GMPとは?省令やISOとの違いや三原則、医薬品と食品での管理対象例をわかりやすく紹介

食品や医薬品化粧品など、製品の品質を裏付ける基準としてGMPがあります。もともとGMPは概念であり、すべての「ものづくり」の安心を裏付けるものです。GMPは常に進化しているため、わかりにくい部分や煩雑な部分もあります。

 

GMPとGMP省令の違いなど、GMPの基礎的な考え方と食品と医薬品GMPの違い、GMPを始める際の手順を紹介します。

 

GMPとGMP省令とは

GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範/製造管理及び品質管理の基準)とは、全ての製造業において、良いものづくりの模範となる考え方を意味します。

 

一方、GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)とは、GMPの概念を法律的に解釈して文書化したものです。GMP省令の根本となる法律は日本国憲法第二十五条です。

 

すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

国は、すべて の生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

引用元:日本国憲法第二十五条

 

日本国憲法第二十五条の条文にある「国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務」を具体的に実践する法律の一つとなるのが、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」です。その上で、薬機法に基づいて医薬品などの製造を実施する規範となるのが「GMP省令」です。

 

gmpの法律的な位置づけGMPの法律的な位置づけ

GMP省令制定の経緯

世界的にサリドマイドによる胎児の異常や死亡が問題となった事件(サリドマイド事件)をきっかけに、初めてGMPのがアメリカで作られました。

 

1968年には、世界保健機関(WHO)でアメリカの基準をベースにした「WHO-GMP」が決議され、1969年に加盟国に対して実施勧告が出されました。

 

日本でもこの勧告を受け、1976年に「薬事法」に基づく行政指導を開始し、1980年に「GMP省令」が施行されました。GMP省令は、2005年から医薬品・医薬部外品の製造販売の承認要件としても使われています。その後「薬事法」は「薬機法」に名称を変更され、医療用具もGMPが適用される運用になりました。

 

グローバル化による交易の増加は、GMPにも影響を与えています。他国への査察や監査の負担を低減させるためには、国際的な基準が必要です。このため日本では、EUのGMPガイドラインを基にした国際的な基準である「PICS/GMP」と日本のGMPの整合性をとる取り組みが行われました。

 

2021年には、EUやアメリカ、日本などの国で医薬品の共通ルールとして、各国のGMPをハーモナイゼーション(整合)を行い、薬機法やGMP省令が改正しました。そのため、日本のGMPに対応していれば、EUやアメリカでも一定の信頼が得られるようになっています。

 

一方、GMPは適用範囲や検証方法などは、国によって異なります。例えば、アメリカではGMPはFDAの管轄であり、健康食品の製造についてもアメリカのGMPは法的拘束力を持っています。

 

日本では健康食品については、日本健康食品規格協会と日本健康・栄養食品協会が健康食品GMPの認証機関として指定され、認証を行っています。

 

小林製薬の紅麴サプリメントによる健康被害の発生を受け、機能性表示食品については食品表示基準における届出者の遵守事項にGMPが要件化される見込みです。

参考:機能性表示食品の今後について|消費者庁

GMPとISOの違いは、法律 or 国際的規格

GMPとISOは、混同されがちです。特にGMP省令とISO 9001は共に高品質な製品づくりを目的としているので、似た印象があるかもしれません。

 

しかし、GMPは省令によって実施すべき内容が規定され、医薬品などの製造に欠かすことのできない要件ですが、ISO9001の品質基準に対応するかは企業の判断に任されている点で明確に異なります。両者の違いをわかりやすいように以下の表に違いをまとめました。

 

 

GMP省令

ISO9001

英語の名称

Good Manufacturing Practice

International Organization for standardization

日本語の名称

適正製造規範/製造管理及び品質管理の基準

品質マネジメントシステムに関する国際規格

強制力

義務

任意

対象

医薬品・医療器具・食品・化粧品

さまざまな業種

目的

品質、有効性及び安全性の確保

保健衛生の向上

製品・サービスの品質を継続的に向上させ利用者を守ること

法的拘束力

あり

なし

アプローチ

要求された製品の品質を達成するための要件を設定する

組織としての品質プロセスをフレームワークを使い管理改善する

効力の範囲

日本国内で運用

※国際基準PICS/GMPに整合

国際的に通用

規格のモデル

アメリカ

イギリス

GMP省令とISO9001の比較

GMPで管理する対象は2つに分けて考える

GMPでは、製造に必要な要素をハードとソフトに分けて考えます。

 

GMPで使うハードとは、建屋や製造装置、空調など構造設備を指し、ソフトは形のない責任体制やシステム、手順、衛生管理方法などを指します。

 

医薬品製造工場や食品工場でのハードとソフトの例を以下に示します。あくまでも例なので、実際には製造する品目や工程によって違いがあります。

 

 

医薬品工場

健康食品工場

ハード

(構造設備)

構造設備となる以下の項目

工場建屋

部屋の配置

区画分け

照明

生産設備

配管・ダクト

空調システム・換気

動線

床・壁・天井・窓

手洗い・更衣室

倉庫など

工場建屋

作業室

製造設備

冷蔵庫

凍結乾燥機

加熱機器

手洗い・更衣室など

ソフト

(管理体制や工程・品質管理)

管理組織

各種標準書

各種基準書

原材料の規格・取り扱い

供給者の管理方法

製造管理の方法

品質管理業務の手順

それぞれの手順書の変更手順

手順書・記録の保管方法

逸脱の対応方法・手順

安定性モニタリングの方法・記録

照査の記録

自己点検・監査の記録

苦情の記録

バリデーション

出荷の手順・管理方法など

管理組織・責任体制

各種標準書

原材料管理手順

製造管理手順

品質管理手順

出荷管理手順

バリデーションの記録

変更・逸脱の管理

品質情報の管理

自己点検の記録

記録作成方法

安全性確保のための情報

清掃手順など

GMPのハードとソフトの具体例(医薬品工場と食品工場別)

GMP三原則とは

GMP三原則は、GMPを現場で実践する際の考え方を集約したものです。GMP三原則に基づいて、医薬品や食品の製造の手順や各管理を計画、運用し、その方法が妥当かどうかを検証します。

 

  1. 人為的なミスをなくす/最小限に抑える
  2. 汚染及び品質低下の防止
  3. 高い品質を保証するシステムの設計

1.人為的なミスをなくす/最小限に抑える

製造現場で主なミスの原因となるのは人の関与です医薬品や食品の製造や管理に間違いがあれば、命の危険もあります。GMPでは、ミスを減らすために以下のような取り組みをします。

 

  • ハード面の対策
    • 不良品、未検査品、検査合格品を入れる箱の色分け
    • 工程の自動化
    • 道具の置き場所を定置化し、取り間違いをなくす
    • 帽子・手袋・ゴーグルの着用
    • 安全装置のついた機械の設置
  • ソフト面の対策
    • 作業手順の作成し教育を習慣化をおこない突発的なミスを防ぐ
    • トラブル発生時に対応できるよう是正処置の手順を整える
    • 一度発生したトラブル発生が再度発生しないよう予防する措置を実施し手順を整える
    • 作業記録を作成し、ダブルチェック・トリプルチェックの体制を整える
    • 作業手順やなぜ必要なのかを教育し、ミスの発生を防ぐ
    • バリデーションで装置や製造方法、試験方法が想定通りの結果を生んでいるのか検証する
    • 品質リスクマネジメントを実施し、あらかじめ考えられるリスクの対応方法を決めておく

2.汚染及び品質低下の防止

GMPで考える汚染とは、本来、入るべきものでない物質の混入を指します。空気中の塵埃のほか微生物、グリース、原料の溶け残り、容器に付着している異物など製品でないものだけでなく、同じ設備で製造した違う製品も汚染とされます。具体的に実施される対策は以下のような項目です。

 

  • ハード面の対策
    • ろ過装置や金属探知機を設置する
    • 製品の露出をできるだけ避ける工程を設計する
    • 製造機械の周囲に小部屋をつくる
    • 製造機械の下を清潔に保てるようは直置きしない
    • 室間差圧をつくり空気の流れを管理できる空調を設置する
    • 製造室・倉庫に空調を設置する
    • 遮光容器や密封容器を使用する
  • ソフト面の対策
    • 汚染や品質の低下のリスクの少ない商品を設計し、製造する
    • 品質の低下した原材料が納入されないように納入業者を管理する
    • 変質を起こさない温湿度で製造・保管・輸送されていることを記録管理する
    • 塵埃や微生物、防虫防鼠など衛生対策をマニュアル化して実施する
    • 工程ごとに検査を実施し、品質の変化を早期に見つける
    • 使用されるまでに品質の低下がないか保管品をテストする
    • 販売品の苦情について分析し、品質低下リスクを探る

3.高い品質を保証するシステムの設計

人為的なミスを最小限にし、汚染及び品質低下を防止するためには、システム化が不可欠です。ハードとソフトの対策として、以下のような対策が考えられます。

 

  • ハード面の対策
    • IOT製造機器を設置し、製造をデータ化できるようにする
    • 室間差圧が適切になるように空調機器を設置する
    • 重要工程に風が吹き込まないように風向きを設定する
    • 製品に太陽光があたらないように窓を設置する
    • 機械設備を効率的に配置する
    • 倉庫に空調を整備する
    • 冷蔵・冷凍機能付きのトラックを使用する
  • ソフト面の対策
    • 適格性の評価
      • 設計時適格性評価(Design Qualification:DQ)=設備・装置の機能及び性能仕様について評価し文書化
      • 据付時適格性評価(Installation Qualification:IQ )=正しく据付けられているかを評価し文書化
      • 運転時適格性評価(Operational Qualification:OQ)=稼働したときに機能・性能が得られていることを評価し文書化
      • 性能適格性評価(Performance Qualification:PQ)=製造中期待される結果が得られていることの評価をチェックし文書化
    • 洗浄バリデーション
    • 製品品質の照査
    • 各種操作手順

 

GMP認証とは

GMP認証とは、「公益財団法人 日本健康・栄養食品協会」と「一般社団法人 日本健康食品規格協会(JIHFS)」の2つの機関が、厚生労働省の「健康食品GMPガイドライン」に基づいて申請のあった健康食品製造会社の工場に対して、製造・品質管理の実施状況を評価し、GMPに適合しているかを判断する認証制度です。認定期間中は、毎年1回の調査が必要で、3年ごとに認証の更新が必要です。

 

GMP認証は、企業にとっては製造現場のレベルアップの機会となるとともに、製品や企業への信頼感の向上につながる取り組みです。

GMPを自社工場で運用する方法

GMPを自社工場で運用する方法は、大きく4つのステップに分けられます。

 

  1. 自社製品と製造工程のリスクの洗い出し
  2. 製品に関する手順書の作成
  3. 手順書に沿った方法で製造
  4. 手順書の方法で製造てきていたかの点検

1.自社製品と製造工程のリスクの洗い出し

自社工場でGMPを実施しようと思ったときに、まずやるべきことは、自社製品と製造工程のリスクの洗い出しです。以下のような項目についてリスクを洗い出し、製品の処方や手順、作業条件、チェック方法を明記した製品標準書を作成します。

 

  • 製品の使用方法
  • 製品の性質
    • 液体or固体
    • 酸性orアルカリ性
    • 安定or不安定
    • 変質のリスク
      • 温度
      • 湿度
      • 酸素
      • 微生物
      • その他汚染物質
      • 経時変化
  • 原料の性質
  • 容器・包装
    • ガラスorプラスチック容器orビニール袋or紙
    • 異物混入のリスクはあるか
  • 製造設備
    • 製品が露出する場所(汚染を受けやすいと考えられるポイント)
    • 物の動線
    • 人の動線
    • 空調
    • ゾーン区分

 

この洗い出した項目のうち、最も汚染がおきやすく変質の可能性があるポイントに充填を置く必要があります。

 

例えば、ビタミン入り目薬の生産でのリスクを洗い出した場合、以下のようなものが挙げられます。自社の工場と製品の特性を理解した上で、リスクの洗い出しを行ってみましょう。

 

  • 目薬は粘膜に使用するため、微粒子や細菌の汚染は厳禁
  • ビタミンは温度変化や光に弱いため、保存条件を保証する必要がある
  • 製品が露出するリスクのある場所 調製工程と充填工程
  • 異物混入リスク 容器 原料(水を含む)
  • 容器・蓋は割れて異物になる可能性あり

2.製品に関する手順書の作成

リスクの洗い出しを行った後は、手順書を作成します。GMP省令では、製造管理及び品質管理を適正かつ円滑に実施するために以下の手順書が必要とされます。また、これらの手順書を作成する手順書も必要です。

 

また、これらの文書はすべて体系的に構成し、作成番号などを見ればどの文書に紐づけされているかがわかるように作成します。

 

一 構造設備及び職員の衛生管理に関する手順

二 製造工程、製造設備、原料、資材及び製品の管理に関する手順

三 試験検査設備及び検体の管理その他適切な試験検査の実施に必要な手順

四 安定性モニタリングに関する手順

五 製品品質の照査に関する手順

六 原料及び資材の供給者の管理に関する手順

七 外部委託業者の管理に関する手順

八 製造所からの出荷の管理に関する手順

九 バリデーションに関する手順

十 変更の管理に関する手順

十一 逸脱の管理に関する手順

十二 品質情報及び品質不良等の処理に関する手順

十三 回収等の処理に関する手順

十四 自己点検に関する手順

十五 教育訓練に関する手順

十六 文書及び記録の作成、改訂及び保管に関する手順

十七 その他適正かつ円滑な製造・品質関連業務に必要な手順

引用元:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令 第2章第1節第8条|e-GOV法令検索

 

これらの文書はすべて製品標準書と整合性がとれていなければなりません。また

「いつ・誰が制定し・誰が承認し・いつ運用したのか・保管場所はどこか」や「いつ・誰が・なぜ・どの部分をどう改定し・いつから運用したのか」を明記します。

 

さらには、更新履歴を明確に記録しておかなければいけません。運用する前に、作業を変更してしまうと、それは改善であったとしても、手順書から逸脱しているとみなされます。

 

写本を取る際にも「いつ・誰が・なぜ・何枚写本をとり・どこに保管するのか」が原本に記載され、写本には写本の旨を明記する必要があります。

 

手順書が完成したら、作業者に教育訓練を実施し、手順書通りに作業をします。作業は、すべて誰が作業して、誰が確認したのかがわかるような書式に記録を残します。

 

また手順書及び記録は決められた期間以上保管しなければなりません。保管期間は、製造品の種類と文書の内容によって違います。以下に文書及び記録の保管期間を抜粋しました。なお記録の保管期間は作成の日から、手順書は使用しなくなった日から起算します。

 

対象となる製造品

保管期間

特定生物由来製品や人の血液を原材料として製造される医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器に関する文書(人血清アルブミン。ワクチンなど)

有効期間+30年

生物由来医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器に関する文書

有効期間+10年

教育訓練に関する記録

5年

それ以外の文書

5年または有効期間+1年

(どちらか長い方)

参考:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令 第2章第1節第20条、30条|e-GOV 法令検索

 

最後に手順書通りの作業が出来ていたかを定期的な点検を実施します。具体的には、標準書や実際の作業などGMPのハードとソフトの内容の確認をおこないます。決められた通りに工程が実施されていない場合は、要因を突き止め、改善し、GMPが遵守されるようにします。

GMPを理解して、安心感のある製品作りをしよう

GMPは、食品や医薬品などの製造において高い品質と安全性を保証するための基準です。これは、製造現場におけるミスの削減や汚染の防止を徹底し、消費者に安心して使える製品を提供するために欠かせません。

 

ISO9001も品質を保証するシステムに関する基準ですが、日本国内で医薬品などを生産する際にはGMPが必要要件となります。

 

今後、GMPは特定保健用食品でも必須の要件となりそうなので、食品の世界でも、GMPの基本を知っておくと良いでしょう。

 

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