HACCPの義務化でホテルや旅館が行うべきことは?ステップ別にわかりやすく解説

 

ホステルや旅館を含む、ホテル業界でも、HACCPの導入は進んでいます。店舗併設のレストランやルームサービスなどで食事を提供している場合は、HACCPの導入が必要になります。そのため、複数の拠点を持つホテルグループや旅館などで、衛生管理や従業員の健康管理などの記録をきちんと取り、問題が発生しないように取り組みがなされています。

 

義務付けられている「HACCPに沿った衛生管理」の方法は、事業規模やメインとしている業態によって対応方法が変わってきます。そのため、ホテルでHACCPを導入する際は、自分たちがどのような衛生管理方法を取り入れるべきか理解しておく必要があります。

 

本記事では、ホテルにおけるHACCPの必要性や具体的にやるべきことをステップ別に解説します。

ホテルでもHACCP導入は必要に

2020年6月に食品衛生法が改正され、HACCPに沿った衛生管理の導入が完全に義務化されました。この義務化は、ホテル業界にも大きな影響を与えています。

 

そもそもHACCP(Hazard Analysis Critical Control Point:危害要因分析重要管理点)とは、原材料の受け入れから、保管、加熱、冷却、包装、出荷までの製造工程におけるリスクを分析し、安全を確保するために事前に対策し、実施した内容を記録をする衛生管理方法です。

 

HACCP をHA(危害要因分析)とCCP(重要管理点)にわけて図説したもの

ホテルでも、レストランや軽食サービス、バーなど、ホテル内で食品を提供する場所があれば、HACCPの導入が必要となります。

「HACCPに沿った衛生管理」は2パターンあり、事業規模によって異なる

ホテルの規模や事業内容によって、適用される「HACCPに沿った衛生管理」には2つのパターンがあります。

 

HACCPに沿った衛生管理手法

対象

対象の例

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(旧基準B)

小規模な営業者

・食品製造/加工をする営業者で、その製造/加工施設に併設

・隣接した店舗で製造や加工をした食品を小売販売するもの(菓子や豆腐販売など)

・食品を容器に入れて小売販売する方(八百屋や米屋など)

HACCPに基づく衛生管理(旧基準A)

大規模事業者

・製造従事者が50人以上

・と畜場

・食鳥処理場(認定小規模食鳥処理業者を除く)

参考:HACCP(ハサップ)|厚生労働省

 

HACCPに基づく衛生管理は、大規模事業者向けになっており、より厳格で詳細な管理が求められます。一方で、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は、HACCPの考え方を踏まえつつ、比較的簡易的な方法での衛生管理となっています。

 

どちらの管理方法を採用すべきかは、ホテルの規模と事業内容によって変わってきます。もし、自社のホテルが以下の条件に当てはまる場合、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(旧基準B)」を行えば問題ありません。

 

  • 食品の取り扱いに従事する人数が50人未満
  • 原材料の受け入れから出荷までの全てを自社の施設で行っていない
  • 容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品のみを貯蔵し、運搬し、又は販売する

 

一方、自社ホテルの食品の取り扱いに従事する人数が50人以上の場合は、大規模事業者向けの「HACCPに基づく衛生管理(旧基準A)」を行わなくてはいけません。HACCPに基づく衛生管理を行う場合、国際的な基準に従う必要があります。

 

具体的には、国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が共同で設立した、食品安全と国際食品規格の策定を担当する国際機関であるコーデックス委員会(コーデックス・アリメントァリウス委員会:Codex Alimentarius Commission)が定めた「HACCP7原則」に基づいて衛生管理を行います。

近年の旅館における食中毒の発生状況

ホテルや旅館における食中毒のリスクを理解するために、実際の発生状況を見てみます。以下のデータは、厚生労働省が毎年公表している食中毒統計調査をまとめたものです。過去10年間(平成25年(2013年)〜令和5年(2023年))の旅館における食中毒発生状況は、年々減少傾向ではありますが、依然として毎年数件・数百人の患者数がでているのが現状です。

 

厚生労働省が発表している2013年から2023年までの旅館での食中毒の発生件数と患者数厚生労働省が発表している2013年から2023年の旅館での食中毒の発生件数と患者数

 

上記の数字は、旅館やホテルにおける食中毒対策の重要性を如実に示しています。一度の食中毒事件で多数の患者が発生し、その影響は事業運営や評判に深刻なダメージを与える可能性があります。HACCPの導入は、まさにこうした食中毒リスクを低減し、お客様の安全を守るための重要な取り組みです。

 

【ステップ別に解説】ホテルのHACCPでやるべきこと

HACCP導入の必要性は理解できたものの、「具体的に何をすればいいの?」と悩んでいる方も多いと思います。そのような悩みに対応するために、ホテルや旅館業界でのHACCP導入をサポートするための手引書が用意されています。

 

公益社団法人日本食品衛生協会の協力を得て、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)が、ホテル・旅館業者向けのHACCP導入の手引書を作成しています。この手引書は、業界の特性を考慮した実践的なガイドラインとなっています。

 

しかし、手引書を見ても「何から手を付けて良いのか分からない」という方も多いと思います。そこで、ここからはステップ別に、ホテルや旅館、宿泊事業に従事する方向けにHACCPで取り組むべきことを具体的に解説します。

HACCPチームの結成

HACCPの効果的な導入には、各部署から知識を持つメンバーを選出し、チームを結成することが重要です。チーム内で役割を明確に割り当ててリーダーを決定することで、責任の所在を明確にし、スムーズな運営ができます。さらに、定期的なミーティングを設定し計画の進行を管理することで、HACCPの継続的な改善と効果的な実施が可能となります。

製品の記述

ホテルで提供するすべての食品・飲料について、種類、成分、調理方法を詳細に記載し、包括的な製品リストを作成します。

 

リストには保存条件や賞味期限などの重要情報も含め、すべてを文書化することで、スタッフ全員が統一された情報を共有できます。メニューの更新に合わせて定期的にリストを見直すことも大事なので、常に最新かつ正確な製品情報を維持するようにしましょう。

意図する用途の確認

ホテルで提供する各食品について、どのような形で消費されるかを明確に定義し、用途に応じた適切な管理を行います。

 

子供、高齢者、アレルギーを持つゲストなど、特別なニーズを持つお客様を考慮に入れ、安全性を最優先に考えた食品提供を心がけましょう。さらに、提供時間や保存方法に基づいて詳細なリスク評価を行い、潜在的な危害要因を事前に特定し対策を講じることも重要です。

製造工程のフローチャート作成

食材の受け入れから調理、保存、お客様への提供に至るまでの全工程を、わかりやすく視覚化したフローチャートを作成します。

 

フローチャートには各工程での重要な活動や決定ポイントを明確に示し、スタッフ全員が製造プロセスを正確に理解できるようにします。フローチャートは定期的に見直し更新することで、現場の変化や新しい調理方法の導入にも柔軟に対応し、常に最新の製造工程を反映させられます。

フローチャートの現場確認

作成したフローチャートを実際の現場で確認し、書かれている工程が実際の作業と一致しているか検証します。この過程で、現場のスタッフから直接フィードバックを収集し、必要に応じてフローチャートを修正することで、より現実に即した内容に改善します。確認作業を通じて、フローチャートと実際の運用の間にギャップが生じないようにしましょう。

危害要因の分析

ホテルの食品提供プロセスにおいて、生物的(微生物)、化学的(洗剤、アレルゲン)、物理的(異物)な危害要因を徹底的に洗い出して特定します。

 

危害要因

対象となるもの

具体例

生物的要因

・病原性微生物

・ウイルス

・寄生虫など

・サルモネラや大腸菌

・ノロウイルス

・アニサキスやトキソプラズマ

化学的要因

・食品添加物

・残留農薬

・環境汚染物質など

・保存料や着色料、甘味料

・クロルピリホスやキャプタン

・重金属やダイオキシン

物理的要因

・毛髪や昆虫

・プラスティック片やビニール

・金属片やガラス片など

・従業員の毛髪や害虫

・梱包などに使用するもの

・機械や工場設備などから

 

各工程でこれらの危害が発生する可能性を評価し、リスクの度合いを判断します。そして、特定された危害要因に対する具体的な予防措置や管理方法を検討し、それらを明確に文書化することで、効果的な食品安全管理システムの基盤を構築します。

重要管理点(CCP)の設定

特定した危害要因を効果的に管理するため、プロセス全体を通じて最も重要な管理ポイントとなる重要管理点(CCP)を決定します。

 

各CCPについて、具体的かつ実行可能な管理活動を設定し、その詳細を文書化することで一貫した管理を可能にします。さらに、CCPの選定基準を明確に定義し、HACCPチーム全体で共有することで、全スタッフが重要管理点の意義と重要性を十分に理解できるようになります。

 

CCPとは何?HACCPとの関係性や意味を「分かりやすく」解説

管理基準の設定

各CCPにおいて、温度や時間などの具体的な管理基準を設定し、食品安全を確実に確保します。管理基準は、最新の科学的知見に基づくとともに、関連法令や業界標準を厳守したものとし、信頼性と妥当性を担保しましょう。

 

設定した管理基準が確実に守られているかを確認するための具体的な数値や条件を詳細に記載することで、誰もが同じ基準で管理できる体制を構築できます。

モニタリングシステムの確立

各CCPでの管理基準遵守を確実にするため、効果的なモニタリング方法を決定します。温度計やタイマー、詳細なチェックリストなど、適切なツールを導入することで、正確かつ一貫性のあるモニタリングが実現できます。モニタリングの頻度や具体的な実施方法は文書化し責任者を指定することで、確実な実施と迅速な対応を可能にします。

是正措置の設定

管理基準を満たさない状況が発生した際の具体的な是正措置を事前に策定しておきましょう。是正措置については実施方法や責任者を定め、誰がどのように対応するべきかを明確化します。

 

また是正措置実施後のフォローアップ手順も設定することで、問題の再発防止と継続的な改善を図ります。

検証手順の確立

HACCPシステムの有効性を継続的に確保するため、効果的な検証方法を設定し、定期的な評価を行います。

 

具体的には、外部の専門家による監査や内部スタッフによる詳細なレビューを実施し、客観的な視点からシステムの機能を評価します。検証結果を分析し、必要に応じてシステムの改善や更新を行いましょう。

記録の維持

各工程とCCPのモニタリング結果、及び実施した是正措置を確実に文書化し、記録します。記録は規定の期間にわたり適切に保存し、必要に応じてレビューできる状態を維持しましょう。

 

またデジタルデータでの記録管理は、関係者が容易にアクセスできる状態になるので、何か問題があったときの対応や監査時にも役に立つのでおすすめです。

スタッフの教育と訓練

全従業員にHACCPに関する包括的な知識とスキルを提供する教育プログラムを実施します。新入社員へのオリエンテーションはもちろん、既存スタッフに対しても定期的な訓練を行い、最新の食品安全管理手法を常に学習する機会を設けましょう。さらに、各従業員の教育進捗を記録し、適切なフォローアップを行うことも重要です。

衛生管理計画の策定

ホテル全体の食品安全を確保するため、包括的な衛生管理計画を作成し、全スタッフに周知徹底します。この計画には、手洗い、清掃、消毒などの基本的な衛生管理手順を明確に定め、誰もが同じ基準で実施できるようにします。衛生管理計画は定期的に見直し、最新の衛生基準や法規制に合わせて適宜更新することが大事です。

施設・設備の維持管理

ホテルの食品安全を支える重要な基盤として、調理設備や保存施設の定期的な清掃とメンテナンスを徹底的に実施します。設備の故障や老朽化を未然に防ぐため、詳細な予防保全計画を立て、計画的な点検と修繕も行います。またすべての清掃記録とメンテナンス記録を適切に管理し、問題発生時には迅速に対応できる体制を整えましょう。

廃棄物管理の徹底

ホテルの環境負荷を最小限に抑えて衛生管理を強化するため、食品廃棄物やリサイクル品の適切な処理方法を設定します。廃棄物の種類ごとに細かく分別し、各種類に応じた安全な処理手順を確立することで、環境保護と衛生管理の両立を図ります。さらに、全従業員に対して廃棄物管理に関する教育を実施し、環境保護意識を高めていきましょう。

原材料の管理

原材料管理を徹底するため、明確な受け入れ基準と検査方法を設定し、信頼できるサプライヤーの厳選と評価を行います。受け入れた原材料は、温度管理と期限管理を徹底し、常に品質を維持しましょう。

 

また効率的な在庫管理システムを導入し、原材料の使用状況と保存状態を追跡することで、食品ロスの削減と安全性の向上を同時に実現します。

交差汚染防止対策

食品安全を確保する上で重要な交差汚染防止のため、生食材と調理済み食品の取り扱いエリアを明確に区分し、それぞれに専用の作業スペースを設けます。

 

調理器具や設備は使用後に即時消毒を行い、常に清潔な状態を維持します。スタッフ全員に対しても手洗いと着替えのルールを設定し徹底させることで、人を介した汚染リスクを最小限に抑えられます。

アレルゲン管理

食品安全とゲスト満足度の向上を目指し、アレルゲンを含む食品の情報を明確にゲストに提供し、すべてのメニューに明記します。食品表示が必要な特定原材料7品目は以下のとおりです。

 

  • えび
  • かに
  • 小麦
  • そば
  • 落花生

 

食品表示が必要なアレルゲンを徹底的に管理し、アレルゲンの交差汚染を防ぐための厳格な調理手順を設定します。従業員に対してもアレルゲン管理に関する教育を実施することで、ホテル全体でアレルギー対応の質を高めましょう。

内部監査の実施

定期的に内部監査を実施し、システムの運用状況を客観的に評価します。監査結果を分析し、改善が必要な点を特定して効果的な対策を講じることで、食品安全管理の質を向上させます。

 

内部監査の記録を適切に保持し、次回の監査や長期的な改善計画に活用することも重要です。

各拠点で同様の基準を定め、お客様が快適に過ごせる環境づくりを。

本記事では、ホテル業界におけるHACCP導入の重要性と具体的な実施ステップについて解説しました。食品安全管理の国際基準であるHACCPは、ホテル業界でも重要事項です。

 

HACCPの効果的な導入には、チーム結成から危害分析、重要管理点の設定、モニタリング、是正措置の策定など、多岐にわたるステップが必要です。しかし、これらのプロセスを丁寧に実施することで、より安全で信頼性の高い食品提供が可能となります。

 

重要なのは、HACCPの実施、記録、改善を継続的に繰り返すことです。この循環を通じて、食品安全事故に繋がらない仕組みを構築できます。単に基準を設けるだけでなく、それを確実に実行し、常に見直しと改善を行うことが、真の食品安全につながります。

 

HACCPの成功には従業員の理解と協力も不可欠です。定期的な教育訓練を通じて、全スタッフにHACCPの重要性を浸透させると同時に、日々の記録や管理にヌケモレがないような管理体制を整えることも重要です。お客様が安心して快適に過ごせる環境づくりを、HACCPを通じて実現しましょう。

 

 

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