飲食店の衛生管理で欠かせない7つのこと。問題を発生させないための方法も紹介

飲食店では、安心安全な食を提供するために徹底した衛生管理が必要です。衛生管理を怠ると、お客様に健康被害が生じるなどの問題が発生し、飲食店の信頼が失われ、最悪の場合は営業停止に追い込まれるケースもあります。したがって、飲食店では衛生管理のポイントを理解し、確実に実施することが求められます。適切な衛生管理を行い、食の安全性を高めましょう。

 

本記事では、飲食店における衛生管理の重要性と、その具体的なポイントについて解説します。店舗の衛生レベルを向上させたい方はぜひ参考にしてください。

 

飲食店における衛生管理の重要性

飲食店で衛生管理が重要視されるのは、お客様の健康を守るためはもちろん、飲食店自体を存続させるためでもあります。

 

衛生管理を怠った場合、提供した料理が原因で食中毒が発生し、お客様に健康被害を与えてしまいます。その結果、飲食店の評判が失墜して営業停止に追い込まれる可能性もあるため、日頃から衛生管理に務めることは非常に重要です。

 

厚生労働省が発表してる統計資料によると、令和6年度の4月1日から8月1日までに報告された食中毒事例460件のうち255件、約55%が飲食店で発生しています。このように、飲食店は食中毒が発生しやすい場所であるため、事業者は細心の注意を払って衛生管理を実施しなければなりません。

 

参考:食中毒統計資料|厚生労働省

 

食中毒は気温や湿度が高くなる夏場に発生しやすいと思われがちですが、実は年間を通して発生しています。

 

ノロウイルスは低温や乾燥に強いこと、牡蠣などの二枚貝に生息していることが特徴です。そのためノロウイルスによる食中毒は、気温が下がって空気が乾燥し、鍋などで二枚貝を食べる機会が増える冬場に増加します。アニサキスなどの寄生虫による食中毒は、季節を問わず発生しています。したがって、食中毒への対策は通年必要です。

 

また、飲食店では食品衛生法に基づき、営業許可取得時に衛生管理を統括する責任者である「食品衛生責任者」を選任することが義務付けられています。食品衛生責任者の具体的な業務内容は、従業員への衛生教育の実施、施設の衛生管理、食中毒発生時の対応などです。

 

食品衛生責任者になるためには資格が必要です。資格取得には、都道府県知事などが実施する講習会を受講し、修了しなければなりません。なお、調理師、製菓衛生師、栄養士などの資格をすでに取得している場合は、講習会を受けることなく食品衛生責任者になれます。

 

衛生管理については各自治体の条例でも厳しく定められているので、店舗のある都道府県や市区町村のホームページを確認してみましょう。

食品衛生法でも飲食店の衛生管理について定められている

飲食店の衛生管理については、食品衛生法や食品衛生法施行規則でも詳細に取り決められています。

 

衛生管理の原則となるのは食品衛生法です。食品衛生法は、飲食店を含む食品を取り扱うすべての事業者に対して、食品の安全性を確保と飲食に起因する衛生上の危害を防止して、国民の健康を守るために定められています。

 

第一条

この法律は、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ることを目的とする。

引用元:食品衛生法|e-GOV法令検索

 

 

さらに食品衛生法をもとに具体的な運用方法や基準を定めた「食品衛生法施行規則」があります。食品衛生法施行規則では、施設の設備基準や食品の保存、温度管理、従業員の衛生管理について規定しています。

 

例えば、施設は十分な広さを有し、食品汚染を防ぐために作業区分に応じて区画を分けることや、保存温度については、冷蔵食品で10℃以下、冷凍食品でー15℃以下が基準と記載されています。従業員の衛生管理については、健康状態の把握、手洗いの実施、専用の作業着の着用、衛生管理に関する教育の実施などが書かれています。

 

飲食店はこれらの法律や規則を遵守し、常に衛生的な環境を維持する義務があります。

飲食店の衛生管理で欠かせない7つのこと

ここからは、飲食店で気をつけたい衛生管理のポイントを7つ紹介します。以下の7つのポイントを抑え、従業員が確実に実施、記録を残し、振り返りを行うことで適切な衛生状態を保てます。

 

  1. 従業員の体調・健康管理
  2. 従業員の教育(研修や勉強会の実施)
  3. 店舗の清掃や整理、整頓
  4. 始終業時点検の実施
  5. 食材を適切に保管・使用
  6. 食材の選定には細心の注意を払う
  7. 害虫駆除や対策を定期的に実施、見直す

1.従業員の体調・健康管理

日々の業務において、手洗いや消毒の実施、咳エチケットの遵守、体調不良時の報告などを徹底しましょう。手洗いが不十分であったり、下痢や発熱が見られたりする状態で業務に従事すると、調理した食品を介してお客様へ食中毒が広がるおそれがあります。

 

始業前の健康確認、体温の測定、手洗いや消毒の呼びかけとともに、チェックシートを利用して実施したことを記録に残しましょう。チェックシートには従業員名を記載し、一人ひとりについて確認事項を記録します。

 

チェックシートに最低限入れる項目は、体温、下痢や咳などの自覚症状、手指の傷の有無です。記録する際、空欄があると実施していないと見なされるため、該当する従業員が休みの場合は斜線を引きます。体調不良などが判明した場合は、どのように対応したかも記録に残しましょう。

 

また、従業員がいつでも確認できるように、体調不良や手指に傷がある場合の対応や手洗いなどに関するマニュアルを設置することも大切です。出勤してから調理場に入るまでの動線に体温計を置くなど、職場環境を整えて従業員の健康管理を実施しましょう。

2.従業員の教育(研修や勉強会の実施)

日々の手洗いや消毒、体温計測の呼びかけ以外に、研修会や勉強会を開催して従業員への教育を実施しましょう。研修会や勉強会で体系的に知識を得ることで、なぜ衛生管理を行うのか、どのように実施するのかを深く理解できるようになり、衛生管理への意識が定着します。

 

衛生管理に関する研修会や勉強会で取り上げるべき内容は、手洗いの方法、作業着の着用方法、体調管理の重要性、ネズミや害虫などの知識、食中毒菌やウイルスの知識と対策、二次汚染とその防止策などです。このような学びの場は、既存の従業員はもちろん、新しいアルバイトやパート、社員が入ってきたときにも実施します。

 

個々人で差のない教育を施すために、研修会や勉強会を実施したときは誰に何を教えたかを記録に残しておきましょう。

 

3.店舗の清掃や整理、整頓

ホールや調理場、トイレなどの清掃、整理、整頓は毎日、決まった時間に行いましょう。

 

とくに、調理場は食品に直接触れる場所であるため、より一層の注意が必要です。包丁やまな板などの調理器具、作業する調理台は使用後すぐに洗浄、消毒し、常に清潔な状態を保つように心掛けます。また、調理器具は肉専用、魚専用のものを用意してほかの食品と明確に使い分け、汚れや食中毒菌の拡散から起こる二次汚染を防ぎます。

 

調理器具や設備の清掃と消毒を実施したら、チェックシートに記録しましょう。記録することで、清掃や消毒の抜け漏れがないかを確認できます。昼と夜に営業する場合は、それぞれの営業が終了した時点で記録できるように欄を用意するとよいでしょう。

 

ホールではテーブルやイス、調味料入れ、メニュー表、ゴミ箱などを清掃、消毒し、実施したことをチェックシートに記録します。トイレも定期的に衛生状態の確認や清掃を行い、実施した時間や担当者を記録しましょう。

 

さらに、不要なものを取り除く整理、必要なものを適切な場所に配置する整頓の実施も重要です。あまり使用しない調理器具や賞味期限が切れた食材を排除すると、作業スペースや食品の保管場所が確保できます。調理器具や食品の保管場所を明確に定めれば、作業効率が向上するだけではなく、清掃や消毒をスムーズに行えるようになります。

 

衛生管理においては、5S(整理や整頓、清掃、清潔、しつけ)を徹底し、日常管理していくことが重要です。

4.始終業時点検の実施

調理場の設備や器具、ホールの衛生状態の点検は、毎日、始業時と終業時に行いましょう。営業終了後の無人の時間帯に予期せぬトラブルが発生する可能性があるため、就業時に点検した箇所でも始業時に確認し、異変がないか確認しましょう。

 

例えば、就業後の人が居ない時間帯に、害虫やネズミが侵入して食品や調理器具に触れるおそれがあります。機器の不具合や停電により冷蔵庫や冷凍庫の温度が上昇し、食品が適切に保存されていないかもしれません。水漏れが起こり、調理場や食品保管庫の衛生状況が悪化することも考えられます。

 

したがって、営業終了時だけではなく始業時にも調理場とホールを点検し、衛生的な状態で業務を開始できるようにしましょう。

5.食材を適切に保管・使用

食品は保管方法により、品質や安全性が大きく左右されます。生鮮食品や加工食品など、食材ごとに適切な方法で保管し、品質劣化や食中毒のリスクを最小限に抑えることが重要です。

 

例えば、生鮮食品は基本的に低温で保管しますが、肉、魚、野菜などの食材により保存に適する温度は異なります。適温の範囲を把握したうえで、食材ごとに適した保管方法で保存しましょう。

 

冷凍食品は品質の劣化を防ぐために、解凍と再冷凍を繰り返さないようにすることが大切です。さらに乾麺や乾物などの乾燥食品は湿気を避け、冷暗所に保管します。冷蔵庫や冷凍庫が複数ある場合はそれぞれ温度を確認し、記録に残しましょう。

 

また、調理時の食材の取り扱いも食の安全性に影響します。調理における食中毒の予防は、温度管理がポイントです。飲食店で提供するメニューを加熱しないもの、加熱後すぐに食べるもの、加熱と冷却を繰り返すものの3つに分けて管理しましょう。

 

10〜60℃は食中毒菌が増殖しやすい危険温度帯とされているため、調理後の食品はこの温度帯を避けて保存することが求められます。

 

野菜サラダや付け合わせのパセリ、薬味のネギなどの加熱調理しない料理は、提供するまで10℃以下で保存しましょう。焼き鳥や天ぷらなどの加熱してからすぐに提供する料理は、食中毒菌を死滅させるために中心温度75℃以上で1分間以上加熱し、温度を保った状態で提供してください。

 

カレーやスープなど加熱調理したものを一度冷まし、再加熱してから提供するメニューは、すばやく冷却させて危険温度帯にとどまる時間を短くすることが大切です。冷却は、加熱調理後30分以内に中心温度を20℃以下、または60分以内に中心温度を10℃以下にすることと定められています。

 

記録に関しては、温度管理に関するチェック項目を設定し、確認したか否かを記入する方式がおすすめです。例えば、ハンバーグであれば「肉汁の色が透明である」ことをチェック項目に設定し、確認したら◯を付けるようにすると容易に記録できます。

 

6.食材の選定には細心の注意を払う

お客様へ安全な食品を提供するためには、食材の選定段階から品質に気を配る必要があります。信頼できる取引先から新鮮で質の良い食材を仕入れるとともに、納入時の検収を徹底して問題がない食品のみを受け入れることが重要です。

 

食材が納品されたら外観やにおい、賞味期限のチェックとともに表面温度を計測し、適切な保存温度で輸送されていることを確認します。包装の破損がないか、異物が混入していないか確認することも必要です。

 

また、近年は飲食店にも食物アレルギーに関する情報提供が求められています。食物アレルギー表示をする際は、まず食材の扱い方や調理方法などについて店舗のルールを決め、ルールにしたがって対応することが大切です。食材について正確な情報を把握し、お客様へ明確に伝えられるように工夫しましょう。

 

アレルギー物質が混入する可能性がある場合、アレルギー対応ができない場合も、きちんと伝えることが正確な情報提供につながります。

7.害虫駆除や衛生対策を定期的に実施、見直す

害虫やネズミなど有害生物の侵入を防ぐ対策の見直し、駆除の依頼は定期的に実施しましょう。有害生物は食中毒や異物混入の原因になるうえに、お客様が店内外で目にした場合、飲食店の評判を下げる要因になり得ます。

 

害虫やネズミは、発生したときに駆除するだけではなく、こまめな清掃やゴミの適切な処分により発生を防ぐことが大切です。さらに、有害生物の侵入を防ぐために、壁や天井、窓、排水溝などに隙間がないか定期的に確認し、隙間があれば迅速に塞いでください。

 

駆除や対策の有効性を確認するには、実施記録を残し、効果を振り返ります。効果がない場合はほかの対策を導入したり、時期によって対策を強化し、有害生物のリスクを減らすように努めましょう。例えば、ネズミの被害が増えやすい繁殖期に重点的に対策を行うのも方法のひとつです。

問題を発生させないために実施したい衛生管理方法

ここまで紹介してきたように、飲食店での衛生管理には数多くのポイントがあります。すべてを確実に行うことが求められますが、業務量が増えてしまうのも事実です。そこで、問題を発生させないために実施したい衛生管理方法を紹介します。

デジタル記録ツールで記録の抜け漏れを防止

衛生管理の記録にデジタルツールを用いると、記録の抜け漏れもなくなり、現場を管理する担当者の負担軽減、業務効率の改善に繋がります。

 

紙の記録表は、水に濡れると文字が滲んだり破れたりして、水に弱いことがデメリットです。異物混入防止の観点から調理場に持ち込めず、記録するのを忘れてしまうこともあるでしょう。しかし、スマートフォンやタブレットなどの電子デバイスであれば調理場にも持ち込めて、確認したその場で入力できます。

 

手書きの場合、同じ内容でも記入者によって記録方法が異なったり、文字が読み取れなかったりすることがあります。そこで、デジタル記録ツールを導入して選択式で入力できるように設定にすれば、記録の確認がスムーズに行えるようになるでしょう。

 

設定した時間に通知する機能を利用すると、記録の抜け漏れを防止できます。さらに、店舗から離れた場所でも記録内容を確認できるため、記録がない現場や数値が基準から逸脱している現場をすぐに把握できます。

 

冷蔵庫や冷凍庫の温度を自動記録

IoT(Internet of Things:モノとインターネットを繋げる仕組み)を活用すると、冷蔵庫や冷凍庫の温度の自動記録が可能になります。IoTとは、あらゆるものをインターネットに接続する技術のことです。IoTにより温度を自動的に記録できるようになると、食材の品質を効率的に管理できるようになり、業務負担が軽減されるでしょう。

 

人が確認する場合は記入漏れや記入ミスがあったり、紙の記録表の管理に手間がかかったりします。しかし、冷蔵庫や冷凍庫の温度管理システムを導入すれば、温度は自動的に計測され、データとして蓄積されます。

 

アラート機能があれば、異常な温度を検知すると即座に通知されるため、すばやい対応が可能です。複数の店舗がある場合も遠隔で温度を確認できれば、管理業務の負担が少なくなります。

徹底した衛生管理で安心安全の飲食店経営を!

飲食店における衛生管理は、お客様に安心安全な食を届けるため、店の評判を守り営業を継続するためにとても重要です。食品衛生法や食品衛生法施行規則でも規定されており、飲食店は衛生管理に努めることが求められています。

 

飲食店の衛生管理では、従業員の健康管理、調理場やホールの清掃、食材の適切な選定と保管、害虫や害獣の駆除など、さまざまな点に注意を払う必要があります。食の安全性を高めるために大切なことではありますが、業務負担の増加は免れません。従業員の協力を得ながら実施するとともに、効率的かつ確実に実施できる方法を採用しましょう。

 

デジタル記録ツールやIoTを導入すると、衛生管理業務を効率化できます。そのようなツールの使用も検討して、衛生管理を徹底しましょう。

 

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