現場の帳票を電子化するには?具体的な進め方と成功事例を紹介

食品製造業や機械製造業などの現場で仕事をしていると、必ずと言ってもいいほど、帳票の作成や記録、確認、転記が作業として発生してきます。普段の業務を行う中で、帳票の作成や記録、確認、転記などをするとなると、時間がいくらあっても足りないと思います。

本業をしながらの対応になるので、ミスや漏れが発生し、情報の正確さが欠けてしまったり、作業現場や保管場所によっては水没や劣化、紛失で情報が失われるリスクもあります。

また、膨大な量の紙を保管するには場所も必要になります。多くの紙帳票の中から必要な帳票を見つけるのにも時間がかかります。そんなお悩みがある中で、現場メンバーが記入している帳票を電子化するのを考えている管理者の方も多いと思います。

この記事では、現場の帳票を電子化することを検討している方に向けて、紙の帳票が原因で起こる問題を振り返り、電子化することで得られるメリットと電子化するときの注意点を解説します。さらに実際に帳票を電子化した企業の事例も紹介するので、自社で帳票の電子化を検討している場合は、ぜひ参考にしてみてください。

 

紙の帳票が原因で起こる問題

製造現場では、日々さまざまな帳票を扱いますが、紙ベースの帳票は時間と手間がかかるだけでなく、記入ミスや情報共有の問題を引き起こします。

 

また、帳票の管理には物理的なスペースと時間が必要で、情報の紛失や劣化も懸念されるでしょう。加えて、大量の紙を使用することでコストもかかります。

 

まずは、それぞれの問題点とそれが原因で起こることを振り返っていきます。

帳票への記入と転記に時間も手間も掛かる

紙の帳票では、手書きで情報を書くので、記入と転記に時間と手間がかかります。一見すると単純な作業のように思えますが、実際には多くの時間と労力を必要とします。

 

例えば、一日の作業を報告するための日報であれば、作業内容や作業時間、使用した材料、発生した問題など、報告すべき項目は多岐にわたります。

 

これらの情報を全て手書きで記入するには、相当な時間が必要です。さらに、記入する情報が多いほど、ミスや漏れの可能性も高まります。

 

さらに提出された日報は、管理者の方が確認と転記を行いますが、転記するにも多くの時間を要します。

 

例えば、100項目の情報を含む帳票を1枚転記するのに、1項目あたり平均で30秒かかると仮定します。すると、1枚の帳票を転記するだけで、約50分の時間が必要になるのです。これが1日に100枚、1ヶ月に2000枚となると、その時間は膨大なものになります。

記入漏れやミスによって、情報の正確さに欠ける

紙の帳票は、記入漏れやミス、集計、転記が非常に大変です。さらには文字が読み取れなかったり、記入漏れがあったりしたときは、直接聞きにいかなければ解決できません。

 

例えば、ゼロ「0」とアルファベットの「O」を間違えて読み取るなどのミスが考えられます。また、数字の「1」と「7」、「2」と「5」など、似たような形の数字を間違えることもあると思います。これらのミスは、後の集計や分析に大きな影響を及ぼします。

水没や劣化、紛失などで情報が失われることがある

製造現場では、水や油が頻繁に使われる場所、粉塵が舞う場所、高温や低温の場所などの、紙の帳票が水没したり、油で汚れたり、書きづらい場所で記入ミスが起こったりするリスクがあります。

 

また、紙自体は時間とともに劣化します。紫外線により黄色く変色したり、温度や湿度の変化で紙面が波打ったり、反り返ったりしてしまうことも多々あるでしょう。

 

結果として、せっかく記入した情報が読み取れなくなる、あるいは完全に失われることになります。

 

現場の帳票は、品質監査や取り引き先からの情報提出依頼があるため、一定期間の保管が義務付けられています。

 

情報を長年管理できることが重要であり、そのため、紙での保管は少し心配な面もあります。紙の帳票は、水濡れや火災、虫食いなどのリスクがあり、また、大量の紙を保管するためのスペースも必要と考慮することが多いです。

膨大な量の紙を保管する場所が必要且つ検索性に欠ける

製造現場では、製造日報や品質検査、不具合報告書、設備点検、在庫管理、内部監査など、多種多様な帳票が日々発生します。

 

これらは監査や取引先からの依頼などに対応するために保管が求められます。例えば、1日に500枚の紙が発生すると、1カ月で約15,000枚になります。これは、A4用紙を約4000枚入れたら段ボール1箱分になるので、約4箱分に相当します。

 

紙の帳票は年々増え続けると、その保管には膨大なスペースが必要となります。また、その大量の段ボールから必要な書類を探し出すのは一苦労です。

 

特に、突然の監査や取引先からの依頼があった際には、探すのに相当な時間が掛かってしまうことでしょう。

大量の紙を使用することでコストが掛かる

紙は使ったら使った分だけ、そのコストが増えていきます。印刷や保管、廃棄といったプロセスは全てに費用が発生し、これらが積み重なると企業の経費は大きく膨らみます。

 

さらに、紙の大量使用は環境への影響も無視できません。森林破壊、水質汚染、エネルギー消費といった環境問題が深刻化する中で、企業の環境に対する取り組みは社会からの注目を集めています。

 

持続可能な社会を目指すための国際的な目標SDGs(Sustainable Development Goals)でも「持続可能な消費と生産形態を確保する」があるので、その観点でも紙の削減は、意識したいことです。

現場の帳票を電子化するメリット

現場の帳票を電子化するメリットはいくつかあります。メリットを説明する前に、実際に現場で使われる帳票とよくあるミスを確認しておきます。以下のような帳票の作成やミスが発生することがありませんか。

 

帳票の種類

具体的なミス

作業日報

数字の誤記漏れ

読み取り困難

データの転記ミス

品質検査

不良品の漏れ

品質データの読み取り不良

手書きによる記入ミス

不具合報告書

不具合記載漏れ

内容の読み取り困難

不具合報告の遅延

設備点検

設備の点検漏れ

点検結果の誤記

点検データの記録ミス

在庫管理表

在庫数量の誤差商品の漏れ

在庫管理表の更新漏れ

内部監査

監査結果の不備や漏れ

監査報告書の記入ミス

監査データの読み取り困難監査の遅延や手続きの煩雑化

作業コストと紙のコストの両方を削減できる

現場の帳票を電子化することで、作業コストと紙のコストの両方を効果的に削減することができます。

 

手書きの帳票では、記入やデータ転記に時間がかかりますが、電子化することでデータの自動入力や自動集計が可能です。これにより、作業員や管理者が費やす時間を大幅に短縮できます。さらに、紙の印刷や保管にかかる費用も削減されます。

 

また、電子化に伴うツールの導入やデバイスの購入などの初期投資は発生しますが、長い目で見ればこれらのコストが帳票作成や管理にかかるコスト削減に対する大きなリターンとなります。

紙の帳票を3割以上、管理者の作業時間を月30時間削減した事例

美保テクノス株式会社は、鳥取県米子市に本社を置く総合建設会社で、土木工事、建築工事、住宅工事、電気設備工事など幅広い事業を展開しています。

 

同社のランドサポート事業部は、道路舗装などのインフラ維持管理や工事を担当しており、作業前の車両や重機の点検に紙のチェック表を使用していました。しかし、管理者は現場従業員の終業後にチェック表の確認を行うことが多く、残業などの業務負荷にも繋がっていました。

 

そのため紙の帳票の電子化を推進した結果、結果的に現場従業員は一人あたり月22時間、管理者は一人あたり月30時間の業務時間を削減することができました。人件費に換算すると年間160万円以上の削減効果となります。

 

帳票の電子化によって、点検内容のリアルタイムでの確認が可能になり、安全管理が強化されました。デジタルツールへの苦手意識が払拭され、若手従業員の活性化も進むという副次効果もありました。

 

監査や取引先からの提出を求められても、瞬時に情報が出せる

電子化された帳票は、情報の迅速な検索を可能にします。手作業に比べ、データを探す手間が格段に減り、監査や取引先からの要求にも瞬時に対応できるようになります。また、電子データは物理的な保管スペースを必要とせず、サーバーやクラウド上に保存されるため、貴重なスペースを節約できます。

 

さらに、テキストデータだけでなく、必要に応じて写真や他のファイル形式で情報を記録できる柔軟性も備えています。これにより、文書だけでなく画像や音声などの多様な情報を保持し、監査や取引先からの信頼を高めることが可能です。

 

このように帳票が電子化されれば、業務効率性と信頼性の両面で大きな利点をもたらします。情報の迅速な提供や保存効率の向上は、ビジネスの競争力を高めるだけでなく、法令順守や取引先との信頼関係の構築にも貢献します。

監査対応時には、タブレットで検索し提出し、業務効率化をした事例

井筒まい泉株式会社(以下、まい泉)は、東京都千代田区に本社を構える食品製造・飲食店運営企業で、全国で約70店舗を展開する「とんかつ まい泉」を運営しています。

 

まい泉の製造工場は神奈川県の高津、都筑、そして大阪の3箇所に位置し、その中で最も早く設立された高津工場は、2008年に規模拡大に伴う全面改装を実施し、多くの種類の製造機械を導入しました。

 

規模の拡大で増えた帳票も多く、都筑工場では1日に約450枚の紙の帳票が発生し、業務効率が影響を及ぼしていました。工場長が、紙の帳票の確認や承認に1日に2時間以上を費やしている現状があり、紙の帳票の電子化を推進しました。

 

帳票を電子化した結果、3工場で年間16万枚の紙帳票が減り、工場長の業務時間は月に40時間以上削減されるまでになりました。

 

導入前は、紙の帳票に関連する確認や処理などの作業が必要でしたが、帳票の電子化によって、これらの作業が不要となり、業務の負担が幅広い範囲で軽減されました。

製造に用いる紙帳票すべてを電子化、年間16万枚の紙削減を実現

リアルタイムに情報が把握できるため、製品の異常や逸脱に気づきやすい

帳票を電子化することで、記録した内容がリアルタイムに知れるようになります。電子化によって、情報がリアルタイムで入手できるため、異常や逸脱にすぐに気付くことができます。

 

紙の帳票の場合、異常や逸脱が発生した原因が記入ミスや漏れなのか、本当に製品の問題なのかを判断するのが困難ですが、、帳票が電子化されれば、詳細かつ正確な情報が取得できます。記入されている異常のパターンや頻度を分析することで、問題の根本原因を特定することが容易になります。

 

さらに、電子化された情報は、機械学習や人工知能などの先端技術を活用して自動的に監視・分析することも可能です。

帳票の電子化によって、品質管理の異常や逸脱の精度を高めた事例

 

株式会社太洋工作所(以下、太洋工作所)は、大阪府大阪市を本拠地に、めっき加工事業を展開しています。

 

1939年に創業し、長年の技術蓄積を通じて高度なめっき加工技術を築いてきた同社は、世界的な自動車メーカーやデジタルデバイスメーカー等様々な分野で製品を供給しています。

 

太洋工作所は、顧客や供給先からの高い品質要求に対応するため、紙の帳票を用いていました。しかしこれらの帳票が全て紙であったため、非常に人手や時間のかかる要因になっていました。特に、監査の直前には、工場の担当者が倉庫に保管された帳票群から必要な記録を探し出すなど、多大な労力を費やしていました。

 

そこで、太洋工作所は紙の帳票の電子化を推進し、監査対応時に即座にデータの提出を可能にしました。写真で視覚的に点検箇所や点検方法の指示ができるようになったため、担当者や責任者以外でも帳票の記録が容易になったことも、帳票を電子化した利点です。

 

世界的自動車メーカー・テクノロジー企業に製品を供給する老舗めっき加工会社がカミナシを活用

現場の帳票を電子化する際の注意点

現場の帳票を電子化する際に重要なのは、段階的なアプローチを採用することです。一度にすべての帳票を電子化しようとすると、リソースの過度な消費や混乱が生じる可能性があります。そのため、優先度の高い帳票から順に電子化を進め、段階的に実装していくことが重要です。

 

また、導入時だけでなく、ランニングコストも慎重に考慮する必要があります。システムのメンテナンス、更新、トレーニング、そして必要に応じたアップグレードなどのランニングコストは、プロジェクト全体の持続可能性に直結します。適切な予算配分とコスト管理が、プロジェクトの成功を支える鍵となるでしょう。

帳票の電子化は段階的におこなう

帳票の電子化は、従業員や関係者が紙から電子データへの移行をスムーズに受け入れられるよう、段階的におこないましょう。

 

そのため、社内に電子化の目的をつたえること紙との併用で慣らすこと作業方法や記入する項目は変えないことなどを意識し、少しずつ電子化していくのが良いでしょう。

 

また帳票の電子化を円滑に進めるためには、十分なサポート体制の構築も必要です。従業員向けの研修や勉強会を積極的に開催し、電子化に関する疑問や不安に対処することが求められます。

 

もしシステムを提供するベンダーとの連携できるなら、サポートしてもらい、トラブルが発生した際には、都度質問や相談をしましょう。

導入時とランニングコストを考える

帳票の電子化を進めるには、どうしてもデバイスやツールの費用は掛かります。導入に際しては単なる初期投資だけでなく、中長期的なランニングコストも考慮することが重要です。

 

ただし、短期的なコストだけでなく、中長期的なコストも考慮する必要があります。短期的には高額な投資が必要かもしれませんが、その後の効率化やコスト削減につながる可能性もあるためです。

 

帳票の電子化を始めたときは、従業員の効率が低下するかもしれませんが、徐々に慣れていくことで効率が向上し、投資したコストが回収されていく可能性があります。短期的な成果だけでなく、中長期的な視野も持ちながら、慎重かつ十分な検討をしましょう。

従業員も管理者も帳票の電子化で業務効率化、コスト削減に!

紙の帳票が原因で起こる問題について改めて知ってもらい、帳票を電子化することでそれらの課題がどう解消するのか、帳票を電子化するメリットについて解説していきました。

 

紙ベースの帳票に慣れている現場でも、記入作業や過去の書類を探す作業など、様々な悩みを抱えていると思います。

 

帳票の電子化は、現場の作業が変化するため、電子化に抵抗を感じる人も多いですが、ミスが減ることや記入や検索時間の短縮・保管スペースの削減するなどの数多くのメリットを享受することができます。

 

ただし、自社に導入するイメージがない状態での活用は導入後、苦労することが多いと思うので、まずは話を聞いて、自社の課題が解決できそうか判断するのがいいでしょう。

 

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