品質管理とは、消費者が満足するための製品・サービスを生み出すための活動(原材料や部品の検査や製造工程の確認、完成品の事前・事後対策など)です。
この記事では品質管理の概要や似た言葉の「品質保証」との違い、品質管理をする上で欠かせない3つの管理方法、さらには業務上意識したい具体的な考え方や手法を分かりやすくまとめました。
品質管理(Quality Control:QC)とは、消費者(買い手)が満足・要求する製品・サービスを生み出すために、原材料や部品の検査、製造工程の確認、完成品の事前・事後対策をおこなうことです。
品質管理の目的は、消費者に一定以上の水準の製品・サービスを提供し、売上を拡大することです。そのためには、消費者の期待に応えるべく、一定の品質を担保した製品の生産や基準を満たさない製品を世の中に送り出さないようにする仕組みが求められます。
品質管理によく似た言葉で「品質保証」があります。品質保証とは、製品・サービスを企画する段階から出荷後に製品・サービスを手にした消費者への対応までを含む活動です。
具体的には、製品・サービスの企画や、品質管理の中に付随する原材料や部品の検査や製造工程の確認、消費者の手にわたったあとの問い合わせやクレーム対応、世の中の反応を知るための市場調査など多岐に渡ります。
部門 |
行うこと |
品質管理 |
・原材料や部品の検査 ・製造工程の確認(管理や改善) ・完成品の事前・事後対策 |
品質保証 |
・製品やサービスの企画 ・原材料や部品の検査 ・製造工程の確認 ・完成品の確認 ・消費者対応(問い合わせやクレーム) ・市場調査 ・各部門へのフィードバックや改善依頼 |
品質管理と品質保証の違い
実際には、品質保証の役割を出荷検査のみとしている場合もあるので、製造工程は品質管理部門、製造後の検査や消費者対応は品質保証部門が対応としている企業も少なくありません。
また工場や会社によって品質管理や品質保証の区分はまちまちであったり、明確に業務をわけていないこともあり得るので、一概に上記のようになっていないこともあります。
品質管理には、工程管理と品質検査、品質改善の3つの管理方法があります。一定水準の製品を作りこみ、不良品が生じていないかを検査し、不良品の再発防止・未然防止のための改善を行うというサイクルを繰り返すことで、製造工程と製品の品質を上げていくことを目的としています。
品質管理をする上で欠かせない3つの管理方法
工程管理では、製品・サービス不良が発生しないように製造工程における、作業手順の確認や訓練、設備のメンテナンスをおこないます。進捗や実績を管理し、コストをおさえ、納期通りに製品・サービスが作られるようにします。具体的には、作業手順の標準化や作業訓練、設備のメンテナンスが挙げられます。
作業手順の標準化では、良品製造のための適切な手順を標準として定め、作業手順書などに表すことです。作業手順書によって、製造に携わるメンバーすべてが正しい手順を共有化し、品質のバラツキをなくすことができます。
バラツキがなくなることで、何か異常が発生した場合にすぐに気づくことができ、不良品製造を防ぐた めの迅速な対応が可能となります。また、手順書に様々な改善案や作業から得られた知見を盛り込んでいくことにより、より良い品質の製品の製造にもつながります。
▶ 製造業の作業手順書をわかりやすく解説!目的や効果的な作り方とは?
作業訓練では、製造に携わるメンバーに、製造にかかわる知識や技術を身に付けてもらいます。研修などにより製 品や工程、設備、作業方法などの知識を、OJT(On the Job Training 仕事を通じた実地トレーニング)により実際の技術を習得してもらいます。
日常点検などを通じて、設備異常を早期に発見し、不適合品の発生を検知したり、未然防止をはかることが設備の維持管理の目的です。
設備の生産条件や設定値のズレなどを確認し、異常値が出た場合に、適切に処理することで、常に適切な状態で製品製造がおこなわれる状態を維持します。
品質検証とは、製品の原材料や部品などの材料、生産工程などを検査し、製品の品質を確認することで、具体的には以下の3つの業務を行います。
製品の品質を検査して確かめます。具体的には、受入検査と工程内検査、完成品検査の3つがあります。
受入検査は、外部から調達した原材料や部品などを受け入れ時に検査をおこないます。受け入れ品の品質を確認して、確かなモノだけを工程に投入することで、不適合の発生を防止します。
工程内検査は、製造工程の途中で検査を行います。不適合発生のリスクが高い工程や、完成後では品質確認のできない工程などに限って実施されます。
完成品検査は、最終的にできあがった製品の品質を検証し、顧客に品質を保証するために行われます。出荷に先立って行われることから出荷検査と呼ばれることもあります。
工程能力の監視は、良品を生産するのに必要とされる能力を有しているかを確認・監視することです。工程能力指数の評価、初物管理、初期流動品管理が具体的な作業です。
工程能力指数としては、CpまたはCpk(変化幅や能力などを数値化したもの)を使用します。これらは、生産した製品の一定量を測定して、統計処理し、不適合の発生確率を推定する指標で、量産品などの品質管理で広く取り入れられています。
初物管理は、材料、刃物や型、製造条件などを変更したり、準備・段取りしたりした後、最初に生産したものの品質をチェックして、正しく準備・段取りされたか確認することです。製造物の切り替えのタイミングで、必ず行われる管理です。
初期流動品管理は、新製品などの量産初期の品質管理を通常より厳しく行うものです。新製品は、工程が不安定で、作業者や検査員の習熟度も低いため、不良品が発生するリスクが高くなります。そこで、工程内での確認や検査の頻度、項目を増やして、不良品の流出防止と品質改善を行います。
管理状態の監視対象となるのは、自社の品質マネジメントシステム(Quality Management System:QMS)、材料・部品などの調達先、製品の耐久性・経年劣化などの検査です。
自社のQMSの運用状況については、ISO9001などの品質システム監査を受けることで確認できます。
調達先のQMS運用状況については、直接監査を行うことが望ましいですが、費用や手間などを加味し、ISO9001の認証取得によって直接監査の代替とすることもあります。日々の検査では検証できない、耐久性、経年劣化などの品質特性などについて、信頼性試験などを行い、確認する製品監査も実施します。
品質改善は、不良品発生の再発防止と未然防止の2つのアプローチがあります。
再発防止は、現状の把握、原因の分析、対策立案など、問題解決ストーリーと言われる、問題解決のための一連のステップに基づいて行います。中でも最も重要なのは原因の分析で、QC7つ道具などの統計的手法を用いて事実を裏付けるデータを収集し、原因を究明し、問題の原因になる要素を取り除きます。自社だけではなく調達先にもその実施を求めます。
未然防止は、日々の生産活動の中で、原料や部品、工程の中から不良品発生につながる潜在的な危険性を察知し、そうした要素を取り除くことです。常に改善への視点を持ち続けることが危険性の察知につながります。
ここからは品質管理業務を行う上で欠かせない具体的な考え方と手法を7つに絞って紹介します。品質管理では、感覚的な判断はせずに必ずデータ(記録)に基づいた判断をし、改善に努めていかなければならないので、ここで紹介する考え方をもとに自社の製造工程を見直してみてみましょう。
PDCAサイクルは、製造の現場だけでなく、ビジネス全般で広く使われているマネジメント手法です。P(Plan:計画)、D(Do:実施)、C(Check:確認)、A(Action:処理)のサイクルを回すことで、業務の質を高めていくことが目的です。
従来の実績や、将来の予測などをもとにして業務計画を作成すること。誰が、どのような作業を、どのような手順で、いつまでに行うかを具体的に定め、それを関係者で共有化することが具体的な作業となります。現状維持ではなく、常に品質向上を志向した業務計画の策定が求められます。
策定した計画に沿って業務を行うことです。よくできた業務計画は、途中で頓挫せずに最後まで業務遂行できますが、品質向上のために敢えて、やや難しい計画に挑み続けることが必要な場合もあります。
業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認するフェイズです。計画と現実の実施状況とを見比べ、もし計画通りの進捗になっていない場合は、何が原因なのかを特定します。不良品発生時の原因特定や、潜在的な不良品発生の危険性を感知できる重要なフェイズとなります。
実施が計画に沿っていない部分に対して、適切な処置を考え、実施します。この過程において新しい知見や知識が蓄積され、新しい手順につながったり、新しい計画を立てる際の新たな目標の創出につながります。
製造現場では、製品の製造工程や品質に関わるさまざまな数値データを入手できますが、集めたデータは、そのままの状態だと、どの部分にどんな問題があるのか不明なままです。
解決すべき問題の要因の特定には、データの相関関係を分析する必要があります。こうした各種データの整理や関係性の分析に役立つ代表的な手法が「QC7つ道具」です。
QC7つ道具をまとめた図
▶ QC7つ道具を理解したい!そんな方に覚え方やツールの概要を紹介
TQC(Total Quality Control:全社的品質管理)とは、製造部門のみならず、全社を巻き込んだ品質管理です。JISでは以下の通り定義されています。
「品質管理を効果的に実施するためには、市場の調査、研究・開発・製品の企画、設計、生産準備、購買・外注、製造、検査、販売及びアフターサービス並びに財務、人事、教育など企業活動の全段階にわたり経営者を始め管理者、監督者、作業者などの企業の全員の参加と協力が必要である。」
日本ではTQCはQCサークルの活動として位置づけられることが多いです。QCサークルとは、従業員が自らの手で生産プロセスの改善を行うために立ち上げる小集団です。現場でしかわからない様々な問題点について従業員が自らの手で改善案を出し、実際に改善案を実行することで、生産プロセスの改善につなげると同時に、品質管理に全員が参加しているという自覚を促します。
▶︎ 全社的品質管理(TQC)における基本的な知識と歴史について
TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)は、製品・サービスをはじめとして、企業各部門の活動すべての質を向上させることを目的とした活動です。
顧客ニーズの把握や改善活動の計画立案から、実行、評価、改善までのサイクルが繰り返され、業務の品質改善を継続的かつ総合的に行っていくことが求められます。
▶︎ 総合的品質管理の基礎知識や似ている言葉との違いなどを説明
5Sとは、整理と整頓、清掃、清潔、しつけの5つを指します。現場環境を適切に管理、維持していくために必要な考え方を端的に示した概念です。5つの言葉が指し示す内容は以下の通りです。
この5つを徹底することで、作業効率の向上、安全性の向上、従業員満足度の向上、ルールを遵守する風土の醸成などの効果が見込めます。
SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)とは、製造現場で得られる様々なデータを収集し、前述したQC7つ道具などで解析して品質管理や生産工程を改善していく方法です。SQCの目的は、製品の品質のバラツキを抑えるためです。
一般的に製品の品質は、材料と機械装置、作業方法、検査方法の条件を完全に満たせば均一化できます。そのため、各条件のデータを収集して解析して、結果を反映させていくことが重要です。
データを元に解析を行えば、生産工程の実態を細かく把握できるようになり、製品の品質がバラつく原因がわかります。とはいえすべての製造品のデータを収集するのは不可能なので、サンプルを抽出してデータを収集しそのデータを解析することが一般的です。
▶︎ 統計的品質管理とは一体?概要と学ぶための方法について
FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:障害モードおよび効果解析)は、事前に製品・サービスが壊れたり、機能しなくなったりすること(障害モード)の原因を特定し、影響度を明らかにし、それぞれへの対策を講じる手法です。
FMEAでは、まず始めに特定の生産ラインや品質管理手順などの工程で製品・サービスに不具合が生じる可能性があるポイントを洗い出します。その後、FMEAチームを立ち上げ、そのポイントに対して、どんなことが起こり得るかを特定します(例:異物混入や加工ミス、保管ミスなど)。
発生しそうな問題に対して、食品の安全性や顧客満足度への影響、生産ラインの停止時間などどのようなリスクがあるかを考え、優先度付けを行います。優先度順に対策を考え、実施します(従業員への研修や啓蒙、加工や保管のプロセス見直しなど)。
最後に対策が行われているかや、その対策の効果を監視、検証し、必要であれば見直しを行うのが一般的な流れです。
ここまでで品質管理の概要や品質保証との違い、具体的な考え方や手法が分かったかと思います。最後に、自社のお客さま(取引先)に安心感を意識したい品質管理のポイントを紹介します。お客さまだけでなく、監査員からも信用を得られるので、品質管理担当者の方は、ぜひ意識してみてください。
品質管理業務では、属人的な判断は極力減らしていきましょう。品質管理の担当者が1名だったとしても、品質管理業務で誰しもが同じ判断を下せるような仕組みを作っておくことが重要です。なぜなら、判断する人によって基準が変わってしまうと、タイミングによって製品・サービスにバラつきがでてしまうからです。
そのため、QC7つ道具などの定量的なデータでの判断や写真を用いた品質管理マニュアルの作成などでブレのない判断になるようにしましょう。
品質管理記録は毎日つけるものなので、忙しい業務中に都度、紙とペンを持って記録をするのは、難しいと思います。また記録のタイミングを忘れてしまったり、記録する内容を飛ばしてしまったりするなどもありえます。
そこでシステムやツールの導入で自動的に記録がされるようにしたり、全ての自動化が無理でも、記録のタイミングを通知してくれたり、順番に記録していかないと次の設問にいけなかったりするような設定をしたシステムやツールを使うのがいいでしょう。
細かな記入ミスや漏れをなくす取り組みも地味ですが、取引先などのお客さまからすれば、日々の記録が確実に取れている状況は、信頼できる企業の証です。
品質記録をデータとして残しておき、いつでも提出・活用できる状況にしておくことで、急に提出を求められたときでも瞬時に対応できます。どんな仕事でも早く・的確な対応は、信頼に繋がります。
またデータ化すれば、長期間での製品・サービスの品質の変遷が分かるので、何を改善すべきか(原材料の価格/生産工程/人員など)が一目瞭然になります。
品質管理の目的は、消費者に一定以上の水準の製品・サービスを提供し、売上を拡大することです。そのため、日々の記録を付け、定期的に振り返り改善していくことが重要です。
消費者目線で何が良いものなのかを研究し、製品・サービスに活かし、日頃から品質工場に向け動くことが自社の発展に必ず繋がるはずです。