セントラルキッチンにおける衛生管理の特徴とは?事故防ぐための3つのポイントも紹介
食品製造業
2024.11.05
2024.11.05更新
調理作業を集約して行うセントラルキッチンの運営において、衛生管理は特に重要です。一般的な食品工場や飲食店、給食施設に比べ、取り扱う食材の種類と量、作業に関わる従業員の数が多いセントラルキッチンでは、食品事故のリスクが高くなる傾向があります。
セントラルキッチンで製造した食品は複数の店舗や施設へ供給されるため、万が一問題のある製品を出荷してしまうと、広範囲且つ多数の被害に繋がります。従って、セントラルキッチンでは日々の衛生管理を徹底し、危害が発生しないように細心の注意を払う必要があります。
本記事では、セントラルキッチンにおける衛生管理の重要性を解説し、衛生品質を高める3つの方法を紹介します。
セントラルキッチンにおける衛生管理の重要性
セントラルキッチンは、複数の店舗で提供する料理を一括で製造するため、作業の効率化や品質の均一化、コストの削減などのメリットがあります。
一方で、野菜や肉、魚など、さまざまな種類の食材を扱い、製造に多くの従業員が関与する特性から、交差汚染/クロスコンタミネーション(病原菌などの異物に汚染されたものから汚染されていないものに異物が移り、汚染が広がる汚染)が発生しやすいことがデメリットです。交差汚染が起こりやすい環境では食中毒のリスクが高まるため、衛生管理への高い意識が必要です。
また、調理から料理の提供までに冷却・梱包・配送・保管・再調理などの工程を経ることもセントラルキッチンの特徴です。調理した料理をすぐに提供する飲食店や給食施設とは異なり、セントラルキッチンでは調理から提供までに時間を要するため、管理を怠ると雑菌が繁殖しやすくなります。従って、セントラルキッチン内はもちろん、配送時や提供先でも衛生管理を徹底しなければなりません。
もしセントラルキッチンが原因で食中毒などの食品事故が発生すれば、製造工場のだけでなく、料理の供給先であるすべての店舗が営業停止になる可能性もあります。店舗が営業停止を免れたとしても、セントラルキッチンが事故原因の究明および、再発防止措置ができなければ、営業再開は難しくなります。
セントラルキッチンには数多くのメリットがありますが、トラブルが発生すると影響が広範囲に及ぶため、衛生管理には一層の注意を払う必要があります。適切な衛生管理を実施して、リスクを減少・排除し、事故を防ぎ、食品の品質と安全性を確保しましょう。
セントラルキッチンの衛生管理は「HACCPに沿った衛生管理」で行われる
HACCPに沿った衛生管理とは、食品の製造工程におけるリスクを分析し、特に危険性が高い工程を重点的にモニタリングする衛生管理体制を指します。
HACCPに沿った衛生管理は2021年6月よりすべての食品事業者に対して義務化されています。従って、セントラルキッチンも他の食品事業者と同様にリスクを分析し、重要工程の継続的な記録と確認を行い、食品事故の防止に努めなければなりません。
HACCPはHA(Hazard Analysis:危害要因分析)とCCP(Critical Control Point:重要管理点)の2つに分けて考えます。
危害要因分析では、食中毒菌や異物の混入など消費者に健康被害をもたらす可能性がある製造工程で起こり得るリスクを特定します。事業者は、原材料の受け入れから製造、流通を経て消費者のもとに食品が届くまでの過程において、起こり得る危害要因の種類、起こりやすさ、影響の大きさなどを分析し、危害要因を排除または低減する方法を決めます。
危害要因は、生物的危害要因と物理的危害要因、化学的危害要因の3つに分類され、それぞれの詳細は以下にまとめました。
危害要因 |
対象となるもの |
具体例 |
生物的危害要因 |
・病原性微生物 ・ウイルス ・寄生虫など |
・サルモネラ菌、大腸菌 ・ノロウイルス ・アニサキス、トキソプラズマ |
物理的危害要因 |
・毛髪、昆虫 ・プラスティック片、ビニール ・金属片、ガラス片など |
・従業員の毛髪、害虫 ・梱包などに使用するもの ・機械や工場設備などから |
化学的危害要因 |
・食品添加物 ・残留農薬 ・環境汚染物質など |
・保存料、着色料、甘味料 ・クロルピリホス、キャプタン ・重金属、ダイオキシン |
危害要因の3分類
上記3種類の危害要因は、次の図のように原材料の受け入れから出荷、配送までの全工程に関わります。
各工程で3種類の危害要因がそれぞれ影響を与える可能性がある
画像引用元:医療・福祉施設を対象とするセントラルキッチンにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書|一般社団法人日本医療福祉セントラルキッチン協会
食中毒菌やウイルス、寄生虫などの生物的危害要因は原材料に付着して調理場に持ち込まれるほか、汚染された空気や従業員を介して食品に移るケースもあります。そのため、加熱調理後も生物的危害要因への注意が必要です。毛髪、昆虫、資材や機器の破片などが混入する物理的危害要因も、製造工程すべてを通して管理が求められます。
セントラルキッチンにおける化学的危害要因は、食品添加物の計量ミスや洗剤や消毒剤の混入などが考えられます。危害要因分析をもとに適切な管理を行えば、リスクを最小限に留められます。
また、重要管理点(CCP)とは、重大な危害要因が起こる可能性があり、危害の発生を防ぐために厳重な管理が求められる工程のことです。
例えば、調理において加熱が必要な場合、加熱と冷却が重要管理点となります。加熱が必要ない生食する野菜や果物であれば、消毒工程を重要管理点としてモニタリングします。
1種類の料理について重要管理点は一つだけとは限らず、複数設定しても問題ありません。危害要因分析の結果、食品事故が発生するリスクが高いと判断した工程について、しっかり管理していくことが大切です。
セントラルキッチンにおける衛生管理の特徴
セントラルキッチンにおける衛生管理には、一般的な食品工場や飲食店、給食施設などと比べ、特に意識するものとして次のような特徴があります。
- ゾーニングや器具の使い分けよる交差汚染の防止
- クックチル、クックフリーズにおける厳密な温度・時間管理
- 配送時の衛生管理
ゾーニングや器具の使い分けよる交差汚染の防止セントラルキッチンでは、同時に多品目の調理を進行するため、一度にさまざまな食材を扱うことになります。この時、適切な管理が行われていなければ汚染が広がり、食中毒などの食品事故が発生するおそれがあります。
例えば、生肉をカットする包丁とまな板を誤って、加熱済みの肉のカットに使った場合、食中毒が発生することは容易に想像できるでしょう。
セントラルキッチンでの交差汚染を防ぐためには、製造現場を衛生レベルに応じて区分けし、衛生レベルが異なる作業を明確に分けるゾーニングや器具の使い分けを行う必要があります。
ゾーニングでは、セントラルキッチン内を汚染区域と準清潔区域、清潔区域の3つに区分けする方法があります。汚染区域では食材の受け入れ、製品の出荷を行い
、準清潔区域では食材の洗浄、下処理、加熱、清潔区域では冷却、充填、包装を行うなどと区分ごとに衛生レベルが同程度の作業を配置すると、汚染の拡散を防げます。
ゾーニングに区分け |
作業の例 |
汚染区域 |
・食材の受け入れ ・製品の出荷 |
準清潔区域 |
・食材の洗浄 ・下処理 ・加熱 |
清潔区域 |
・冷却 ・充填 ・梱包 |
ゾーニングの区分けとそれぞれで行う作業の例
調理器具を食材により明確に使い分けることも、交差汚染の防止に効果的です。特にまな板と包丁は、最低限、下処理用と調理済み食品用に分けます。さらに下処理用は肉・魚介類・野菜で分けて使用しましょう。取り扱う食材ごとに専用の調理器具を用意することが理想です。調理器具も用途がひと目で分かるように、色や形が違うものを使用すると良いでしょう。
クックチル、クックフリーズにおける厳密な温度・時間管理
クックチルやクックフリーズを導入しているセントラルキッチンでは、一般的な食品製造現場よりも厳密な温度・時間管理が求められます。
クックチルとは、加熱調理した食材を急速冷却してチルド状態で保存し、再加熱後に盛り付けて提供する方法です。一方で、クックフリーズは、加熱調理した食材を急速冷凍して-18℃以下で保存し、再加熱後に盛り付けて提供します。
説明 |
|
クックチル |
加熱調理した食材を急速冷却(0~3℃)か急速冷凍(-18℃以下)して、3℃以下のチルド状態で保存し、再加熱後に盛り付けて提供する方法 |
クックフリーズ |
加熱調理した食材を急速-1冷却(0~3℃)か急速冷凍(-18℃以下)し、-18℃以下で保存して、再加熱後に盛り付けて提供する方法 |
クックチルとクックフリーズの説明
クックチルとクックフリーズでは低温や冷凍状態で保存するため、食品危害の発生リスクを低減できます。ただし、十分な加熱調理を行った後、急速に冷却し、適切な温度で保存することが条件です。
クックチルやクックフリーズを導入しているセントラルキッチンでは、調理から提供まで1〜4日ほど時間が空くことが一般的です。そのため、当日の調理提供を前提とした「大量調理施設衛生管理マニュアル」に記載されている管理温度では、食品リスクを十分に防止できない可能性があります。
現在、日本ではクックチルやクックフリーズに関する規定がありません。従って、多くのセントラルキッチンが、食中毒菌の最低発育温度をもとに英国保健局が策定したガイドラインを採用しています。
一般社団法人日本医療福祉セントラルキッチン協会が公開している「医療・福祉施設を対象とするセントラルキッチンにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書」では、英国保健局が策定したガイドラインを参考にクックチルとクックフリーズの詳細をまとめてます。以下の表で要点だけをまとめました。
クックチル |
クックフリーズ |
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詳細 |
・消費期限は調理した日と消費する日を含み5日以内とする ・下処理から加熱調理までに時間が空く場合、食材は10℃以下で保存する ・加熱調理後に食品を小分けする作業は30分を超えない ・加熱調理した食品を容器に収める場合、食品は均等に広げて50mm以内の深さにする ・加熱調理終了後30分以内に冷却を開始し、90分以内に0〜3℃まで冷却する ・0〜3℃で保存、配送する |
・冷凍は加熱調理機から取り出して30分以内に開始する ・冷凍は90分以内に中心温度を-5℃以下にし、-18℃まで到達させる ・冷凍後、一部または完全に解凍した食品の再冷凍はしない ・温度監視装置が付いた急速冷凍機を使用する ・冷凍した食品は-18℃以下で保存する 保存期間の目安は8週間 ・配送後、一部でも解凍された食品は再冷凍しない ・解凍作業はほかの食品と分離して行う ・解凍した食品は3℃以下を保ち、急速解凍庫で解凍した食品は24時間以内に消費する |
クックチルとクックフリーズの詳細
参考:医療・福祉施設を対象とするセントラルキッチンにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書|一般社団法人 日本医療福祉セントラルキッチン協会
配送時の衛生管理
セントラルキッチンと一般的な飲食店や給食施設の違いの一つに、配送工程の有無が挙げられます。セントラルキッチンで製造した食品による食品事故の発生を防ぐために、配送時も温度管理を徹底することが求められます。
セントラルキッチンからの出荷時と配送先への納品時に食品の温度を確認・記録するとともに、配送車の庫内温度の管理も徹底しましょう。加えて、配送車の庫内を清潔に保ち、食品容器が損傷しないように丁寧に取り扱うことも大切です。
セントラルキッチンの衛生管理の質を高める3つの方法
ここからは、セントラルキッチンの衛生品質を向上させるために効果的な、3つの方法を紹介します。これらは一般的な食品工場でも大切なことではありますが、多くの従業員が作業し、多品目の製品を取り扱うセントラルキッチンにおいて特に重要と考えられる方法なので、ぜひ取り組んでみてください。
7S活動の徹底で従業員と製造工場の衛生環境を整える
7S活動とは、整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)という衛生活動の基本である5S活動に、洗浄・殺菌を追加した7つの活動の総称です。7S活動の徹底により、セントラルキッチンの衛生環境の改善が期待できます。
まず重要なのは整理・整頓・清掃の3つです。現場の不要なものを取り除き、必要なものの置き場を決めて適切に配置することで環境が整い、次の活動である清掃もスムーズに行えるようになります。
清掃は、調理に使用する器具や機械を洗浄し、床や壁の汚れを除去するだけでなく、従業員のロッカーや休憩所まで実施することが大切です。セントラルキッチンを含む施設全体の衛生レベルが高まるとともに、衛生管理に対する従業員の意識向上にもつながります。
清潔は、整理・整頓・清掃を定期的に実施してきれいな状態を保つこと、躾は、整理・整頓・清掃・清潔を習慣化し、従業員に衛生意識を根付かせることを指します。
衛生活動の習慣化には、整理・整頓・清掃の手順を統一することや、活動のための時間を確保するなどの工夫が必要です。衛生活動を習慣化できれば従業員が自発的に衛生を維持するようになり、衛生レベルのさらなる向上が期待できます。
また洗浄と殺菌の対象となるのは、調理器具や機械、設備だけではありません。従業員の手洗いや消毒を徹底することで、食中毒のリスクを低減できます。
7S活動を実践すると、セントラルキッチンの衛生レベルが高まるだけでなく、職場環境が整備されることで作業効率の向上も期待できます。さらに、転倒や物品の落下などによるケガのリスクが低下し、現場の安全性も確保できます。
標準作業手順書(SOP)・衛生標準作業手順書(SSOP)の見直しと定期的な教育
標準作業手順書(SOP:Standard Operating Procedures)とは、製品の品質を一定保つために作られる無駄のない作業手順や業務内容、製品仕様がまとまった指示書です。
SOPとよく似たものにマニュアルがあります。マニュアルは作業内容や手順に加えて関連する知識や注意点まで総合的にまとめられたものですが、SOPは主に作業工程に焦点が当てられており、マニュアルよりも簡潔に記載されることが一般的です。
衛生標準作業手順書(SSOP:Sanitation Standard Operating Procedures)は、手指の洗浄と消毒、食材の受け入れや下処理、調理器具と機械の洗浄と殺菌、設備などの衛生管理などの手順について、「いつ、どこで、誰が、何を、どのようにするか」を明確に示した手順書です。
SOPとSSOPは、一度作成したものを使い続けるのではなく、定期的に見直し、改定しましょう。業務に取り組む中で、効率化やミスの低減のために作業手順は変化するものです。
SOPとSSOPを見直す際は、これらの内容と実際の作業手順を照らし合わせることから始めます。手順に変更があればSOPとSSOPに反映させて、新しい内容を従業員に周知しましょう。新たな手順を定着させる現場の衛生レベルが標準化され、次第に製品全体の質が高まる上、職場の安全性の向上も見込めます。
また、セントラルキッチンでは、従業員に対する定期的な衛生教育も重要です。セントラルキッチンでは多くの従業員が働いているため、一人でも衛生管理を怠ると、思わぬ範囲にまで影響が及ぶおそれがあります。従業員一人ひとりに徹底した衛生教育を行い、全体の衛生意識を高めましょう。
衛生教育の方法には、ポスターの掲示や朝礼やミーティングでの伝達、勉強会、研修などがあります。近年は、従業員が自学できるように動画マニュアルを導入する企業も増えています。
大切なのは、定期的な教育を通して繰り返し伝えることです。例えば、手洗いの手順を指導する場合、手洗い場の前に手順を示した掲示物を貼ったり、手洗いの手順と重要性を教える勉強会を実施したり、手洗い場で洗い方を実際に指導したりするなど、さまざまな方法で何度も伝えましょう。繰り返し学ぶことで従業員の理解が深まり、納得して実践できるようになります。
作業記録から課題や問題点を見つけ、改善と標準化を行う
食品製造の現場では、食品の中心温度、冷却の開始・終了時刻、冷蔵庫と冷凍庫の温度、調理場の温度と湿度など、日々さまざまな記録が取られています。常に問題のない状態が続いていればよいですが、もし問題が発生している場合は、原因に規則性がないかを日々の記録から見出してみましょう。
セントラルキッチンは取り扱う食材や調理する品目が多岐に渡るため、記録の総量も多くなるでしょう。そのため、まずは抜け漏れなく記録が取れているかを確認し、もし抜け漏れが発生している場合は、確実に記録を取るためにはどうしたらいいかを考えましょう。
どうしても記録に抜け漏れが生じる場合は、温度や湿度などを自動的に計測して記録に残す機器やシステムを導入することや、記録を取る日時に通知をするなどして、仕組みで解決にするようにしましょう。
一定期間の記録が集まれば、問題点や課題がないか内容を見返します。ミスやトラブルが発生したときの原因を探ると、作業手順に無駄が多いことや、工程にばらつきがあるなどの問題を見つけられるかもしれません。対策や改善方法を考えて実行しましょう。
問題点を改善する際は、PDCAのサイクルを回すことを意識します。Plan(計画)とDo(実行)、Check(評価)、Action(改善)の手順を繰り返して問題の改善を図ります。
適切な改善方法が見つかれば、SDCAのサイクルを回して新しい方法を定着させます。SDCAは、Standardize(標準化)・Do(実行)・Check(確認)・Action(対策)のことを指し、業務の標準化を進めるための手法です。
特定の課題や問題点について改善から定着まで完了したら、再び作業記録を見返し、ほかの課題や問題点の改善に着手しましょう。このように日々の記録を振り返り、課題や問題点の改善、定着を繰り返すことで、衛生管理の質が底上げされます。
セントラルキッチンの衛生管理の質を上げて、信用される製品作りを!
セントラルキッチンは複数の店舗や施設で提供する食品の製造を一手に引き受けるため、効率的に製造できる、品質が安定するなどのメリットがあります。しかし、セントラルキッチンはその特性上、食品事故のリスクが高く、一度トラブルが発生すれば影響が拡大しやすいことがデメリットです。
セントラルキッチンにおける食品危害のリスクを最小限に抑えるためには、「HACCPに沿った衛生管理」を徹底することが重要です。さらに、7S活動の実施、SOP・SSOPの見直しと定期的な衛生教育、作業記録をもとにした改善と標準化により、セントラルキッチンの衛生品質は向上するでしょう。
セントラルキッチンの衛生管理の質が高まれば、消費者の満足度や企業に対する信頼性が増すことが期待できます。セントラルキッチンの管理体制を見直し、衛生品質のレベルアップに取り組みましょう。
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