世界のあらゆる標準を定めるISO。その中で食品業界にいらっしゃる方は、ISO9001やISO22000という名称を聞いたことがあるのではないでしょうか。ただ2つの違いは意外に知らないという方も多いかもしれません。
そこで今回は、全国10,000以上の現場の品質管理DXを支援するカミナシが、ISO9001とISO22000の違いをわかりやすく解説します。加えて、ISOを取得するメリットも紹介するので、企業で認証を受けるかどうかの判断材料にお役立てください。
ISO(International Organization for Standardization)は、ISOはスイスに本部がある民間の機関です。ISOはさまざまな分野にわたり、品質、環境、安全などに関する標準を制定しています。
ISOが制定している規格は「製品の規格」と「マネジメントシステムの規格」の大きく2種類があります。製品の規格は、製品の大きさなどを規定しています。クレジットカードが世界共通で同じ大きさなのもISOの規格があるからです。
マネジメントシステムの規格を簡単に説明すると「ISO規格に則って会社にルールをつくり、目標を達成するための仕組みを円滑にしよう」ということです。国際的なルールがあることによって、製品やサービスの信頼性を担保できるようになっています。
今回解説するISO9001とISO22000はどちらも、マネジメントシステムの規格となります。
ISO9001とISO22000はISOが策定した異なる規格ですが、どちらも組織が特定の品質や安全性の要求事項を満たすための枠組みを提供しています。
ISO9001は品質マネジメントシステムに関する国際規格です。組織が顧客の期待に適切に応え、製品やサービスの品質を向上させるための手順や要求事項を定めており、主に品質の向上と顧客満足度の確保に焦点を当てています。ISO9001は最も普及しているマネジメントシステム規格であり、全世界で170ヵ国以上、100万以上の組織が利用しています。
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ISO 22000は食品安全マネジメントシステムに関する国際規格です。組織が食品製造プロセス全体で安全性を確保するための手順や要求事項を定めています。消費者に安全な食品を提供することを目的とした、食品安全マネジメントシステムの確立に焦点を当てたものです。
ISO9001は顧客満足度の確保に焦点を当てているのに対して、ISO22000は食品安全のリスクを低減に焦点を当てているのが特徴です。そして2つの規格には関係性があります。ISO22000は、ISO9001の品質マネジメントの部分に加えて、HACCPやPRPの領域も要求事項に加わっています。
ISO22000とよく似た規格としてFSSC22000、またISO規格としてISO9001と同じく有名なISO14001を聞いたことがあるのではないでしょうか。この2つについても関係性や違いについて解説します。
これは食品安全に特化した規格で、ISO22000をベースにしています。FSSC22000は、ISO22000に食品製造業界の特有の追加要求事項を統合し、食品安全性を確保するための高い水準を提供しています。
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ISO14001は環境マネジメントシステムに関する国際規格です。組織が環境への影響を管理し、持続可能な事業活動を実現するための仕組みを提供していますISO14001はISO9001やISO22000と同様に組織のプロセスを改善し、規制要件を遵守するための手段を提供しますが、焦点は環境への影響にあります。
▶︎ISO14001とは?初心者にも簡単にわかりやすく徹底解説
これらの規格は組織が取り組むべき課題によって異なり、同時に取得することで相乗効果を生むことがあります。次に、ISO9001とISO22000を両方を取得する必要性について詳しく考えてみましょう。
ISO9001とISO22000を同時に取得することで、組織は品質管理と食品安全性の総合的な管理が可能になります。ISO9001は品質管理システムに焦点を当て、製品やサービスの品質向上と顧客満足度の向上を目指します。
一方でISO22000は食品安全管理システムであり、食品製造プロセス全体で安全性を確保することを目的としています。組織はこれらの要求事項を同時に満たすことで、製品の品質と食品安全性をトータルで確保できることになるのです。
2つの規格を取得するメリットは十分にありますが、2つの要求に応えることは会社に取って多くの労力がかかります。そこで最も普及しているマネジメントシステム規格であるISO9001から、食品製造に特化したISO22000に乗り換える企業も出てきています。その理由を解説します。
ISO22000は食品の安全性に焦点を当てており、HACCPの導入を要求しています。HACCPは食品製造業において危害分析と重要管理点の特定を行い、食品安全性を確保するための手法です。ISO22000を取得することで、HACCPの要求を満たしているという確かな証拠を提供できます。これは企業にとって製品の安全性をアピールポイントとする上で非常に重要です。
食品産業は急速に変化しており、国際市場への進出や取引先との連携において、食品安全性への高い要求があります。ISO22000の取得は、これらの変化に適応し、国際的な規制や要件に適合するための一手段となります。企業が海外への輸出を考える場合、ISO22000は国際的に認められた食品安全性の証明として役立つでしょう。
つまり食品製造業では、ISO22000の取得はHACCPの要件を満たすことに加え、国際的な食品安全性への要求に応える重要な手段となります。ISO9001とISO22000の取得で悩まれている場合は、ISO22000の取得を優先的に考えてみてはいかがでしょうか。
ISOの取得は、組織が規定された要求事項を満たし、適合するためのプロセスを経る必要があります。以下にISO取得の一般的なステップを示します。ただし、これは概括的なガイドラインであり、各組織の特定の状況によっては手順が変更されることがあります。
適用範囲
引用規格
用語及び定義
組織の状況
リーダーシップ
計画
支援
運用
パフォーマンス評価
改善
ISO9001とISO22000は大きく10のステップで構成されています。10のステップを活用しながら、PDCAを回し、マネジメントシステムを構築することが求められています。
ISO9001とISO22000は異なる目的を持つため、10ステップの具体的な内容が変わってきます。対応すべき内容は各社によって異なりますが、ISO9001とISO22000が求めている重要項目について解説をしていきます。
ISO9001は前述の通り、顧客満足度の向上を目的にしています。そのため顧客が製品を受け取った際に、異常がないようにする必要があります。つまり食品製造においては、味や見栄えが良い製品を顧客に提供できる仕組みが整っているかが重要視されます。
そのために重要なのがプロセスアプローチです。プロセスアプローチとは、ISO9001において「組織内において、プロセスを明確にし、その相互関係を把握し、運営管理することとあわせて、一連のプロセスをシステムとして適用すること」と定義されています。つまり、製造のプロセスが明確になっており、そのプロセス通り業務が行われていることが「顧客満足」に繋がるというのがISO9001の考え方です。
プロセスアプローチの主な手法はタートル図です。タートル図とはプロセスアプローチで用いられる図のことで、製品の製造工程(プロセス)を整理するために用いられます。
▶︎タートル図とは?プロセスアプローチとの関係と作成方法を解説
ISO22000は、食品の安全性を目的にしています。そのため提供している製品の安全に異常がないようにする必要があります。つまり安全である原材料を使用しているのか、食中毒を起こさないために必要な加熱殺菌をしているかを重要視します。
そのために重要なのがハザード分析です。ハザード分析(HA)とは、食品の原材料や製造加工の工程から危害要因を洗いだす作業のことです。具体的には、製品の説明書や製造工程図を作成し、原材料や工程に危害要因が含まれていないかを確認します。
ISO22000では、製造におけるすべての工程を「何らかの方法」で管理することが求められますが、各工程を同レベルで管理するのではなく、工程によって管理のレベルを分けています。
- 重点的に管理が必要な工程は「HACCP」
- 日常的に十分注意すべき工程は「OPRP」
- 基本的な衛生管理を行うべき項目は「PRP」
▶︎HACCP(ハサップ)とは?|日本一簡単に分かりやすく解説してみた。
▶︎OPRPとは何?|定義やPRP・CCPとの違いを「やさしく」解説
ここまで、ISOの取得方法について説明してきました。しかし、ISOの導入の際にはいくつか気をつけるべきポイントがあります。
ISOの導入は組織にとって重要なプロセスであり、時間と費用の投資が不可欠です。例えば、手順書、作業手順、監査記録などをISOのプロセスを整備するために文書化する必要があります。また定着のためにはISOに関するトレーニングも必要です。加えて、ISOの導入においては内部監査が必要であり、その結果に基づいてマネジメントシステムを修正する必要があります。これらのプロセスも時間を要します。
具体的な費用は、専門家のコンサルティング、トレーニング、文書作成、監査、およびシステムの実装にかかるものです。これらの費用は組織の規模と複雑さによって異なりますが、中小企業でも相応の投資が必要となります。
このように、具体的な時間は組織の規模や既存の品質管理体制によって異なりますが、通常数ヶ月から1年ほどをかけて導入までに至ります。
ISOの認証は一度取得したからといって終わりではありません。ISOは常に進化しており、標準の改訂や更新が行われることがあります。組織はこれに対応するために、定期的な監査を通じて体制の評価を受ける必要があります。
ISOの更新や再認証は通常数年ごとに行われます。具体的な頻度はISOの種類や最新の改訂によって異なります。
更新に向けた監査では、組織がISOの要件にどれだけ準拠しているかを確認します。これには内部監査や外部監査が含まれ、必要に応じてシステムの修正が行われます。
ISOの標準が改訂された場合、組織は再認証を受ける必要があります。再認証は通常、認定機関による外部監査と評価を含みます。
ISOの要件に基づいて、手順書、記録、プロセス文書などが増加します。これは品質および食品安全性の継続的な向上をサポートするためのものですが、その過程で非効率が生じることがあります。ISOでは特に記録の維持が要求されます。製造工程における温度の記録などがこれに該当します。記録の増加を解決するためには、ペーパーレスのシステムが有効です。例えば、タブレットを使用したペーパーレスのカミナシは、文書管理や監査のプロセスを効率化し、継続的な改善を支援するためのツールとして活用できます。
ISOの導入は組織にとって品質と安全性の確保、競争力の向上を目指す上で重要な一歩となりますが、そのプロセスにはいくつかの注意点があります。
ISOの導入に伴い、文書や記録の量が増加することもあります。これらは品質と安全性の向上に必要な情報源である一方で、非効率を招く可能性があります。この点においては、ペーパーレスのシステムが有用であり、タブレットを使用したサービスなどが文書管理や監査のプロセスを効率化し、継続的な改善をサポートする手段として導入されています。
ISOの導入は組織において品質と安全性の向上を図るための価値ある取り組みであり、これには継続的な努力が不可欠です。効率的かつ効果的な導入を実現するためには、組織の特性やニーズに合わせた戦略の策定と、適切なツールやサービスの活用を考えてみてはいかがでしょうか。