設備保全とは?メンテナンスとの違いや目的、考え方・種類を徹底解説
食品製造業
2024.12.20
2024.12.20更新
製造現場で働く方の中には、日々深刻化する設備保全の課題を肌で感じている方もいるのではないかと思います。設備メンテナンスに携わる技術者は年々減少の一途を辿り、マイスターエンジニアリング社の調査によると、2045年には2000年の半分以下(76.4万人から36.5万人)になると予想されています。
さらに、現場で稼働している設備の多くは高経年化が進み、50年以上使用されている機械の割合も増加の一途です。設備の故障リスクは年々高まっているにもかかわらず、それを支えるべき技術者は不足するという、まさに負のスパイラルに陥っているのが分かります。
さらに、深刻な人手不足と採用難が追い打ちをかけ、設備保全を取り巻く環境は一層の窮地に追い込まれています。予期せぬ設備の故障は、生産計画の遅れを招くだけでなく、品質問題や納期遅延にまで影響を及ぼしかねません。この困難な状況を打破するためには、事後保全から予防保全や予知保全への転換が不可欠です。
しかし、多くの現場では依然として設備が止まってから対応するという考え方が根強く残っています。特に保全業務を他の業務と兼任されている方々からは、「予防保全の具体的な進め方がわからない」や「限られたリソースでどこまで取り組むべきか」といった声が挙げられています。
本記事では、このような課題を抱える製造現場の皆さまに向けて、設備保全の基本的な考え方から、限られたリソースでも実践できる具体的な活動計画の立て方まで、自動車製造の製造部出身の筆者が実務経験に基づいて解説していきます。
設備保全とは
設備保全とは、工場や施設の機械設備を最適な状態で維持・管理するための活動です。具体的には、設備の安定的な稼働を確保するための予防的な点検・整備と、故障や異常が発生した際の迅速な対応という2つの側面があります。
設備や機械は、ダウンタイム(設備の停止)がない状態が当たり前とされていますが、実際の現場では、保全業務の重要性が十分に認識されていないケースが少なくありません。設備担当専任の担当者がいないことや、技術継承が行われていないこと、保全業務が後回しにされてしまうことなどは、珍しくないのが現状です。
特に深刻なのが、過去の対応記録の不備や不適切な修理・修繕の問題です。前回の修理方法や過去に部品を交換したタイミングが分かっていない状況などは、、設備トラブル時の対応を遅らせる大きな要因となります。設備保全は、単なるモノの修理ではなく、製造現場の安定稼働を支える重要なマネジメント活動になります。
設備保全の目的
設備保全には、製造現場の生産性と品質を確保する上で4つの重要な目的があります。
- 予期せぬ故障によるダウンタイムをなくす
- 不良品(不適合品)の製造を防止する
- 設備や機械の長寿命化
- 従業員の安全確保
以下、それぞれの目的について具体的に解説していきます。
予期せぬ故障によるダウンタイムをなくす
設備保全の第一の目的は、予期せぬ故障によるダウンタイムをなくすことです。製造現場において、突発的な機械の故障による生産ラインの停止(ダウンタイム)は、極めて深刻な問題です。一見すると一時的な生産停止と思われがちですが、その影響は想像以上に広範囲に及びます。
当該工程の生産性低下は避けられないだけでなく、製造ラインは各工程が密接に連携しているため、1つの設備の停止が工場全体の生産活動を麻痺させる可能性があります。
さらに、社内の技術者で対応できない場合は、外部の専門家を呼んだり、交換部品の取り寄せが必要になったりと、復旧までに予想以上の時間を要することも少なくありません。この結果、予定通りの製品納入ができなくなれば、取引先からの信頼を大きく損なうことになり、最悪の場合は取引停止という事態にまで発展しかねません。
完全なダウンタイムの解消は難しいかもしれません。しかし、定期的な設備保全の実施と、過去の修理・修繕記録の適切な管理により、故障の予兆を早期に発見し、その影響を最小限に抑えることは可能です。
不良品(不適合品)の製造を防止する
設備保全は、故障による不良品(不適合品)の製造を防止する目的もあります。製造設備の状態は、製品品質に直接的な影響を与えます。例えば、工作機械の精度低下、金型の摩耗、計測器のズレなど、設備の状態が万全でない場合、規格外の製品が生産されてしまう可能性が高まります。
特に自動化された製造ラインでは、設備の微細な異常が大量の不良品を生み出す原因となります。プレス機の位置ズレがわずか0.1ミリメートルであっても、それが数千個、数万個の不良品につながる可能性があります。
不良品が発生すると、その影響は製造現場全体に波及します。不良品の再製造に伴う追加の原材料費や製造コストが発生するだけでなく、通常の検査工程に加えてより厳密な品質チェックが必要となり、検査員の作業負荷が増大します。この結果、従業員は本来不要な再製造や追加検査に時間を取られ、定常業務に支障をきたすことになります。残業時間が増加し、従業員の心身の疲労につながります。
このような負の連鎖を防ぐためにも、設備の適切な保全活動が不可欠です。品質の安定は、設備保全なくして実現できないと言っても過言ではありません。
設備や機械の長寿命化
設備保全は、適切な保全活動を通じて製造設備を本来の性能を維持したまま、できるだけ長期間使用できる状態に保つ設備や機械の「長寿命化」にも寄与します。長寿命化は、設備の健康寿命を延ばすような取り組みです。
長寿命化が実現できると、企業にとって複数のメリットが生まれます。製造設備は数千万円から数億円規模の投資が必要となるケースも多く、その更新時期を延ばせることは企業の財務面で大きな意味を持ちます。結果的に、経営の安定性が高まります。
また長年使用してきた設備には、従業員の様々なノウハウが蓄積されています。微妙な調整方法や効率的な使用方法など、設備と従業員の間に築かれた相性の良さは、生産性の維持・向上に貢献します。新規設備の導入には必ず習熟期間が必要となりますが、長寿命化によってその機会を減らすことにつながります。
従業員の安全確保
設備保全の目的の中でも重要なのが、従業員の安全確保です。生産性や品質の維持も確かに重要ですが、それ以上に従業員の生命と健康を守ることは、企業にとって絶対的な責務と言えます。
適切な保全が行われていない設備は、重大な労働災害を引き起こす可能性があります。例えば、安全装置の不具合による挟まれ事故、電気系統の劣化による感電事故、油圧・空圧機器の故障による破裂事故など、最悪の場合は死亡事故にまで発展しかねません。
また設備の異常な振動や騒音は、近隣の住人や従業員の身体的・精神的な健康にも悪影響を及ぼします。一度重大事故が発生すれば、被災者とその家族の人生を大きく変えてしまうだけでなく、職場の士気低下、社会的信用の失墜、さらには企業存続の危機にまで発展する可能性があります。
定期的な設備保全は、このような悲劇を未然に防ぐ重要な予防措置です。安全装置の点検、各部の摩耗・劣化状態の確認、異常の早期発見など、地道な保全活動の積み重ねが安全・安心な職場環境の構築につながります。
設備保全と保守メンテナンスの違い
設備保全と保守メンテナンスは、対象とする実施者と目的、行うことの3つの点で違いがあります。
設備保全は、基本的に自社の担当者が事前/事後/予兆保全を実施し、故障防止はもちろん、安定的な稼働や従業員の安全を保証する目的で、設備や機械の保全を行います。
一方で、保守メンテナンスは、設備や機械を提供するメーカーが実施するもので、主に故障防止を目的として、定期点検や修理、修繕をおこなうものです。
設備保全 |
保守メンテナンス |
|
実施者 |
自社 |
メーカー |
目的 |
・故障防止 ・安全運転 |
・故障防止 |
行うこと |
・事前保全(日常、定期点検含む) ・事後保全(修理や修繕含む) |
・定期点検 ・修理や修繕 |
設備保全と保守メンテナンスの違い
設備保全の考え方・種類
設備保全は、事前保全(予防保全)と事後保全、予兆保全の3つに分類されます。それぞれの特徴と目的を理解することで、より効果的な保全戦略を構築できます。
事前保全(予防保全)は、故障が発生する前に計画的に行う保全活動を指します。定期的な点検や部品交換により、設備の突発的な故障を防ぎ、ダウンタイムを最小限に抑えることを目的としています。
事後保全は、設備の故障や性能低下が発生した後に行う対応です。完全な予防は難しいため、故障発生時の迅速な復旧体制の整備も重要です。
予知保全は、比較的最新のアプローチで、センサーやデータ分析を活用し、故障の予兆を事前に検知して対応する方法です。
以下に、それぞれの具体的な方法をまとめました。
設備保全の考え方 |
目的 |
具体的な設備保全方法 |
事前保全(予防保全) |
定期的な確認による故障の未然防止やダウンタイムの最小化 、設備の長寿命化 |
・時間基準保全(TBM):定期的な点検や部品交換 ・状態基準保全(CBM):設備の状態を監視しながらの保全 ・故障リスク基準保全(RBM):リスク評価に基づく保全 ・信頼性中心保全(RCM):設備の重要度に応じた保全 |
事後保全 |
故障発生時の迅速な復旧や生産への影響最小化 |
・緊急保全(Urgent Maintenance)/機能停止型故障への対応:完全停止時の緊急対応 ・機能低下時対応:性能劣化への対策 |
予知保全 |
データに基づく故障予測や最適なタイミングでの予防措置 |
・センサーによる常時監視 ・AI/IoTを活用した異常検知 ・データ分析による寿命予測 |
設備保全の考え方と目的、具体的な手法
これらの手法は、設備の特性や重要度、利用環境に応じて適切に組み合わせることで、より効果的な保全体制を構築できます。
事前保全(予防保全)
事前保全(予防保全)とは、設備の故障や性能低下が起こる前に、計画的に点検や部品交換を行う保全活動です。故障してから直すのではなく、故障させないという予防的なアプローチが特徴です。
主な目的は、予期せぬ設備停止の防止と設備の長寿命化です。定期的な点検により異常を早期発見し、計画的な補修や部品交換を行うことで突発的な故障を未然に防ぎます。これにより、生産計画への影響を最小限に抑え、安定した製造活動を維持できます。
具体的な活動としては、定期的な清掃・給油、消耗部品の交換、各部の調整、精度検査などが挙げられます。また点検記録の作成・保管も重要な要素です。これらの活動により、設備の状態を最適に保ち、不良品の発生防止や安全性の確保にもつながります。
事前保全は、その実施基準によって以下の4つに細分化されます。
- 時間基準保全(TBM):定期的な時間間隔で実施
- 状態基準保全(CBM):設備の状態を監視しながら実施
- 故障リスク基準保全(RBM):リスク評価に基づいて実施
- 信頼性中心保全(RCM):設備の重要度に応じて実施
これらの手法を適切に組み合わせることで、より効果的な予防保全体制を構築できます。
時間基準保全(Timed Based Maintenance:TBM)
時間基準保全(Timed Based Maintenance:TBM)とは、設備メーカーの推奨や過去の故障実績をもとに、一定の時間間隔で定期的に点検や部品交換を行う保全方式です。例えば、3か月ごとの給油や年1回の精密検査、稼働時間5000時間での部品交換のような時間を基準とした保全活動を実施します。
具体的な活動としては、清掃・給油などの日常的なメンテナンス、定期的な部品交換、分解点検、精度検査などが挙げられます。これらの作業は、あらかじめ計画された保全スケジュールに従って実施されます。
時間基準保全(TBM)の利点は、保全作業の計画が立てやすく、工数や部品の手配が事前に可能なことです。また定期的な点検により、設備の状態を一定レベルに保ちやすいという特徴があります。特に、経験の浅い担当者でも決められたスケジュールに従って作業を進められるため、保全品質の標準化が図りやすいという長所もあります。
一方で、懸念点もいくつか存在します。まず、実際の設備の状態に関係なく点検・交換を行うため、まだ使用可能な部品を交換することになり、過剰な保全コストが発生する可能性があります。また設備の使用環境や負荷状況によって劣化速度が異なるにもかかわらず一律の基準で保全を行うため、状況によっては故障を完全には防げないこともあります。
そのため、近年では時間基準保全を基本としながらも、設備の状態監視を組み合わせるなどより柔軟な運用が求められています。
状態基準保全(Condition Based Maintenance:CBM)
状態基準保全(Condition Based Maintenance:CBM)とは、設備の状態を常時または定期的にモニタリングし、その結果に基づいて保全のタイミングを判断する保全方式です。振動や温度、音、圧力、電流値などの各種データを測定・分析することで、設備の健康状態を把握して最適なタイミングでの保全を実現します。
具体的には、センサーによる常時監視、定期的な測定データの収集、診断機器による状態確認などを行います。例えば、ベアリングの振動測定やモーターの温度監視、油の成分分析などがこれに当たります。収集したデータは傾向管理され、正常範囲から逸脱する兆候が見られた場合に保全作業が実施されます。
状態基準保全(CBM)の大きな利点は、設備の実態に即した必要な時に必要な保全が可能となることです。不要な部品交換を避けられるためコスト削減につながり、突発的な故障も未然に防げます。さらに、データの蓄積により設備の劣化傾向が把握できるため、より精度の高い保全計画の立案も可能になります。
一方で、いくつかの課題も存在します。まず、センサーや測定機器の導入に初期投資が必要となります。また収集したデータを適切に解析するための専門知識や技術が求められ、担当者の育成にも時間とコストがかかります。さらに、すべての故障モードが測定可能なわけではないため、従来の時間基準保全と組み合わせる必要があることも留意点です。
このように、状態基準保全は高度な予防保全を実現できる半面、その導入と運用には十分な準備と体制づくりが必要となります。
▶ 状態基準保全(CBM)について、さらに詳細に解説した記事はこちら
CBM(状態基準保全)とは?メリットやTBM,BDMとの違いを解説
故障リスク基準保全(Risk Based Maintenance:RBM)
故障リスク基準保全(Risk Based Maintenance:RBM)とは、設備の故障が及ぼす影響の大きさと発生確率を評価し、リスクの高い設備から優先的に保全を行う保全方式です。限られた保全リソース(人員、時間、予算)を最も効果的に配分することを目的としています。
具体的には、まず各設備の生産への影響、安全性、環境への影響、修理コストなどの観点から、故障した場合のリスクを数値化します。次に故障発生確率を、使用年数や稼働時間、使用環境などから評価します。これらを掛け合わせたリスク値に基づいて、保全の優先順位や頻度を決定します。
故障リスク基準保全(RBM)の最大の利点は、リソースの最適配分が可能となることです。特に、多数の設備を管理する大規模工場では、すべての設備に同じレベルの保全を実施することは現実的ではありません。
故障リスク基準保全(RBM)を導入することで、重要度の高い設備に注力した効率的な保全が可能となります。またリスク評価の過程で設備の重要度が可視化されるため、経営層への説明や予算確保がしやすくなるという副次的な効果もあります。
一方で、実施にあたっての課題もあります。まず、リスク評価の基準づくりが難しく、評価者の主観が入りやすいという問題があります。またリスクの低い設備の保全が後回しになりがちで、それが予期せぬ故障につながる可能性もあります。さらに、定期的なリスク評価の見直しが必要となるため、継続的な管理負荷が発生します。
このように、故障リスク基準保全(RBM)は戦略的な保全計画の立案に有効ですが、その運用には慎重な判断と定期的な見直しが求められます。
信頼性中心保全(Reliability Centered Maintenance:RCM)
信頼性中心保全(Reliability Centered Maintenance:RCM)とは、設備の機能と信頼性を重視して各設備の故障モードや影響を詳細に分析した上で、最適な保全方式を選択する体系的なアプローチです。設備や機械に対して、故障の原因や故障時に起こりうること、具体t系な対策の観点から、保全戦略を構築します。
具体的には、以下のステップで実施します。
- 設備の重要機能の特定
- 想定される故障モードの分析
- 故障の影響と重大性の評価
- 適切な保全方式の選定(予防保全や状態監視、事後保全など)
- 具体的な保全計画の立案
信頼性中心保全(RCM)の最大の利点は、設備の特性に応じた最適な保全方式を選択できることです。過剰な保全を避けながら、必要な信頼性を確保できます。また故障モードの分析を通じて、設備に対する理解が深まり、より効果的な改善策の立案も可能となります。
一方で、導入にあたっての課題もあります。まず、詳細な分析に多大な時間と労力が必要となります。また分析を行う担当者には高度な専門知識が求められ、人材育成にも時間がかかります。さらに、分析結果を定期的に見直し、更新する必要があるため、継続的なリソースの確保が必要です。
このように信頼性中心保全(RCM)は、理想的な保全体制の構築に有効ですが、その実施には組織的な取り組みと長期的な視点が不可欠です。特に、重要度の高い設備や複雑なシステムに対して、段階的に導入していくことが推奨されます。
事後保全
事後保全とは、設備や機械の故障が発生した後、または機能低下が顕著になった時点で実施する保全活動です。故障してから直すアプローチで、予防保全と対をなす基本的な保全方式です。
主な目的は、故障した設備を可能な限り迅速に復旧させ、生産活動への影響を最小限に抑えることです。また修理・復旧の過程で得られた情報を、将来の予防保全や設備改善に活用することも重要な目的となります。
事後保全は、故障の種類によって機能停止型故障への対応と機能低下型故障への対応の2つに分類されます。
- 緊急保全(Urgent Maintenance)/機能停止型故障への対応
- 機能低下型故障への対応
以下で詳しく解説します。
緊急保全(Urgent Maintenance)/機能停止型故障への対応
緊急保全(Urgent Maintenance)/機能停止型故障への対応は、設備が突発的に停止した際に行う緊急対応型の保全活動です。生産ラインの停止により直接的な損失が発生するため、可能な限り迅速な復旧が求められます。
具体的な対応は、通常以下の手順で実施されます。
- 故障状況の迅速な把握と安全確保
- 生産への影響を最小限に抑えるための応急処置
- 原因究明と故障箇所の特定
- 修理または部品交換による復旧
- 動作確認と品質チェック
- 再発防止策の検討と実施
緊急保全/機能停止型故障への対応の利点は、故障が発生するまで保全コストがかからず、設備の使用限界まで稼働させられることです。特に、故障が稀で影響が限定的な設備や予備機のある設備では、戦略的な選択肢となり得ます。また実際の故障対応を通じて、技術者の問題解決能力向上や設備に関する知見の蓄積にもつながります。
一方で、重大な課題も存在します。まず、予期せぬ生産停止による機会損失が発生します。また緊急対応となるため、修理コストが割高になりがちです。さらに、二次災害のリスクや復旧までの時間が読めないという不確実性も大きな問題です。対応可能な技術者の確保も課題となり、夜間や休日の故障への対応体制整備も必要です。
このように、緊急保全は避けられない場面もありますが、可能な限り予防保全へシフトしていくことが安定した生産活動の維持には重要です。
機能低下型故障への対応
機能低下型故障への対応とは、設備の性能や精度が徐々に低下していく状況に対して行う保全活動です。完全な機能停止には至っていないものの、製品品質への影響が懸念される段階で実施される計画的な事後保全と言えます。
具体的な対応としては以下のとおりです。
- 定期的な性能測定や精度チェック
- 測定データの傾向分析と管理基準値との比較
- 補修や調整のタイミング判断
- 計画的な部品交換や補修作業の実施
- 修理後の性能確認と記録
- 劣化要因の分析と改善策の検討
機能低下型故障への対応の利点は、完全な機能停止を待たずに計画的な対応が可能なことです。生産への影響を最小限に抑えながら、必要な保全作業を実施できます。また性能低下の傾向を把握することで、将来的な設備投資の計画立案にも活用できます。緊急保全と比べて作業の準備や部品の手配も余裕を持って行えるため、コスト面でも有利です。
一方で、性能や精度の低下が製品品質に与える影響を見極めることが難しく、保全のタイミング判断に経験と専門知識が必要という課題もあります。また「まだ使える」という判断で対応を先送りにし、結果として品質トラブルを引き起こすリスクもあります。さらに、定期的な状態確認と記録の継続が必要なため、日常的な管理負荷が発生します。
このように、機能低下型故障への対応は計画的な実施が可能な半面、適切なタイミング判断と継続的な状態監視が重要となります。
予知保全
予知保全とは、設備の状態を継続的にモニタリングし、収集したデータを分析することで、故障の予兆を事前に検知して最適なタイミングでおこなう保全活動です。設備の健康診断と予防医療を組み合わせたようなアプローチです。
主な目的は、突発的な故障を防ぎながら過剰な保全も避けることです。設備の実際の状態に基づいて保全時期を決定することで、効率的なメンテナンス計画の立案が可能となります。
具体的には、以下のような活動を行います。
- センサーによる設備状態の常時監視(振動、温度、音、電流値など)
- 収集データの分析と傾向管理
- AIやIoT技術を活用した異常予測
- 最適な保全タイミングの判断
- 計画的な予防措置の実施
予知保全は、時間基準保全(TBM)で蓄積された定期点検データや状態基準保全(CBM)で得られる各種測定値を活用して故障を予測するため、事後保全の発展形として分類されることもあります。これらの情報を総合的に分析することで、より精度の高い故障予測が可能となります。
設備保全における課題と解決策
製造現場における設備保全の重要性は広く認識されているものの、多くの企業が様々な課題に直面し、理想的な保全活動の実現に苦心しているのが現状です。筆者も多くの製造現場に携わってきましたが、同じような課題が繰り返し発生しているのを目にしてきました。
特に近年は、熟練技術者の減少や人手不足、設備の高経年化などが重なり、多くの製造現場で設備保全の体制維持に苦労されています。
しかし、これらの課題は決して解決不可能なものではありません。むしろ、課題を明確に認識し、適切な対策を講じることで着実に改善を進められます。以下では、現場でよく直面する具体的な課題とその解決策を詳しく解説します。
人手不足によって、属人化が進んでいる
近年の製造業において、設備保全部門を含む全ての部門で人手不足が、深刻な問題となっています。新規採用が難しい上に、他部門と比べて配属の優先順位が低く設定されがちなため、十分な人員確保ができていないのが現状です。
人手不足によって、特に懸念されるのが、ベテラン技術者から若手への技術継承が進まないことです。ある特定の人しか、設備や機械の不具合を直せない状況は、多くの現場で見られる光景と言えます。このような属人化は、人材の流出リスクを高め、将来的な技術基盤の喪失につながりかねません。
この課題への解決策として、以下のアプローチが考えられます。
- 作業手順のマニュアル化
- トラブル対応事例のデータベース化
- 点検チェックリストの整備
- 定期的な勉強会の実施
- ベテランと若手のペア作業
- OJTプログラムの体系化
ただし、時間がないという現実的な制約もあります。そこで、まずは以下のような業務の棚卸しから始めることを推奨します。
- 現在行っている作業の必要性を再検討
- 重複している業務の洗い出し
- デジタル化による効率化の可能性検討
- 外部委託できる業務の選別
一朝一夕には解決できない課題ですが、できるところから少しずつ改善を重ねることが、持続可能な保全体制の構築につながります。
【解決策】属人化の解消に向け、スキルをマニュアル化
ベテラン技術者の持つ豊富な経験やノウハウを誰もが活用できる形で残していくことは、設備保全の継続性を確保する上で極めて重要です。そのための有効な手段が、作業のマニュアル化です。
マニュアルの作成方法は、紙ベースやパワーポイントによる文書化から、近年では、マニュアルの電子化や動画を活用した方法など、さまざまな選択肢があります。
特に動画マニュアルは、音を聞いて異常を判断する、微妙な手の動きで調整するなど、文字や写真だけでは伝えにくい暗黙知の継承に効果を発揮します。他にも、以下のような場面で動画マニュアルが活用できます。
- 色や音で判断する作業
- 繰り返し見ることで理解できる難解な作業
- ベテラン従業員が感覚でおこなっている業務
- 発生頻度が少ないため、OJTで教えるタイミングがない業務
さらに、音声認識技術を使えば、作業中の説明をそのままテキスト化して字幕を自動生成できます。またスマートフォンやタブレットで手軽に撮影・編集できるアプリ/ツールも充実してきています。
マニュアル作成のポイントは、完璧なマニュアルを目指すのではなく、まずは重要な作業から優先的に作成をを進めることです。日々の作業の合間を縫って、少しずつでも確実に知識を蓄積していくことが属人化解消への第一歩となります。
▶ 従業員が使ってくれるマニュアルを作るためのコツをまとめました!
わかりやすいマニュアルの作り方とは?参考にすべき5つの手順とすぐ使えるコツ
日々の点検記録ができていない/記録の管理ができていない
日々の点検記録については、点検はしているが記録がされていなかったり、記録の管理ができていなかったり、そもそも日常点検ができていないなどの問題があります。
しかし、日々の点検記録は設備保全の基盤となる重要な情報です。これが適切に管理されていないと、故障の予兆を見逃したり、過去のトラブル対応が活かせなくなったりします。また、部品交換時期の判断ができず、適切な保全計画の立案に必要なデータも不足してしまいます。
この課題を解決するためには、まず記録を確実に残せる環境づくりが必要です。記録フォーマットの最適化は、その第一歩となります。
必要最小限の項目に絞り、チェックボックス形式を採用するなど、現場で記入しやすい形式を検討しましょう。記入例を明示したり、デジタルフォームを活用したりすることで、記録の質も向上します。
【解決策】日常点検は、デジタル化で抜け漏れ防止と転記・承認の効率化を!
紙ベースの点検記録は、さまざまな課題が存在します。点検項目の記入漏れ、判読困難な手書き文字、記録用紙の紛失や汚損など、人的要因による問題が後を絶ちません。また、管理者は記録の転記作業や承認作業に多くの時間を費やさざるを得ず、より重要な業務に時間を割けないという状況も発生しています。
これらの課題を解決する有効な手段が、点検記録のデジタル化です。タブレットやスマートフォンを活用した電子帳表システムを導入することで、点検作業自体の質を向上させられます。未記入項目があれば警告が表示されたり、点検予定時刻になると自動で通知が届いたりするため、抜け漏れを防止できます。また、写真や動画を簡単に記録に添付できるため、異常の状態をより正確に記録することも可能です。
管理者側でも、大きなメリットが生まれます。転記作業が不要になるだけでなく、複数の点検記録を一括で確認・承認できるため、大幅な時間短縮が可能です。さらに、蓄積されたデータをグラフ化して傾向を分析したり、設備ごとの不具合発生頻度を比較したりすることで、優先的に改善すべき課題を容易に特定できます。
このように、点検記録のデジタル化は単なる記録業務の効率化だけでなく、設備保全活動全体の質の向上につながる重要な取り組みと言えます。
過去に実施した設備保全の内容が残っていない
設備保全は実施されているものの、その記録が適切に残されていないケースが数多く存在します。特に危険なのは、ベテラン従業員の記憶や経験に依存している状況です。
特定の人だけがわかるような属人的な情報管理は、人材の異動や退職によって貴重なノウハウが失われるリスクを抱えています。また休日や夜間の緊急トラブル時に、適切な対応方法がわからないという事態にもなりかねません。
記録を残すことは、一見すると面倒な作業に感じられるかもしれません。しかし、その積み重ねは将来の大きな財産となります。記録の方法は、紙のノートでもExcelファイルでも構いません。重要なのは、基本情報を確実に残していくことです。
実施日時、対象設備、故障内容、実施した対策、使用した部品などの情報を地道に蓄積していくことで、より効率的な保全計画の立案やトラブル対応時間の短縮が可能となります。完璧な記録システムを目指すのではなく、まずはできる形式で確実に記録を残していくその一歩から、より良い設備保全の体制づくりが始まります。
【解決策】スマホやタブレットで写真とともに現場で記録を残し「設備カルテ」を作成
配線の接続が緩んでいたり異音がしたりするなどテキストだけの記録では、具体的な状況が後から分かりにくくなります。このときスマートフォンやタブレットを活用すれば、その場で写真や動画を撮影し、視覚的な情報とテキストを組み合わせた詳細な記録を残せます。
このように日々の点検や修理の記録を蓄積していくことで、設備ごとの詳細な履歴を記載した「設備カルテ」が形成されていきます。例えば、ベルトの摩耗状態を定点観測した写真や異常音を録音したデータ、交換した部品の画像など、設備の状態変化を時系列で追跡できるようになります。
各設備の点検や修理記録が残っている状態のイメージ
こうして作成された設備カルテは、トラブル発生時の強力な味方となります。過去の類似事例をすぐに参照でき対処方法を素早く判断できるため、ダウンタイムを最小限に抑えることが可能です。また修理履歴や部品交換のタイミングなどのデータを分析することで、故障の予兆を事前に察知し、計画的な予防保全を実施できます。
設備保全のための教育や記録を検討しよう
設備保全は製造現場の安定稼働を支える重要な活動です。しかし、人手不足や技術継承の問題、日々の記録管理の難しさなど、多くの現場が様々な課題に直面していることも事実です。これらの課題は、一朝一夕には解決できません。
大切なのは、まず自社の現状を正確に把握することです。
- どの設備に問題・課題があるか
- 属人化ものは何か
- 何から手をつけるべきか
現状を把握した上で、優先順位をつけて段階的に改善を進めていくことが持続可能な設備保全体制の構築につながります。特に重要なのが、ベテラン技術者の持つ暗黙知を、いかに形式知として残していくかです。作業手順のマニュアル化、動画による技術記録、デジタルツールを活用した日常点検の仕組みづくりなど、できることから着実に進めていきましょう。
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