SQC(統計的品質管理)とは?目的と代表的な手法を具体例と共に紹介
食品製造業
2020.10.02
2024.10.17更新
SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)とは、日常的な業務でたまっていくデータをもとに、統計的手法を用いて製品やサービスの品質を効率的に管理・改善するものです。
実施する目的は、全数検査では対応できない大量生産や多品種生産の環境下で、効率的かつ効果的な品質管理を実現することにあります。管理手法の例としてグラフや管理図、解析手法の例として検定と推定やタグチメソッドなど多くの手法が挙げられます。
本記事では、SQCの基本的な考え方や実際に使用する手法について具体例を踏まえて解説します。既に基礎知識をお持ちの品質管理担当者の方はもちろん、部署全体のSQCレベルアップを目指す管理職の方にも役立つ内容をまとめました。
SQCを活用して、データに基づいた確かな品質管理を実現し、競争力のある製品やサービスを提供していきましょう。
SQCとは
SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)とは、日々記録しているデータや抜取検査(サンプリング)などで得た情報をもとに、品質管理における統計手法(QC7つ道具や相関分析・回帰分析など)で分析し、品質の維持・改善に役立てる活動を指します。
SQCは、もともと1931年にアメリカのベル研究所のウォルター・A・シューハートによって考案されました。製造プロセスのばらつきを統計的に管理することで、品質の向上と生産効率の改善を目指したのが始まりです。その後、第二次世界大戦中に軍需品の品質管理に活用され、戦後は日本に導入されて製造業の品質革命を牽引しました。
SQCとよく似た用語に「TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)」がありますが、TQMは組織全体で品質向上に取り組む経営手法なので、SQCとは範囲と適用方法の点が異なります。
SQCが主に統計的手法を用いて品質の維持・改善を図るのに対し、TQMはそれを含めたより広範な品質管理活動を組織全体で推進します。
日本の製造業におけるSQCの代表的な事例として、トヨタ自動車の取り組みが挙げられます。トヨタ自動車では、1949年頃からSQCへの取り組みが始まりました。トヨタ自動車のSQCは一般的なものよりも広義で、数値データと言語データ(思考)を用いて、誤りの少ない判断をするために、事実に基づきデータを加工し、解析します。そして三現主義に基づき、問題や課題の発見のために使われています。
トヨタグループにとってのSQCを一言で言うなら、「見える化」する手法です。データを見える化し、現地・現物・現象に基づいてみんなで議論して問題や課題に気づくために利用するのです。
SQCを実施する目的
SQC(統計的品質管理)を実施する主な目的は、全数検査では対応できない大量生産や多品種生産の環境下で、効率的かつ効果的な品質管理を実現することです。また、KKD(勘・経験・度胸)に頼った意思決定によるミスを防ぎ、データに基づいた客観的な判断を可能にします。
SQCを用いることで、統計的手法により製造プロセスの変動を把握し、異常を早期に検出できるようになります。さらに、過去のデータから傾向を分析し、将来の品質問題を予測・予防することが可能になったり、問題の根本原因を特定し、効果的な改善策を立案・実施できたりするため、効率的な品質改善にもつながります。不良品の発生を抑制し、検査工程の最適化によりコストを削減することも可能です。
これらの目的を達成することで、企業の競争力向上と顧客満足度の増加が期待できます。SQCは、客観的なデータを用いた品質管理を実現し、持続可能な品質向上を支える重要なツールです。
SQCでよく使う手法
SQC(統計的品質管理)では、日々のデータから偶然原因(工程の中でどうしても発生してしまうもの)に関するばらつきか、異常原因(基準を守っていない、機械に不備がある場合に起こるもの)によるばらつきかを判断する「管理手法」と、集めたデータ加工し、俯瞰して傾向や予測をつけられるようにする「解析手法」があります。SQCでよく使う手法を以下に挙げます。
- グラフ
- パレート図
- ヒストグラム
- 管理図
- 検定と推定
- 相関分析・回帰分析
- 実験計画法
- 多変量解析法
- タグチメソッド
ここでは管理手法の例としてグラフから管理図を、解析手法の例として検定と推定からタグチメソッドまでを紹介します。
グラフ
グラフとは、数値データを視覚的に表現する手法で、SQCにおいて最も基本的かつ重要なツールの一つです。折れ線グラフ(時系列での変化)、棒グラフ(データの大小比較)、円グラフ(構成比)など、さまざまな種類があり、データの性質や目的に応じて適切なものを選択します。
グラフを用いることで、データの傾向や変化、分布などを直感的に把握できます。例えば、時系列データの推移、項目間の比較、全体に対する割合などが一目で分かるようになります。グラフは以下のような状況で特に有効です。
- 長期的な品質トレンドの把握
- 異なる製品や工程間の性能比較
- 季節変動や周期性の検出
- 改善活動の効果確認
- 経営層や現場作業者へのデータ報告
適切なグラフを用いることで、複雑なデータも分かりやすく伝えられ、迅速かつ的確な意思決定に役立ちます。ただし、グラフの種類や軸の設定によっては誤解を招く可能性もあるため、データの特性を十分に理解した上で使用することが重要です。
パレート図
パレート図とは、項目別の数値データを棒グラフで大きい順に並べ、同時に累積比率を折れ線グラフで表したものです。イタリアの経済学者パレートの法則(全体の数値の大部分は、全体を構成する内の一部の要素が占める)に基づいています。
パレート図を用いることで、問題の重要度や優先順位、全体に対する各項目の寄与度、そして重点的に取り組むべき課題を明確に把握できます。
パレート図は、不良原因の分析やコスト分析、顧客クレーム分析、工程改善など、さまざまな状況で活用されます。
例えば、不良の種類や発生要因を特定して最も影響の大きい問題に注力したり、経費や損失の要因を明確にして効果的なコスト削減策を立案したりする際に有効です。
また、顧客の苦情の種類や頻度を把握して満足度向上のための施策検討や、各工程の問題点を可視化して改善効果の高い領域を特定する場面でも重宝されます。
パレート図を活用することで、限られたリソースを効果的に配分し、最大の改善効果を得ることが可能です。重要な少数に焦点を当てることで、効率的な問題解決や品質改善が可能となります。
ヒストグラム
ヒストグラムとは、連続的なデータの分布を視覚化するためのグラフです。データを一定の区間に分け、各区間に含まれるデータの頻度を縦軸に、区間を横軸に表示することで、データの分布形状や特徴を容易に把握できます。
ヒストグラムを用いることで、データの中心傾向(平均や中央値)、ばらつきの程度、分布の形状(正規分布、歪んだ分布など)を視覚的に理解できます。また、外れ値の存在や、複数のピークを持つ分布なども識別可能です。
ヒストグラムは主に以下のような状況で活用されます。
- 製品の寸法や重量などの品質特性の分布を確認する
- 工程能力の評価、規格限界との関係を調べる
- 顧客の年齢分布や購買金額の分布分析
- 機械の故障間隔の分布確認
- 工程の改善前後での分布の変化を比較する
ヒストグラムは、大量のデータを要約し、その特徴を簡潔に表現できる強力な手法です。SQCにおいて、プロセスの状態を理解し、改善の方向性を決定する上で欠かせない管理手法の一つです。
管理図
管理図とは、製造業などで品質や工程の安定性を確認するために使用されるグラフです。品質のばらつきを視覚化し、異常を早期に検知できる特徴があります。
測定値や統計量を縦軸に、時間や順序を横軸にプロットし、中心線(CL:Center Line)、上方管理限界線(UCL:Upper Control Limit)、下方管理限界線(LCL:Lower Control Limit)を併せて表示します。これにより、プロセスの変動が統計的に管理された状態にあるかどうかを判断します。
管理図を用いることで、プロセスの安定性やトレンド、周期性、突発的な変化などを検出できます。また、管理限界を超えるポイントや特定のパターンを観察することで、プロセスに影響を与える特殊要因の存在を早期に発見することが可能です。
管理図は主に、製造ラインの品質特性のモニタリング、設備の稼働状況の監視、サービス業における顧客満足度の推移確認などに用いられます。また、改善活動の効果検証やプロセスの能力評価にも活用できます。
管理図は、製品の品質が乱れていないか、工程に不具合が発生していないかを発見するツールとして、継続的な品質管理と改善活動の基盤となる重要な手法です。適切に活用することで不良品の発生防止やコスト削減を実現でき、顧客の信頼や満足度を得ることにつながります。
検定と推定
検定とは、サンプルデータを基に、母集団に関する仮説の真偽を統計的に判断する手法です。例えば検定では、相反する「新しい製造方法は従来の方法より不良率が高い」という仮説を設定し、データがその仮説と矛盾するかどうかを確率的に評価します。
検定を用いることで、製品やプロセスの改善効果の有意性、異なる条件下での性能差の存在、規格値との適合性などを客観的に判断できます。これにより、勘や経験に頼らない、データに基づいた意思決定が可能になります。新旧の製造方法の比較、原材料の変更による影響評価、顧客満足度の変化の検証などに活用できます。
一方で、推定とは、サンプルデータから母集団の特性(平均、分散、比率など)を数値的に推し量る手法です。点推定(単一の値で推定)と区間推定(範囲で推定)があり、ある製品の不良率が5%と推定するのが点推定、90%の確率で3〜7%と推定するのが区間推定です。
推定を用いることで、全数検査が困難な場合でも、母集団の特性を高い信頼性で把握できます。例えば、製品の平均寿命の推定や不良率の予測、顧客の平均支出額の推定などに活用されます。また、必要なサンプルサイズの決定や、測定システムの精度評価にも応用されます。
相関分析・回帰分析
相関分析とは、2つの変数間の関連性の強さと方向性を統計的に評価する手法です。相関係数を用いて、変数間の線形関係の程度を-1(負の相関)から+1(正の相関)の範囲で数値化します。
回帰分析は、1つ以上の独立変数と従属変数との間の関係を数学的モデルで表現する手法です。これにより変数間の因果関係を推定し、将来の予測にも活用できます。
どちらも、変数間の関係性を定量的に把握するという点では同じです。これらの分析により、プロセスの最適化、品質特性の予測、要因分析などが可能になります。
QC7つ道具の1つである「散布図」は、相関分析の基礎的な手法として用いられます。2つの変数のデータをグラフ上に置くことで、視覚的に関係性を把握できます。
これらの分析手法は、品質特性と製造条件の関係解明、コスト要因の分析、需要予測など、SQCのさまざまな場面で活用されます。ただし、相関は必ずしも因果関係を意味しないため、結果の解釈には注意が必要です。
実験計画法
実験計画法とは、複数の要因(因子)が結果に与える影響を、効率的かつ統計的に分析する手法です。実験の目的に応じて要因と水準を適切に選択し、実験回数を最小限に抑えながら最大の情報を得ることを目指します。
実験計画法を用いることで、各因子が結果に与える主な効果や因子間の交互作用、結果のばらつきに影響を与える要因などが分かります。
実験計画法は主に以下のような状況で活用されます。
- 新製品開発時の最適設計
- 製造プロセスの最適化
- 品質改善活動における要因分析
- 材料配合の最適化
- 耐久性試験の効率化
実験計画法の代表的な手法には、一元配置法、二元配置法など直交表を用いた実験があります。これらを適切に選択・実施することで、少ない実験回数で多くの情報を得ることができ、効率的な品質改善や製品開発が可能となります。
多変量解析法
多変量解析法とは、複数の変数間の相互関係を同時に分析する統計的手法の総称です。単一の変数だけでは捉えきれない複雑な現象や関係性を、多次元的に解析できます。多変量解析法を用いることで、複数の変数間の相関構造やデータの背後にある潜在的な要因、複雑なシステムの挙動予測などが分かります。
多変量解析法は主に以下のような状況で活用されます。
- 製品の品質特性の総合評価
- 顧客満足度調査の分析
- 生産プロセスの異常検知
- 市場セグメンテーション
- 新製品開発のための特性評価
代表的な多変量解析法には、主成分分析、因子分析、判別分析、クラスター分析などがあります。これらを適切に選択・適用することで、複雑なデータから有用な情報を抽出し、効果的な意思決定や問題解決に活用できます。
タグチメソッド
タグチメソッドとは、日本の品質工学者である田口玄一博士が開発した品質設計手法で、製品やプロセスのロバストネス(外的影響を受けても安定している特性)を向上させることを目的とし、設計段階から品質を作り込むアプローチを取る方法です。
タグチメソッドを用いることで、製品やプロセスの最適条件を見出し、ノイズ(外乱)に強い設計パラメータを特定できます。また、品質特性のばらつきを最小化する因子の組み合わせを見つけ出し、品質とコストのバランスが取れた設計条件を導き出すことが可能です。
この手法は、新製品開発の設計最適化や製造プロセスの安定化、品質特性のばらつき低減、コスト削減と品質向上の両立、さらには環境変動に強い製品設計など、幅広い状況で活用されます。
タグチメソッドの特徴は、「品質は設計で作り込む」という考え方と、「SN比」(シグナル・ノイズ比)を用いた評価にあります。実験計画法を効果的に活用し、少ない実験回数で最適条件を見出すことにつながります。
日々取得しているデータを使って、継続的な品質改善を行おう
SQC(統計的品質管理)は、現代のビジネス環境において欠かせない重要なツールです。データに基づいた意思決定と継続的な改善を可能にするSQCは、製品やサービスの品質向上、コスト削減、顧客満足度の向上に大きく貢献します。
本記事で紹介したさまざまな手法は、それぞれの状況に応じて適切に選択して活用することで、品質管理の効果の最大化に役立ちます。
重要なのは、日々記録しているデータを積極的に活用することです。多くの企業では、日常的にさまざまなデータを収集していますが、それらを十分に活用できていないケースも少なくありません。
▶ 製造業における「データ活用」とは何かを解説した記事は以下からご覧ください
製造業におけるデータ活用とは?メリットと具体的な進め方を紹介
製造ラインの測定値、検査結果、顧客フィードバックなど、あらゆるデータがSQCにおいて貴重な存在です。これらのデータを統計的に分析することで、潜在的な問題の早期発見や、プロセスの最適化につながる気づきを得ることにつながります。
さらに、デジタルツールを活用した記録の電子化を検討することもおすすめです。デジタル化により、データの転記や加工にかかる手間を大幅に削減できるだけでなく、リアルタイムでのデータ分析や、より高度な統計手法の適用も容易になります。クラウドベースの品質管理システムやIoTデバイスの活用など、テクノロジーの進歩を取り入れることで、SQCの効果をさらに高めることができるでしょう。
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