HACCP導入で飲食店がすることは?気になる衛生管理方法や手順を解説

 

 

HACCPの導入が義務づけられ、「小さい飲食店でも細かい衛生管理をしなければいけないのだろうか?」と心配している方もいるでしょう。

 

HACCP導入の対象はすべての食品関連事業者ですが、作成する衛生管理計画の内容は事業者によって異なります。この記事では、HACCPの導入により飲食店がすべきことを説明しましょう。

HACCP(ハサップ)の概要

 

HACCPは「Hazard Analysis and Critical Control Point(危害分析と重要管理点)」の略で、ハサップと読みます。

 

これまでは主に食品工場の製造工程でこの衛生管理法が行われてきました。しかし、これからはすべての食品関連事業者がHACCP導入を求められます。小規模の飲食店でもシステムを作らなければなりません。

 

まずはHACCPの概要を確認しておきましょう。

食品衛生法を改正して2020年6月から義務化

HACCPは食品衛生法を改正し、2020年6月から義務化された衛生管理法です。これまで行われてきた一般的衛生管理プログラムを前提として、さらに「衛生管理計画書」の作成が必要になります。

 

これまでも食品関連事業者は法に基づき衛生管理に取り組んでいましたが、食品事故は後を絶ちません。また、食を取り巻く環境のグローバル化に伴い、国際基準に合わせた衛生管理が必要とされたのが義務化に向けた経緯です。

なぜ飲食店はHACCPを導入しなければならない?

HACCPの導入は、小規模な飲食店を含むすべての食品関連事業者が対象です。

 

近年、ノロウイルスや病原性大腸菌O157による食中毒が各地で発生しましたが、その約60%が飲食店で起きているという実情があります。たとえ規模の小さい飲食店であっても、厳格な衛生管理の手法を取り入れることが求められているのです。

 

ただし、衛生管理計画書の作成基準は2種類に分かれており、すべての食品関連事業者が同じシステムを作らなければならないわけではありません。業種や事業規模などによって「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に分類され、個人経営など小規模の飲食店では行うべき衛生管理の手法が異なります。

 

「HACCPに基づく衛生管理」ではHACCPの衛生管理システムを構築することが必要ですが、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」はそこまでは求められません。これまでの一般衛生管理を中心にしながら、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行うものとされています。

 

具体的には、今取り組んでいる衛生管理とメニューに応じた注意点をあらかじめ衛生管理計画として明確にし、これを実施して記録するという一連の作業を行うというものです。

 

つまり、これまでとはまったく異なる対応というわけではありません。計画を立て記録することで、衛生管理を可視化することが狙いです。

 

HACCPの具体的な内容

 

HACCPの義務化により、具体的にどのようなことを行うべきなのか見ていきましょう。

衛生管理計画を立てる

HACCPを導入するにあたってはまず、衛生管理計画を立てることから始めます。

 

衛生管理計画の内容は、これまで行ってきた一般衛生管理プログラムと、各メニューの調理過程ごとに決定した「重要管理ポイント」をピックアップしたものです。

 

この衛生管理計画を立てて実行し、実行した内容を記録していきます。

「7原則12手順」を守る

HACCPは「7原則12手順」によって構成されています。具体的な衛生管理システムは7つの原則によって構築されますが、7原則とは手順6~12のことで、手順1~5は7原則を進めるための準備です。

 

7原則では、原料の入荷から客に提供されるまでの工程で発生する危害要因(食中毒など食品の安全性を脅かす要因)を分析し、それらを除去するため、特に重要な工程を決定します。

個人経営など小規模飲食店は基準が違う?

7つの原則をすべて実践することは、小規模の飲食店などには負担がかかるものです。そのため、前の項目で説明したように、衛生計画の内容を2つに分類しています。

 

小規模事業者はHACCPそのものではなく、その考え方を取り入れた衛生管理を取り入れればよいわけです。

 

2つの基準はそれぞれどのように違うのか見てみましょう。

HACCPに基づく衛生管理

「HACCPに基づく衛生管理」の対象事業者は、次の通りです

 

  • 大規模事業者
  • と畜場(と畜場設置者、と畜場管理者、と畜業者)
  • 食鳥処理場(認定小規模食鳥処理業者を除く食鳥処理業者)

 

先ほど説明した「HACCPの7原則12手順」に基づき、使用する原材料や製造方法などに応じて計画を作成し、管理を行います。基本的に、原則のすべてに沿った衛生管理を進めていく必要があるということです。

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理

「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象事業者は「HACCPに基づく衛生管理」の対象事業者以外のすべての小規模事業者です。

 

これらの事業者は「7原則12手順」のすべてに則った衛生管理は義務化されていません。家族で経営しているお店、個人経営のお店などは、ほとんどの場合こちらが適用されると考えて問題ないでしょう。

 

だからと言って今まで通りの営業でよいのかというと、それも違います。あくまで「7原則12手順」のすべてに則った衛生管理が義務化されていないだけで、HACCPの考え方に基づく衛生管理は行わなければいけません。

 

「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は、「HACCPに基づく衛生管理」よりも少し規制の緩いものという認識が正しいでしょう。

HACCP導入の流れ

 

ここからは具体的に「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の場合で、飲食店はどのようにHACCP導入を進めればよいのかを解説していきます。

「HACCPに基づく衛生管理」の手順

「HACCPに基づく衛生管理」が適用される飲食店は、まずはHACCPの7原則12手順に沿った導入準備が必要です。

 

7原則12手順の詳細や導入を進める中でステップごとに何をしなければいけないのかを見ていきましょう。

 

まずは、HACCPの7原則12手順を実践していきます。

1.HACCPチームを編成する

1.製品を作るために必要なすべての情報が集まるように、各部門から担当者を集めます。

2.製品の説明・記述

製品がどのようなものかを洗い出し、製品説明書を作成します。

製品の名称から始まり、原材料、特製(Aw、ph等)、包装の材質や形態、消費期限や賞

味期限などすべてを記述します。

3.製品の使用方法を確認する

誰がどのように食べるのか(消費者と調理方法)を書き出します。

例:一般の人がそのまま食べる、高齢者が加熱して食べる等

4.製造工程一覧図の作成

原材料、製造工程を一覧で記述する。

5.製造工程一覧図の現場での検証

製造の中で、工程一覧図に製造されているかを現場で再度確認。

もし、製造工程が変わっていれば、4の一覧図を書き換える。

6.危害要因を分析する

4の一覧図を基に、それぞれに潜む危害要因(ハザード)を洗い出す。

7.必須管理点(CCP)を設定する

6で出した危害要因(ハザード)を管理するための、重要な管理点を決定する。

CCPについてはこちら

8.許容限界を確立する

7で決定した管理点の基準値と限度(温度や時間などCCPに応じたもの)を確立する。

9.モニタリング方法(CCPの測定方法)を確立する

8を測定するために、どのような方法を用いるかを決定する。

10.許容限界から逸脱があった場合の是正措置を確立する

モニタリングした際に、許容限界を逸脱した場合の対応を確立する。

例:製品を廃棄する、再加熱する等

11.検証方法の手段を確立する

設定したことが守られているかを確認する。

12.記録をつけ、文書化を行い、それを保管するシステムを確立する

記録~書類作成~保管までを確実に行える体制を確立する。

2.「7原則12手順」に則った、書類を準備する

上記に記述した7原則12手順がすべてが行われていることを証明できる書類、CCPを記録する書類(自主点検チェックリスト)を準備します。

 

必要により、施設の平面図なども準備しましょう。

3.書類をもとに、実際に施設で検証し記録する(自主点検)

CCPを記録する書類を基に、施設でそれがしっかり守れているのかの自主点検を行います。

4.保健所等に申請書類を提出する

自主点検を行った後に、問題がなければそれを各地域の定める保健所等に提出。

原則、申請書類に決まったフォーマット等はありませんが、書類内容や書類形式が分からない場合は保健所等に問い合わせておきましょう。

5.食品衛生監視員による現地調査

申請後、各地域の保健所から食品衛生監視員が派遣され、申請通りに施設が機能しているかの現地調査が行われます。

6.HACCP導入確認済証の配布

食品衛生監視員による現地調査を経て、現地での問題等がないと判断されればHACCP導入の確認済証が配布へ。

「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」の手順

上の項目で、「HACCPに基づく衛生管理」におけるHACCP導入の流れを解説しましたが、基本的には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を行う飲食店も同じ流れとなります。

 

公益社団法人日本食品衛生協会が作成したガイドラインには以下のような記述があり、詳細な衛生管理の方法を記載しています。

 

実践すること

  1. 衛生管理計画の策定
  2. 計画に基づく実施
  3. 確認・記録

公益社団法人日本食品衛生協会

 

そのため「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を採用する飲食店も、可能な限り「HACCPに基づく衛生管理」と同じレベルでのHACCP導入を進めましょう。

厚生労働省作成の「飲食店に向けた手引書」をチェック

 

飲食店がおこなうHACCPの導入については、厚生労働省が手引書を公開しています。

 

他にもわかりやすいリーフレットや動画を作成しており、HACCPについての理解を深めるのに役立つでしょう。

カテゴリーごとに分類されたマニュアル

手引書は「小規模な一般飲食店」向けのものをはじめ、食品添加物やパン類など各食品関連団体が作成したカテゴリー別の手引書が豊富に用意されています。

 

HACCP導入の指針となるテキストなので、自身の該当するカテゴリーのものをダウンロードして確認しておくといいでしょう。

リーフレットや自主点検のチェックリストも用意

厚生労働省のホームページでは、HACCPについて一からわかるリーフレットも用意しています。HACCPの概要や導入するメリット、7原則12手順などについてわかりやすく紹介。飲食店における衛生管理の取り組みについてのリーフレットもあります。

 

「HACCP導入の手引き」と題した動画もYouTubeで配信しているので、確認しておきましょう。特に飲食店を始めてから間もない事業者や、これから経営を始める方などはぜひ参考にしてみてください。

 

また、同ホームページから、エクセル形式の自主点検チェックリストをダウンロードできます。HACCPの衛生管理システムを作る際に役立つので、こちらも利用してみるとよいでしょう。

罰則はないが導入はほぼ必須

HACCPの導入は2020年6月から義務化されるとはいえ、1年間の猶予期間があります。2020年10月現在、今すぐに導入しなければ違反になるというものではありません。

 

しかし、いずれは導入しなければならず、衛生管理の手法を整えることはお店の健全な経営のためにも必要不可欠です。できるだけ早めに準備することをおすすめします。

 

また2020年10月現在で、HACCPを導入しない場合の罰則は今のところありません。しかし、罰則などの規定は都道府県や市町村により定めることができるため、条例による罰則が適用される可能性はあります。猶予期間中にしっかりシステムを構築できるよう、いちはやく行動を始めましょう。

手引書に準拠したアプリもある

 

HACCPの手引書に準拠したアプリも開発されています。飲食店向けに開発されたアプリがAppStoreやGooglePlayでダウンロードできるほか、福島県でも自治体が自らHACCPシステムの構築・運用ができるアプリを開発。当面の間、県外の事業者も利用できるため、試してみるのもよいでしょう。

HACCP導入は認証制度ではない

 

HACCPの導入に際しては、注意するべきポイントがあります。それは「HACCPの導入は義務化されたが、決して認証制度ではない」ということです。

 

「HACCPを実践すること」と「HACCPを第三者機関に認証してもらうこと」は別物であり、今回の法改正ではどのような事業者であっても第三者機関にHACCPの認証をしてもらう必要はありません。

 

そのため、あくまで「私たちのお店は、しっかりとHACCPを導入していますよ」ということを、書類(管理計画書)で示すことができれば特に認証がなくても問題ないのです。

まとめ

 

今後、小規模経営の飲食店でもHACCPの考え方を取り入れた衛生管理が義務づけられます。HACCPのシステム自体を導入するものではありませんが、その考え方はしっかり意識することが必要です。食中毒の多くが飲食店から発生しているという実情を踏まえると、HACCPに取り組み万全な体制をとりたいものですね。

 

 

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