フードディフェンスとは? 過去の発生事例や具体的な対策、フードセーフティとの違いも解説

フードディフェンス(食品防御)とは、人による意図的な食品への異物・有害物質などの混入を防ぐための取り組みです。食品への異物混入は消費者の健康被害や企業の信用喪失に繋がるおそれがあるため、多くの食品事業者でフードディフェンスの対策は重要視されています。

 

しかし、意図的な異物混入の要因やフードディフェンスの具体的な対策を把握しなければ、自社製品の安全を確保するための社内体制を構築できず、消費者の健康に悪影響を及ぼすリスクが高まります。

 

本記事では、フードディフェンスの概要やフードセーフティとの違い、意図的な異物混入を防ぐための具体的な対策を解説します。

フードディフェンスとは

フードディフェンスとは、従業員もしくは関係者、部外者などからの意図的な食品への異物・有害物質などの混入を防ぐ取り組みです。厚生労働省が紹介している奈良県立医科大学の「大規模イベント向け食品防御ガイドライン」では、食品防御の定義を以下のように記載しています。

 

「食品への意図的な毒物等の混入」とは「食品の製造、運搬・保管、レストランなどでの調理・提供の過程において、食品に毒物などを意図的に混入し、喫食者に健康被害を及ぼす、または及ぼそうとする行為」を指します。

引用元:大規模イベント向け食品防御ガイドライン(改訂第2版)製造工場編丨奈良県立医科大学

 

 

フードディフェンスが必要な理由は、意図的な異物・有害物質などの混入による企業が予測していない健康被害や製品回収を発生させないようにするためです。

 

人による意図的な異物・有害物質などの混入は、食品工場に限らず飲食店や食料品店でも起こる可能性があります。そのため、幅広い分野の食品事業者がフードディフェンスを実施し、食の安全を確保しなければなりません。

 

フードディフェンスの具体的な取り組みとしては、従業員の配置や移動範囲の管理、訪問者に対する所持品検査の実施、外部から侵入者を入れないためのセキュリティ対策などがあります。

フードディフェンスとフードセーフティの違い

フードディフェンスと類似した言葉に「フードセーフティ」があります。

 

フードセーフティとは、食の安全を損ねる危害や事故を防ぐために食料生産から提供に至るまでの工程を管理することです。フードセーフティの代表的な衛生管理手法には、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:危害要因分析・重要管理点)があります。

 

フードディフェンスとフードセーフティの違いは、異物や毒物の混入原因や管理の対象、具体的な取り組みの3つが異なる点です。

 

項目

フードディフェンス

フードセーフティ

異物や毒物の混入原因

意図的

偶発的

管理の対象

部内・部外者などの人や施設設備

生産から提供に至るまでの全工程

具体的な取り組み

・従業員の私物管理

・訪問者への監視体制強化

・防犯カメラの設置

・ウイルス対策ソフトの導入

・食品の適切な温度管理

・清潔な製造・調理環境の維持

・各工程のマニュアル整備

 

フードディフェンスとフードセーフティは、どちらも食の安全を確保するための取り組みです。しかし、フードセーフティは悪意を持つ従業員や部外者の存在はないものとし、マニュアルの遵守を前提としております。一方でフードディフェンスは従業員も危害要因の一つであると考えている点に大きな違いがあります。

 

食品への異物混入は、意図的・偶発的どちらの場合も起こり得る問題です。より高い水準で自社製品の品質を維持するためには、フードディフェンスとフードセーフティそれぞれの考えを取り入れて異物混入を防ぐ体制を整えましょう。

フードディフェンスを実施しなかったときのリスク

フードディフェンスを実施しなかったことで、異物や有害物質が意図的に混入してしまうと、消費者の健康被害や事業者側の苦情対応、製品回収、信頼の下落などが発生します。

 

以下の表では、過去に発生した食品への意図的な異物・有害物質などの混入事例や被害状況をまとめています。異物混入が発生した企業は、大幅な減益や倒産まで事態が発展しているケースもあります。

 

発生年

原因物質

異物混入の対象

被害

1984年

アメリカ

サルモネラ菌

・レストラン10ヶ所

・水道タンク

健康被害751名

1985年

日本

除草剤

自動販売機

死者12名

2003年

不明

リシン

軍の食品

未遂

2003年

アメリカ

ニコチン

肉塊

健康被害92名

2007〜8年

中国

農薬

製造過程

・健康被害10名

・回収612トン

・当事者企業倒産

2009年

アメリカ

農薬

レストラン

・健康被害48名

・25万ドルの損失

2013年

日本

殺虫剤

製造過程

・問い合わせ最大12万件/1日

・回収600万パック超

・営業利益20億円減益

参考:食品防御 食品への意図的な異物混入を防ぐためにできること丨奈良県立医科大学

 

意図的な異物混入に用いられる毒物・劇物は、農薬や洗剤などで市販されている場合があり、他の犯罪と比較して簡単に実行可能です。しかし、衛生管理のミスによる食品事故と違って原因を特定するのが難しく、二次被害の発生や被害拡大をなかなか防げません。

 

そのため、意図的な異物混入の発生を徹底して対策で防ぎ、事故発生時の被害を最小限に抑えるには組織的なフードディフェンスの取り組みが必要になります。

 

意図的な異物・毒物混入を防ぐための具体的な対策

フードディフェンスの主な対策は以下の4つです。従業員が働きやすい環境づくりや外部の脅威から守るセキュリティ対策によって、意図的な異物混入のリスクを軽減できます。

 

  • 組織マネジメントによる働く環境や従業員の意識統一
  • 従業員要因のリスク排除
  • 部外者要因のリスク排除
  • 施設管理の徹底

 

経営層や責任者は最初にフードディフェンスの実務担当者を決定し、異物混入が発生しやすい場所・工程を共有した上で必要な対策を検討しましょう。

組織マネジメントによる働く環境や従業員の意識統一

フードディフェンスは品質管理や品質保証、経営陣などの代表者だけでなく、組織全体で行うものです。また、外部からの異物混入リスクを排除しても、従業員の職場に対する不平・不満によって意図的な異物混入を引き起こす可能性があります。

 

そのため、まずは従業員のフードディフェンスに対する意識を高め、ストレスを抱えない職場環境づくりの推進が意図的な異物混入の防止には必要です。

 

働きやすい職場環境づくりのためには、第一に勤務状況・業務内容の把握や従業員とのコミュニケーションが重要です。勤務状況を把握し、過重労働にならないように勤務時間や業務量を調整することで、職場への不満を起因とする意図的な異物混入の防止に繋がります。

 

従業員とのコミュニケーションも、立場や役割に関係なく自分の意見を言える風通しの良い職場環境の醸成に繋がり、ストレスの軽減が見込めます。

 

フードディフェンスに対する従業員の意識を高めるためには、例えば、経営層や責任者が自らの言葉で食品防御の必要性を説明することも重要です。フードディフェンスとはどのような取り組みで何のために行うのかを丁寧に説明することで、従業員の理解度が高まり現場でも取り組みやすくなります。

 

異常が起こった場合に備えて、被害拡大を最小限に抑えるための対策も考えておきましょう。従業員の勤務位置や役割分担などを細かく記録し、普段から些細な問題でも報告する体制を整えておくと、異物混入が発生した場合も速やかに調査・対応できます。

従業員要因のリスク排除

従業員要因のリスクを排除するというのは、意図的な異物混入のリスクを抱える従業員の採用や、従業員による異物・有害物質などの持ち込み、作業場への不要な立ち入りなどを発生させないための仕組みづくりを指します。

 

従業員の採用時には、各種証明書等の原本を提出してもらい、身元の確認と志望動機の聞き取りを丁寧におこないましょう。

 

また作業場に私物を持ち込ませないことも徹底しましょう。日々記録を取るためのペンやノートなどの筆記用具も持ち込み禁止の対象です。整理整頓や使ったものは定位置に戻すなどの「5S3定」を意識すると、作業場の些細な異変に気付きやすくなる体制を整えられます。

 

さらには従業員が誰でも入れる場所は、異物混入が発生しても責任の所在が曖昧になるリスクが高いため、出入りができる従業員を限定することも検討しましょう。従業員の配置を明確にすると、担当以外の従業員が持ち場にいても他の者がすぐに発見できるため、不用意な食品への接近を防げます。

部外者要因のリスク排除

取引先や取材、工場見学など部外者の訪問がある場合、駐車エリアや持ち物、立ち入り場所などの制限や、訪問者の身元や訪問理由の記録をしましょう。

 

部外者による意図的な異物混入の原因には、自由に物を持ち込んだり移動できたりする施設管理体制の甘さが挙げられます。そのため訪問者の持ち物や動きを制限し、作業場への立ち入りや食品への接近予防が部外者要因のリスク排除には不可欠です。

 

工場内では自社の従業員が必ず訪問者と一緒に行動し、業者による食品の積み下ろし・積み込み作業時も現場に立ち会います。また訪問者の身元や訪問理由を記録しておくと、万が一異物混入が発生したときも迅速な原因究明に役立ちます。

 

事前連絡のない訪問者の立ち入りは許可しないことや、入場時に持ち物検査を実施するなど部外者への対応マニュアルを整備し従業員に周知徹底することも、管理体制の強化には重要です。あらゆるタイプの訪問者を想定した上でマニュアルを作成すると、どの従業員も判断を誤らず冷静に対応できます。

施設管理の徹底

食品への意図的な異物・毒物の混入を防ぐためには、従業員や部外者の管理に加えて無人になる時間帯のセキュリティ対策も徹底します。具体的には、監視カメラや防犯システムの設置、セキュリティ会社への警備依頼などがあります。

 

監視カメラや防犯システムは、外部からの侵入防止を図るだけでなく従業員による内部犯行を防ぐ抑止力にもなります。仮に異物混入が発生した場合も、記録を辿ると素早く原因を特定できます。

 

作業場の出入り口や機械などの鍵は紛失しないように管理方法を策定し、鍵ごとに番号を振って所在が明らかな状態にしましょう。鍵の紛失や劣化した場合のリスクを考慮し、定期的なセキュリティの見直しとともに鍵の取り替えや暗証番号の変更なども行うと、食品への異物混入を意図する者の侵入を未然に防げます。

 

機械や設備、部品などに関しても、決められた位置に決められた数を置くよう徹底すると従業員が不要物の持ち込みや物品の不正な持ち出しに気付きやすくなります。

信用・取引先・顧客を失わないためにフードディフェンスの見直し、実施を!

フードディフェンスとは、企業の部内者や部外者による意図的な食品への異物混入を防ぐための取り組みです。

 

フードディフェンスの未実施による意図的な異物混入が起こると、消費者の健康被害や企業の大幅な減益・信用喪失などが発生する可能性があります。食の安全を確保するためには、食品事業者が組織全体でフードディフェンスに取り組まなければなりません。

 

具体的には、まずフードディフェンスの重要性について従業員に説明し、異物・有害物質などの持ち込みや作業場への不要な立ち入りなどを発生させない仕組みづくりをします。部外者に対しては持ち物や移動範囲を制限し、監視カメラや防犯システムによる施設管理も徹底すると、悪意ある人を食品に近づけない体制を構築できます。

 

本記事を参考にフードディフェンスを実施し、日々の取り組みの見直しや従業員教育を徹底して、取引先や顧客からの信用を失わない製品を作り上げましょう。

 

 

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