安全衛生管理とは?必要な役割と関連法律、具体的に行う7つのこと

食品製造業や工場などの製造現場で、従業員の安全を管理する立場になったものの、安全衛生管理業務について具体的に何をしたらいいか分からない方も多いと思います。やるべきことや必要な役割、関連情報がわからないと、どう対応して良いか不安になりますよね。

 

安全衛生管理とは、従業員の安全と健康を確保し、事故や健康問題を最小限に抑えるための取り組みのことで、特に現場仕事と呼ばれるような、食品・機械製造業、建設業、医療機関などで求められています。

 

安全衛生管理は、職場での従業員の安全と健康を守る点と、企業の社会的責任という点のどちらでも重要で、法的要件を満たす必要もあります。

 

本記事では、安全衛生管理の概要と目的、法的要件について解説し、実際に取り組む際の具体的な方法や必要な役割を解説します。企業の安全衛生管理を考える立場になった方や、社内の安全衛生管理を推進する必要がある方は、ぜひ参考にしてください。

安全衛生管理とは

安全衛生管理とは、労働者や関係者の安全と健康を確保し、職場での事故や健康問題を最小限に抑えるための取り組みやシステムのことです。具体的には、労働災害や職業性疾病の防止、健康の保持増進、快適な職場環境の形成などを目的として、事業者が主体となって行う組織的・計画的な管理活動を指します。

 

安全衛生管理を行うことは、労働者の生命と健康を守るという人道的な観点からも、また企業の社会的責任という観点からも非常に重要です。

 

労働災害や職業性疾病は、労働者とその家族に大きな苦痛をもたらすだけでなく、企業にとっても生産性の低下や損害賠償などの経済的損失につながります。そもそも安全衛生管理を適切に行うことは、法的にも義務付けられています。

 

このように、安全衛生管理は労働者の安全と健康を守るとともに、企業の持続的な発展にも不可欠な取り組みです。特に、食品製造業や製造業、建設業、医療機関、公共交通機関など、事故や健康問題のリスクが高い業種においては、安全衛生管理の重要性がより一層高まっているといえるでしょう。

安全衛生管理を行う目的

安全衛生管理の主な目的は、職場における労働者の安全と健康を確保することです。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

 

  • リスク管理
  • 法令遵守
  • 教育とトレーニング
  • 事故対応と報告
  • 持続的な改善

 

労働者の安全と健康を確保するために、まずは職場に潜在するリスクを特定し、評価することが重要です。リスクアセスメントの結果に基づき、優先順位を決めて適切な管理措置を講じることで、事故や健康障害の発生を未然に防ぐことができます。安全衛生管理を適切に行うことは、労働安全衛生法をはじめとする関連法規の遵守につながり、企業の社会的責任を果たすことにもなります。

 

リスク管理や法令遵守だけでなく、労働者への安全衛生教育や訓練を通じて一人ひとりの安全意識を高め、安全な作業方法を習得させることも重要です。

 

万が一事故が発生した場合には、迅速かつ適切な対応と原因究明、再発防止策の実施が求められます。加えて、安全衛生管理システムを継続的に見直し改善していくことが、より安全で健康的な職場環境の実現につながります。

安全衛生管理に関連する法的要件

安全衛生管理を適切に行うためには、関連する法律や規則を理解し、遵守することが重要です。以下の表は、安全衛生管理に関連する法的要件と該当箇所をまとめたものです。

 

法律名

関連する部分

意識すべきポイント

労働安全衛生法

・事業者の責務(第3条)

・労働者の責務(第4条)

・安全衛生管理体制(第10条~第19条)

・安全衛生教育(第59条~第60条)

事業者と労働者の責務を明確にし、安全衛生管理体制の整備と教育の実施が義務付けられている。

労働安全衛生規則

・安全衛生管理体制(第1編第2章)

・安全衛生教育(第1編第4章)

・機械による危険の防止(第2編第1章)

・衛生基準(第3編)

安全衛生管理体制の詳細や、機械・設備の安全基準、有害業務の管理方法などが定められている。

労働基準法

・労働条件の原則(第1章)

・労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇(第4章)

・安全及び衛生(第5章)

労働者の安全と健康を守るための基本的な事項が定められており、安全衛生管理の基礎となる。

安全衛生管理に関連する法的要件

 

上記の法律は、安全衛生管理の基盤となるものであり、事業者はその内容を十分に理解し、遵守することが求められます。法律で定められた安全基準や管理体制、教育・訓練などの要件を満たすことは、労働者の安全と健康を守るために不可欠です。

 

法令遵守は企業の社会的責任でもあります。労働災害や職業性疾病は、労働者とその家族に大きな苦痛をもたらすだけでなく、企業にとっても信用失墜や経済的損失につながります。安全衛生管理を適切に行うことは、法的義務であると同時に、企業の持続的な発展のための重要な投資でもあります。

労働安全衛生法によって設置する安全衛生委員会とは

安全衛生委員会とは、労働安全衛生法第19条に基づいて、常時50人以上の労働者を使用する事業場に設置が義務付けられている組織です。この委員会は、事業場における労働者の安全と健康に関する事項を調査審議し、事業者に対して意見を述べることを目的としています。

 

安全衛生委員会の設置が必要とされる理由は、労働者の安全と健康を確保するためには、事業者と労働者が一体となって取り組む必要があるからです。

 

安全衛生委員会では、事業者側の代表者と労働者側の代表者が参加し、対等な立場で議論を行います。これにより現場の実情を踏まえた実効性のある安全衛生対策を立案・実行できます。安全衛生委員会が行う主な事項を以下にまとめました。

 

役割

内容

安全衛生方針の策定

職場における安全衛生管理の方針や目標を策定する

安全衛生に関する情報収集

新しい安全衛生法令や規制の情報収集や職場での事故や健康被害の発生状況を共有する

安全衛生に関する教育

安全衛生に関する正しい知識や技能を身に付けさせる

安全衛生委員会が行う主な事項

 

安全衛生委員会は、労働者の安全と健康に関する事項について調査審議し、事業者に意見を述べる役割を担っています。

 

具体的には、労働災害の防止対策や健康保持増進対策などの基本方針について議論し、決定事項を事業場内に周知します。労働災害が発生した場合には、その原因を調査し、再発防止策や教育を検討することも安全衛生委員会の重要な役割です。

安全衛生管理をする上で整えるべき体制

安全衛生管理を効果的に行うためには、適切な体制を整えることが不可欠です。労働安全衛生法では、事業場の規模や業種に応じて、以下のような役割を設けることが義務付けられています。

 

役割名

事業場の労働者数

仕事内容

統括安全衛生管理者

300人以上

安全管理者、衛生管理者等を指揮し、安全衛生管理の統括的な管理を行う

安全衛生推進者

10人以上50人未満

安全管理者または衛生管理者の指揮の下に、安全衛生管理者の業務の一部を行う

安全管理者

50人以上

事業場における安全に係る技術的事項を管理する

衛生管理者

50人以上

事業場における衛生に係る技術的事項を管理する

産業医

50人以上

労働者の健康管理等を行う

安全衛生管理をする上で必要な役割と詳細

 

安全衛生の役割を適切に配置し、それぞれの責任と権限を明確にすることが、安全衛生管理体制の基盤となります。

 

10人以上の労働者がいる事業場では、「統括安全衛生管理者」または「安全衛生推進者」の設置が定められています。

 

ただし50人以上300人未満の場合は、「安全管理者」と「衛生管理者」、「産業医」を設置すれば、「統括安全衛生管理者」および「安全衛生推進者」の設置は必要ありません。

 

厚生労働省では、製造業向けの安全衛生管理のポイントをまとめたリーフレットを公開しています。リーフレットでは安全衛生に関する項目について、製造業における具体的な留意点や実施すべき対策が解説されており、安全衛生管理を進める上で参考になる内容となっています。

 

参考:製造事業者向け 安全衛生管理のポイント|厚生労働省

 

事業者は、自社の業種や規模に合わせて必要な安全衛生管理体制を整備し、リーフレットで示されているような対策を実施していくことが求められます。安全衛生委員会等を通じて労働者の意見を取り入れながら、継続的に安全衛生管理の改善を図っていくことが重要です。

安全衛生管理で具体的に行う7つのこと

安全衛生管理を効果的に実施するためには、職場に合った施策を行っていく必要があります。具体的には、以下の7つの取り組みが重要です。

 

  1. リスク評価と管理
  2. 安全教育とトレーニング
  3. 適切な装置と保護具の提供
  4. 定期的な監視と点検
  5. 事故報告と記録保持
  6. 従業員の参加とコミュニケーション
  7. 持続的な改善と学習

 

一つひとつの施策を具体例とともに解説していくので、一緒に見ていきましょう。

1.リスク評価と管理

安全衛生管理においては、職場での潜在的な危険やリスクを評価し、それらを管理するための適切な手段を講じることは極めて重要です。リスク評価は、事故や健康障害を未然に防ぐための基礎となる取り組みであり、職場環境、作業プロセス、使用される機器や化学物質などを対象に、包括的に行う必要があります。

 

まず、職場に存在する潜在的な危険性や有害性を漏れなく特定することが重要です。この際、作業者からの情報収集や現場の観察、過去の事故事例の分析などを行います。

 

次に、特定されたリスクについて、発生可能性と重大性を評価して優先順位を決定します。リスク評価の結果に基づいて、リスクを最小限に抑えるための管理措置を決定し、実施します。管理措置には、危険な作業の廃止や代替、工学的対策(ガード等の安全装置の設置)、管理的対策(作業手順の改善、保護具の使用)などがあります。

 

職場の状況や作業内容の変化に合わせて、定期的にリスク評価を見直すことが重要です。管理措置の実施後も、残留リスクを評価し、必要に応じて追加の措置を検討しましょう。

2.安全教育とトレーニング

労働者に対して職場での安全に関する教育やトレーニングを提供することも安全衛生を考える上で重要です。安全教育は、労働者が安全な作業方法や使用する機器の安全性を理解し、安全に作業できるようにするための必要不可欠な手段です。安全教育には、以下のような内容が含まれます。

 

  • 安全衛生に関する基本的な知識
  • 職場の危険性や有害性に関する情報
  • 安全な作業手順と注意点
  • 保護具の使用方法と管理
  • 緊急時の対応手順

 

教育は、新入社員や配置転換者に対する初期教育だけでなく、定期的なフォローアップ教育も大切です。実際の作業現場での実践的な訓練も取り入れることで、より効果的な学習が期待できます。

 

安全教育の一環として、KYT(危険予知訓練)を実施することも有効です。KYTは、イラストや写真を使って作業場面に潜む危険要因を予知し、適切な対応策を議論するグループ活動のことです。この訓練を通じて、労働者の危険感受性を高め、安全意識を向上させることができます。

 

安全教育は、単に知識を伝達するだけでなく、労働者の主体的な参加を促すことが何よりも重要です。労働者が自ら考え、意見を述べる機会を設けることで、安全に対する意識と責任感を高められるでしょう。

 

KYT(危険予知訓練)の具体的な実施方法と訓練で使えるイラスト例

3.適切な装置と保護具の提供

職場での安全を確保するためには、適切な安全装置や個人用保護具(PPE:Personal Protective Equipment)を用意しておきましょう。PPEとは、労働者が危険にさらされる可能性がある状況で、怪我や健康障害から身を守るために着用する装備のことです。

 

安全装置としては、機械のガードや非常停止装置、安全インターロックなどがあり、これらは機械や設備の危険な部分への接触を防ぎ、事故のリスクを低減してくれます。PPEには、安全ヘルメット、保護メガネ、耳栓、安全靴、手袋などが含まれており、作業環境の危険要因から労働者を保護するために不可欠なものです。

 

事業者は、作業内容やリスク評価に基づいて適切な安全装置とPPEを選定し、労働者に提供する必要があります。その上で、装置やPPEの正しい使用方法と管理について、労働者に教育・指導することが重要です。

4.定期的な監視と点検

職場での安全性を維持するためには、定期的な監視と点検も不可欠です。具体的には、機器や施設の点検、作業プロセスの監視、職場環境の健康と安全に関する評価などが含まれます。機器や施設の点検では安全装置や保護具の機能を確認し、故障や不具合を早期に発見・修理することが重要です。

 

作業プロセスの監視では、労働者が安全手順を順守しているか、不安全な行動がないかをチェックします。職場環境の評価では、照明、騒音、温度、空気の質などの物理的要因や、化学物質、粉塵などの有害要因の管理状況を確認します。

 

安全衛生に基づいた監視と点検は、安全管理者・衛生管理者が中心となって計画的に実施し、問題点を特定して改善につなげることが求められます。労働者の参加を得ながら、安全意識の向上と継続的な改善を図ることも重要です。

 

このように定期的な監視と点検は、潜在的なリスクを早期に発見し、事故や健康障害を未然に防ぐための重要な取り組みといえます。

5.事故報告と記録保持

事故や健康問題が発生した場合には、迅速に報告し、詳細な記録を保持することも非常に大切です。事故報告と記録保持は、問題の原因を特定し、同様の事態の再発を防ぐための改善策を見つけるために欠かせないプロセスです。

 

事故報告では、発生日時、場所、関係者、事故の内容、被害の状況などを正確に記録します。事故に至った経緯や原因についても、できる限り詳細に記述しておきましょう。健康問題についても、症状の内容や発生状況、作業との関連性などを記録に残すことが重要です。

 

職場で発生した事故の報告と記録は、安全衛生委員会で検討し、再発防止策を立案するための基礎資料となります。必要に応じて関係機関への届出や情報提供にも活用します。

 

事故や健康問題の記録は、一定期間保管し、傾向分析や安全衛生管理の改善に役立てることが重要です。迅速な報告と適切な記録保持は、問題の再発防止と安全衛生管理の継続的な改善につながる重要な取り組みです。

6.従業員の参加とコミュニケーション

安全衛生管理を効果的に進めるためには、従業員の積極的な参加とコミュニケーションが欠かせません。従業員一人ひとりが安全の重要性を認識し、主体的に関わっていくことが安全文化の醸成につながります。

 

具体的には、安全衛生委員会などの場を通じて、従業員が安全に関する懸念や提案を自由に共有できる環境を整えることが必要になります。現場の声を吸い上げ、安全衛生管理に反映させることで、より実効性の高い取り組みができます。

 

安全に関する情報を積極的に従業員に伝達し、理解と協力を得ることも必要です。安全方針、リスク評価の結果、安全手順の変更などについて、わかりやすく説明して意見交換を行いましょう。

 

このほかにも、安全に関する従業員の意識と行動を高めるために、表彰制度や提案制度を設けることも有効です。安全への取り組みを評価し、良い実践を共有することで、従業員のモチベーションを高められます。

 

このように、従業員の参加とコミュニケーションは、安全文化の構築と維持に必要な要素といえます。

7.持続的な改善と学習

安全衛生管理は常に進化し続ける活動であり、新たなリスクが出現したり、より効果的な対策が見つかったりするたびに、それに適応していく必要があります。そのためには、持続的な改善プロセスを通じて、安全性と健康への取り組みを継続的に向上させることが非常に重要です。

 

持続的な改善には、以下のような活動が含まれます。

 

  • 安全衛生管理システムの定期的な見直しと更新
  • 事故やヒヤリハット事例からの学習と再発防止策の実施
  • 他社や業界のベストプラクティスの取り入れ
  • 新たな技術や設備の導入による安全性の向上
  • 従業員の安全意識と知識の継続的な向上

 

上記のような活動を通じて、安全衛生管理のPDCAサイクルを回し、継続的な改善を図る必要があります。

 

安全衛生に関する知識と経験を組織内で共有し、継承していくことも重要です。事故事例や改善事例を教材化し、研修や OJT(On-the-Job Training)に活用することで、組織全体の安全レベルを引き上げることができます。

 

持続的な改善と学習は、安全衛生管理の成熟度を高め、より強靭で柔軟な安全文化を構築するための鍵となります。

適切な安全衛生管理をして、従業員が安心して働ける現場を作ろう

本記事では、安全衛生管理の重要性と、その具体的な取り組み方法について解説しました。安全衛生管理とは、労働者の安全と健康を確保するために、事業者が行う組織的・計画的な活動です。法的義務であるだけでなく、従業員の生命と健康を守り、企業の持続的発展にも欠かせない取り組みといえます。

 

安全衛生管理のなかでも、リスクアセスメントとKYT(危険予知訓練は、比較的簡単に始められる取り組みです。職場の潜在的なリスクを洗い出し、対策を講じることで、事故の防止につなげることができます。またKYTを通じて、従業員の安全意識を高めることにもつながります。安全衛生委員会を設置し、従業員の意見を聞きながら、安全衛生管理の方針と計画を立てることも有効です。現場の声を反映することで、より実効性の高い取り組みが可能となります。

 

安全は一朝一夕に実現できるものではなく、継続的な改善と学習が必要です。安全と健康を最優先に、着実な歩みを続けていきましょう。

 

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