食品工場で異物混入が発生すると、多大な損害が生じる可能性があります。管理者としては、異物混入のリスクをできる限り減らしたいと考えるのが当然でしょう。とはいえ、従業員へ呼び掛けるのみでは異物混入の対策としては不十分です。異物混入の防止策を、組織で仕組み化する必要があります。
この記事では、異物混入を防ぐための考え方と具体的な対策を紹介します。異物になり得るものを分類し、それぞれに適した対策を取り上げているので、御社での取り組みの参考にしてください。
食品製造業で異物混入が発生すると、消費者の健康被害につながる可能性があります。機械の部品や石などが混入すると、口の中や喉が傷つくかもしれません。害虫や害獣などが混入した場合、病原菌やウイルスにより食中毒が発生するおそれがあります。
もし異物混入が発生したら、消費者のみならず企業側にもマイナスの影響があります。異物混入の原因究明と対策のために工場の稼働を停止し、製品の生産をストップすると、販売機会の損失は避けられません。製品の回収や廃棄にも、多大な手間とコストがかかります。健康被害があれば、損害賠償への対応も必要です。
健康被害が起こらない場合でも、食品への異物混入は消費者の嫌悪感が高まりやすく、ニュースやSNSで大きく取り上げられます。製品を利用していない消費者にも異物混入の事実が知れ渡り、企業のブランドイメージや信用が低下して、業績悪化へとつながる可能性は十分にあるでしょう。
また異物混入は、企業だけではなく社会にも混乱を招く事態に発展するおそれがあるため、優先度高く取り組みましょう。
令和4年度(2022年度)に東京都保険医療局が発表した「食品の苦情統計 -苦情処理件数(期別)」では、異物混入への苦情は2番目に多い項目でした。調査からも分かる通り、異物混入は食品に起こりやすいトラブルといえます。
参考:食品の苦情統計|東京都保険医療局 をもとにグラフを作成
また全国150の自治体を対象に、平成28年〜令和1年に行われた「全国における食品への異物混入被害実態の把握」では、異物混入の詳細が明らかになっています。混入が多いものから順に並べると、虫(23.9%)、合成樹脂(17.5%)、動物性異物(17.0%)、鉱物性異物(15.9%)となっています。そのほかは寄生虫や紙、絆創膏などの異物混入がありました。
画像引用元:全国における食品への異物混入被害実態の把握
虫の混入はハエとゴキブリが中心であり、工場の衛生管理や外部からの侵入を許す環境に問題があると考えられます。2番目に多い合成樹脂とは、ビニールやゴムなどが原因で起こるものです。食品の原料に使われているビニール製の包装や、従業員が着用するゴム製の手袋の一部が混入するケースが見られます。
動物性異物でもっとも多いものは人毛です。帽子やヘアキャップなどを被っていても、作業着に付着していた毛髪が混入する場合があります。金属などの鉱物性異物は、製造設備の一部が破損して混入するケースが考えられます。
また、異物混入の発生件数を食品分類別でもまとめられています。異物混入が多く発生した食品を順に並べると、調理済み食品(52.2%)、菓子類(13.7%)、農産加工品(8.4%)となっています。その他は水産食品や畜産加工品などで異物混入がありました。
画像引用元:全国における食品への異物混入被害実態の把握
「調理済み食品」への混入が多い理由として、報告書内では、以下のように述べられています。
本調査において「調理済み食品」に分類される食品の幅が広いこと、「調理済み食品」が消費者に 提供されるまでには、例えば水産食品や 畜産食品と比べて工程が多く、異物が混 入する機会が増えることが可能性として挙げられる。
調理済み食品で顕著に異物混入が発生している理由は、製造工程が多く、ほかの食品よりも異物混入の機会が増えやすいためだと考えられます。菓子類も同様に、製造工程の多さが異物混入のリスクを高めているでしょう。農産加工品は、原料となる農産物に石や砂、虫などが付着しやすいためと考えられます。
食品工場で混入しやすい異物は、動物性異物、植物性異物、鉱物性異物、その他の4種類に分類できます。具体的な内容は以下のとおりです。
異物の種類 |
詳細 |
具体例 |
侵入経路 |
動物性異物 |
昆虫・動物とその排泄物、人の体の一部など動物由来の異物 |
害虫・害獣 |
・開放された扉や窓 ・壁、床、天井の隙間 |
従業員の毛髪 |
・作業着に付着 ・帽子やヘアキャップの隙間から落下 |
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植物性異物 |
食用に適さない植物、カビ類、紙類、ゴム片など植物由来の異物 |
カビ・細菌 |
・開放された扉や窓 ・従業員や原料に付着 |
紙類 |
・原料の包装やダンボール ・工場内への帳票の持ち込み |
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鉱物性異物 |
金属、ガラス、小石、砂、貝殻など鉱物由来の異物 |
機械の部品 |
・機械やガラス容器の破損 |
石や砂 |
・原料や従業員の靴に付着 |
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その他 |
プラスチック、ビニールなど |
筆記用具 |
・工場内への持ち込み |
4つに分けられる異物の分類と詳細、具体例
異物混入を防ぐためには、異物混入対策の3原則「入れない、持ち込まない、取り除く」に沿って防止策を考えましょう。
「入れない」とは、工場の設備や機械、製造に使用する道具を適切に管理・保守して、破損による異物混入を防ぐ考え方です。機械や道具の劣化や破損による異物混入のリスクは避けられません。しかし定期的なメンテナンスで異物混入は防げます。
「持ち込まない」とは、異物になり得るものを工場内に持ち込まないことで異物混入を防ぐ考え方です。異物になる危険性が高いものはほかのもので代替したり、持ち込まなくて済む仕組みを作ったりする必要があります。
「取り除く」とは、混入してしまった異物を排除し、製品に残さない考え方です。金属探知機やX線装置、ろ過、ふるいなど、混入する可能性のある異物に適した方法をとることが大切です。次に具体的な異物例とその対策を紹介します。
まずは、動物性異物の虫や動物、人の毛髪や爪などの混入を防ぐための対策を紹介します。動き回り繁殖する虫や動物は、対策が困難な異物の一つです。食品の原料に付着していたり、扉や窓、配管などから工場内へ侵入したりして、製造中の食品や保管中の完成品へ混入します。
従業員の毛髪や爪などの混入を防ぐ対策も大切です。製造中にヘアキャップの隙間から毛髪が落ちたり、作業着に付着していた毛髪が混入したりする可能性があります。
動物性異物の例 |
原因 |
虫や動物 |
・食品の原料への付着 |
従業員の毛髪や爪 |
・製造中にヘアキャップの隙間から毛髪が落ちる ・作業着に付着している |
動物性異物の例と原因
虫や動物は工場の外部から侵入するので、扉はすばやく開閉し、開放したままにしないように網戸などを設置することも検討しましょう。
また防虫のれんやエアカーテン、シートシャッターの設置も効果が期待できます。工場の壁や床、天井に隙間があれば、セメダインや目地シール、隙間テープなどで塞ぎましょう。
虫には、電気捕虫器や紫外線カットフィルムも有効です。虫は排気口や排水溝、洗浄機などの熱源に集まりやすい性質があるので、定期的に清掃したり、防虫ネットを設置したりするなどの対策をしましょう。
また侵入だけでなく、虫や動物の繁殖を防ぐことも大切です。エサとなる生ゴミは密閉できるゴミ箱に保管して、すみやかに廃棄し、住処になる場所をなくすことが効果的です。
もし工場内で虫や動物が繁殖してしまったときは、すばやく駆除しなければなりません。殺虫剤や殺鼠剤で駆除はできますが、食品工場であるため安易な使用は避け、場合によっては専門業者へ依頼しましょう。
毛髪の混入を防ぐには、毛髪混入対策の4原則「持ち込まない、落とさない、留めない、取り除く」に沿って対策を立てましょう。
4原則 |
詳細 |
具体策 |
持ち込まない |
毛髪を工場内に持ち込ませない |
・私服と作業服を分けて管理 ・粘着ローラーやエアーシャワーの利用 |
落とさない |
毛髪を工場内に落下させない |
・帽子やヘアキャップを正しく着用 ・毛髪のはみ出しを定期的に確認 |
留めない |
落下した毛髪を取り除き、堆積を防ぐ |
・清掃の徹底 ・清掃しやすい環境作り |
取り除く |
混入した毛髪を製品から除去する |
・目視での除去 ・ふるいやフィルターにかける |
毛髪混入対策の4原則「持ち込まない、落とさない、留めない、取り除く」
出勤前の自宅でのブラッシングは、工場への毛髪の持ち込み防止に効果的です。私服には毛髪が付着している可能性が高いため、作業着との接触を避けて更衣・保管するようにしましょう。工場に入る前に、粘着ローラーやエアーシャワーを利用して毛髪を除去することを徹底しましょう。
工場内で着用する毛髪の落下を防ぐ帽子やヘアキャップも、正しく着用できていなければ意味がありません。作業場所に入る前に必ず鏡を見ながらチェックしましょう。
さらには、工場内に落下した毛髪を除去するために、こまめな清掃も行いましょう。そのために清掃しやすい環境づくりも心がけ、棚を壁から離して設置したり、床と棚の最下段の間を大きく空けたりすることも大切です。毛髪を見つけやすいように、工場内の照明を明るくすることも検討してください。
次に、植物性異物である食用に適さない植物(葉、木片、種子、もみ殻など)、カビ類、紙類、ゴム片などの混入を防ぐための対策を紹介します。
植物性異物の例 |
原因 |
葉、木片、種子、もみ殻 |
・原料の外装や従業員の体に付着している |
カビ、細菌 |
・原料や従業員の体に付着している ・扉や窓から侵入する ・工場内で繁殖する |
紙類 |
・原料の外装やダンボールの破片が紛れ込む ・工場内に帳票を持ち込む |
ゴム |
・機械の部品や工場設備が劣化する |
動物性異物の例と原因
細菌やカビが食品に混入すると、食中毒、カビ毒、感染症、アレルギーなどの重大な健康被害を引き起こすおそれがあります。繁殖すれば健康被害が広がる上に、企業側も大きな損害を被るため、十分な対策が必要です。
工場内へのカビや細菌の侵入を防ぐには、扉や窓を開放しない、空気を清浄化するなどの対策がとれます。手洗いなど、従業員への衛生指導にも努めましょう。原料に付着していることもあるため、原料についてカビや細菌の汚染度を調べておくとよいでしょう。
カビは繁殖すると胞子を飛ばし、食品への混入リスクが高くなることから、繁殖を防ぐ対策が必要です。カビが繁殖しやすいのは、湿気が多い場所や空気の流れが集まる場所、物の動きが少ない場所などです。それらの場所をこまめに清掃し、工場内の湿度を管理してカビが繁殖しにくい環境を作るのが重要です。
多くのカビや細菌は熱に弱いことから、食品の加熱処理も健康被害の防止につながります。しかし加熱処理後に混入することもあるため、まずは工場内への侵入や繁殖を防ぐ対策を優先的におこないましょう。
原料が入っていた包装やダンボールなどの紙類の混入を防ぐには、原料をプラスチックコンテナなどの容器に移し替えてから、工場内に持ち込むのが良いでしょう。また原料を開封する際に、包装の切れ端が混入しないよう注意することも大切です。
製造管理に紙の書類を使用している場合、紙の破片が混入するリスクがあります。工場内へは必要最小限の持ち込みにとどめるほか、タブレットなどの活用により紙の混入リスクを低減できます。
次に鉱物性異物の金属、ガラス、小石、砂、貝殻などの混入を防ぐための対策を紹介します。
鉱物性異物の例 |
原因 |
金属片、ねじ、はがれた塗装、サビ |
機械類が劣化、破損する |
ガラス片 |
ガラス製容器が破損する |
石、砂 |
原料や従業員の靴に付着している |
動物性異物の例と原因
工場内の機械や設備に劣化・破損が起こると、異物混入につながります。そのため定期的なメンテナンスをおこない、破損を未然に防ぎましょう。メンテナンス時に、異常が発見された場合はすみやかに対処し、被害の拡大を防ぎましょう。
ガラス製の容器は破損のおそれがあるため、工場内での使用は可能限り避けます。ガラス瓶に入った調味料などは、プラスチックや金属製の容器に移し替えることのがおすすめです。
金属の混入には金属探知機の利用が有効である一方、ガラスなど検出できない素材があります。コストはかかりますが、金属やガラス、ゴムなどを検出できる金属探知機の導入も検討してみましょう。
石や砂が付着している可能性が高い農産物は、目視で異物がないか確認しつつ、十分に洗浄しましょう。とはいえ、農産物に深く入り込んだ石や砂を完全に除去することは困難です。X線装置の利用し、可能な限り異物混入のリスクを減らすことが大切です。
従業員の靴に付着した石や砂の持ち込みを防ぐには、靴の履き替え、粘着マット、シューズカバーの利用が有効です。
食品の製造には、機械類以外にもザルやボウルなどの調理器具やゴム手袋が必要な場合があります。製造や清掃に欠かせない道具(スポンジやブラシなど)も、異物になることがあるため注意しましょう。
異物の例 |
原因 |
調理器具、清掃用具 |
工場内で破損する |
筆記用具 |
・キャップなどの部品が紛失する ・本体が破損する |
その他、製造に必要な道具などのの例と原因
道具類は、使用前後に破損がないか確認することを習慣化するのが良いでしょう。破損する前に、定期的に交換することも大切ですが、万が一、食品に混入しても見つけやすいように、目立つ色(青色や黄色など)がついた道具を使うことをおすすめします。樹脂やプラスチックは破損しやすいため、金属など強度が高い素材を使用した道具に変えることも検討しましょう。
ボールペンやマジックなどの筆記用具は、キャップや本体の破片が食品に混入するおそれがあります。キャップのないボールペンやノック式のマジックを利用すると同時に、工場へ持ち込む本数や保管場所をしっかり管理しましょう。
紙の帳票を使用していると、筆記用具を使わざるを得ません。紙からタブレットなどに変えて電子化すると、筆記用具の使用機会がなくなり、異物混入のリスクも低減します。
デニッシュパンの製造・販売などを手掛ける株式会社ボローニャFCでは、製造現場での品質管理の記録を、従来の紙とボールペンによる記載から、タブレットを利用した記録に変更しました。その結果、品質管理に関する問い合わせ対応が早くなったことに加え、ボールペンや紙を使わなくなったため、異物混入のリスクが減ったと話しています。
上記のような対策を行っていたとしても、異物混入を完全になくすことは極めて困難でしょう。よって、発生した時を想定し、対応策を検討しておくことも重要です。異物混入が発生した際、迅速に適切な対応をとることで、発生後の損失を最低限に抑えることができます。
異物混入が疑われる場合、まず最初に全ての製品を即座に市場から引き揚げ、工場内で厳格に隔離します。この段階での速やかな回収が、被害を最小限に抑え、信頼回復の第一歩となるでしょう。回収した製品は徹底的な検査をし、異物混入の原因や程度を詳細に調査します。
製品回収と同時に製造ラインを即座に停止し、原因を探るための点検を実施します。製造工程における異物混入の原因を特定し、問題箇所を解決することがこのステップの目的です。また、点検を通じて製造ラインの全体的な強化策や改善点を見極め、将来的な異物混入リスクを軽減する方策を検討します。
異物混入の原因を明確に特定するために、徹底的な調査が不可欠です。原料供給の段階から製造ラインまでの全プロセスを対象に、異物混入が発生する可能性のある箇所を特定しましょう。原因の特定は再発防止の基本です。特定された原因に対しては、即座に是正措置を講じ、再発防止策を徹底的に検討・実行し、従業員への教育やトレーニングを行うことが求められます。
異物混入が発生した場合、消費者や関係者への説明と報告が欠かせません。事態の透明性の確保と誠実なコミュニケーションをすることで信頼回復が可能になります。事故の原因や被影響製品の詳細な説明と対応策、および今後の品質管理強化に関する情報を提供し、信頼回復に全力を注ぎましょう。
異物混入事故を教訓に、品質管理体制を徹底的に見直し、再発防止策を策定・実行しましょう。従業員へのトレーニングや品質管理プロセスの改善、デジタル技術の活用など、異物混入リスクを最小限にするための組織全体の取り組みが求められます。これにより、将来的な異物混入リスクを低減し、製品の品質と信頼性を向上させることが期待されます。
異物混入事故に対する組織全体の迅速で体系的な対応が、企業の信頼を守り、顧客満足度を高める鍵となります。品質管理の徹底と絶え間ない改善が、企業の長期的な成功に繋がることでしょう。
食品への異物混入は、消費者の健康被害につながるおそれがあります。企業側は大きな経済的ダメージを受け、ブランドイメージや信用も低下するでしょう。そのため、異物混入対策はとても意義のある取り組みといえます。
異物混入の防止策は、「入れない、持ち込まない、取り除く」という異物混入対策の3原則に沿って検討しましょう。機械の定期的なメンテナンスで部品の混入を防ぐ、紙の書類や筆記用具を工場内に持ち込まない、金属探知機やX線装置などを利用して異物が混入した製品を除去するなどの対策が考えられます。
異物になり得る対象物は多く、対策を講じることは簡単ではありません。まずはリスクが高いものを洗い出し、適切な手を打つことが大切です。食品への異物混入を防ぎ、消費者や取引先からの信頼を得て、売上げの維持・向上を目指しましょう。