HACCPとISOの違いとは?取得の対象企業や取得方法をわかりやすく解説!

食品衛生法の改正による「HACCPに沿った衛生管理の制度化」が始まり、HACCPを導入する企業が増えました。

 

近年では、社会や環境問題への取り組みとしてSDGsが意識され、より一層「食の安全」を求める声も増えています。こういった背景の中で、食の安全を保証するための取り組みを企業自らが強化したり、第三者の認証取得が取引条件とされたりするケースも増えつつあります。

食の安全に対する手法としてHACCPとともに耳にするのが「ISO22000」。ISO規格のひとつで食品安全マネジメントシステムの規格であるISO22000は、HACCPと何が違うのでしょうか。今回は、HACCPとISO22000の違いを、さまざまな観点から説明していきます。

HACCPとISO22000の違いとは?

HACCPは「HA(Hazard Analysis)危害要因分析とCCP(Critical Control Point)重要管理点」で構成される衛生管理の手法で、食品の安全性を獲得しようとするものです。

一方、ISO22000はHACCPにおける衛生管理手法をもとに、安全な食品の供給体制の実現を図るものです。

 

つまり、「食の安全保証のために、HACCPの運用だけでなく企業の仕組みも管理していこう」というのがISO22000です。

HACCPとISO22000の規格内容の違い

HACCPとISO22000の規格内容の違い-1

HACCPの規格内容

HACCPは、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により設立されたコーデックス委員会が策定した、食品衛生の一般原則「GENERAL PRINCIPLES OF FOOD HYGIENE CAC/RCP 1-1969」がベースです。

この中の「第2章:HACCPシステム及び適用のためのガイドラインより7原則12手順」が「コーデックス7原則12手順」などといわれています。原材料の入荷から最終製品の出荷までの「製造工程全体」が適用の範囲になっているのが特徴です。

また、HACCPを運用する際は、「一般的な衛生管理」も必要となります。HACCPの衛生管理の対象が製造工程なのに対し、一般的な衛生管理では製造を行う環境(施設、設備、従業員など)が対象です。HACCPを行う前提条件でもあるため、「前提条件プログラム」ともよばれます。

ISO22000の規格内容

ISO22000は、スイスのジュネーブに本部を置くISO( 国際標準化機構)によって2005年に制定され、現在は2018年に改訂された「ISO22000:2018」がベースになっています。食品安全マネジメントシステム規格とよばれており、この「システムマネジメント」がHACCPとの大きな違いです。

ISOでは、製品ではなく「組織の品質や環境の活動を管理するための仕組み」をマネジメントシステムとしています。つまり、食品安全マネジメントシステム規格は「HACCPをベースにした食品安全に関する管理」と「組織がその食品安全を管理できるような仕組み」を構築するための規格ということです。

そのため、適用範囲が「製造そのもの」にあるHACCPに対し、「企業の仕組み」にあるのがISO22000といえます。

国際基準であるFSSC22000との比較

HACCP、ISO、FSSCの違い

ISO22000でも前提条件プログラムは含まれていますが、FSSC22000では、より詳細な内容が記載されている「ISO/TS22002」が採用されています。

ISO/TS22002では、前提条件プログラムが分野別にあり、食品製造、食品容器包装の製造など6種類の仕様が用意されています。そのため、FSSC22000の認証は取得できる分野が限られているのが特徴です。

その他にも、HACCPやISO22000と比べ、以下の違いがあります。

・バージョンアップ(改訂)が多い
・非通知審査がある

FSSC22000は「世界のどこでも通用する」といわれるほど権威性の高い、世界食品安全イニシアチブ(GFSI)の承認を受けた規格です。GFSI認証に沿わせるために、FSSC22000では独自の追加要求事項を盛り込んでいます。GFSIの規格が改訂されるたびに、追加要求事項も改訂されるため、他の規格と比べるとその頻度が高い傾向にあります。

またHACCPやISO22000で審査を受ける場合は、事前に日程調整をしますが、FSSC22000では原則3年に1度、非通知審査を受けなければなりません。

HACCPとISO22000の対象企業とは?

HACCPとISO22000を導入する対象企業は、ともに「フードチェーンを構成する事業者」です。フードチェーンとは、ある食品において生産から消費者に届くまでの流れを指しています。

つまり、食品に関わるほぼすべての企業が対象になってきますが、細かくみていくと導入の違いや傾向があるのがわかります。

HACCPの対象企業

HACCPのベースであるコーデックス委員会が作成した食品衛生の一般原則でも、「フードチェーン全体を通して」という内容の文言が「適用範囲」の項目で使用されています。

その一方でHACCPが制度化した際に、厚生労働省が対象事業者を「原則として、すべての食品等事業者」としました。そのうえで、「学校や病院などの営業していない集団給食施設も対象」としたり、「農業及び水産業における食品の採取業などの一部の事業者は対象外」にしたりなど、細かく指定されています。

HACCPの導入対象が食品関連にかかわる全ての事業者でも、実際に導入するかどうかは国の制度による内容の影響が大きいでしょう。世界各国でもHACCPの導入を義務づける、あるいは導入を検討するなどの動きがすすんでいます。そのため、輸出先の国の基準でHACCPの実施や認証取得が要求される可能性は高まっていると言えるでしょう。

ISO22000の対象企業

ISO22000でも「フードチェーン全体で食に関わる全ての事業者」が、導入対象になります。

HACCPと違い、ISO22000の導入については現時点で制度化されていませんが、ISOは国際的な「標準規格」です。HACCPも国際的ではありますが、内容や程度はその国ごとに異なります。

ISO22000は世界で共通の基準になるため、食品製造業や農業など直接食品に関わる業種だけでなく、食品流通関係、梱包資材供給業者など、間接的に食品を扱う業種まで幅広く導入されています。

近年では、ISO22000認証取得を取引条件にする企業も増えてきているため、今後ますます導入が増えていくのではないでしょうか。

HACCPとISO22000の取得の流れを解説

実際に導入して認証を取得するには、どのような流れになるのか説明します。

HACCPもISO22000も共通して以下のステップですすめます。


1.準備
2.システムの構築
3.システムの運用
4.受審
5.認証取得

 

HACCPとISO22000の取得の流れ-1

HACCP取得の流れ

準備

準拠する法規制や、ガイドラインの内容をしっかり把握します。やるべき事項をまとめ、リストアップするなどし、導入するまでのスケジュールを作成、プロジェクトを開始します(キックオフ宣言)。

 

HACCPでは「HACCPチーム」の編成が求められています。チームを編成したら、HACCPシステムの適用範囲と、適用する一般衛生管理の決定を行うなど、HACCPの軸となる部分を決める必要があります。

システムの構築

「コーデックス7原則12手順」にしたがってシステムを構築していきます。

主な項目は以下の通りです。

 

  • HACCPプランの作成
  • 意図する用途や消費者の対象について特定(説明)
  • フロー図(フローダイアグラム)の作成と現場確認
  • ハザード分析、重要管理点(CCP)の決定
  • 管理許容値の設定
  • 検証方法の設定
  • 各文書、計画、記録(様式)の作成
  • 教育

 

文書では、製品の情報が記載されている「製品の説明書」や、衛生管理に関する手順書などを作成する必要があります。また、ハザード分析を実施して重要管理点(CCP)を決定することや、管理許容値(許容限界値)の設定も行います。その他、HACCPプランの検証方法や是正措置の設定なども行います。

システムの構築では、HACCPを運用する上で必要な設定と文書化をすることが主になります。はじめての導入では迷うことが多いでしょうが、ガイドラインにはヒントとなる具体例が記載されているので参考にしましょう。

構築が完了したら従業員に周知し、教育を行ってから運用を開始します。

システムの運用、受審、認証取得

 

構築したルールに沿って運用を開始します。認証取得をする予定であれば、認証審査先を選定しましょう。

HACCPの認証機関は、3種類あります。

 

  • 地方自治体(地域団体)
  • 業界団体 
  • 民間機関

 

HACCPは世界的に有名な規格ではあるものの、国だけでなく認証する機関によっても、求められる程度や条件が異なります。審査に関する情報をよく確認しておくことが大切です。

ISO22000取得の流れ

準備

HACCP同様、準拠する法規制やガイドラインの内容をしっかり把握し、導入スケジュールを作成、プロジェクトを開始します(キックオフ宣言)。HACCPと違い、ISO22000では「マネジメントシステム」が重要です。

組織(企業)全体で取り組むという仕組みが大前提にあるため、経営者は従業員全員が積極的に参加できる組織体制を作らなければなりません。経営者としての意思決定を行い、食品安全に関するチームを編成します。準備期間では、ISO22000の軸となる部分を組織として決める必要があります。

システムの構築

導入するための軸が確立したら、具体的なシステムの構築に入ります。

下記が主な項目です。HACCPをベースにした規格のため、HACCP導入時の項目にシステムマネジメントの項目が追加されるイメージです。

 

  • 食品安全方針の決定
  • 食品安全目標の決定
  • システムマネジメントにおける組織体制の構築(各責任者の設置など)
  • HACCP導入時の構築事項(ハザード分析、重要管理点(CCP)の決定など)及び
  • ISO22000に合わせて内容更新
  • 各計画の立案
  • 各項目の設定
  • 各文書、記録(様式)の作成
  • 教育


計画や設定など一言でまとめていますが、システムマネジメント関連とHACCP関連双方で多くの項目があるため、要求事項から漏れがないように注意が必要です。構築ができたら従業員に周知し、教育を行ってから運用を開始します。

システムの運用

構築したルールに沿って運用を開始します。また、運用が適切に行われているかを確認するために、以下の実施を組み入れます。

 

  • 内部監査
  • マネジメントレビュー

 

必要に応じて是正措置等を実施し、PDCAサイクルをまわしていきます。その後、認証審査機関を選定し、審査と申請を行います。

ISOの審査は「グローバルな認定を受けている機関」より「認定された」認証機関が行う仕組みです。日本には多数あるため、自社の取得目的や予算などに合わせて審査機関を選定しましょう。

受審、認証取得

審査は2段階に分かれて行われ、無事にクリアすると認証取得になります。

HACCP、ISOの取得に余裕をもった計画を

HACCPにもいえることですが、導入時に一番大変なステップは「システム構築」です。「何を」「どれだけ」「どの程度」「どの方法で」をゼロから考え、構築するのはとても大変な作業です。企業の業種や従業員数、適用範囲などで程度の具合はさまざまなため、その「適切なライン」を設定するには頭や神経を使います。

また、ISO22000にはその項目数がHACCPと比べ物にならないほど多くあり、さらに細かく要求されています。2018年にISO22000のガイドラインが改訂されたことにより、下記のような新たな要求事項や定義の追加、変更もありました。

 

  • CCPとOPRPの定義変更
  • リスクに基づく考え方の導入
  • 外部提供サービス(原料、資材、購買)に対する管理の要求追加
  • 2つのPDCAサイクル(マネジメントシステムとHACCPによる衛生管理)を機能させる

 

システムマネジメント面とHACCP面それぞれのアプローチの必要性も、より明確にされています。

 

ただでさえシステムを構築するのは骨の折れる作業ですが、そこに拍車をかける要因もあります。それは、「原文が英語であること」。通常、新たな仕組みや手法を導入する時には、そのベースになる法規制やガイドラインの原文を確認し、把握します。

HACCPとISO22000は、ともに海外で策定された規格のため、原文が英語であるのは仕方がありません。ただ、HACCPの場合は制度化の影響もあり、厚生労働省も導入の手引きを提供しているため導入はしやすいでしょうが、ISO22000にはありません。

ISOには一部邦訳された「JIS」規格もありますが、現時点でISO22000の公式の邦訳は見当たりません。当然ながら要求事項を満たさなければ、認証を取得することは出来ないため、英語の得意な人がいないと辛いでしょう。

導入時にはシステムの構築時が一番大変と伝えましたが、ISO22000の場合は構築前の準備段階から大変ということです。原文の内容把握から、膨大な数の設定などを行うシステム構築を全て自社で行うのは時間と労力がかかるため、余裕をもった人員配置とスケジュールが必要です。少しでも手間を減らすには、翻訳サービスなどの外部機関を利用するという方法もあります。

また、ISO認証の取得支援を行うISOコンサルタント企業も多数あるため、費用はかかりますが、利用して相談するのもよいでしょう。

HACCPとISO22000の取得後の違い

HACCP認証もISO22000認証も、取得したら終わりではありません。取得後の違いについて詳しく解説します。

 

HACCPとISO22000の取得後の違い

有効期限の違い

認証には有効期限が設けられており、認証された状態を維持するためには更新が必要です。HACCPの場合は、認証先によって有効期限も異なるため、認証取得後の対応については取得時によく確認をとりましょう。

 

ISO22000の場合は、3年間の有効期限が設けられています。では3年おきに審査を受けたらよいのかというと、残念ながら違います。


認証を取得した後、構築されたシステムが引き続き適正に運用されているかを、年に1度定期審査を受けないといけません。1年後、2年後に定期審査を受け、3年後に更新審査を受けて認証を更新する流れになります。つまり実質年に1度は、内部監査だけでなく認証機関による審査が必要ということです。

ISOではPDCAサイクルを重要としているため、計画・実施・確認・改善を繰り返す「継続的改善」が運用するうえで必須です。第三者からの監査が入れば、社内の気が引き締まるだけでなく、また別の視点からの改善点が見つけられるなどのメリットがあります。

取得後に気を付けておきたいことはもう一点あります。それは、適用している法規制やガイドラインはかわることがある、ということです。

2018年に食品衛生法とISO22000が、2020年にHACCPコーデックスガイドラインが改訂されたように、日本や世界の状況でガイドラインも更新された内容に改訂されます。その頻度は一概にいえませんが、改訂されたら当然対応しなくてはいけません。そういった情報収集も定期的に行うようにしておくとよいでしょう。

新しいアイテムを追加する場合

認証を取得した後に、企業が製造する、あるいは取り扱うアイテム(製品)が増えた場合にはどうしたらよいでしょうか。

HACCPでは、製品ごとに認証を取得します。そのため、追加で認証したいアイテム(製品)を増やす場合は、追加で申請する必要が出てきます。

一方、ISO22000では「食品安全のシステム」そのものが認証範囲となります。追加でアイテム(製品)を増やした場合は、その構築されたシステムの中で対応することになります。その対応が適切な仕組みの中で行われているのであれば、追加申請する必要はありません。

監査内容の違い

HACCPでもISO22000でも、ガイドラインや決めたルールに沿った運用が出来ているか確認する監査は重要です。導入後に定期的に自ら運用を見直し、改善して次につなげていくという点では共通しています。

監査では主に、

 

  • 適用している法規制やガイドラインから外れていないか
  • 自ら設定したルール(手順、設定、基準など)から外れていないか


を中心に、手順書などの文書や記録の確認、担当者への質問、現場視察など行い実施します。

また、定期審査などを受ける場合も、ガイドラインの合致や企業が設定したルールなどの確認の他、以下のようなポイントがあります。

 

  • 一つ前の審査(登録時、定期審査など)でみつかった問題点の改善状況
  • 食品安全に関するクレームや品質情報の有無
  • 仕組みが上手く活用できているか(変更時、トラブル時、クレーム発生時など)
  • 内部監査の状況

 

ISO22000では、企業が構築したマネジメントシステムに対して重点的にみられ、要求事項に対する適合性と仕組みに対する有効性の確認が重要視されています。

まとめ

 HACCPとISO22000の違いについてまとめました。まったく異なるわけではなく、「HACCPと企業としての仕組みを規格化したもの」とシンプルに考えれば難しいことではありません。

とはいえ、実際にISO22000を導入するのは、やはり「はじめが大変」です。社内で行き詰った時は、管轄の保健所や認証審査機関、ISOコンサルタントなどに相談してみるのもおすすめです。

 

 

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