事後保全とは?予防保全との違いやメリット・デメリット、改善活動の具体例を紹介

製造業の設備管理において、事後保全は避けて通れません。事後保全の場合、故障したら直せば良いという単純な考え方に聞こえるかもしれませんが、戦略的に活用すれば大きなメリットを得られる手法でもあります。

 

事後保全には、機能停止型故障と機能低下型故障という2つの対応パターンがあり、それぞれ実施する目的や対応の方法が異なります。また事後保全と対象的な対応方法に予防保全があり、事後保全が故障が発生してから対応するのに対し、予防保全は故障が発生する前に予防的に対応する違いがあります。リスクの高い事後保全から脱却する方法としては、日常点検記録の活用から始まり、4種類の予防保全手法の導入、そしてIoTを活用した予兆保全の実現まで、段階的な改善が重要になってきます。

 

本記事では、事後保全の概要と機能停止型故障と機能低下型故障という2つの対応パターン、予防保全との違いと、限られたリソースの中で最適な設備管理体制を実現するための方法を紹介します。ベテラン保全員の経験と最新のデジタル技術をどう融合させるかという観点からも掘り下げて解説するので、最後までご覧ください。

事後保全とは

事後保全(Breakdown Maintenance)とは、設備や機械の故障や生産力の低下、不良品の製造などが起こった際に対処する保全方法です。故障が発生してから修理を行うというシンプルな考え方に基づいており、設備管理における最も基本的なアプローチの一つといえます。

 

事後保全の目的は、故障や不具合が発生した設備を可能な限り迅速に修復し、生産活動への影響を最小限に抑えることです。また修理や部品交換のタイミングを故障発生時まで延ばすことで、保全コストの最適化を図れます。

 

事後保全は、主に機能停止型故障への対応と機能低下型故障への対応の2つのタイプに分けられます。機能停止型は設備が完全に停止するような重大な故障に対応するもので、緊急性が高く即座の対応が求められます。

 

一方、機能低下型は生産性や品質の低下につながる故障に対応するもので、計画的な修理のタイミングを検討することが可能です。

機能停止型故障への対応

機能停止型故障への対応とは、設備や機械が完全に停止してしまった際に行う緊急的な保全活動です。緊急保全(Urgent Maintenance)とも呼ばれ、製造ラインの突然の停止による生産への影響を最小限に抑えるために、迅速な対応が求められます。

 

機能停止型故障は、いち早く設備や機械の停止原因を突き止め、問題のない状態で再稼働できるようにするのが目的です。このような状況では、保全チームの即応力と技術力が試されることになります。特にベテラン保全員の経験に基づく勘所が、故障原因の特定と修復時間の短縮に大きく貢献しています。

 

ただし、設備が止まっている間は、機会損失が発生し続けることを忘れてはいけません。本来であれば日々の点検や保全活動で、このような事態を未然に防止することが望ましいといえます。

 

しかし、現実には予期せぬトラブルは必ず発生するものです。そのため緊急時の対応手順を明確化し、必要な予備品を適切に在庫しておくなど、起きてしまった故障に対する備えも重要になってきます。

機能低下型故障への対応

機能低下型故障への対応とは、設備の性能が徐々に低下している状態や、不良品の発生率が上昇している状況に対しておこなう保全活動です。完全な機能停止には至っていないため、ある程度計画的な対応が可能な特徴があります。

 

この対応の目的は、設備の劣化や性能低下が重大な故障に発展する前に適切なタイミングで修理や調整を行い、生産性と品質の維持を図ることです。また計画的な対応が可能なため、部品の調達や作業員の配置を効率的におこなえます。

 

対処法としては、まず設備の状態を正確に把握することが重要です。具体的には以下のような段階的なアプローチを取ります。

 

  1. 生産性指標や品質データを継続的にモニタリングし、性能低下の傾向を把握する
  2. 複数の機能低下が発生している場合、生産への影響度や修理の緊急性を考慮して対応の優先順位を決定する
  3. 生産計画に与える影響を最小限に抑えるよう、計画的に修理のタイミングを設定する

 

近年では、IoTセンサーやデータ分析ツールを活用することで、より精度の高い状態監視が可能になっています。これにより、従来の経験則だけでなく、客観的なデータに基づいた意思決定が可能になりました。

事後保全と予防保全の違い

事後保全と予防保全は、保全をおこなうタイミングが違います。事後保全が故障が発生してから対応するのに対し、予防保全は故障が発生する前に予防的に対応するというアプローチを取ります。

 

予防保全は、設備や機械が故障する前に、定期的なメンテナンスや日常点検などでトラブルを未然に防ぐことを重視します。設備の状態を常に最適に保つことで、突発的な故障による生産停止のリスクを最小限に抑えられます。

 

そのため、同じ設備保全であっても、両者の目的は大きく異なります。事後保全が故障した設備の早期復旧を目指すのに対し、予防保全は故障の未然防止による安定生産の実現を目指します。以下の表で、事後保全と予防保全の主な違いをまとめました。

 

項目

事後保全

予防保全

保全のタイミング

故障発生後

故障発生前

目的

・故障設備の早期復旧

・生産への影響最小化

・故障の未然防止

・設備の安定稼働維持

具体的に行うこと

・緊急修理対応

・故障原因の特定

・部品交換

・動作確認

・定期点検

・消耗品の計画的交換

・設備の清掃、給油

・測定、診断

事後保全と予防保全の違い

 

ただし、これは二者択一の関係ではなく、多くの工場では設備の重要度や特性に応じて、両方のアプローチを使い分けている実態があります。

 

事後保全のメリットとデメリット

事後保全は一見すると後手の対応と思われがちですが、戦略的に活用することで大きな効果を発揮する可能性を秘めています。

 

最大のメリットは、設備保全担当者のリソースを最小限に抑えられることです。故障が発生するまで対応が不要なため、限られた人員で広範囲の設備管理が可能になります。特に故障の影響が小さい設備や予備機のある設備では、この手法が有効です。

 

一方で、デメリットは故障の度合いによってダウンタイムに大きな差が出ることです。軽微な故障であれば短時間で復旧できますが、重大な故障の場合は長期の生産停止を余儀なくされる可能性があります。

 

以下では、これらのメリットとデメリットについて、実務的な観点から詳しく解説します。

【メリット】設備保全担当者のリソースが最小限で済む

事後保全の最大のメリットは、数少ない設備保全担当者のリソースを最小限に抑えられることです。多くの製造業が保全要員の確保に苦心する中、この特徴は人員配置の効率化という観点で大きな意味を持ちます。

 

事後保全は、設備や機械が故障したときのみの対応となるため、必要なタイミングでのみ対応すれば良いという特徴があります。これにより、保全要員を常時待機させる必要がなく、他の業務との兼務や、複数の工場での保全業務の掛け持ちなども可能になります。特に故障頻度の低い設備や、故障が発生しても生産への影響が限定的な設備においては、この手法が非常に効果的です。

 

しかし、この効率性には注意点もあります。故障のタイミングは予測できないため、設備保全担当者が不在の時に故障が発生してしまうと、対応が遅れてダウンタイムが長引く可能性があります。

【デメリット】故障の度合いによってダウンタイムに差が出る

突然の故障に対応する事後保全では、あらかじめ影響度の把握が難しくなります。内部の設備保全担当のみで修理や修繕可能な軽微な故障もあれば、専門の業者に対応してもらわないと直らない重大な故障まで、その範囲は多岐にわたります。

 

故障した設備や機械が稼働しなければ生産が止まってしまう場合、深刻な機会損失が発生します。特に以下のような状況では、そのリスクがさらに高まります

 

  • 海外製の設備で部品の入手に数週間必要なケース
  • 一つの設備の故障が他の設備にも影響を及ぼすケース
  • 熟練保全員の不在時の故障

 

これらのリスクを軽減するためには、重要設備の予備品の確保や代替生産ラインの確保や保全作業の標準化とマニュアル整備、トラブルシューティングのデータベース化などの対策が効果的です。

 

事後保全のデメリットを認識した上で、適切なリスク対策を講じることが大切になります。特に設備の重要度に応じた対応方針の明確化が、ダウンタイムの最小化につながります。

リスクの高い事後保全から脱却する方法

事後保全には確かにメリットがありますが、重要な設備に対して故障してから対応するという姿勢は、ビジネスにとって大きなリスクとなります。限られたリソースの中で、どのように保全体制を進化させていけばよいか、その答えは段階的な改善にあります。

 

まずは日常点検や事後保全の内容を確実に記録として残し、そのデータを活用して予防保全への移行を進めます。さらに、IoT技術を導入することで異常の自動検知を実現し、より高度な予兆保全へと発展させることが可能です。

 

以下では、3つのステップに沿って具体的な実施方法と各段階で得られる効果を詳しく解説します。

 

  1. 日常点検や事後保全の内容を確実に記録へ残す
  2. 予防保全を進める
  3. IoTを用いて異常の自動検知し、予兆保全の実施

1.日常点検や事後保全の内容を確実に記録へ残す

日常点検や事後保全の記録を確実に残すことは、設備や機械の状態を可視化する第一歩です。いつ、どんな故障が発生し、どのように対応したかという情報を蓄積することで、故障の傾向分析や効果的な予防措置の検討が可能になります。

 

これまでは特定の担当者のみが把握していた情報を、現場のメンバーも設備保全担当者も共有できる形に整理することが重要です。例えば、以下のような情報を記録することで、属人化していた知識を組織の財産として活用できるようになります。

 

  • 故障の発生日時と発見状況
  • 故障の具体的な症状と影響範囲
  • 実施した対応措置と結果
  • 使用した部品や工具の情報
  • 修理にかかった時間と人員
  • 今後の予防策に関する提案

 

記録の方法は、記録紙やエクセル、設備保全システムなど、現場の実情に合わせて選択できます。重要なのは、現場で正確な記録が残せる仕組みを構築することです。特に以下の点に注意を払うと、より効果的な記録管理が可能になります。

 

  • 記録フォーマットの標準化
  • 写真や図面の活用
  • デジタルツールの効果的活用

 

必要な情報の漏れを防ぎ、記入者による表現のばらつきを抑えるためには記録フォーマットの標準化が必要になります。その上で、写真や図面を活用して故障状況をビジュアルで残したり、修理手順を視覚的に伝えたりすることも効果的です。

 

またバーコードやQRコードによる設備識別やタブレット端末での現場入力、クラウドを活用したリアルタイム情報共有などのデジタルツール活用も取り入れていきましょう。

 

このように確実な記録管理を通じて、次のステップである予防保全や予兆保全への移行に必要な基礎データを築いていくことが大切です。

 

2.予防保全を進める

予防保全は、計画的なアプローチで設備の健全性を維持する手法です。主に以下の4つの方法(時間基準保全と状態基準保全、故障リスク基準保全、信頼性中心保全)があります。

 

予防保全の種類

概要

特徴

時間基準保全

(Timed Based Maintenance:TBM)

定期的な時間間隔で実施する保全

・稼働時間や経過日数に基づく点検

・計画が立てやすい

・部品の寿命を考慮した管理が可能

状態基準保全

(Condition Based Maintenance:CBM)

設備の状態を監視し、異常の兆候に基づいて実施する保全

・振動、温度、音などの状態監視

・必要なタイミングでの保全実施

・ムダな部品交換の削減

故障リスク基準保全

(Risk Based Maintenance:RBM)

故障が及ぼす影響度とリスクに基づいて実施する保全

・重要度に応じた保全計画

・コストとリスクのバランス重視

・経営的視点での優先順位付け

信頼性中心保全

(Reliability Centered Maintenance:RCM)

設備の機能と信頼性に注目した体系的な保全

・故障モードの分析

・予防保全の最適化

・システム全体での信頼性向上

4つの予防保全の詳細と特徴

 

設備や機械の使用頻度、稼働年数、部品特性などによって、これらの手法を適切に組み合わせることが重要です。例えば、重要な基幹設備には状態基準保全(CBM)と故障リスク基準保全(RBM)を併用し、補助的な設備にはTBMを適用するといった使い分けが効果的です。

 

ただし、いきなり全ての手法を導入するのは現実的ではありません。以下のような段階的なアプローチがおすすめです。

 

  1. 基本的な時間基準保全(TBM)の導入
  2. 状態監視(CBM)の段階的実装
  3. リスク評価(RBM)の導入

 

まずは基本的な時間基準保全(TBM)の導入として、設備保全システムを活用した定期点検スケジュールの管理やチェックシートによる標準化された点検手順の確立、モバイル端末での点検記録入力の導入などを進めていきましょう。

 

次に取り組むことは状態監視(CBM)の段階的実装です。具体的には、重要設備への振動センサーの設置や定期的な熱画像診断の実施、オイル分析による設備状態の把握などが挙げられます。

 

TBMやCBMが徐々に浸透してきたら、リスク評価(RBM)を取り入れてみましょう。設備重要度評価表の作成や故障影響度分析の実施、保全優先順位の設定を行い、設備のリスクを評価して効率的な保全を進めていくのがおすすめです。

 

これらの施策を、予算と人員の制約を考慮しながら、着実に実施していくことが成功への鍵となります。

3.IoTを用いて異常の自動検知し、予兆保全の実施

予兆保全とは、IoTセンサーや各種データを活用して設備の異常を事前に検知し、故障が発生する前に最適なタイミングで保全を行う先進的な手法です。従来の予防保全よりもさらに一歩進んだアプローチといえます。

 

IoT技術を活用した予兆保全では、さまざまな革新的な取り組みが可能になります。まず、振動・温度・音・電流値などの常時計測によるリアルタイムモニタリングが実現します。センサーデータは自動的に収集・分析され、異常値が検知されると即座にアラートが通知されます。

 

さらに、AIによる異常パターンの学習や設備の劣化傾向の可視化、故障確率の統計的予測といったデータ分析も可能です。またモバイル端末での遠隔監視やデジタルツインによる設備状態シミュレーション、AR(拡張現実)を活用した保全作業支援など、スマートな保全活動を実現できます。

 

これらの予兆保全に関する取り組みにより、ダウンタイムの大幅削減や保全コストの最適化、保全作業の効率化、設備寿命の延長、品質の安定化といった具体的な効果が期待できます。

 

ただし、IoT導入には慎重な計画が必要です。重要設備から優先的に実施し、投資対効果を検証しながら、現場オペレーターの理解と協力を得ることが重要です。またデータを効果的に活用するための体制づくりも欠かせません。分析担当者の育成や判断基準の明確化、データセキュリティの確保などが必要となります。

 

予兆保全の導入は、デジタル化による設備管理の高度化への重要なステップとなります。ただし、これはあくまでも従来の保全活動を補完・強化するものであり、完全な代替となるわけではないことを忘れてはいけません。人の経験と技術、そしてデジタル技術を融合させることで、より効果的な設備管理が実現できます。

事後保全も行いつつ、将来を見据えて、リスクの少ない保全へ

製造業における設備保全は、コストと効果のバランスを取りながら、最適な手法を選択していく必要があります。本記事で解説したように、事後保全にはリソースの最小化というメリットがある一方で、予期せぬダウンタイムというリスクもあります。

 

現実的なアプローチとしては、すべての設備を一律に予防保全や予兆保全に切り替えるのではなく設備の重要度や特性に応じて適切な保全方式を選択することが重要です。特に生産への影響が限定的な設備については、引き続き事後保全を採用することも合理的な選択といえるでしょう。

 

ただし、より安定した生産体制の実現に向けては、段階的な改善が不可欠です。まずは日常点検や事後保全の内容を確実に記録として残し、そのデータを活用して予防保全への移行を検討します。そして、IoT技術の導入により予兆保全へと発展させていくという道筋が、多くの製造業にとって現実的な選択肢といえます。

 

重要なのは、これらの取り組みを焦らず着実に進めることです。現場の実情に合わせて優先順位をつけ、一つずつ成功体験を積み重ねていくことで、より強靭な設備管理体制を構築していきましょう。

 

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