品質管理(QC)と品質保証(QA)の違いとは?仕事内容、取得すべきISO規格などを解説

食品業界では、品質管理(QC)と品質保障(QA)という2つの言葉をよく目にします。名前の似ている2つは、製造部門や営業部門とは独立した製品の品質を管理・保証する部門です。

 

近年では、SDGsとして環境に配慮した持続可能な開発が求められています。そのような背景の中、食品業界ではHACCPの制度化など食品衛生法の改正も始まり「食の安全」がますます重要視されるようになりました。

 

今回は、「食の安全」を守る「品質管理」「品質保証」の意味や違いについて紹介していきます。

品質管理(QC)と品質保証(QA)の違いとは

品質管理(QC)と品質保障(QA)は、製造部門や営業部門とは独立した製品の品質を管理・保証する部門となります。

2つの大きな違いは下記のようになります。

 

品質管理(QC:Quality Control)は、製品が完成するまでの管理
品質保証(QA:Quality Assurance)は、製品が完成してからの保証

 

次の章から2つの違いについてより詳しく説明していきます。

品質管理(QC)と品質保証(QA)の違い

品質管理は製品が完成するまでが範囲

品質管理は製造工程から完成まで、一定の基準に達しているかのチェックが主な役割になります。

製造工程のチェックは多岐に渡りますが、食品業界にとって特に重要なチェック項目として温度管理があります。温度管理によって、食中毒を起こす可能性がある細菌を、死滅できる温度で加熱できているかをチェックします。他にも、工場内の拭き取り検査を行い、安全な食品を製造するための環境であるかどうかを確認する衛生管理も製造工程のチェック項目です。

さらに、完成品の最終的な検査と判断も品質管理の役割です。製品を出荷するための出荷判定では、品質管理部で微生物検査や官能検査を行います。もし製品に問題がある場合は、迅速に製造工場へのフィードバックを行い、生産部と原因の究明や改善を行います。

このように、不良品を出荷させない、製品回収を起こさない、大きなクレームが起きないよう未然に防ぐ最終チェック機能を果たすのが品質管理です。

品質保証は製品が完成してからが範囲

品質保証は、出荷された後の製品について幅広い保証が主な役割になります。

保証業務の中で代表的なものは、お客様からのクレーム対応となるでしょう。味やパッケージに違和感を感じたといったクレームや、疑問点についての問い合わせなどさまざまな案件がお客様相談室に寄せられます。その中で、遺物混入、体調不良になったなど、調査の必要となる案件は品質保証部にまわされます。

さらに、原料の安全性確認や、製品パッケージの品質表示作成なども品質保証として担当します。製品完成後の保証をするためには原料から製品まで幅広く管理するのが品質保証です。

このように出荷されてからの「安心と安全」をお客様に約束し、問題があれば迅速に対応していくアフターケアも行っていくのが品質保証です。

食品製造の品質管理、品質保証の仕事内容

食品製造における品質管理、品質保証は実際にはどのような業務をおこなっているのでしょうか。ここからは、具体的な業務内容について見ていきましょう。

品質管理の仕事内容と1日の流れ

品質管理のミッションは、不良品を出さない、出た場合は出荷させないようにすることです。一般的な業務内容としては、製造工場から届けられる製品の分析・検査が挙げられます。出荷してよいかの最終判断を行うためです。

食品会社ならではの検査としては、官能検査とアレルゲン検査があります。

官能検査は、味・見た目・におい・食感などさまざまなチェック項目を五感を用いて行う検査で、標準品と検査品を比較して行います。官能検査で塩の入れ忘れが発覚することも実際にあり、食品業界では外せない検査のひとつです。

アレルゲン検査は、特定原材料8品目については表示が義務となっております。特定原材料8品目とは、「えび」「かに」「くるみ」「小麦」「そば」「卵」「乳」「落花生」です。検査方法としてはELISA法(エライザ法)やPCR法などがあります。

品質管理の一日の流れとしては、下記のような場合が多いでしょう。

 

品質管理の1日の流れ

ただし、これは製造現場でのトラブルが無い場合です。トラブル時は解決のために生産部や製造部への確認を行ったり、実際に現場を確認することもあります。

また、食品業界は季節ごとに新商品を出すなど、他の製造業に比べて製品内容が変わるのが早いという特徴があります。よって開発部と連携し新商品の検査方法を確立したり、官能検査で問題が無い事を確認するのも品質管理の業務となります。

品質保証の仕事内容と1日の流れ

品質保証の業務は、製品の完成後の保証と記載しましたがそのための準備は、開発段階からはじまります。品質保証のミッションは、製品企画段階での原料確認から製造工程、アフターケアとお客様に幅広い保証をすることです。

クレーム処理と並んで食品業界ならではの業務として、品質表示の作成と原料の安全性確認があります。

品質表示の作成は、商品パッケージに義務として必ず表示されています。商品を購入する際に、原材料や産地、アレルギー物質、栄養成分などを確認することも多いのではないでしょうか。それらは、品質表示法に準じた記載となっており作成には多くの知識を必要とします。

原材料の安全性確認は、アレルゲンや残留農薬の含有が基準値以下であることや、製造工程の安全性を確認します。これらは、証明書等の書類で確認する場合が多くなりますが、実際に原料を分析する場合もあります。

この業務が発生するのは、新商品に使用実績のない原料が採用される場合や、法令が変わり表示義務項目に変更があった時などです。最近では2023年に特定原材料に「くるみ」が追加されました。

品質保証の一日の流れとしては、一例として下記の様なものになります。

品質保証の1日の流れ

品質保証はデスクワーク中心となるのが品質管理との違いと言えるでしょう。

クレーム対応については、会社の信用を失う事態もありえるので、案件によっては最優先となることもあります。お客様へ調査結果を返答するので迅速な対応が必要となります。

また新商品の開発ではパッケージデザインにも注意が必要です。食品衛生法の表示義務は満たしているか? 過剰広告など景品表示法に違反している表記はないか? 部署をまたいで何重にもチェックを行います。

品質管理、品質保証が関わるISO規格

「ISO」という文字を製品パッケージで見かけると、詳しくは知らなくても安全でしっかりした商品だという印象を受けるのではないでしょうか?ISOとは、国際的な規格を規定している「国際標準化機構」を指します。

現代は、食品や工業製品などさまざまなものにおいて輸出入は当たり前となっていますが、それぞれの国で同じ規定のもと製造しているわけではありません。そこで、食品業界にも世界共通で通用する規格が必要となりました。それが「ISO規格」であり、品質管理、品質保証にも大きく関わる規格となります。

品質保証部では「ISO9001」、品質管理部では「ISO22000」が深く関連します。

品質マネジメントシステム規格である「ISO9001」

「ISO9001」とは、品質マネジメントシステムに関する国際規格です。

この規格の狙いは、ずばり顧客満足の追求にあります。「ISO9001」は、その実現の為にPDCAサイクルを積極的に回して改善していこうとするところに特徴があります。

PDCAサイクルとは、
Plan(計画)⇒ Do(行動)⇒ Check(評価)⇒ Action(改善行動)の頭文字です。
このサイクルを繰り返すことがあらゆる業務の改善に役立ちます。

ISO9001は業種を問わずあらゆる企業が取得でき、最も普及しているマネジメントシステムです。全世界で170カ国以上、100万以上の組織が取得しています。

最終的な目標が顧客満足の追求となるため、クレーム処理を行う品質保証は改善項目と常に向き合っていると言えるでしょう。「ISO9001」を取得する事によって、その蓄積されたデータの運用をシステム化し、PDCAサイクルを回せるため自動的に改善を目指す事ができます。

取得による効果としては、社会的信頼と顧客満足の向上があげられます。さまざまな事柄が文書化、マニュアル化されるため、業務の体系化、見える化が行われます。社員教育についても効率アップが期待できるでしょう。

取得理由として「取引先から要望があった」「入札条件に含まれるから」という理由も珍しくなく、多くの企業で社会的信用を得る為に導入されています。食品業界では「安心、安全」は最重要なので他社との差別化も兼ねて大きなアドバンテージとなるでしょう。

「ISO9001」の取得には、マネジメントシステムの構築と運用を行った上で、第三者機関の審査を受ける必要があります。

マネジメントシステムの構築でまず重要となるのは「品質方針・品質目標」の作成です。企業の方針とも関連しその目標を達成するための適用範囲や計画、管理方法などを文書化していきます。歴史の古い食品会社では製造工程や品質管理基準など開発当時の書類がそのまま使われている場合があり、製品ごとにフォーマットが異なっていることもあります。体系を整え、統一されたフォーマットに揃えることで、明確で運用しやすい環境が生まれます。

そして、意外と見落としがちなのが証拠となる帳票類の管理です。食品業界では、作業日報や検査結果などが決められた期間しっかりと保管され、必要な時に閲覧出来る環境が求められます。また、これらが実際に機能しているかというチェックとして社内で内部監査を行い、フィードバックすることでPDCAサイクルを促進し、形骸化を防ぐのです。

ここまでがマネジメントシステムの構築と運用となり、問題がなければいよいよ審査が受けられます。主に書類をチェックする第一次審査、実際に現場での運用を見る第二次審査を経て合格すると晴れて「ISO9001」の認証が得られます。

食品安全マネジメントシステム規格である「ISO22000」

「ISO22000」とは、食品安全マネジメントシステムの国際規格です。

HACCP(ハサップ)の食品衛生管理手法を取り入れ、農場から消費者まで食品が流通するフードサプライチェーン全体の安全を実現させるための規格となっています。HACCPとは、食品製造の過程での異物混入や食中毒汚染を避けるため、危険要因を把握し対策する衛生管理手法です。食品安全のリスク軽減に繋がり、2021年6月からは義務化となっています。

「ISO22000」はHACCPの衛生管理手法を土台に、「ISO9001」のPDCAサイクルを取り入れることで継続的に改善が行われるのが特徴です。取得できるのは、フードサプライチェーンに関わる全ての企業となります。農場や工場、小売り店、飲食店、ケータリング等、商品が消費者に届くまでに関連する企業で取得可能です。

取得によって食品安全に積極的な企業であるという姿勢を示すことができ、食品安全マネジメントを徹底しているという証明にもなります。実際に取得によって、内部統制の強化や、不良品の減少が報告されています。海外企業との取引では必須となるケースも多いので、大手企業では必須の規格です。

「ISO22000」の取得方法は、「ISO9001」と同様にシステムの構築と審査が必要となります。

取得手順としてまずは、PRPs(一般的衛生管理プログラム)を確立し基本的なマネジメントシステムを作成。次に工程中のハザード分析を行いHACCPシステム構築、つまり危険要素の洗い出しと対策をします。全体的なマネジメントシステムの構築と3か月以上の運用を行い、内部監査とフィードバックを実施。その後、一次と二次の登録審査を受けて合格すれば、晴れて認証となります。

品質管理、品質保証のあるべき姿とは

品質管理、品質保証の仕事は、ひとたび重大クレームや工場トラブルが起きれば日常業務など出来ないほどの忙しさとなります。問題解決に追われがちな職種ですが、本来あるべき姿とはどういうものなのでしょうか。

顧客の満足を第一に考える

実は「ISO9001」が2000年に大幅な改定が行われたのをご存じでしょうか? それまでは「品質」に関する規定でしたが、「顧客満足」が新たに追加されたのです。製品基準は満たしていても、お客様にとってそれが満足な製品であるとは限りません。

 

品質管理、品質保証ではお客様の視点に立ったものの見方が最も重要となります。パッケージの開けにくさなど、「大したことでは無いけれどちょっとした不満」を改善することで、顧客満足度がぐんと上がる事があるのです。

社内の良好な関係を構築する

重大クレーム、製造トラブルがあった際、品質管理部や品質保証部では、他の部署に対して問題点を指摘する立場となります。問題解決の為、お互いが協力するのは当然なのですが、軋轢が生まれやすい状況になる事もあります。

 

言いにくい事を言わなければならない事態もあるので、普段から良好な関係を構築しておくことが大切です。日常業務でのメール文章を分かりやすく、返信をスムーズに行うなど、仕事のパートナーとして信頼関係を築いていきましょう。

振り返り分析をして改善する

日々の業務を振り返り分析することは、業務に対する理解を深める事と同じです。見えてきた問題点を改善することで自然と効率が上がっていきます。その時によく使われるのが、QC7つ道具と呼ばれる分析方法です。

QCの7つ道具

1、パレート図

パレート図とは、「棒グラフ」と「線グラフ」を組み合わせた複合グラフを指します。品質関連では年間クレームについてまとめる際に多くみられます。横軸にクレームの種類を件数の多い順に棒グラフにします。同じグラフ内で、その件数が全体の何%になるか積み上げ方式の折れ線グラフに表し完成です。

これは、「パレートの法則」がもととなっており、上位2割の富裕層が社会全体の富の8割を有しているという考え方です。「20:80 の法則」とも言われます。同じ現象がさまざまな場面で成り立ち、上位2つのクレームが全体の多くを占めているなどの傾向が見えると、対策する際の優先順位決定に役立ちます。

2、特性要因図

特定要因図とは、「フィッシュボーン図」とも呼ばれ、魚の骨の様な形をしています。解決したい問題を背骨に見立て、原因を大骨、中骨、小骨、と矢印を伸ばしながら探っていく手法です。製造現場での問題解決に使用されることが多く、はじめの大骨には「品質管理の4M」を置くとよいでしょう。

「品質管理の4M」とは、人(Man)、機械(Machine)、方法(Method)、材料(Material)です。さらに、検査・測定(Measurement)や、マネジメント(Management)を加えた「5M」「6M」となることもあります。

3、グラフ

棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフなどさまざまなグラフがあり、データをまとめる際に非常によく使用されます。数値の変動を見たい場合は、棒グラフや折れ線グラフ。全体に対する割合を見たい場合は円グラフや積み上げグラフ等、用途に合わせたグラフ選びが大切となります。また、複数要因をまとめたレーダーチャートなど、集めたデータで別のグラフを作成すると、問題解決の突破口となることがあります。

4、ヒストグラム

ヒストグラムは「度数分布図」とも呼ばれ、量的データの分布や平均、ばらつきなどを可視化します。普通の棒グラフとの違いは、必ず縦軸に「度数(データ数)」、横軸に「階級(一定の範囲)」を使用し、全データの構成がそれぞれの棒で表される点です。例えば、製品の重量をヒストグラムにすると規格範囲のどこに偏っているのかが分かります。

5、散布図

散布図は、2つの要因に対して相関関係を調べる際に使用します。「正の相関」は、身長と体重の様に片方が増加すれば、もう片方も増加する関係です。「不の相関」は、高度と気温の様に片方が増加すれば、もう片方は減少する関係です。クレーム等の発生傾向など、関連の予測される項目を2つに絞り散布図を作成してみる事で、新しい発見となるかもしれません。

6、管理図

管理図は、製造工場における管理状態を視覚化し、不良品の判定などに使用されます。基準とする中心線(CL)、その上下に上方管理限界線(UCL)と下方管理限界線(LCL)を配置し、取得したデータを時系列で折れ線グラフとして表示していきます。製造ラインでは、始動直後が最も注意を必要とする時間です。機械の状態が安定するまで試運転が必要となり、完全に安定するまでは製品を廃棄するなどの対応が取られます。

7、チェックシート

普段から、ToDoリストなどで活用している人も多いのではないでしょうか?チェックシートは目的により「点検用チェックシート」と「調査用チェックシート」の2種類に分けることができます。結果を見える化して共有することで業務の効率が上がります。

まとめ

 品質管理は検査業務や工場への立ち合いなど製造現場に近く、品質保証はクレーム対応や表示に関わる業務などデスクワークが中心となります。共通するのは、お客様目線である事を決して忘れてはいけないという点です。

他部署との関連が多く一連の業務について知見があることは、食品製造を幅広く把握していると言えます。品質管理・品質保証は以後のキャリアに大いに役立ちますし、スペシャリストとして特化していく事もできる職種と言えるでしょう。

 

 

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