トレーサビリティシステムとは?各業界の事例を踏まえて導入のメリットを解説

トレーサビリティ(Traceability)とは、その製品がいつ、どこで、だれによって作られたのか」を明らかにすべく、原材料の調達から生産、さらには消費または廃棄まで追跡(Trace)可能(Ability)な状態にすることです。

 

ユーザーから製品に厳しい目が注がれる昨今においては、トレーサビリティを仕組み化しておくことは、製造業にとっては必要不可欠になっています。本記事ではトレーサビリティを仕組み化の考え方、実際の導入・運用事例について紹介いたします。

トレーサビリティシステムとは

「トレーサビリティシステム」は製品の生産から消費までの全過程での出来事を追跡・特定できる仕組みを指します。それによって問題発生時の原因特定や流通状態の確認を迅速に行うことができ、得られたデータを解析することにより業務改善につなげることが可能です。

 

トレーサビリティシステムの身近な例としては、ネットショッピングで商品を購入した際の配送経路確認システムが挙げられます。「発注後、商品が今どこにあり、どの経路を通っていつ届くか」が一目瞭然にわかるようになっています。

さらにシステム上でデータを一元管理することで、

 

  1. 責任の所在の明確化(原因の特定)
  2. 消費者や取引先からの信頼獲得
  3. 蓄積したデータからの効率的な業務や生産管理、品質管理の検討
  4. ブランド力の向上(他社製品との差別化)
  5. 法令遵守の証明

 

などが可能になります。

トレーサビリティの2つの考え方

トレーサビリティは、チェーントレーサビリティと内部トレーサビリティの2つに大別できます。

トレーサビリティとは
チェーントレーサビリティ(Chain Traceability)は、原材料の生産から製品の生産を経て、流通、販売に至るまでの過程を、複数の工程やメーカー間で追跡(遡及)する仕組みです。特に食品業界や医薬品業界など、製品の安全性が重要視される産業では、供給チェーン全体を通じて製品のトレーサビリティを確保することが法的または規制上の要求事項として定められている場合もあります。

内部トレーサビリティ(Internal Traceability)は、1つの企業内での製造や生産プロセス内での追跡を指します。不良品が発生した場合、その製品がどのロット番号に属し、どの生産ラインで製造されたか、どの材料が使用されたかなどを追跡する仕組みで、不良品発生の原因を迅速かつ容易に特定することができます

トレーサビリティシステム導入のために必要なこと

トレーサビリティシステムは製造業にとって必要不可欠な仕組みですが、導入に当たっての注意すべきポイントもあります。代表的なポイントを3つご紹介します。

 

  1. コスト
    システムの導入・開発に関しては費用がかかります。特に、新しい技術や装置を導入する場合、それに伴う費用が高額になる場合があります。

  2. 関連企業とのシステムの統一化
    製造には、原材料や部品のサプライヤー、物流会社、販売店など多くの企業が関わっています。それぞれの企業によってトレーサビリティに対する考え方や方針、認識が異なるので各社の認識を統一できるようなチェーントレーサビリティシステムが必要となります。

  3. 社内の意思統一
    内部トレーサビリティを構築するために、それまで不要だった作業が現場で必要になる場合があります。作業の追加は生産効率を下げることに繋がる可能性があるため、導入に当たっては、管理対象に加える項目が本当に必要か否かを十分に見極めたうえで、現場の担当者の理解も十分に得ておく必要があります。

 

こうした影響を最小限に抑えるためには、導入目的を明確化し、導入範囲も適正に定義しておく必要があります。導入目的として、品質管理の向上、製品の安全性確保、法規制や規制要件の遵守などについて、具体的な目標を定めます。その上で、導入後の成果を定量的に評価することも必要です。


そしてどの部門やプロセスにトレーサビリティを適用するのか、導入範囲を明確にします。導入範囲を明確に定義する際には、重要なリスクや問題領域を特定し、そこに焦点を当てる必要があります。例えば、特定の製品ラインやサプライヤー、特定の原材料など製造、流通、販売のどの段階でトレーサビリティを確保するかを決定します。

導入目的と範囲を明確にすることで、トレーサビリティ導入という目標達成に向けて全体を調整することができます。また、明確な目的と範囲を持つことで、トレーサビリティシステムの導入プロセスがより効果的かつ効率的になります。

トレーサビリティの情報伝達媒体

トレーサビリティ情報を伝達するためには、さまざまな媒体や手段があります。これらの情報伝達媒体は、トレーサビリティ情報を効果的に伝達し、製品の生産から流通、販売までの各段階での透明性と追跡性を向上させるのに役立ちます。それぞれの媒体の特色と、管理すべき項目とを考えあわせて自社に最適な媒体を選ぶ必要があります。本章では代表的な4つの媒体を紹介します。

媒体ごとのメリットとデメリット

トレーサビリティの情報伝達媒体

移動や輸送に使う箱などに貼り付けたラベルに、箱の中身の情報を書きつけたり、製品の情報を台帳で管理することなどが紙使用の実例に当たります。コストはほとんどかかりませんが、手書きする時間や手間の割に伝達できる情報量が少ないうえに、書き損じやヌケモレなどの人為的ミスが起こりやすいというデメリットがあります。

 

  • バーコード

バーコードとは縞模様状の線の太さによって数値や文字を表す識別子の一種で、数字・文字・記号などの情報を一定の規則に従い、一次元のコードに変換することで情報のやり取りに用います。コードの作成および読み取りは機械によってなされるため、人為的ミスが発生することが少なく、導入が簡単でコストも比較的安くすみますが、盛り込むことのできる情報量が少ないという難点があります。

 

  • 二次元コード

二次元コード(にじげんコード)とは、横方向にしか情報を持たない一次元コードをバーコードに対し、水平方向と垂直方向に情報を持つ表示方式のコードのことを二次元コードと呼びます。代表的なものがQRコードです。特性はほとんどバーコードと一緒ですが二次元コードの方が面積あたりの情報密度が高いため、同じ表示面積であれば二次元コードの方が盛り込める情報が多いというのが大きなメリットです。

 

  • RFID

Radio frequency Identificationの略称で、無線通信でデータを読み込んだり書き換えたりすることができるシステムのことです。RFIDタグと呼ばれる記憶媒体の中に情報を入れ込み、専門の機械を用いた無線通信によって情報を読み書きできるシステムです。一般的に周知されているものでは、交通系ICカードや電子マネー等があります。バーコードや二次元コードによる管理の際のようにコードを探してリーダーに読み込ませる手間がないうえに、大量の情報を高速で処理できるという利点があります。しかし、専用タグの作成や読み込みには専用の機器が必要となるため、導入コストもランニングコストも他の媒体に比べ高額です。

各業界のトレーサビリティシステムの活用例

トレーサビリティが重視されるのは、履歴を追跡することで製品の品質管理が向上する業種です。製造業全般にわたって重要な取り組みですが、なかでも、食品製造、自動車業界、医療業界といった安全が最優先される業界においては、法による規制があることもあり、より一層トレーサビリティーが重視されます。本章では上記3つの業界のトレーサビリティーの特色を解説します。

食品製造におけるトレーサビリティシステム

農林水産省のHPでは、食品製造におけるトレーサビリティについて「食品事故等問題があったときに、食品の移動ルートを書類等で特定し、遡及・追跡して、原因究明や商品回収等を円滑に行えるようにする仕組みです。 具体的には、食品の移動ルートを把握できるよう、生産、加工、流通等の各段階で入荷と出荷に関する記録等を作成・保存しておくことです。」と記されています。

 

日本で食品のトレーサビリティが強く意識されるようになったのは2002年にBSE(牛海綿状脳症)を発症した牛が確認されてからです。BSEの検査体制を確立するのと同時に、牛の生産履歴を管理する必要に迫られ、日本で飼育されているすべての牛に10桁の個体識別番号を付し、食肉処理されるまでその番号が付いてまわる仕組みができ、2003年には牛肉トレーサビリティ法が成立してこの仕組みは法制化されました。現在法律によってトレーサビリティが規定されている食品と規定内容は以下の通りです。

 

食品トレーサビリティ法

 

食品製造ではチェーントレーサビリティーのみならず、内部トレーサビリティーの厳正な適用が求められます。原料の仕入れ部門では入荷記録を、製造部門では仕入れした原料と出荷した製品の対応関係を明らかにする記録を、物流部門では出荷記録をそれぞれ正確に記録し、管理することが求められます。

 

▶︎食品のトレーサビリティとは?その意味や事例をわかりやすく解説

自動車業界におけるトレーサビリティシステム

1台の自動車には約3万個の部品が使われていますが、このうち自動車メーカーが自ら製造している部品はごくわずかで、大部分の部品は下請けのメーカーが製造しています。また一次請けのメーカーは二次請け以下のサプライヤーから素材やネジなどの基本的な部品を調達して部品を組み立てています。

 

自動車業界におけるチェーントレーサビリティに関しては、こうした二次請け以下のサプライヤーに対しても、親会社である自動車メーカーは自社のトレーサビリティー規定にしたがってデータの記録、管理を要求します。複雑多岐にわたる部品供給先の一つ一つに規定を徹底するのは非常に困難ではありますが、自動車は身近でありながら人命に大きくかかわる機器ゆえに、IATF16949という非常に厳格な品質管理マネジメントシステムの導入が求められており、トレーサビリティシステムについてもIATF16949の基準に則ることが要求されます。

 

また、現在の自動車は各種センサやモーターなど、数多くの電気・電子機器が搭載されています。そうした自動車向けの電気・電子機器の機能安全に関する国際規格で、自動車開発における要件定義から開発、生産、保守、運用、廃棄まで、ライフサイクル全体が対象になっています。そのためIATF16949と同様にサプライチェーン全体での機能安全マネジメントが必要になり、トレーサビリティとも密接に関係しています。

医療業界のトレーサビリティシステム

医療に関してのトレーサビリティーは、製品としての薬品や医療器具の品質に関するもの(サプライチェーン領域)と、医療機関に関するもの(薬局や病院内の在庫管理、患者の使用履歴)の二つに大別できます。

 

薬品や医療器具についても、使用者の生命に大きくかかわるものであり、厳重な品質管理が必要です。2020年に発生した皮膚病の治療薬への睡眠導入剤成分の混入事例の発生時は、ふらつき、めまい、意識消失、強い眠気等のほか、これに伴う自動車事故発生者が38名、転倒 による救急搬送・入院者が41名と、まさに使用者の命にかかわる重大な事態となりました。こうした事態を根絶するためにも、品質管理を徹底するとともに、迅速な対応のためのトレーサビリティシステムの導入は不可欠です。

 

医療機関におけるトレーサビリティとは、患者が「いつ、どこで、どんな治療を受け、どんな薬を服用したか」という情報を蓄積、管理することです。近年、薬局で医師からの処方薬を受け取る場合は必ず「お薬手帳」の提示が求められるようになりましたが、これなどは医師、薬剤師、そして患者本人にとってわかりやすいトレーサビリティの例です。


このように医療業界では、サプライチェーン領域と医療機関でトレーサビリティーに関して2種類のニーズがありました。このニーズに対応し、サプライチェーンの源流から、患者の使用履歴までを一手に管理すべく開発されたのがGS1コードです。

 

GS1コードは、医療安全や物流効率化、業務効率化、トレーサビリティの確保、医療過誤防止を図るために発足した、GS1ヘルスケア協議会によって開発されたコードで、薬品にも医療器具にも使用でき、製造元の製造、在庫から、電子カルテに入力することで患者の利用履歴まで管理できるようになりました。ただし電子カルテに関してはGS1コードで使用薬品や使用機器の品名までは特定できても、ロット番号等の詳細は別に入力する必要があるため、さらなる改良が望まれています。

まとめ

トレーサビリティは作り出す製品の安全性を担保するものとして、製造業を生業とする企業にとっては必要不可欠な仕組みとなっています。消費者の製品の安全性へのまなざしが厳しくなってきている昨今においては、DX化されたトレーサビリティシステムを取り入れることにより、正確な情報を蓄積、管理し、不良品が発生した場合の迅速な対応に繋げていくことが求められています。

 

蓄積した大量のデータは、不良品発生時の対応のみならず、ビッグデータとして製造工程の効率化や製品品質の改善にも役立ちます。現場の実状にあったトレーサビリティシステムの導入は企業価値を確実に高めてくれるのです。

 

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