TQM(総合的品質管理)とは?TQCとの違いや原則、進め方をわかりやすく紹介

TQM(総合的品質管理)とは経営管理手法の一つで、顧客のニーズを満たす製品・サービスを提供するために行う全社的な品質改善の取り組みを指します。

 

製品はもちろん、サービスや仕事の質、経営の質も改善の対象となっており、経営層を含めた全部門がTQMを進めることで良質な製品・サービスを安定的に生み出し、顧客満足度を高められます。

 

しかしTQMは組織的な取り組みであり、さまざまな活動や手法もあるため正しく理解した上で導入しなければ期待通りの成果を得られない可能性があります。品質管理手法であるTQC(全社的品質管理)やQMS(品質管理システム)との違いに疑問を持つ方も多いと思われます。

 

そこで本記事では、TQMの概要や導入のメリット、原則、TQCやQMSの違い、TQMの具体的な進め方を解説します。

 

TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)とは

TQM(Total Quality Management:総合的品質管理/総合的品質マネジメント)とは、企業の経営やすべての工程(企画、設計、製造、検査、物流、販売)で、顧客が期待する品質を維持・向上するために必要な考え方や取り組みです。

 

TQMは、企業目標の達成に向けて全部門が品質改善に注力する「組織的アプローチ」完成した製品に限らず企画・製造などの過程を重視して改善を繰り返す「プロセス管理」勘や経験に頼らず科学的な手法を用いた客観的データから品質維持・向上を図る「科学的アプローチ」という3つの柱で成り立っています。

 

TQMの目的は、製品やサービスの継続的な品質維持・向上によって変化が激しい現代の顧客ニーズに対応することです。

 

TQMの考え方が導入される以前は、製品が問題なく使えるかどうかが重視されていました。しかし、次第にアフターサービスの質や企業イメージの高さなど、数値だけでは測れない品質が顧客から求められるようになりました。

 

このような複雑な顧客ニーズに対応するため、TQMは品質管理の考え方を製造工程だけでなく経営戦略にも組み込み、現場改善だけでは不十分な品質レベルを組織的に高めることを重視しています。

TQMとQMSの違い

QMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)とは、企業が顧客に提供する製品やサービスの品質を継続的に維持・向上するための仕組みです。

 

TQMとQMSは、どちらも品質管理に関する経営システムを指します。しかし、TQMは具体的なフレームワークや手法、原則があり、企業が活用しやすい体系になっているのに対し、QMSには既定の手法などは無い点が違いとして挙げられます。

 

ただし、関係する規格(ISO9001やJIS Q 9001、SQF)によって標準は定められていて、第三者監査制度が整備されている点はTQMには存在しないことです。

 

 

TQM

QMS

フレームワークや手法

あり(QCストーリー、QC7つ道具、QFD(品質機能展開)など)

なし

関連規格の第三者監査制度

なし

あり(ISO9001やJIS Q 9001、SQFの監査)

TQMとQMSの違い

TQMとTQCの違い

TQMとTQC(Total Quality Control:全社的品質管理)は、製造現場を含めたすべての部門に焦点を当てるか、製造現場のみに焦点を当てるかに違いがあります。

 

以前まで品質管理は、完成した製品を検査し、不適合品を取り除くことをメインとしていました。そこへ科学的なアプローチで製造現場で不適合品をなくそうとするTQCが発明され、その後、組織全体で不適合品を出さずに、顧客が期待する品質を維持し、提供するTQMに進化していきました。

TQM導入に対する3つのメリット

TQM導入のメリットは以下の3つです。製品・サービスや経営の品質向上が、利益増加や従業員の満足度向上をもたらします。

 

  • 継続的且つ総合的な品質改善による顧客満足の向上
  • コスト削減による利益増加
  • 従業員満足度の向上によって組織体制が良くなる

 

TQMを導入し、品質を維持・改善することで時代の変化に合わせた長期的な企業の成長が見込めます。

継続的且つ総合的な品質改善による顧客満足の向上

TQMは継続的かつ組織的な改善を実施するため、品質の維持・改善が常に行われて、顧客満足度の向上に寄与します。ある一部門だけの改善では製品・サービスへの影響が小さくても、企画や広報などを含む全部門が品質向上のために組織体制を変えることで、大きな成果に繋げられます。

 

また、TQMは継続的な活動であるため、日々移り変わる顧客ニーズへの対応が迅速になり、競合優位性を確立できる点もメリットです。組織全体が総合的な品質向上のために継続的な業務改善を行い、企業としての信頼を獲得することで顧客満足度も長期的に向上し続けます。

コスト削減による利益増加

TQMの取り組みは製品・サービスの品質向上だけでなく、各工程におけるムダの削減や業務効率化にも繋がります。原材料・部品・機械の精査、商品開発や品質管理を含む全工程の不要な作業の見直しによって人的・時間的なロスが減り、良質な製品・サービスの集中的な生産が可能です。

 

また、TQMは勘や経験に頼らず数値データや科学的根拠に基づく品質改善を重視しています。事実に基づいて不要な作業や経費を削減し、作業の標準化も進めることで不良品の発生を防げるため、結果的に利益増加を実現できます。

従業員満足度の向上によって組織体制が良くなる

TQMは、顧客に限らず従業員満足度の向上にも寄与します。組織的な取り組みや業務の見直し、事実に基づく意思決定、顧客重視など、関係者全員が公平に得をする仕組みを意識しながら改善を進めることで、従業員が働きやすい良好な職場環境の醸成につながるためです。そのためには基本的な原則を守り、継続的且つ組織的な活動を徹底しなければいけません。

TQMの主な原則

TQMを円滑に進め、企業目標を達成するためには品質管理におけるいくつかの原則を守る必要があります。以下で紹介する11個の原則を意識し、社内でTQMを進めましょう。

後工程はお客様

後工程はお客様とは、後工程の従業員もお客様同然に前工程の作業を丁寧に行い、受け渡しや記録などを配慮することです。

 

TQMでは全体での仕事の質を高めることも重視しているため、後工程の目線に立った考え方は職場環境を改善する上でなくてはならない原則です。

マーケットイン

マーケットインとは、顧客の要求や悩みを徹底的に理解した上で製品・サービスを提供する考え方です。具体的には、顧客ニーズを把握するためにアンケートや市場調査などを行います。

 

マーケットインを意識して顧客が求める価格や量、健康への影響など幅広い視点からニーズを捉えることで、TQMが目指す顧客満足度の向上に寄与します。

品質優先(品質第一)

品質優先(品質第一)とは、顧客が製品・サービスに求める要素のうち品質を最優先に考えることです。各工程の品質管理を徹底し、不適合品や低品質なサービスの提供を防ぎます。

 

TQMは顧客が期待する製品・サービスの提供を目指しているため、品質を最優先に考え、管理を徹底することで顧客満足度の向上や利益増加が見込めます。

顧客重視

顧客重視とは、顧客目線で製品・サービスを捉える考え方です。企業の要望のみを押し出さずに、顧客ニーズを正確に捉え、製品・サービスへ反映させることで実現できます。

 

TQMでは顧客が期待する品質を維持・向上しなければならないため、顧客目線に立つことで要求通り、もしくはそれ以上の品質を満たす製品・サービスの提供が可能になります。

全員参加

全員参加とは、全従業員がTQMの取り組みに参加することを指します。企業目標の周知や部門の壁を超えた情報共有などを積極的、且つ継続的に行うことで実現できます。

 

TQMは組織的アプローチを重視しているため、全員参加を徹底することで各従業員の品質改善に対する意識を高められます。結果的に仕事の質が向上し、製品・サービスの品質改善に大きな変化をもたらします。

プロセス重視

プロセス重視とは、成果を出すまでの過程に注目する考え方で、具体的には、業務マニュアルや作業手順書の作成作成で維持、改善を促します。

 

TQMは組織的な取り組みであるため、業務プロセスを可視化し、徹底管理することで各工程の属人化を防ぎ、企業の総合的な品質を高められます。結果的に良質な製品・サービスの提供に繋がるため、プロセス重視の考え方は重要です。

事実に基づく意思決定

事実に基づく意思決定とは、客観的なデータや事実に基づく判断を下すことです。品質や顧客満足度に関するデータを収集・分析し、その結果に応じて目標や計画を変更します。

 

TQMの目的は、変化が激しい顧客ニーズに応え続けることなので、事実に基づく意思決定をして、顧客が求めることを粛々と実現できれば、継続的な顧客満足度の向上に繋がります。

標準化

標準化とは、どの従業員も同じレベルで作業できるように各工程の業務を最適な方法に統一することです。業務マニュアルを作成したり、従業員に周知徹底することで標準化が可能です。

 

TQMの目的は顧客ニーズを満たし続けることです。そのため、従業員によるスキルの差をなくすことで顧客が求める安定した品質の製品・サービスの提供に繋げられます。

源流管理

源流管理とは、前工程(源流)に遡って不具合の原因を突き止めたり、未然に防いだりする品質管理手法です。源流管理で前工程の不具合を解消・予防すると後工程のムダな業務が減り、作業効率化に繋がります。

 

TQMでは、経営から販売までの全部門が絡む取り組みなので、一番上流になる戦略や、製品企画を決める設計、製品の品質を決める原材料などの管理などが非常に重要です。

PDCAサイクル

PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)という4つのプロセスを継続的に回し続け、マネジメントの品質を高める仕組みです。

 

TQMでは継続的な品質改善が求められるため、PDCAサイクルを実行することで常に顧客ニーズ(要求品質)を満たす製品・サービスを提供できます。

重点指向

重点指向とは品質改善の取り組みに優先順位をつけ、効果が大きなものに焦点を当てて施策を実行する考え方です。基本的には、問題の緊急度や影響度、重要度などの視点から改善活動の優先順位を決めます。

 

優先度の高い問題の解決に注力することで、結果的に他の部門や工程の質も改善されるため、重点指向は組織的なアプローチをする上で必要な原則です。

TQMで行われる主な活動

原則に沿ったTQMの取り組みを推進するためには、いくつかの活動を実施する必要があります。具体的には、プロセス保証や日常管理、方針管理、小集団改善活動(QCサークル)、品質管理教育などです。以下の表で、各活動の詳細をまとめました。

 

TQMの活動

詳細

プロセス保証

決められた手順・方法通りに各工程を実行することで要求される基準を満たす活動

部品・材料、経営資源、作業の手順に関する条件を規定する

日常管理

日常的に行っている業務について、安定した作業の実施や異常への対応を行う活動

作業内容の標準化や、PDCAサイクルの実行などがある

方針管理

日常管理だけでは難しい重要課題を組織的に解決する活動

顧客ニーズに対応するための目標を立て、取り組むべき課題を明らかにする

小集団改善活動

(QCサークル)

従業員による小集団を構成し、品質改善についての意見交流や実践を通して各従業員の能力向上や信頼関係の構築を図る活動

品質管理教育

品質管理に関する知識及び技能、価値観を身につける活動

非正規雇用の従業員や経営層など全従業員が対象になる

 

上記の活動を取り入れる際はTQMの原則を意識し、効率的かつ組織的に品質の維持・向上を目指しましょう。

TQMの手法

TQMの活動を進める上で使える手法には、QCストーリーやQC7つ道具、QC工程表、QFD(品質機能展開:Quality Function Deployment)、FMEA(故障モード影響解析:Failure Mode and Effects Analysis)などがあります。

 

TQMの手法を有効活用することで改善活動が円滑に進み、組織全体が総合的な品質向上を達成しやすくなります。TQMの手法について、以下の表で詳しい内容をまとめました。

 

TQMの手法

詳細

QCストーリー

品質管理における課題を解決するための手順や道筋を示したもの

ストーリーの型は「問題解決型」と「課題達成型(施策実行型)」

QC7つ道具

品質に関わる各種データを整理・分析するための手法

パレート図や特性要因図、ヒストグラム、散布図などがある

QC工程表

原材料の仕入れから製品出荷までの工程ごとに、管理項目や管理方法を漏れなく記載し、プロセス全体の品質管理を可視化できるもの

QFD

(品質機能展開)

顧客が求める品質を製品・サービスに反映させるための手法

主に新製品や新サービスの開発時に使われる

FMEA

(故障モード影響解析)

製品や製造工程のトラブルや故障を予測し、未然防止を図る手法

 

TQMの活動を助けるツールとして上記の手法を活用すると、品質改善に関する仕事の質を高められるほか、従業員の負担も軽減できます。

TQMの進め方「課題達成型QCストーリー」の場合

TQMにはさまざまな手法が用いられますが、正しく使わなければ高い効果が期待できません。そこで、品質管理における現状と理想との差を埋めるための「課題達成型QCストーリー」を例に、具体的な実施方法を説明します。

 

課題達成型QCストーリーとは、企業が今後直面する課題への対策を講じることで理想の姿を実現する手法です。課題達成型QCストーリーにおける目標達成の手順や企業がやるべきことは、以下の通りです。

 

実施手順

企業がやるべきこと

1.テーマの設定

顕在的・潜在的な課題を洗い出し、長期的な視野でテーマを設定

2.攻め所と目標の設定

数値目標を設定し、アプローチをかける攻め所を検討

3.方策の立案

攻め所に焦点を当て、目標達成ができる方策をできるだけ限り出す

4.成功シナリオの追求

複数案の中から実行する方策の優先順位を決定し、少ないリスクで高い成果が見込める成功シナリオを策定

5.成功シナリオの実施

成功シナリオに基づく方策を実行し、不具合が生じた場合は品質記録や作業日報に細かく記録

6.効果の確認

数値データを使い、理想とする姿に近づけているかを客観的に評価

7.標準化と管理の定着

期待通りの効果を得られた方策は、業務マニュアルや作業手順書に落とし込み、従業員に定着させる

8.振り返りと反省

一連の活動を振り返り、効果があった点や改善点を洗い出し、従業員から出た意見を次回の活動に反映させ、継続的な改善を繰り返す

課題達成型QCストーリーの具体的な進め方

 

QCストーリーを繰り返し実践することで継続的な品質向上が可能になり、顧客満足度向上に繋がる製品・サービスを提供できます。

TQMを進めて、顧客も従業員も満足する品質管理体制を構築しよう

TQMは、全部門・全従業員による品質改善の取り組みです。製品・サービスの品質に限らず、仕事や経営の質も高めることで変化が激しい現代の顧客ニーズにも対応できます。

 

TQMによる品質改善を円滑に進めるためには、小集団改善活動や品質管理教育などの活動、QCストーリーやQC7つ道具などの手法を活用して継続的・組織的な取り組みを徹底しなければなりません。TQMの原則に沿った活動を進めることで、従業員一人ひとりの意識が高まり良質な製品・サービスの提供による顧客満足度向上を実現できます。

 

本記事を参考にTQMを推進し、顧客も従業員も満足する品質管理体制を構築しましょう。

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