リスクの高い事後保全から脱却する方法
事後保全には確かにメリットがありますが、重要な設備に対して故障してから対応するという姿勢は、ビジネスにとって大きなリスクとなります。限られたリソースの中で、どのように保全体制を進化させていけばよいか、その答えは段階的な改善にあります。
まずは日常点検や事後保全の内容を確実に記録として残し、そのデータを活用して予防保全への移行を進めます。さらに、IoT技術を導入することで異常の自動検知を実現し、より高度な予兆保全へと発展させることが可能です。
以下では、3つのステップに沿って具体的な実施方法と各段階で得られる効果を詳しく解説します。
- 日常点検や事後保全の内容を確実に記録へ残す
- 予防保全を進める
- IoTを用いて異常の自動検知し、予兆保全の実施
1.日常点検や事後保全の内容を確実に記録へ残す
日常点検や事後保全の記録を確実に残すことは、設備や機械の状態を可視化する第一歩です。いつ、どんな故障が発生し、どのように対応したかという情報を蓄積することで、故障の傾向分析や効果的な予防措置の検討が可能になります。
これまでは特定の担当者のみが把握していた情報を、現場のメンバーも設備保全担当者も共有できる形に整理することが重要です。例えば、以下のような情報を記録することで、属人化していた知識を組織の財産として活用できるようになります。
- 故障の発生日時と発見状況
- 故障の具体的な症状と影響範囲
- 実施した対応措置と結果
- 使用した部品や工具の情報
- 修理にかかった時間と人員
- 今後の予防策に関する提案
記録の方法は、記録紙やエクセル、設備保全システムなど、現場の実情に合わせて選択できます。重要なのは、現場で正確な記録が残せる仕組みを構築することです。特に以下の点に注意を払うと、より効果的な記録管理が可能になります。
- 記録フォーマットの標準化
- 写真や図面の活用
- デジタルツールの効果的活用
必要な情報の漏れを防ぎ、記入者による表現のばらつきを抑えるためには記録フォーマットの標準化が必要になります。その上で、写真や図面を活用して故障状況をビジュアルで残したり、修理手順を視覚的に伝えたりすることも効果的です。
またバーコードやQRコードによる設備識別やタブレット端末での現場入力、クラウドを活用したリアルタイム情報共有などのデジタルツール活用も取り入れていきましょう。
このように確実な記録管理を通じて、次のステップである予防保全や予兆保全への移行に必要な基礎データを築いていくことが大切です。
2.予防保全を進める
予防保全は、計画的なアプローチで設備の健全性を維持する手法です。主に以下の4つの方法(時間基準保全と状態基準保全、故障リスク基準保全、信頼性中心保全)があります。
予防保全の種類 |
概要 |
特徴 |
時間基準保全 (Timed Based Maintenance:TBM) |
定期的な時間間隔で実施する保全 |
・稼働時間や経過日数に基づく点検 ・計画が立てやすい ・部品の寿命を考慮した管理が可能 |
状態基準保全 (Condition Based Maintenance:CBM) |
設備の状態を監視し、異常の兆候に基づいて実施する保全 |
・振動、温度、音などの状態監視 ・必要なタイミングでの保全実施 ・ムダな部品交換の削減 |
故障リスク基準保全 (Risk Based Maintenance:RBM) |
故障が及ぼす影響度とリスクに基づいて実施する保全 |
・重要度に応じた保全計画 ・コストとリスクのバランス重視 ・経営的視点での優先順位付け |
信頼性中心保全 (Reliability Centered Maintenance:RCM) |
設備の機能と信頼性に注目した体系的な保全 |
・故障モードの分析 ・予防保全の最適化 ・システム全体での信頼性向上 |
4つの予防保全の詳細と特徴
設備や機械の使用頻度、稼働年数、部品特性などによって、これらの手法を適切に組み合わせることが重要です。例えば、重要な基幹設備には状態基準保全(CBM)と故障リスク基準保全(RBM)を併用し、補助的な設備にはTBMを適用するといった使い分けが効果的です。
ただし、いきなり全ての手法を導入するのは現実的ではありません。以下のような段階的なアプローチがおすすめです。
- 基本的な時間基準保全(TBM)の導入
- 状態監視(CBM)の段階的実装
- リスク評価(RBM)の導入
まずは基本的な時間基準保全(TBM)の導入として、設備保全システムを活用した定期点検スケジュールの管理やチェックシートによる標準化された点検手順の確立、モバイル端末での点検記録入力の導入などを進めていきましょう。
次に取り組むことは状態監視(CBM)の段階的実装です。具体的には、重要設備への振動センサーの設置や定期的な熱画像診断の実施、オイル分析による設備状態の把握などが挙げられます。
TBMやCBMが徐々に浸透してきたら、リスク評価(RBM)を取り入れてみましょう。設備重要度評価表の作成や故障影響度分析の実施、保全優先順位の設定を行い、設備のリスクを評価して効率的な保全を進めていくのがおすすめです。
これらの施策を、予算と人員の制約を考慮しながら、着実に実施していくことが成功への鍵となります。
3.IoTを用いて異常の自動検知し、予兆保全の実施
予兆保全とは、IoTセンサーや各種データを活用して設備の異常を事前に検知し、故障が発生する前に最適なタイミングで保全を行う先進的な手法です。従来の予防保全よりもさらに一歩進んだアプローチといえます。
IoT技術を活用した予兆保全では、さまざまな革新的な取り組みが可能になります。まず、振動・温度・音・電流値などの常時計測によるリアルタイムモニタリングが実現します。センサーデータは自動的に収集・分析され、異常値が検知されると即座にアラートが通知されます。
さらに、AIによる異常パターンの学習や設備の劣化傾向の可視化、故障確率の統計的予測といったデータ分析も可能です。またモバイル端末での遠隔監視やデジタルツインによる設備状態シミュレーション、AR(拡張現実)を活用した保全作業支援など、スマートな保全活動を実現できます。
これらの予兆保全に関する取り組みにより、ダウンタイムの大幅削減や保全コストの最適化、保全作業の効率化、設備寿命の延長、品質の安定化といった具体的な効果が期待できます。
ただし、IoT導入には慎重な計画が必要です。重要設備から優先的に実施し、投資対効果を検証しながら、現場オペレーターの理解と協力を得ることが重要です。またデータを効果的に活用するための体制づくりも欠かせません。分析担当者の育成や判断基準の明確化、データセキュリティの確保などが必要となります。
予兆保全の導入は、デジタル化による設備管理の高度化への重要なステップとなります。ただし、これはあくまでも従来の保全活動を補完・強化するものであり、完全な代替となるわけではないことを忘れてはいけません。人の経験と技術、そしてデジタル技術を融合させることで、より効果的な設備管理が実現できます。
事後保全も行いつつ、将来を見据えて、リスクの少ない保全へ
製造業における設備保全は、コストと効果のバランスを取りながら、最適な手法を選択していく必要があります。本記事で解説したように、事後保全にはリソースの最小化というメリットがある一方で、予期せぬダウンタイムというリスクもあります。
現実的なアプローチとしては、すべての設備を一律に予防保全や予兆保全に切り替えるのではなく、設備の重要度や特性に応じて適切な保全方式を選択することが重要です。特に生産への影響が限定的な設備については、引き続き事後保全を採用することも合理的な選択といえるでしょう。
ただし、より安定した生産体制の実現に向けては、段階的な改善が不可欠です。まずは日常点検や事後保全の内容を確実に記録として残し、そのデータを活用して予防保全への移行を検討します。そして、IoT技術の導入により予兆保全へと発展させていくという道筋が、多くの製造業にとって現実的な選択肢といえます。
重要なのは、これらの取り組みを焦らず着実に進めることです。現場の実情に合わせて優先順位をつけ、一つずつ成功体験を積み重ねていくことで、より強靭な設備管理体制を構築していきましょう。