品質管理におけるDX化とは?課題や推進方法、具体的な活用例を紹介

 

品質管理は、顧客満足度と企業の信頼性を左右する重要な要素です。品質管理がきちんとできていないと消費者の健康被害や事故につながるだけでなく、企業にとっても賠償金や回収費用などの金銭的損失、ブランドイメージの低下といった深刻な影響をもたらします。そのため、品質管理の徹底は企業の持続的成長に不可欠です。

 

しかし、従来の品質管理手法では、急速に変化する市場ニーズや複雑化する製品に対応することが難しくなっています。そこで注目を集めているのが品質管理DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)です。

 

品質管理DXとは、AIやIoT、ビッグデータ分析などの最新テクノロジーを活用して、品質管理プロセスを抜本的に変革し、効率化・高度化を図る取り組みを指します。品質管理DXを進めることで、リアルタイムでの品質モニタリングや不良検出の予測、データに基づく意思決定が可能となり、製品品質の向上と生産性の飛躍的な改善を実現できます。

 

本記事では、品質管理DXの概要や必要性を解説するとともに、具体的な導入事例をもとにDX化の動向を紹介します。製造業の品質管理部門の責任者やDX推進担当者の皆様に、自社の品質管理DXを成功に導くための実践的な知見をお届けします。

品質管理におけるDXとは?

品質管理DXとは、AIやIoT、ビッグデータ分析などの最新テクノロジーを活用して、品質管理プロセスを抜本的に変革し、効率化・高度化を図る取り組みを指します。

 

品質管理業務とは、製造業において製品の品質を確保・向上させるための重要な活動です。主な業務には以下が含まれます。

  • 製品の規格適合性確認
  • 製造プロセスの監視と最適化
  • 不良品の原因特定と改善策立案
  • サプライヤーから納入される原材料の品質確保
  • 不具合のある製品の解消

 

DXは単なるデジタル化や効率化ではなく、ビジネスモデルそのものを変革する取り組みです。以下の表は、デジタイゼーションとデジタライゼーション、DX(デジタルトランスフォーメーション)の言葉の意味と具体例をまとめたものです。

 

用語

意味

具体例

デジタイゼーション

アナログ情報のデジタル化

・紙の検査記録をExcelに入力

・手書きの図面をCADデータ化

デジタライゼーション

デジタル技術による業務効率化

・タブレットでリアルタイム品質チェック

・IoTセンサーによる設備稼働監視

DX(デジタルトランスフォーメーション)

デジタル技術による事業変革

・AI画像解析による自動品質判定システム

・予知保全と連動した製品ライフサイクル管理

デジタイゼーションとデジタライゼーション、DX(デジタルトランスフォーメーション)の言葉の意味と具体例をまとめたもの

 

 

品質管理のDX化を進めることで、人の目で行っていた品質チェックをIoTセンサーやAIによる24時間自動監視、ビッグデータ分析による不良の予測や未然防止などが可能になります。

品質管理をDX化する必要性・重要性

品質管理のDX化は、製造業が直面する課題を解決し、競争力を維持・向上させるために不可欠です。その必要性と重要性を、以下の3つの観点から説明します。

 

  1. 人手不足の解消や属人化したスキルの継承
  2. 消費者や取引先からの信頼を得る・従業員を守る
  3. データの蓄積・分析・活用での売上増加

1.人手不足の解消や属人化したスキルの継承

製造業や物流、サービス業などさまざまな産業で人手不足が深刻化しています。帝国データバンクの調査によると、宿泊業の75.5%、機械製造業の64.1%、運輸・倉庫業の63.1%の企業が人手不足を感じているという調査結果が公表されています(2023年4月時点)。特に食品製造や機械製造業などでは、技術者不足が品質管理に大きな影響を与えています。

 

人手不足の主な要因には少子高齢化や2025年問題はもちろん、求職者と企業のニーズのミスマッチも課題となっています。多くの企業が採用活動に力を入れて待遇改善を図っていますが、思うような成果を上げられていないのが現状です。

 

現場では、専門的なスキルを持つ人材が限られ、そのノウハウを継承する若手も不足しています。このままでは、長年培われてきた品質管理の知識やテクニックが失われかねません。

 

そのため品質管理業務のDX化を進め、既存従業員の貴重な労働力を本来使うべきことに向けるのが重要になってきます。

 

例えば、紙の帳票を使っていると発生する転記作業や記入の抜け漏れなどの対応なども、データ化をすれば、ミスの防止と効率化に繋がります。

 

効率化によって捻出された時間で、若手従業員の教育や業務改善を行うことで、そもそもの課題である労働力不足も補える体制構築が可能になります。

 

また、デジタル技術を用いてベテラン社員のスキルを可視化し、効率的に継承することもできます。

2.消費者や取引先からの信頼を得る・従業員を守る

品質管理のDX化は、単に企業内の人手不足やスキル継承の問題を解決するだけでなく、より広範な価値を生み出します。その中でも、消費者や取引先からの信頼獲得と従業員の保護が挙げられます。

 

DX化の過程で進める記録のデジタル化や工程の自動化は、人為的なミスを大幅に減少させ、正確かつ詳細なデータの蓄積を可能にします。そのため、製造工程や品質管理業務の透明性が飛躍的に向上し、取引先や消費者に対して自社の品質管理が確実に行われていることを客観的なデータを基に示せます。

 

さらに、正確なデータの存在は、万が一問題が発生した際にも大きな意味を持ちます。人為的なミスを理由に個人が責められるリスクが低減し、システムや工程の改善に焦点を当てた建設的な対応が可能になります。これは従業員を不当な非難から守り、安心して働ける環境を作ることにつながります。

 

つまり、品質管理DXは単なる業務効率化ではなく、企業の信頼性向上と従業員保護を両立させる戦略的な取り組みと言えます。

3.データの蓄積・分析・活用での売上増加

品質管理のDX化は、データの活用方法を根本から変革し、企業の売上増加に直結する可能性を秘めています。従来の品質管理では、紙の帳票への記録や手作業での転記が多くの時間を占めていましたが、DX化によってこれらの作業が自動化されます。

 

記録の自動化によりデータの蓄積が容易になるだけでなく、高度な分析ツールを用いた深度ある分析が可能となります。これにより、品質管理担当者は単純作業から解放され、データを精査して製品を改善するための時間を確保できるようになります。

 

さらに豊富なデータと分析結果を製品改善や新製品開発に活用できることも魅力的な側面の一つです。例えば、製造プロセスの微細な変動と製品品質の関係性や市場での評価データなど、これまで見過ごされていた情報から新たな気づきが得られると期待されます。

 

このように、品質管理のDX化は潜在的な顧客ニーズや市場トレンドの把握につながり、製品のイノベーションを加速させます。結果として、顧客満足度の向上や市場シェアの拡大、売上の増加を実現できます。

品質管理におけるDX化の具体例

品質管理のDX化は、企業に多くのメリットをもたらします。人手不足の解消やスキル継承の円滑化、消費者や取引先からの信頼獲得、従業員保護、そしてデータ活用による売上増加など、その恩恵は多岐にわたります。これらの利点を踏まえると、品質管理DXの推進は現代の製造業にとって不可欠な戦略といえるでしょう。

 

ここからは、DXを導入している企業で実践されている品質管理DXの具体例を紹介します。

 

  • AI技術を使って、規格外判定や製品の個数をカウント
  • Iot活用による記録業務の自動化・正確性の向上
  • ビッグデータを組み合わせ、顧客ニーズを生かした製造

 

各事例を参考に自社の品質管理DXの方向性を検討に役立ててください。

AI技術を使って、規格外判定や製品の個数をカウント

AI技術の発展により、品質管理における規格外判定や製品数の計測が革新的に変化しています。今まで規格外判定や製品数の計測は、人間の目視に頼っていましたが、AIによる画像認識技術を導入することで、より高速で正確に判定が可能です。

 

規格外判定におけるAI活用の例として、製造ラインでの外観検査があります。例えば、食品業界では包装の不良や異物混入、機械部品業界では表面傷や変形などを高速カメラとAI画像解析を組み合わせて検出します。このシステムは人間の目では見落としがちな微細な欠陥も見逃さず、24時間365日稼働可能です。さらに、AIは学習を重ねるごとに精度が向上し、新たな不良パターンにも柔軟に対応できるようになります。

 

製品数のカウントにおいても、AI技術は大きな威力を発揮します。例えば、「CountAI」を使えば、スマートフォンやタブレットのカメラを使ってわずか数秒で大量の製品を数えることができます。この技術は、製造業での在庫管理や出荷時の検品作業で活用されています。従来の目視での確認と比べ、作業時間は大幅に減り、人為的ミスも大減少させられます。

 

AI技術の導入により、品質管理業務の効率と精度が飛躍的に向上し、人的リソースをより創造的な業務に振り向けることが可能になります。同時に、データの蓄積と分析により、品質トレンドの把握や予測的品質管理への発展も期待できます。

Iot活用による記録業務の自動化・正確性の向上

IoT(Internet of Things)とは、さまざまなモノがインターネットに接続され、相互にデータをやり取りする技術のことを指します。品質管理においてIoTを活用することで、これまで人手に頼っていた記録業務を自動化し、データの正確性と信頼性を大幅に向上させられます。

 

IoTの具体的な活用例として、まず挙げられるのが温度管理です。食品製造業や製薬業界では、冷蔵庫や冷凍庫の温度管理が品質保証の要となります。IoTセンサーを使用することで設備の温度を24時間365日、自動的に測定・記録することが可能になり、異常を検知した場合は即座にアラートを発信して迅速な対応を可能にします。

 

Iot活用の例としては、以下のようなものもあります。

  • センサーを通じて機器の稼働時間、振動、電力消費量などを常時監視し、異常の早期発見や予防保全
  • IoTタグを使用して原材料の入出庫を自動記録し、リアルタイムでの在庫状況把握と適切な発注タイミングの決定
  • 湿度、粉塵量、照度などの環境要因を継続的に測定・記録し、製品品質に影響を与える可能性のある変動を検知

 

IoT活用により、人為的ミスの排除、リアルタイムでのデータ把握、長期的なトレンド分析が可能になります。また、品質管理担当者は定型的な記録業務から解放され、データ分析や品質改善策の立案などより付加価値の高い業務に注力できるようになります。

ビッグデータを組み合わせ、顧客ニーズを生かした製造

ビッグデータとは、従来のデータベース管理ツールでは処理が困難な大量かつ複雑なデータセットを指します。これらのデータは、量(Volume)、速度(Velocity)、多様性(Variety)という「3V」の特性を持ち、適切に分析することでビジネスに有益な改善をもたらします。

 

食品や機械製造業におけるビッグデータの例としては、以下のようなものがあります。

  • 製造工程の設備の状態、稼働率データ
  • 製品検査や性能テストの結果データ
  • 顧客の声(苦情、要望、評価など)
  • サプライチェーン全体の物流データ
  • 市場動向や競合製品の情報
  • 気象データ(特に食品製造業において重要)
  • ソーシャルメディアでの製品に関する言及

 

ビッグデータを活用することで、製造業ではさまざまな取り組みが可能になります。例えば、各工程でのデータを分析して歩留まり率を低下させている要因を特定し、製造工程の見直しや効率の良い工程への変更を実施したり、設備の稼働データを分析して故障の予兆を事前に検知し、計画的なメンテナンスでダウンタイムを最小化したりできます。

 

製造工程の改善だけでなく、顧客のニーズや需要に対応することも可能です。顧客の好みや使用パターンのデータを分析し、個々のニーズに合わせた製品の生産や、市場動向、過去の販売データ、気象情報などを組み合わせて分析し、より正確な需要予測を行い過剰在庫や機会損失を削減するなどがあります。

 

ビッグデータの活用は、製造業に革命的な変化をもたらし、顧客ニーズにより密接に対応した製品づくりを可能にします。同時に、製造プロセスの効率化やコスト削減にも大きく貢献し、企業の競争力向上に直結する重要な戦略となっています。

品質管理のDX化の第一歩は「デジタイゼーション」から

品質管理業務のDX化は、現代の製造業が直面する多くの課題に対する有効な解決策となります。人手不足の解消、スキルの継承、取引先や顧客からの信頼獲得など、多方面にわたる利点があります。さらに、データの蓄積・分析・活用により、製品改良や新製品開発が加速され、結果として売上増加にも大きく貢献します。

 

しかし、DX化を一気に進めようとすると、現場の従業員がついていけなかったり、膨大な初期投資が必要になったりするなど、さまざまな障壁に直面する可能性があります。急激な変化は組織に混乱をもたらし、期待した効果を得られないリスクもあります。

 

そのため品質管理のDX化を進める際は、まず「デジタイゼーション」から着手することをおすすめします。具体的には、紙の帳票や手書きの記録をデータ化したり、特定の業務プロセスにデジタルツールを導入したりすることから始めましょう。

 

デジタイゼーションの成功体験を積み重ねることで、組織全体のDXに対する理解と準備が整っていきます。その後、デジタライゼーション(業務プロセス全体のデジタル化)を経て、最終的に事業モデル自体を変革するDXへと発展させていくことが、持続可能で効果的な品質管理DXの道筋といえるでしょう。

 

 

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