ヒューマンエラーとは?定義や心理的背景、対策について解説
2020.10.01
2024.07.01更新
ヒューマンエラーは、人が働くことで発生するミスのことです。人である以上、全てのことを完璧にこなすことは難しいですが、ヒューマンエラーを放置しておくと、いつか大きな事故に繋がってしまいます。
そこで今回は、ヒューマンエラーの概要やヒューマンエラーの発生する背景や事例、ヒューマンエラーを防ぐ方法について解説していきましょう。
ヒューマンエラーとは?
まずは、ヒューマンエラーの概要について解説していきましょう。
ヒューマンエラーの定義や種類とは
「ヒューマンエラー」とは、日本語で「人為的ミス」のことです。人はロボットと違い、様々な要因で全てを完璧にこなすことはできません。世の中の仕事のほとんどに人が介在している以上、職場においてヒューマンエラーが発生するのは必然といえます。
このような前提の中で、主に人為的な原因によって発生するミスのことをヒューマンエラーと定義しています。
ヒューマンエラーの中には大きく2種類あり、「やるべきことをやらなかった」と「やるべきではないことをした」という2種類に大別できます。
「やるべきことをやらなかった」場合のヒューマンエラーを「オミッションエラー」といい、本来やるべき仕事や工程を省いて次に進む「近道行動」によって発生します。
近道行動は「面倒だから」と感じて仕事を飛ばしてしまう場合と、「ついうっかり」「知らなかった」など、仕事をすべきことを認識していなかった場合のどちらかによって発生します。
そして、「やるべきではないことをした場合」のエラーを「コミッションエラー」といい、する必要のない行為によって発生するエラーです。例えば、操作ミスや選択ミスなど、「間違った」「誤った」操作や行動によって発生します。
業界ごとのヒヤリハット
ヒューマンエラーはあらゆる労働環境で発生しますが、業界によってはヒューマンエラーが人の生死を左右する場合があります。
このような業界では、特にヒューマンエラーに対する意識が高く、ヒューマンエラーを深刻度によってランクづけして大事故に至らないような対策を行っており、これが「ヒヤリハット」です。
ヒヤリハットを取り入れている業界では、ヒヤリハットが発生した場合に「ヒヤリハット報告書」を作成して、ミスが起こった状況や原因、対策を記入して今後の事故防止に役立てます。ここで、ヒヤリハットを導入している代表的な2つの業界を紹介していきましょう。
建設業界
建設業界は大型の重機が現場内を行き交い、鉄骨やセメントといった建築資材などが多く、転倒や転落が発生しやすい危険な現場で仕事をします。事故が起こると人命が失われ、重大な怪我につながる可能性が高い業界です。
このため建設業界では、「ヒヤリハット」や「不安全行動」という言葉と共に対策を講じることで、ヒューマンエラーの発生を防止しています。
医療業界
医療業界は、もともとが人の命や健康を対象にして働く業界です。医療業界ではヒューマンエラーが人の命を失ったり、健康を損なったりする原因となります。
そこで、医療業界でもヒヤリハットの概念を取り入れています。業界の中では「インシデント」と呼ばれますが、ヒヤリハットと同義です。
ヒューマンエラーが起こる心理的背景
ヒューマンエラーの背景には、人の持つ心理的影響が挙げられます。ヒューマンエラーには、「意図的なヒューマンエラー」と「意図的ではないヒューマンエラー」が挙げられます。ここでは、ヒューマンエラーが起こる心理的背景について解説していきましょう。
意図的なヒューマンエラー
意図的なヒューマンエラーとは、「ヒューマンエラーが発生するリスクを軽視することで起こるエラー」です。
簡単に言えば、「これぐらい大丈夫だろう」という心理が引き起こすヒューマンエラーのことで、作業をする上で必要な手順が定められているにもかかわらず、それらを行わなかった結果として発生します。
意図的なヒューマンエラーの原因は、主に慣れに起因する危険軽視や傷や行動が挙げられるでしょう。意図的なヒューマンエラーはベテランになればなるほど発生リスクが高まるため、仕事ができるベテランに対しても継続的に注意・啓発していく必要があります。
意図的ではないヒューマンエラー
意図的ではないヒューマンエラーは意図的なヒューマンエラーと違い、本人の意思に反して発生するヒューマンエラーのことです。具体的には「場面行動本能」や「疲労」が原因です。
場面行動本能とは、瞬間的に注意が1つの点に向かってしまい、その他のことに対する注意がおろそかになることをいいます。人間は、危険が迫るとその危険への対処に意識が向いてしまう本能が備わっているため、必然的にその他のことへの注意がおろそかになってしまいます。
この場面行動本能により、ある一点に意識を向けたことで重大事故が防げたとしても、その他の部分でヒューマンエラーが発生し、別の事故に繋がる可能性があります。また、長時間労働などの疲労によって注意力が低下し、発生するミスも意図的ではないヒューマンエラーといえます。
業界別のヒューマンエラー
ヒューマンエラーには、業界ごとに違いがあります。ヒューマンエラーのイメージを掴むためにも、代表的な2つの業界のヒューマンエラーの事例を紹介していきましょう。
建設業界でのヒューマンエラー
建設現場での「意図的なヒューマンエラー」には以下のようなものが挙げられます。
- 重機のエンジンを切らずに社外に出る(操作レバーに体が触れ、誤作動が起こる)
- 安全帯が必要な高さにもかかわらず「これぐらいの高さなら大丈夫」と安全帯を着用しない
建設現場の「意図的ではないヒューマンエラー」には以下のようなものがあります。
- クレーンの操作に集中してしまい、釣りの下に人が入ったことに気がつかない
- 疲労により、ゴーグルやヘルメットの着用を忘れてしまう
医療現場でのヒューマンエラー
医療現場で発生する「意図的なヒューマンエラー」は以下の通りです。
- 入院患者にいつもと違う薬を投薬する必要があるにもかかわらず、指示を確認せずいつもと同じ薬を投薬する
- 同姓の患者が複数いるにもかかわらず、確認を怠り同姓の別の患者に対して処置を行う
医療現場で発生する「意図的ではないヒューマンエラー」には以下のようなものが挙げられます。
- 注射の最中にナースコールが鳴り、その音に気を取られ注射に失敗する
- 疲労により、カルテに記載する内容を間違えてしまう
ヒューマンエラーへの対策
ヒューマンエラーは属人的なミスではありますが、その発生を防ぐためには個人だけでなく組織的な対策が必要です。ここでは、ヒューマンエラーが起こらない職場を作るために必要な対策について解説していきましょう。
組織での対策と個人での対策
ヒューマンエラーを防ぐためには、まず組織としてヒューマンエラーを防ぐための体制を構築する必要があります。
例えば、建設現場では「衛生管理者」と呼ばれる労働災害を防止するための専門知識を有する管理者を置き、組織的にヒューマンエラーの発生を防止する仕組み作りを行います。
「安全衛生教育」を全従業員に行い、どのような行動がヒューマンエラーにつながるか、ヒューマンエラーを防ぐためにはどうすれば良いかを学びます。そして、ヒヤリハット事例の共有などを行うことで事故防止に努めていくのです。
また、ヒューマンエラーを起こした従業員は「ヒヤリハット報告書」を作成し、行動の改善につなげていきます。
医療現場の場合も、「医療安全管理責任者」を組織に設置し、医療安全管理マニュアルの作成などを行い、ダブルチェックや指差し確認といった安全確認行動を徹底させる教育を行うのです。
インシデントが発生した場合には、「インシデント報告書」を作成し、発生したヒューマンエラーを防ぐための会議を行い、一人ひとりの啓発を促します。
ヒューマンエラーマネジメント
組織的にヒューマンエラーを防止するためには、「ヒューマンエラーマネジメント」も有効です。これは、「ヒューマンエラーマネジメントセルフチェックシート」を従業員に記入してもらい、その結果をもとに組織としてヒューマンエラーに対する認識があるかどうか分析。
ヒューマンエラーを軽視する従業員が多い部署や年代などがあれば、その対象に対して重点的に啓発や教育を行っていくマネジメント方法です。
m-SHELモデルの活用
m-SHELモデルは、1994年に東京電力で提唱されたヒューマンエラーを防止するためのモデルです。m-SHELモデルは、以下の要素から形成されています。
- L(Liveware)…対象者(すべての要素の中心にある要素)
- S(Software)…作業⼿順・教育訓練の⽅式などのソフト要素
- H(Hardware)…道具・機器・設備などのハード要素
- E(Environment)…作業環境(気温や照明、作業時間など)
- L(Liveware)…上司や同僚など人的要素
- m(Management)…経営要素
このモデルは、エラーを起こした⼈のことだけでなく、各要素との関係で捉えることの必要性を⽰しています。対象としている本人「L」と周囲の「S」「H」「E」「L」「m」との関係性によりで不安全行動を分析するモデルです。
ヒューマンエラーが発生する要素には、作業者本人だけでなく、関係者や環境、管理体制なども含めた総合的なマネジメントが求められます。
まとめ
ヒューマンエラーは人が働く以上、避けられないものといえるでしょう。しかし、ヒューマンエラーを放置しておくと、やがて重大な事故に繋がる可能性があります。
重大事故を防ぐためには、ヒューマンエラーを防止する対策を個人だけでなく、組織でも取り入れていかなければなりません。
ヒューマンエラーの原因と対策を把握し、自分自身だけでなく職場でのヒューマンエラーを減少させていきましょう。
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