食品工場の衛生管理における基本の「き」。マニュアルに落とし込みたい10個の重要項目を紹介

 

食品工場の衛生管理はHACCPに沿うことが義務化されていますが、より高い衛生管理体制を実現するには、従事する個人の衛生管理に関する深い理解や意識づけも必要です。しかし、衛生知識の浅い担当者の教育をどのように進めたら良いのか、課題を感じている管理者や責任者の方もいるでしょう。

 

そのようなお悩みを持つ方の参考になるように、実際に食品工場で品質管理を担当されている方に、従業員教育の内容をお聞きし、食品衛生管理の基本となる重要項目を10個に絞ってまとめました。自社の衛生管理体制を強化したい衛生管理責任者の方は、ぜひお役立てください。

食品工場における衛生管理は「HACCPに沿った衛生管理」が基本

食品工場の衛生管理は、「改正食品衛生法案(食品衛生法等の一部改正)」によって定められた「HACCPに沿った衛生管理」が基本です。HACCPに沿った衛生管理は、食品工場のみならず、飲食店や食品を扱う宿泊施設などを含むすべての食品等事業者に義務化されています。

 

HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point:危害要因分析重要管理点)とは、原材料の受け入れから、保管、加熱、冷却、包装、出荷までの全製造工程における異物混入や病原微生物汚染などの危害リスクを分析し、安全を確保するための事前対策を行ったうえで、実施内容を記録する衛生管理手法です。科学的な根拠に基づいて、製造の各段階でリスクを除去・軽減できることから、国際的にも多くの食品等事業者の衛生管理に取り入れられています。

 

改正食品衛生法では、HACCPに沿った衛生管理について「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の2種類を定め、事業者の規模に応じて取り組みを求めています。

 

 

対象事業者

取組内容

HACCPに基づく衛生管理

大規模事業者およびと畜場食鳥処理場

HACCP7原則に基づき、食品衛生上の危害発生を防卯ために、事業者自ら衛生管理計画の作成・管理を行う

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理

小規模な事業者等

業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した手引書を参考にして食品の危害要因を理解したうえで衛生管理計画と手順書を準備し、衛生管理の実施状況を記録・保存・振り返りを行う

 

HACCPでは、危害リスクが想定される工程に重要管理点(Critical Control Point)および管理基準(Critical Limit)を設定し、集中的に管理します。具体的には、リスクの高い製造工程において温度や湿度、時間などの管理基準を設定し、日々測定・記録を実施します。

衛生管理に関して従業員に最低限伝えたい10個のこと

HACCPに沿った衛生管理は食品工場側で実施すべき取り組みですが、衛生管理の水準を高めるには、各従業員の行動も重要です。しかし、新入社員や初めて食品工場で働くことになった人は、衛生管理に対する知識が浅く、意識高く行動をするのが難しいこともあります。

 

従業員の衛生管理に対する意識を高めるには、まずは基本である個人の身だしなみや手洗いなどの規定やどのような目的で衛生管理を行うのかなどを説明し、順を追って衛生管理の重要性を説明したほうが良い結果が得られるでしょう。

 

そこで、衛生管理について食品工場で働く人が最低限守る必要があること、理解しておいてほしいことを10個まとめました。衛生管理の教育でお役立てください。

 

  1. 個人衛生
  2. 手洗い
  3. 食中毒の基礎知識
  4. 食中毒の予防方法
  5. 「5S」活動
  6. 器具や機械の清掃、洗浄、殺菌
  7. HACCPの基本
  8. チェックシートによる記録の重要性
  9. 防虫・防鼠対策
  10.  食品工場のゾーニングやレイアウト

1.個人衛生

個人衛生は、原材料や製品汚染の防止、および異物混入の防止のために必要な取り組みです。製品汚染や異物混入は従業員を通じて発生することもあるため、事故を予防するために、身だしなみや服装を整えることや、作業に必要な用具の持ち込みの禁止などを徹底しなければいけません。

 

気をつけること

詳細

身だしなみ

・不衛生とならないように、洗髪、歯磨き、ブラッシングは毎日行う

・汚れや食中毒菌の付着リスクが高まるため、ヒゲや爪を伸ばさない

・匂いが移るため香水の禁止

・異物混入のリスクがあるため、マニュキュアの禁止

服装

・決められた作業服に着替える

・髪の毛ははみ出さないようにする

・作業服や帽子は常に清潔に保ち、汚れたら洗濯、落ちない場合は交換

私物の持ち込み禁止

・異物混入防止の為、携帯電話や財布、時計、貴金属などの私物の持ち込みは禁止

・仕事で使用する文房具は、会社が用意

個人衛生で気をつけるべきこと

2.手洗い

手洗いを行う目的も個人衛生と同様、原材料や製品汚染、異物混入の防止のために行います。特に食中毒菌やウイルス感染は、従業員の手指を介することも多いため、決められた手順で行ない、きちんと殺菌することが大切です。特に指先や爪の部分、指の付け根は洗い残ししやすいため、意識して十分に洗いましょう。

 

手洗いは作業前および定期的に行なうのが基本ですが、トイレや休憩など、ほかの場所から戻ってきた際などはその都度行う必要があります。

 

また、手洗い後は、清潔なペーパーティッシュで水気を拭き取り、アルコール消毒をしてから、手のサイズに合った指定の手袋を着用します。万が一手袋が破けた場合には、速やかに交換しましょう。手洗いに関する決まり(洗い方や消毒、手袋の交換など)は、事前に必要性を従業員へ説明しておくことも忘れずに行いましょう。

3.食中毒の基礎知識

食中毒の基礎知識や予防を伝える目的は、食中毒・感染症の予防と健康管理について、注意するポイントをしっかり理解し、安全・安心な商品作りを心がけさせることです。

 

食中毒の原因には、細菌やウイルスをはじめ、寄生虫、化学物質などがあります。それぞれの原因は以下のとおりです。細菌による食中毒は、細菌への感染により生じる感染型と細菌が産生した毒素により生じる毒素型の2種類に分類されます。

 

種類

原因物質

細菌

感染型

サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌(O157、O26など)、カンピロバクター、セレウス菌(下痢型)、ウェルシュ菌、コレラ菌など

毒素型

黄色ブドウ球菌、セレウス菌(嘔吐型)、ボツリヌス菌など

ウイルス

ノロウイルス、A型肝炎ウイルスなど

動物性自然毒

フグ、貝毒など

植物性自然毒

毒キノコ、有毒植物など

化学物質

水銀、鉛、ヒスタミンなど

寄生虫

アニサキス、クドアなど

食中毒の主な原因

 

食中毒は、食材や調理器具の汚染によって発生するのが一般的ですが、原因物質によっては人からの感染もあります。

 

例えば、黄色ブドウ球菌は健康な人の約4割が保菌する常在菌で、手を介して菌が食材に付着して増殖することで毒素が発生し、食中毒が起こります。また、腸管出血性大腸菌やノロウイルスは、菌やウイルスの保有者の糞便や吐瀉物、飛沫からの感染もあります。このように主な発生原因を知っておけば、手洗いや各作業の必要性を深く理解できます。

4.食中毒の予防方法

衛生管理は、「つけない」「増やさない」「やっつける」の3原則、もしくは「持ち込まない」を含めた4原則で管理されることが多くなっています。

 

「つけない」は、食中毒の原因となる細菌やウイルス、寄生虫を付着させないことです。食材の保管や取り扱いを適切に行なうことで防げます。また、人や環境からの二次汚染を防ぐために、衛生的な手洗いや手袋の着用、使用器具の洗浄・殺菌を行なうことも重要です。

 

「増やさない」は、細菌の増殖を防ぐことです。食材を適切な温度で管理し、調理後は長時間室温に放置せず、冷蔵庫などで保管することが対策としてあります。ウイルスは食品中で増殖することはありませんが、わずかな付着で食中毒を起こします。調理器具や調理場から食品へウイルスをひろげないことが重要です。

 

「やっつける」は、付着した細菌やウイルスを死滅させることです。食材は中心部まで加熱したり、細菌やウイルス、寄生虫が死滅する温度を保ったりすることで防げます。汚染の可能性が高い肉や二枚貝は、中心部分の温度を計測し、十分に加熱されていることを確認しましょう。また、調理器具は煮沸や蒸気、薬剤(アルコールや次亜塩素酸など)を用いて殺菌するのが一般的な対策です。

 

「持ち込まない」は、食中毒の原因を持ち込まないことです。発熱や下痢など感染症が疑われる症状がある従業員が業務に就かないよう調整し、菌やウイルスの感染拡大を防ぎます。これらの3原則もしくは4原則を実施することで、食中毒の発生を予防できます。

5.「5S」活動

5S」活動とは、整理、整頓、清掃、清潔、しつけという職場環境を改善するための5つの活動の総称です。

 

  • 整理:不要なもの識別し処分すること
  • 整頓:必要なものを決められた場所に、決められた形で置くこと
  • 清掃:職場環境と使用する道具を清潔に保つこと
  • 清潔:整理・整頓・清掃の3Sを維持し、職場環境をきれいな状態に保つこと
  • しつけ:整理、整頓、清掃、清潔の4Sを継続的に実践し、習慣化すること

 

それぞれのSを徹底することで、業務のムダを削減し、業務効率化と生産性の向上が見込めることから、おもに製造業の現場で用いられています。

 

5S活動は繰り返しの活動のため、継続的に行うことで従業員の意識が変わってきます。日常的に改善の機会を発見し、実行できる文化が醸成されます。

6.器具や機械の清掃、洗浄、殺菌

器具や機械の清掃、洗浄、殺菌は、異物混入や食中毒を予防し、製造環境を清潔に保つために必要です。

 

清掃や洗浄時は、道具を通じて汚染が広がるのを防ぐため、使用する道具を場所や用途によって分けます。間違って使用することがないように、色も異なるものにして区別することがポイントです。

 

また、常に清潔な状態を保つために、洗浄のあとは殺菌を行い、細菌の増殖を防ぎます。殺菌方法には、蒸気殺菌やアルコール殺菌、乾燥殺菌庫を利用する方法があります。殺菌後は確実に殺菌されているかを確認するために、拭き取り検査を行います。

 

床やトイレも、清掃や洗浄後殺菌が必要です。定期的に洗剤で汚れを取り除いたあと、殺菌を行います。特に、誰もが毎日使用し汚染源になりやすいトイレは、清潔に管理することが重要です。

 

なお、清掃時に万が一薬品などが手にかかったり、目に入ってしまったりしたら、すぐに水で洗い流し、必要に応じて病院へ診察を受けます。

7.HACCPの基本

衛生管理の基本となる、HACCPの基本についての理解も必要です。

 

HACCPは原材料の受け入れから出荷までの製造工程におけるリスクを分析し、厳重な管理が必要な加熱や冷却、殺菌、包装のような製造工程で、特に気をつけなければならない項目を重要管理点(CCP)として記録・管理を行う衛生管理手法です。

 

HACCPにおいて記録・管理が重要なのは、適切な管理を実施している証明になることと、問題が発生した際に原因を特定するためです。もし正しく記録ができていなかったら、衛生管理を行っていることが認められなくなるうえ、原因の究明や改善も難しくなります。

 

そのため、品質管理担当や工場長、経営者のみならず、実際に各工程で作業を行う従業員も、HACCPの知識を身に着け、必要性を理解できるように研修や教育を実施しましょう。

8.チェックシートによる記録の重要性

チェックシートは、データを収集・記録し、問題の特定や改善の基盤として活用するツールです。チェックシートを用いて記録を残すことで、HACCPに沿った衛生管理や従業員教育、認証や規格の要求事項を満たした作業実施をしているなどの証明になり、トラブル発生時や行政対応、監査などのときに役立ちます。また、記録から問題点の分析や改善を図ることも可能です。

 

衛生管理を目的としたチェックシートは以下のような場面で使われています。が活用されています。

 

  • トイレ点検:清潔度を確認するために、定期清掃が行われているか、備品が揃っているか、不快な臭いが発生していないかなどを記録
  • 従業員の体調確認:食中毒リスクを防ぐために、発熱や下痢、嘔吐などがないか、手指に傷や化膿がないかなどを記録
  • 冷蔵庫の温度チェック:食材が適正温度で管理されているかを確認するために、時間と温度、庫内の状態を記録

9.防虫・防鼠対策

ゴキブリやハエなどの害虫やネズミなどは、ウイルスや病原体などを運んできます。また、異物として混入するリスクもあるため、衛生管理では防虫・防鼠対策に取り組む必要があります。

 

害虫やネズミの発生は、外部からの侵入と内部での発生があるため、何がどのように発生しているのかを特定した上で対策を行います。定期的な駆除のほか、予防のため次のような対策が可能です。

 

外部侵入対策では以下のようなものなどが挙げられます。

  • 排気口に防虫ネットを貼る
  • ドアに防虫シートを貼る
  • 壁や床の隙間を埋める
  • 外周に植栽を作らない

 

内部発生対策では以下のようなものが考えられます。

  • 汚れが溜まりやすい配管や排水ピット、床などを清掃する
  • 発生しやすい場所に薬剤を散布する

 

なお、薬剤を使用する場合には、原材料や製品に混入させないように注意しましょう。

10.食品工場のゾーニングやレイアウト

ゾーニングとは、衛生レベルに応じて区画分けを行うことです。汚染度が高いものが低いものに接触して汚染が広がる交差汚染を防止するために行います。

 

衛生レベルは、落下細菌数を目安に汚染作業区域、準清潔作業区域、清潔作業区域に分けます。以下は作業内容と区域区分の例です。

 

  • 汚染作業区域:原材料の受け入れや下処理などを行う、外部との接触がある区域
  • 準清潔作業区域:製品の外包装、保管、出荷などを行う区域
  • 清潔作業区域:製品の製造や内包装を行う区域

 

床のカラーリングによる区画表示や、ビニールカーテンやパーティションを用いた仕切りを設置するなどの方法で区画を明確にします。

衛生管理の基本を押さえて、確実に実施・記録を行おう

今回の記事でご紹介した以外にも衛生管理においては注意することが多くありますが、まずは「基本のき」を押さえておくことが大切です。

 

衛生管理で守るべき10のポイントを確実に実施できるようマニュアル化して担当者に共有しましょう。また、記録の必要があるものは抜け漏れがでない仕組みを作ることも重要です。

 

 

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