スーパーマーケットでは、さまざまな食品を大量に仕入れ、加工・販売を行うため、衛生管理の重要性が特に高まります。そのため食品衛生管理方式のHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:危害要因分析・重要管理点)ももちろん必要になります。
すべての食品関連事業者に法律で義務づけられているHACCPは、消費者に安全な食品を提供するために欠かせません。
本記事では、HACCPの概要とスーパーマーケットにおける衛生管理ポイントを仕入れ販売品・精肉・鮮魚・惣菜といった分類別にわかりやすく解説します。
HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point:危害要因分析重要管理点)とは、原材料の受け入れから、保管、加熱、冷却、包装、出荷までの製造工程におけるリスクを分析し、安全を確保するために事前に対策し、実施した内容を記録をする衛生管理方法です。
HA(Hazard Analysis:危害要因分析)とは、各工程ごとに健康被害につながる恐れのある危害要因(食中毒菌や異物混入など)がないか調査を行うことで、CCP(Critical Control Point:重要管理点)とは、危害除去などの直接管理できるポイントを継続的に管理し、記録することです。
要するに、HACCPとは、健康被害を起こす要因を予測し、危険と思われるポイントを管理・監視することで事故を未然に防ぐためのシステムと言えます。
▶ HACCPの基本を解説した記事はこちらからご覧いただけます。
2021年6月から「HACCPに沿った衛生管理」が義務化され、原則としてスーパーマーケットを含むすべての食品事業者がHACCPの導入と運用の対象になりました。
HACCPは、食品が引き起こす可能性のある健康被害を予測し、リスクを管理する手法なので、食品の安全性を確保する上で、非常に重要な役割があります。
スーパーマーケットにおけるHACCPは、店舗全体の「一般衛生管理」と、仕入れ販売商品、精肉、鮮魚、青果、惣菜の5部門に分かれた特定の工程管理が対象です。
食品工場と同様に「製造者」として精肉、鮮魚、青果と惣菜に関する食品の受入から保管・加工・包装・温度管理や設備・器具・従業員の衛生管理に加えて、「販売者」として陳列・販売などにも徹底した衛生管理が求められます。
製造者としての衛生管理対象の例 |
販売者としての衛生管理対象の例 |
・原材料の受け入れ ・保管時の温度管理 ・加工 ・包装 ・設備や器具 ・従業員の体調管理 など |
・生鮮食品の受け入れ ・保管時の温度管理 ・陳列時の温度管理 ・販売 ・従業員の体調管理 など |
製造者と販売者の両方の側面でHACCPに沿った衛生管理の仕組みを作ることで、消費者に安全な商品を提供できます。
スーパーマーケットのHACCPに沿った衛生管理は、基本的に「一般社団法人の全国スーパーマーケット協会」が公開している「スーパーマーケットにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」をもとに「一般衛生管理」と「分類別工程管理」を行い、記録を残します。
「分類別工程管理」では、仕入れ販売商品、精肉、鮮魚、青果、惣菜の5つの分類それぞれの危害要因を特定し、重要管理点を設定した上での管理を行います。
スーパーマーケットは食品工場とは異なり、各分類が入り交じる場合もあります。例えば、青果と精肉が一緒になって惣菜を製造、販売することなどです。
そのため、各部門における留意点と管理上のポイントを確実に理解した上で、適切に反映させる必要があります。
スーパーマーケットにおけるHACCPの一般衛生管理とは、食品を仕入れたり、調理・加工する施設環境の衛生管理と、販売する売り場、食品を扱う従業員の衛生管理を意味します。具体的な一般衛生管理の対象と具体的な対応方法は以下の通りです。
一般衛生管理の対象 |
対応方法 |
衛生管理する場所の例 |
施設・設備 |
・作業に不必要なものは置かない ・適切な位置にゴミ箱を設置し、毎日ゴミは廃棄する ・清掃の実施記録を付け、衛生環境の維持をする ・工場以外の駐車場などの敷地内も清掃する |
・天井や照明器具 ・換気口やエアコン ・壁や床、棚の水ハネや油ハネ ・排水溝や集水マス ・グリストラップ ・トイレ |
使用器具 |
・器具の洗浄をする ・使用中と洗浄消毒済みの未使用器具を区別して保管する |
・調理場・加工場 |
使用水など |
・定期的に水質検査をする ・貯水槽の清掃をする ・殺菌装置や浄水装置の点検を行う |
・調理場 ・洗面所 |
ネズミ・昆虫 |
・専門業者に定期的な駆除を依頼する ・出入り口や窓の施錠する ・食品を残りカスはゴミ置き場に捨てる |
・調理場 ・加工場 |
廃棄物・排水 |
・ゴミ捨てルールの徹底する ・排水溝から肉や油が流れないようにゴミ受けなどを設置する |
・調理場 ・加工場 ・浄化槽 |
食品などの扱い |
・受入時に傷や汚れが無いか確認する ・野菜や果物は消毒する ・使い捨て手袋を使って惣菜を盛り付ける |
・食品倉庫 ・冷蔵庫、冷凍庫 ・調理場 ・加工場 |
検食の実施 |
・試食して問題がないか確認する ・食品提供先の記録する ・提供時間や提供量の記録を取る |
・調理場 ・加工場 ・売り場 |
情報の提供 |
・品質証明書・安全への取り組みなどで顧客への情報提供する ・保健所への健康被害などの報告する |
・売り場 ・管理事務所 |
回収・廃棄 |
・回収責任者と回収基準を定める ・回収した製品の厳重管理する |
・調理場 ・売り場 ・管理事務所 |
売り場及び陳列 |
・温度管理や消費期限の確認をする ・入荷順に購入してもらうために先入れ先出しを工夫する |
・売り場 ・陳列棚 |
食品取扱者 |
・作業前の健康チェックする ・白衣やエプロンを清潔に管理する |
・更衣室 ・バックヤード |
参考:スーパーマーケットにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書|一般社団法人 全国スーパーマーケット協会
各ポイントの実効性を高めるには、責任者の選定と適切なルール策定と改善、従業員への周知徹底が欠かせません。
仕入れ販売商品とは、店舗内で手を加えずに販売する容器包装済みの食品を指します。カップラーメン、ベビーフード、ジュース、缶詰、ドライフルーツ、豆腐、冷凍食品などが対象です。
仕入れ販売商品の衛生管理では、受入から陳列まで受入時の破損確認、保管時の温度管理、品質を損なわない陳列ルールの徹底などが特に重要です。そのため、食品の取り扱い方や特徴を熟知し、食品に及ぼす悪影響の要因を特定した上での適切な対策が必要です。
仕入れ販売商品の衛生管理記録では、受入確認、庫内の温度管理、器具の洗浄・消毒・殺菌、トイレの清掃と殺菌、従業員の手洗い実施と健康チェックなどがあります。
それぞれ、実施日時、担当者名、実施内容、問題発生時の対応内容、対応結果などを明記します。いつ誰が見返しても、内容が正確に把握できるような記録方法が求められます。
精肉(ローストビーフ、豚肉パックなど)は、受入から加工、保存、販売に至るまで、厳密な衛生管理が必要です。作業中は常に清潔を保ち、交差汚染や二次汚染の防止が求められます。
精肉の衛生管理では、温度が適切でないと微生物が繁殖しやすくなるため、冷蔵庫・冷凍庫内での保存温度を厳密に管理する必要があります。
冷蔵保存では10℃以下、冷凍保存では-15℃以下を維持し、定期的な温度確認と記録を行います。
特に温度管理を徹底し、食中毒菌や劣化の原因となる微生物の繁殖を防止します。精肉は温度管理を怠ると、消費者が食中毒などの健康被害を引き起こす可能性があります。作業中は常に温度を確認し、異常があった場合は即座に対策を講じます。
精肉の衛生管理における記録するものとして、以下のようなものが挙げられます。
記録項目 |
いつ |
どのように |
冷蔵庫や冷凍庫の温度記録 |
始業前・作業中・終業後 |
温度計を用いて庫内温度を測定し、記録用紙に記録する |
体調チェック記録(従業員の衛生管理) |
始業前 |
体調チェックリストに各自で記入する(発熱、下痢、嘔吐、腹痛、咳、鼻水などの症状の有無をチェック) |
加工器具の洗浄・消毒記録 |
使用後毎回 |
洗浄・消毒記録用紙に、使用した加工器具名、洗浄・消毒日時、担当者名を記入する |
清掃手順書に基づいた作業の実施記録 |
毎日 |
清掃記録用紙に、清掃箇所、清掃日時、担当者名、清掃方法を記入する |
精肉部門で記録するものと実施方法
冷蔵庫や冷凍庫の温度記録を記録したときの例を以下に記載します。日ごとで決まった時間に計測し、記録を取るようにしましょう。
冷蔵庫/日時 |
10/1 午前10時 |
10/1 午後10時 |
10/2 午前10時 |
冷蔵庫1(10℃以下) |
9.6℃ |
9.7℃ |
9.3℃ |
冷蔵庫2(8℃以下) |
7.5℃ |
7.8℃ |
7.2℃ |
冷凍庫1(-15℃以下) |
-12℃ |
-12℃ |
-13℃ |
精肉部門の記録例
鮮魚(刺身用の魚、冷凍魚、寿司ネタなど)は、受入、加工、保存から販売に至るまで、鮮度と衛生が最重要視されます。加工場での衛生管理を徹底し、食材が直接触れる機材や作業場の清潔を保つことが大切です。
鮮魚は特に腐敗が早いため、冷蔵庫・冷凍庫の温度管理が重要です。冷蔵庫の温度は10℃以下、冷凍庫は-15℃以下を維持し、常に温度を記録することで、品質の保持と安全性の確保を行います。
また、アニサキスなどの寄生虫や細菌のリスクもあるため、冷凍処理や適切な加熱調理での防止が必要です。
鮮魚の衛生管理における記録するものとして、以下のようなものがあります。
記録項目 |
いつ |
どのように |
冷蔵・冷凍庫の温度確認記録 |
始業前・作業中・終業後 |
温度計を用いて庫内温度を測定し、記録用紙に記録する |
原材料の受入時の品質確認記録 |
受入時 |
各項目を確認し、記録用紙に記録する ・外箱に異常はないか(包装の破れや液漏れなど) ・品名や数量など、注文通りに納品されているか ・保管温度が守られていたか ・水産物の場合:産地と魚種 |
体調チェック記録(従業員の衛生管理) |
始業前 |
体調チェックリストに各自で記入する(発熱、下痢、嘔吐、腹痛、咳、鼻水などの症状の有無をチェック) |
器具や作業場の洗浄・消毒の実施記録 |
使用後毎回 |
洗浄・消毒記録用紙に、使用した器具名、洗浄・消毒日時、担当者名を記入する |
製品説明書に基づく、アレルゲン管理記録 |
始業前・作業中・終業後 |
アレルゲンを含む魚介類の取り扱いについて、以下の内容を記録する |
鮮魚部門で記録するものと実施方法
冷蔵庫や冷凍庫の温度記録を記録したときの例を以下に記載します。日ごとで決まった時間に計測し、記録を取るようにしましょう。
冷蔵庫/日時 |
10/1 午前10時 |
10/1 午後10時 |
10/2 午前10時 |
冷蔵庫1(10℃以下) |
9.6℃ |
9.7℃ |
9.3℃ |
冷凍庫1(-15℃以下) |
-13℃ |
-14℃ |
-13℃ |
鮮魚部門の記録例
青果(野菜、果物、カット・パック野菜など)は、受入から保存、加工、販売に至るまで、その鮮度と衛生を保ち、虫などの付着を防ぐことが重要です。青果物は生鮮食品であり、品質が劣化しやすいので、適切な温度や湿度管理が必要です。
青果物は低温での保存が求められ、適切な温度管理を行わないと腐敗や品質劣化が進みやすくなります。保存温度は10℃以下を徹底し、庫内の温度を定期的に確認・記録することが重要です。
また、黄色ブドウ球菌や農薬、防カビ剤などが付着している可能性があるため、受入時に外観の確認や適切な洗浄、消毒を実施し、リスクの排除が求められます。
温度管理を徹底しながら、青果特有の農薬や防カビ剤の残留などにも意識を向けなればいけません。これにより、食中毒のリスクを低減し、消費者に安全な商品を提供できます。
農薬や防カビ剤については、許容範囲内であるかの確認も含め、定期的な検査が推奨されます。
青果の衛生管理における記録するものとして、以下のようなものがあります。
記録項目 |
いつ |
どのように |
冷蔵庫の温度確認記録 |
始業前・作業中・終業後 |
温度計を用いて庫内温度を測定し、記録用紙に記録する |
受入時の品質確認記録 |
受入時 |
入荷した野菜、果物の種類、数量、鮮度を記録する ・産地、収穫日 ・外観(傷み、変色、異臭、腐敗など) ・温度(適切な温度で保管されているか) ・農薬の付着状況(必要に応じて検査) ・異物混入(虫、土など) |
カット野菜などの加工時に使用した器具の洗浄・消毒記録 |
使用後毎回 |
洗浄・消毒記録用紙に、使用した器具名、洗浄・消毒日時、担当者名を記入する |
農薬検査の実施記録 |
必要に応じて |
検査機関、検査日、検査対象品、検査結果を記録する |
従業員の体調管理記録 |
始業前 |
体調チェックリストに各自で記入する(発熱、下痢、嘔吐、腹痛、咳、鼻水などの症状の有無をチェック) |
青果部門で記録するものと実施方法
冷蔵庫の温度記録を記録したときの例を以下に記載します。日ごとで決まった時間に計測し、記録を取るようにしましょう。
冷蔵庫/日時 |
10/1 午前10時 |
10/1 午後10時 |
10/2 午前10時 |
冷蔵庫1(10℃以下) |
9.6℃ |
9.7℃ |
9.3℃ |
冷蔵庫2(10℃以下) |
9.5℃ |
9.5℃ |
9.5℃ |
青果部門の記録例
惣菜(生食用の惣菜、リパック惣菜、加熱用惣菜など)は、製造工程において異なるパターンがあります。
中でも、加熱用惣菜は、原材料の受入から加工・加熱調理(中心温度確認)し、 冷却・包装され販売されるので、各工程での重要管理点を決め、製造しなければいけません。
惣菜の衛生管理では、温度管理が特に重要です。加熱調理する際は、中心温度が基準に達するようにし、一定の時間温めることで、食中毒の原因となる菌(黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオなど)の排除が可能になります。
適切な加熱時間と温度を確認し、また冷却工程では菌の繁殖を抑えるため、できるだけ早く所定の低温にまで製品を冷やす必要があります。これにより、安全な惣菜を消費者に提供できます。
惣菜の衛生管理における記録するものとして、以下のようなものがあります。
記録項目 |
いつ |
どのように |
原材料の受入記録(温度・品質確認) |
受入時 |
入荷した食材の種類、数量、鮮度を記録する ・産地、製造日 ・外観(傷み、変色、異臭など) ・温度(適切な温度で保管・搬送されているか) ・賞味期限・消費期限 |
加熱調理時の中心温度確認記録 |
加熱調理時 |
中心温度計を使用して、中心部の温度を測定し記録する |
冷却・保存時の温度確認記録 |
冷却時・保存時 |
温度計を用いて、冷却・保存温度を測定し、記録用紙に記録する |
包装時の衛生管理記録 |
包装時 |
包装材料の種類、状態を記録する ・包装日時 ・担当者 ・包装後の状態 |
加工器具や作業場の洗浄・消毒記録 |
使用後毎回 |
洗浄・消毒記録用紙に、使用した器具名、洗浄・消毒日時、担当者名を記入する |
従業員の体調チェック記録 |
始業前 |
体調チェックリストに各自で記入する(発熱、下痢、嘔吐、腹痛、咳、鼻水などの症状の有無をチェック) |
惣菜部門で記録するものと実施方法
冷蔵庫の温度記録を記録したときの例を以下に記載します。日ごとで決まった時間に計測し、記録を取るようにしましょう。
冷蔵庫/日時 |
10/1 午前10時 |
10/1 午後10時 |
10/2 午前10時 |
冷蔵庫1(10℃以下) |
9.5℃ |
9.7℃ |
9.6℃ |
冷蔵庫2(10℃以下) |
9.6℃ |
9.2℃ |
9.2℃ |
惣菜部門の記録例
スーパーマーケットでは、食品の製造と販売を行うため、HACCPの適切な運用が必須です。各部門(仕入れ販売商品、精肉、鮮魚、青果、惣菜)において、温度管理、交差汚染防止、従業員の衛生管理など、重要なポイントを踏まえて管理を行い、適切な記録を残すことが重要です。
受入から保管、加工、包装、陳列、販売までの一連の工程で、いつ、誰が、何を、どのように管理したかを明確に記録し、異常が発生した際には速やかに対応する体制を整えましょう。
HACCPを効果的に運用することで、消費者に安心・安全な食品を提供し、信頼される店舗運営を目指せます。