なのかは、以下を参考にしてください。
- 一般:評価の基準や方法を定めてデータを集めること
- 顧客満足:製品・サービスに対する顧客の意見を確認すること
- 分析及び評価:収集したデータや顧客の意見を分析して評価すること
これらの取り組みを通して、品質マネジメントシステムの有効性をチェックしましょう。
内部監査の実施
品質マネジメントシステムをある程度の期間運用したら、内部監査を実施しましょう。内部監査では、実際に運用している品質マネジメントシステムが、ISO9001の要求事項を満たしているかを自社内で確認します。
内部監査により不適合(改善が必要な項目)を指摘された場合は、是正措置を取りましょう。
マネジメントレビュー
QMSの導入と運用、内部監査を行った後にマネジメントレビューを実施します。マネジメントレビューとは、社長や部門長など組織を管理する者によって実施される品質マネジメントシステムの評価を指します。
マネジメントレビューでは、内部監査の結果や顧客からの意見などをもとに、品質マネジメントシステムのパフォーマンスを評価します。指摘事項があればマネジメントシステムの見直して、改善につなげます。
是正措置の実施
内部監査やマネジメントレビューで指摘を受けた問題に対しては、是正措置を実行します。是正措置とは、改善が必要な項目に対して原因を明らかにし、再発を防止するための対策を講じることを指します。取り組んだ是正措置については有効性を確認し、必要に応じて追加の改善を行いましょう。
たとえば、不良品が出荷されたという問題に対しては、不良品が発生した原因や出荷前に発見できなかった理由を突き止めます。そして再発防止策をまとめて具体的な手順に落とし込み、実施する流れになります。
認証機関の選定
QMSの導入と運用、内部監査、マネジメントレビュー、是正措置を行った後、ISO9001の認証を取得するために必要な第三者機関の審査を受けます。数多くの認証機関が存在するので、評判や費用、サービス内容を考慮して審査を依頼する認証機関を選びましょう。
認証機関に申し込んでから実際に審査が行われるまでに、数ヶ月かかる場合があります。品質マネジメントシステムの計画・運用と同時に認証機関の選定を進めておくとよいでしょう。
正式な認証審査
認証機関による審査は通常、2段階で行われます。第一段階審査ではマニュアルや手順書などの文書を確認し、第一段階審査をクリアすると第二段階審査の現地審査が実施される流れです。
正式な審査の前に予備審査を実施している認証機関もあります。品質マネジメントシステムの運用状況に不安がある場合は、予備審査を依頼して評価してもらうのも方法のひとつです。予備審査を受けたらフィードバックをもとに必要な改善を行い、正式な審査に備えます。
審査結果の評価と是正
第一段階審査や第二段階審査で不適合が指摘された場合は、是正措置を実施します。審査で不適合を指摘されても、認証を取得できないわけではありません。
有効性のある是正措置を取れば問題ないため、落ち着いて対応しましょう。是正措置の内容は認証機関への報告が必要であり、是正措置の完了後に再審査を受けるケースもあります。
認証取得
品質マネジメントシステムが要求事項に適合し、審査で指摘された不適合に対する是正措置の有効性が確認されると、認証機関からISO9001の認証書が発行されます。
ISO9001認証には3年の有効期間があり、期間内に認証機関による定期審査が行われます。定期審査を受けなければ、ISO9001認証が失効してしまうため注意が必要です。
継続的な改善と監査
ISO9001認証を維持するためには、品質マネジメントシステムの改善や内部監査に継続的に取り組むことが必要です。
また認証機関による定期審査には、認証取得の翌年と2年後に受ける維持審査(サーベイランス審査)と取得の3年後に受ける更新審査があります。維持審査や更新審査では、組織の品質マネジメントシステムが適切に運用されているか、有効性が保たれているかがチェックされます。
内部監査やマネジメントレビューを実施して、品質マネジメントシステムの有効性を定期的に確認しましょう。
再認証
ISO9001認証を維持するために、有効期限を迎える前に更新審査を受けることが必要です。更新審査は、有効期限の約2カ月前に日程などを協議して行われるので、早めに準備しておきましょう。
更新審査ではISO9001認証を更新しても差し障りがないか、維持審査よりも厳しく見られる傾向があります。しかし他の審査同様、更新審査で不適合を指摘されても是正措置を取れば問題はありません。
ISO9001を取得して、顧客満足度の向上を目指した品質マネジメントを実施しよう
ISO9001とは、製品・サービスの品質を継続的に向上させる品質マネジメントシステムを構築し、顧客満足度を高めるための国際規格です。ISO9001認証を取得すると、顧客からの信頼や評価が高まり、ビジネスチャンスの拡大や業務の効率化にもつながります。
ISO9001認証を取得するにはプロジェクトチームが先頭に立ち、品質マネジメントシステムの運用に組織全体で取り組む必要があります。
多大な労力が必要になるものの、ISO9001認証取得を通して得られるメリットは少なくありません。ISO9001認証の取得を通して品質マネジメントシステムを構築し、より質の高い製品・サービスの提供を目指しましょう。
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