QMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)とは、企業が製品やサービスの品質を維持、継続的に向上させるための仕組みです。社内でQMSを構築すると安定した品質の製品やサービスを提供できるようになり、顧客満足度の向上に繋がります。
しかし、QMSを推進するために取り組むべきことやQMSに関する規格である「ISO9001」や「JIS Q 9001」、「SQF」などの違いについて疑問を持つ方も多いと思います。
本記事では、QMSの概要やQMSに関係する3つの規格、QMSを構築する上で重要な役割を果たすPDCAについて解説します。
QMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)とは、企業が顧客に提供する製品・サービスの品質を維持、向上、継続的に改善するための仕組みです。JIS(Japanese Industrial Standards:日本産業規格)を制定している日本産業標準調査会(JISC)では、QMSを以下のように定義しています。
品質マネジメントシステムは、「品質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム」です。
そもそもマネジメントシステムとは、企業が定めた目標の達成に向けて組織を適切に管理するためのルールや仕組みです。つまり、QMSを導入して製品やサービスの品質を維持・向上するためには、品質目標の設定や計画書に基づく施策の実施、業務内容の改善が必要になります。
QMSの目的は、高い品質の製品やサービス提供による顧客満足度の向上です。QMSにおける品質の高さとは、不良品の発生防止や購入しやすい価格帯での提供など、顧客の需要を満たす製品・サービスを指します。
QMSの導入により製造工程における問題の発生を未然に防ぎ、顧客が求める品質レベルの製品やサービスを生み出せると、顧客満足度の向上に繋がります。
QMSを推進する上で、顧客満足度を高めるにはPDCAを回すことが重要です。QMSでは、単なる品質向上だけでなく効果測定や業務の見直しによる継続的な改善も求められます。PDCAを組み入れながらQMSを推進することで、問題の早期発見・解決に繋がる改善のサイクルをつくれるため、結果的に良質な製品やサービスの提供や顧客満足度の向上を実現できます。
QMSに関係する規格は以下の3つです。品質マネジメントシステムの構築を考えている企業の多くは以下の3つの規格をベースにして、自社に落とし込んでいきます。
規格 |
特徴 |
ISO9001 |
QMSに関する国際規格 |
JIS Q 9001 |
ISO9001を参考に日本国内の企業向けに作られたQMSに関する規格 |
SQF |
食品の衛生・品質管理に関する国際規格 |
社内でQMSを推進する際、上記の規格を取得すると自社製品やサービスの品質を対外的に保証できるため、企業としての信頼向上に繋がります。自社の事業分野や提供している製品・サービスに合った規格を選び、取得や運用に向けてQMSを構築しましょう。
ISO9001とは、スイスで発足した非政府組織のISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)が定めた品質マネジメントシステムに関する国際規格です。QMSは品質を維持・向上させるための仕組みを指し、ISO9001は品質管理における明確な基準を指すので、この2つは異なるものです。
ISO9001を取得するためには、以下の4つのステップで進めます。
要求事項とは、規格の目的達成に向けて企業が遵守するよう求められる基本要件を指します。ISO9001の要求事項には、QMSを確立するために企業が把握すべき情報(社内の現状や課題点)や品質の維持、向上、改善に実施すべきPDCAの方法が具体的に記載されています。
ISO9001を取得する際は、まず要求事項に沿って業務の見直しや改善を行い、品質マニュアルや業務手順書を作成しましょう。
システム運用後は、社内におけるISO9001の成果や規格への適合状況を内部監査でチェックします。内部監査で問題点を発見した場合はすぐに修正し、従業員に周知して作業効率化や業務標準化を進めます。
上記の流れでISO9001を構築・運用するとスムーズに規格の認証が受けられます。
ISO9001の取得後は、規格の認証を維持するために定期審査や更新審査を受けなければなりません。企業は引き続きPDCAを回して業務改善をするため、結果的に製品・サービスの継続的な品質向上に寄与します。
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JIS Q 9001とは、英文で策定されたISO9001を日本産業標準調査会(JIS)が翻訳し、日本国内の企業向けに作成し直したQMSに関する規格です。
JIS Q 9001の要求事項を満たすことでISO9001における要求事項を概ねカバーできるため、ISO9001と同じ水準の規格として認められることが多いです。
JIS Q 9001の基本的な枠組みや要求事項はISO9001と非常に似ていますが、日本の法令や規制に関連する内容が含まれている場合があります。国際基準の品質管理システムを日本のビジネス環境に合わせた形で導入できるため、国内企業でも円滑にISO9001と同等の水準の規格の取得・運用を目指せる点がメリットです。
JIS Q 9001の要求事項や取得の流れは、基本的にISO9001と同じです。要求事項を満たすためには、具体的に以下の5つを意識しましょう。
ISO9001と同様、JIS Q 9001に沿った取り組みを実施した場合も製品やサービスの継続的な品質向上や業務標準化を実現できますJIS Q 9001を取得・運用し、顧客満足度の向上を目指しましょう。
SQF(Safe Quality Food:安全で高品質な食品)とは、オーストラリアで開発された食品の衛生管理や品質管理に関する国際規格です。
SQFは、ベルギーで設立された非営利団体のGFSI(Global Food Safety Initiative:グローバル食品安全イニシアチブ)によって承認されている規格で、農場などの一次生産から輸送・流通までに至る食品産業の全業種が対象となっています。
国際的な食品衛生管理の手法であるHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:危害要因分析・重要管理点)と、品質マネジメントシステムの規格であるISO9001の要素を組み合わせた内容になっているのが特徴です。
中でも衛生管理への要求が高く設定されており、徹底した管理システムの導入によって食品のさらなる品質向上が見込まれます。
SQFはISO9001やJIS Q 9001とは異なり、認証レベルが3段階に設定されています。SQFを取得する企業は、以下の3つから自社の規模や提供している製品・サービスに合わせて認証レベルを選択できる仕組みです。
認証レベル |
審査内容 |
レベル1 |
食品安全の基礎 |
レベル2 |
HACCPに基づく食品安全システム |
レベル3 |
包括的な食品安全・品質管理 |
レベル1は食品安全の基礎に関する内容で、食品製造時の管理・遵守事項を定めたGMP(Good Manufacturing Practice:適正衛生規範)や、衛生管理を適切に実施するための手順を示したSSOP(Sanitation Standard Operating Procedure:衛生食品作業手順)の整備が求められます。
レベル2では、食品安全システムを確立するためにHACCPを実行します。食品による健康被害を引き起こす危害要因を分析し、製造工程における重要管理点を設定することが食の安全・安心を確保するためには大切です。
レベル3では、HACCPによる食品安全システムに加えてQMSを構築・運用します。レベル2の認証を受けるとSQFロゴ、レベル3の認証を取得できればSQF認証を証明するマーク(SQF品質シールド)の使用が許可されます。
SQFを取得するための手順は以下のとおりです。
SQFの要求事項は「パートA」と「パートB」、「添付資料」の3つで構成されています。
パートAの内容は、SQF規定に基づく衛生管理・品質管理の実施・運用に関する基本的事項です。パートBには、産業分野別の要求事項がモジュール形式で示されています。食品生産から加工、輸送までの流れを細分化した上で要求事項を設定しているため、自社に合った形で内容を組み合わせながら衛生管理・品質管理の運用ができます。
要求事項の内容は産業分野によって異なりますが、製造工程における要求事項は品質方針や文書作成および記録、製品の識別方法、食品偽装に関する内容などです。
ISO9001やJIS Q 9001と同様、SQFを取得する際も要求事項に沿った文書化やシステム運用、内部監査による業務改善が求められます。その後、認証機関による2回の審査を経てSQF認証が授与されます。
SQFの取得後は、年に1回再認証審査が必要です。ただし、3回のうち1回は無通告で実施されるため、いつでも審査を受けられるよう日頃から衛生管理・品質管理を徹底して行わなければなりません。
SQFの運用や業務改善の手間はかかりますが、結果的に高いレベルの品質マネジメントシステムが構築され、良質な製品・サービスの提供や顧客満足度の向上が期待できます。
QMSを推進し、製品・サービスの品質を向上させるためには規格の取得時や監査時だけ業務の見直し・改善を行えば良いわけではありません。
日頃から品質管理の実施状況を記録し、問題が発覚した際は計画書やマニュアルの整備をするなどの地道な努力によって、製品やサービスの品質を担保するQMSを構築できます。
ISO9001の要求事項でも記載がある通り、継続的な品質改善を図るためPDCAサイクルが非常に重要です。PDCAを意識した行動によって品質目標が明確になり、達成に向けた取り組みの実施と改善のサイクルをつくれるため、QMS自体の質が高まります。その結果、製品・サービスの品質が向上し、顧客満足度や売上アップに繋がります。
QMSを推進するためにPDCAを活用する際は、以下の流れで実施しましょう。
QMSにおける目標は「不良品率を10%減少する」などのように、具体的な数値で設定すると実施状況を評価する際に効果を分析しやすくなります。企業の品質方針と整合性を取り、実現可能な数値を設定しましょう。
QMSの目標や計画を策定したら文書化・データ化をして従業員に周知し、業務マニュアルや手順書に基づく品質管理を実施します。実施状況は毎日記録し、内部監査や規格取得時に適切な品質管理を行っていると証明します。また、問題が発生した際も記録を遡って迅速な原因究明や改善が可能です。
QMSの運用後は、計画通りに品質管理を実施できているか、当初の目標にどの程度達成できているのかを評価します。目標との差が大きい場合は、どの工程に問題があるのかを調査し、改善点を探りましょう。
次に、製品・サービスの品質分析や実施状況の評価結果をもとに、業務内容や作業工程の問題点を洗い出し、改善策を検討します。改善策の決定後は必要に応じてマニュアルや手順書を改訂し、再びシステム運用を実行しましょう。
上記の流れでPDCAを回しながらQMSを推進すると、社内全体の品質管理レベルが高まり、顧客に提供する製品・サービスの品質を向上できます。
効率よくPDCAを回すためには、従業員がマニュアルや手順書に沿って作業しやすくなる体制を整えましょう。効率的な仕組みをつくる具体的な方法は、マニュアルや手順書、品質管理記録のデータ化です。これらのデータを一元管理し、いつでも誰でもチェックできるようにしておくと、書類を探す手間が省けて業務効率化が図れます。
また、QMSの推進は最終的に顧客満足度や売上アップに貢献するため、担当者1人ではなく全体が一丸となって取り組まなければなりません。QMSを構築する際は複数のメンバーによるチームを編成すると、担当者1人あたりの負担が軽減し改善に向けた意見やアイデアも出やすくなります。
また、円滑に品質管理を行うためのツールを活用した業務効率化も、QMSの質を高めるには効果的です。ツールの使用によって無駄な工程が削減されると、本来取り組むべき重要な業務に集中できるため、QMSの質が高まり結果的に良質な製品やサービスの提供へと繋がります。
QMSは企業が製品やサービスの品質を向上させ、継続的に改善するための仕組みです。社内でQMSを推進すると、不良品の発生を防ぎ顧客ニーズを満たす高い品質の製品・サービスの提供が可能になります。
ただし、QMSを推進するためには漠然と品質向上に取り組むのではなく、ガイドラインとなる規格に沿った取組が必要です。「ISO9001」や「JIS Q 9001」、「SQF」などの規格を取得・運用すると自然と高いレベルのQMSが構築され、顧客満足度や売上アップに繋がります。
また、QMSを導入する際はPDCAを活用すると継続的に品質が改善され、より良質な自社製品やサービスを生み出せるようになります。